企業買収のスキーム
企業買収を行う際の具体的なスキーム(手法)は、大きく「株式取得」「会社分割」の2つに分類できます。それぞれにどのような特徴があるのかを、くわしく見てみましょう。
株式取得
株式取得とは、買収される企業の株主が保有している株式を売買によって取得することで株主の地位を買収側に移転させ、買収企業を親会社、買収される企業を子会社とする企業買収スキームの一つです。
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この株式取得のスキームは、さらに細かく以下の5つに分類できます。
1. 株式譲渡
株式譲渡とは、売り手側の株主が持っている株式を買い手側の企業が買い取ることで売り手企業の支配権が買い手側の企業へ移動し、結果的に買い手企業の子会社となる買収スキームです。
中小企業のM&Aでは最も一般的な方法であり、多くの場合買収企業は買収される企業の株式を100%取得するため、買収後は完全親会社・子会社の関係となります。
企業買収後に変わるのは株主や取締役など株を持つ人間のみで、企業自体や従業員などに直接影響を及ぼすことはほぼありません。また、株式の譲渡によって会社の保有する資産や負債、権利や義務などのすべてが買い手側に移動するため、売り手側の資産に経営者個人の資産などが含まれている場合は後で買い戻す必要があります。
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2. 株式移転
株式移転とは、新たに会社を設立して既存の会社の株主が持つ株式を新設会社に取得させ、その対価として新設会社の株式を既存の会社の株主に交付させるスキームを指します。複数社で行われる場合が多いため、株式移転後には新設会社を持株会社とする企業グループが形成されます。
買収の対価として支払うのが新設会社の株式のため、買収費用を用意する必要がない点などがメリットとして挙げられます。一方、デメリットとしては、買収される側の株主が買い手企業の株主となるため、その保有率によっては買い手企業の株主構成に大きな影響を与える可能性などが挙げられます。
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3. 株式交換
株式交換とは、企業買収の対価として買収される側の株主に支払う代金の代わりに自社の株式を交付する企業買収のスキームの一つです。
買収の対価を新株発行などで補えるため買収資金を用意する必要がない点は買い手側にとってメリットです。しかし、株式交換後は買収される企業の株主が買収企業の株主になるため、株式の保有率によっては企業運営に影響を及ぼす可能性があります。
上場企業の株式は売買するマーケットがあり、対価である譲受企業の株式を現金化することは比較的容易であるため、株式交換は、買い手となる譲受企業が上場している場合に用いられるケースが一般的です。
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4. 第三者割当増資
第三者割当増資とは、既存の株主ではない特定の第三者に対して新株を発行し、増資によって新たに資金調達を行う方法です。主に企業の資金調達手段として利用されますが、企業買収スキームとして用いられる場合もあります。
企業買収のスキームとして用いられる場合、新株を発行して増資を行うのが売り手企業です。売り手企業側が買い手企業に対して新株の購入権利を付与し、買い手側はその権利を行使することで、売り手企業の株式を取得します。
第三者割当増資によるM&Aの場合、売り手側の株主から株式を取得することはありませんが、増資による発行株式数が多ければ既存の株主の持株比率を下げられるため、増資によって実質的な支配権は買い手企業に移ることになります。
買い手企業にとっては、株式譲渡によって完全子会社化するほどのコストがかからない点や連結決算による利益の取り込み効果などが期待できます。また売り手企業にとっても、資金繰りが安定し増資によって金融機関などからの信用力が向上する点などがこのスキームのメリットです。
ただし、売り手側の株主の持株比率が下がるため、影響力が低下するだけでなく、企業買収の対価を株主が直接受け取れない点などのデメリットもあります。
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5. TOB
TOBとは「Take Over Bid」の略語であり、日本語では「株式公開買付」と言います。あらかじめ「買付期間」「買取株数」「買付価格」を公告しておき、不特定多数の株主から市場外でそれらの株式を買い付ける方法です。
有価証券報告書の提出を義務付けられている上場企業などの大企業の株式を一定数以上取得する場合は、金融商品取引法によって公開買付を行うことが義務付けられています。したがって、このような大企業に対して企業買収を行う場合は、TOBによって株式の取得が行われます。
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会社分割
株式取得と同じように、企業買収で用いられるもう一つのスキームが会社分割です。会社分割とは、会社が行っている事業の一部を他社に承継させる企業再編の方法です。会社分割は不採算部門の切り離しやグループ内での分割・統合、または持株会社化などに用いられています。
「事業の一部を切り取って他社に売却する」点ではM&Aでよく用いられる「事業譲渡」のスキームと似ていますが、事業譲渡が取引先などとの契約を個別に移転手続きをしなければならないのに対し、会社分割では契約は原則として買い手企業にそのまま承継されるため移転手続きが不要である点が大きく異なります。
なお、切り離した部門をどの会社が承継するのかによって、「新設分割」「吸収分割」の2つに分けられます。