

問題解決のための経営戦略的ツールは多数あるが、今回取り上げる「クロスSWOT分析」は理解しやすく、実務においても導入しやすい。ここでは、クロスSWOT分析の仕組みや、具体的な事例を交えながら、クロスSWOT分析で事業戦略を策定する方法についても説明する。
目次
クロスSWOT分析のフレームワーク
「SWOT分析」とは、事業戦略の策定やマーケティングで利用するためのツールである。組織や新規サービスなどの分析したい要素を対象として、内部経営環境と外部経営環境を意識しながら、プラス要因やマイナス要因に分類した4つの項目について分析するフレームワークである。
SWOT分析で分類される4つの項目とは、「強み(Strength)」、「弱み(Weakness)」、「機会(Opportunity)」そして「脅威(Threat)」であり、アルファベットの頭文字をとって、SWOT(スウォット)分析と呼ばれている。
SWOT分析のテンプレート
SWOT分析を行う際には、一般的には次のようなテンプレートが用いられる。
【一般的なテンプレート】

このテンプレートを利用して、4つの要素に関して以下のような観点で項目を列挙していくことになる。
・「強み(Strength)」:会社や組織内部など内部環境のプラスの要因。「高い製品開発力」や「サービス品質」などがこれにあたる。
・「弱み(Weakness)」:会社や組織内部といった内部環境のマイナス要因。同業他社に対して遅れをとっているサービスなどがこれにあたる。
・「機会(Opportunity)」:有利となる市場の成長性や、競争優位性などいった外部環境のプラス要因。
・「脅威脅威(Threat)」:市場の縮小や、競争激化の可能性といった外部環境のマイナス要因。
内部環境に該当する「強み」や「弱み」は、自社でコントロール可能な項目であり、外部環境である「機会」や「脅威」は、自社でのコントロールが不可能な項目と認識しておくと良いだろう。
SWOT分析を行う際の留意点
SWOT分析を行う際に留意すべき最も重要なポイントは、目標を明確に持った上で分析を行うということである。SWOT分析の対象が企業なのか、事業なのか、それとも新商品やサービスなのかによって、SWOT分析のフレームワークで列挙すべき項目が大きく異なってくる。
分析対象が「企業」であっても、掲げる目標設定によって、SWOT分析の方向性も変わってくることがある。例えば、全国的に牛丼チェーン店を展開するY社があると仮定して、その会社分析を実施するとしよう。
【Y社概要】
牛丼チェーン店を全国的に展開し、近年は海外進出もしている。
メニューはメインである牛丼を中心にシンプルな設定となっているが、具材及びご飯の量の調整がしやすく老若男女を問わず人気があるが、顧客の中心は男性客である。他方、人材不足が経常化し、新店を増やすことでの売上拡大が厳しくなってきていることから、新店にたよらず、既存店舗での売上拡大が急務となっている。
なお、同社はチェーン展開を行うに際して培ったノウハウから、自社の冷凍解凍技術が他者に対して優位性を持っている。
Y社が「売上拡大」という目標を掲げた場合と、「女性客の割合増加」という目標を掲げた場合の「内部環境」の「強み」、「弱み」の項目がどのようになるのかを取り上げて考えてみたい。
・売上拡大を目標に掲げた場合
この場合のSWOT分析における「強み」は以下の通りである。
・男性客の割合が高い
・顧客の回転率が高い
それに対して、「弱み」は、以下のようになる。
・女性客やファミリー層の割合が低い
・客単価が低い
・女性客の割合増加を目標に掲げた場合
SWOT分析の「強み」は、以下のようになる。
・食事のコスパの良さ
・食事量の調整が容易
「弱み」分析の結果は、以下の通りだ。
・長期間滞在しにくい店舗環境
・女性や乳幼児が利用しにくいトイレ環境
これらをSWOT分析のテンプレートに記載・整理すると、次の表のようになる。

このように、同じ企業に対するSWOT分析であっても、達成したい目標が異なることにより、洗い出されてくる項目も異なってくる。SWOT分析を行う上では、まず、達成したい目標を明確にしておくことがとても重要である。
クロスSWOT分析とは
SWOT分析では、解決したい目標に対して、内部環境や外部環境におけるプラス要因、反対のマイナス要因を抽出するという手法がとられてきた。
クロスSWOT分析では、SWOT分析で利用した4つの項目区分である、「強み(Strength)」、「弱み(Weakness)」、「機会(Opportunity)」、「脅威(Threat)」をそれぞれ掛け合わせることで、選択すべき戦略を明確にしていくことができる。
4つの項目を掛け合わせると、次のような図になる。
ここに、それぞれ策定する戦略を当てはめていくと、次のような図になる。


SWOT分析のアルファベットを利用し、以下のように呼称する。
「強み」×「機会」=「SO戦略」
「弱み」×「機会」=「WO戦略」
「強み」×「脅威」=「ST戦略」
「弱み」×「脅威」=「WT戦略」
これらと、SWOT分析における内部環境と外部環境も合わせて整理すると、次のような図になる。

「+」は、SWOT分析におけるプラス要因であり、「-」はマイナス要因である。これによりそれぞれの戦略が持つ特性がより理解しやすくなるはずだ。
・SO戦略
内部環境及び外部環境ともにプラスという状況において、自社がもつ最大の「強み」をチャンス(「機会」)に対して発揮していくための戦略である。競争優位性をさらに高めるための事業戦略や、自社独自のサービスを立ち上げたスタートアップ企業などがとりやすい戦略ともいえる。
・WO戦略
内部環境がマイナス、外部環境がプラスとなる領域である。例えば、市場環境が好調であるが、競合他社に後れを取っているような場合に、その「機会」をキャッチアップするために、自社の「弱み」を克服するための改善を中心とする戦略となる。
・ST戦略
内部環境がプラス、外部環境がマイナスといった状況において、外部の「脅威」に対して自社の「強み」で切り抜けていく領域である。他社に対する差別化などを中心とする戦略となる。
・WT戦略
自社の「弱み」があるところに、さらにマイナスの外部環境が追い打ちをかけるといった最悪の事態を避けることに注力するための戦略である。守りに徹する、もしくは事業の縮小撤退など思い切った判断が伴う戦略となる。
クロスSWOT分析を実際に使ってみよう
クロスSWOT分析を行う際には、以下の4つの手順で行うことになる。
- 達成すべき目標を明確にする
- SWOT分析を実施し、4つの項目に対してそれぞれの要素をできるだけ多く洗い出す
- 4つの項目の要素の組み合わせを、クロスSWOT分析マトリックス表に記載する
- 分析結果から取るべき戦略を絞り込む
クロスSWOT分析は、手順の説明だけではなかなかイメージがしにくいと思われるため、先の事例でも取り上げた、架空の牛丼チェーン店を展開するY社を例にとって、クロスSWOT分析を実施してみたい。
Y社の概要を再掲する。
【Y社概要】
牛丼チェーン店を全国的に展開し、近年は海外進出もしている。
メニューはメインである牛丼を中心にシンプルな設定となっているが、具材及びご飯の量の調整がしやすく老若男女を問わず人気があるが、顧客の中心は男性客である。他方、人材不足が経常化し、新店を増やすことでの売上拡大が厳しくなってきていることから、新店にたよらず、既存店舗での売上拡大が急務となっている。
なお、同社はチェーン展開を行うに際して培ったノウハウから、自社の冷凍解凍技術が他者に対して優位性を持っている。
以下、クロスSWOT分析を利用して、Y社がとるべき戦略を立案していく。
・1.クロスSWOT分析の目標設定
「既存店舗の売上拡大」を目標として掲げる。
・2.SWOT分析の実施
Y社に対して、既存店舗の売上拡大を目標とした場合のSWOT分析を実施して、以下の様に整理する。

・3.クロスSWOT分析の実施
SWOT分析で記載した4つの項目の要素を掛け合わせて、クロスSWOT分析のマトリックス表に記載する。

・4.4つの区分毎に戦略を練っていく
クロスSWOT分析で記載したそれぞれの項目ごとに戦略を絞り込む。
以上から、クロスSWOT分析によりY社のとるべき戦略は次のように整理できる。
・SO戦略
来店できない男性顧客ニーズを掘り起こすために、テイクアウトなどの配達需要促進を目的として、WEB広告やアプリなどで注文ができるような環境を整備する。
また、家で食事する需要にも見合うサイドメニューを充実させるなど、新メニューの開発に取り組む。
・WO戦略
店舗への来店が少ない女性及びファミリー客向けに、テイクアウト及び配達メニュー開発を行う。また、女性やファミリー受けが良いサイドメニュー開発を行う。
・ST戦略
決済手段を現金だけでなく、手軽なスマホ決済などに移行する店舗を増やしていく。また、特に男性客が多い店舗を中心に、セルフサービス導入によってフロア従業員の削減を図る。
・WT戦略
客数が減少した郊外店舗などを中心に内装及びレイアウト変更を行い、ファミリー客の需要を増加させるためのアンテナショップとする。
クロスSWOT分析で得られた戦略には優先順位をつける
クロスSWOT分析を行って戦略を列挙しても、どこから手を付けるか迷う経営者も多いと思うが、すべて同時に実行できるとは限らないため、実際には戦略の優先順位付けが必要となる。
例えば、Y社の場合には、新メニュー開発は「SO戦略」と「WO戦略」にまたがる取り組みと考えることもできる。しかし、男性客をターゲットとしてメニュー開発に注力することと、女性客及びファミリー層の取り込みのためのメニュー開発は方向性が異なる。
店舗がターゲットとする顧客を絞り込むのはもちろん、開発チームの意識や担当メンバーを変更するなどの戦略設定も必要だろう。
また、「ST戦略」では、海外向けの冷凍食品の展開を取っていない。これは、輸出を伴うことやルート設定などにある程度の時間がかかることを考慮し、戦略実行による費用対効果を鑑みて、今回は不採用とすべきと考えたからだ。
このように、クロスSWOT分析を行った上での戦略実行にむけて、社内リソースなどの状況も鑑みた上で、実行できる戦略を優先順位付けして立案していく必要があることを念頭に置きたい。
クロスSWOTを有効活用しよう
SWOT分析をしっかり行い、さらに目標達成に向けた戦略立案を行うためには、今回紹介したクロスSWOT分析の活用は大変有効である。
クロスSWOT分析は、実際にテンプレートに書き込んでいくプロセスにより、頭の中が整理できる。また、チームや組織メンバーに対しての共有が図られることで、理解を得やすくなる効果があり、立案した戦略の実行がしやすくなるといったメリットもある。
クロスSWOT分析で立案した戦略が「絵に描いた餅」で終わらないように、組織内の共有がされるように実施できれば申し分ない。重要なのは、「課題の共有」であるともいえる。
なお、文中のクロスSWOT分析で使用した企業事例は、あくまで架空の会社に対する私見的分析であることを最後に述べておく。
文・風間啓哉(公認会計士・税理士)