
中小企業の多くは、経営者の高齢化に伴って深刻な後継者問題を抱えている。中小企業庁が2019年2月5日に発表した資料によると、10年間で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があるとされている。このような中、中小企業の円滑な事業承継・M&Aなどを推進するための補助金に、「事業承継・引継ぎ補助金」がある。今回は、令和3年度補正予算における事業承継・引継ぎ補助金の詳細について解説する。
目次

令和3年度補正予算における事業承継・引継ぎ補助金とは
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継やM&Aに伴って行われる経営革新の経費や、経営資源の引継ぎにかかる経費に対する補助金である。
令和3年度補正予算における事業承継・引継ぎ補助金では、再チャレンジを目的とする廃業も補助対象となった。その結果、申請できる補助事業は大きく3つに分かれており、条件を満たしていれば3つ全てを併用することもできる。
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事業承継・引継ぎ補助金の3つの補助事業の概要と申請条件
令和3年度補正予算による事業承継・引継ぎ補助金は、「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」の3つに分かれる。以下、それぞれの概要と申請条件を解説する。
経営革新事業
「経営革新事業」とは、事業承継やM&Aなどをきっかけに経営革新を行うための事業費を補助するものだ。承継者(後継者)・被承継者(先代)は、法人・個人事業主のいずれでも構わず、親族内承継や従業員承継、第三者承継のいずれも適用対象となる。また、廃業予定者等から事業を引き継いで新規開業する場合にも利用可能だ。
補助対象になる経費は、原則として承継者が負担する事業費である。ただし、一定要件を満たして承継者と被承継者が共同申請をする場合は、例外的に被承継者の経費も対象になることがある。
その他、経営革新事業の申請には、主に以下の条件を満たす必要がある。
・経営資源を引き継ぐこと
法人や個人事業主から経営資源(設備、従業員、顧客等)を承継する必要がある。
・経営資源を活用した経営革新を行うこと
承継した経営資源を活用した経営革新(事業再構築、設備投資、販路開拓、経営統合作業(PMI)など)が必要となる。
・地域経済に貢献していること
地域の雇用維持や近隣地域からの仕入れなどの経済活動で、地域に関わっていることが求められる。創業して新たに法人や個人事業主となる場合は、貢献する予定があればよい。
・以下のいずれか1つに該当すること
①中小企業基本法等の小規模企業者
②直近決算期の営業利益または経常利益が赤字の者
③新型コロナウイルス感染症拡大以前と比べて売上高が減少している者
2020年4月以降の連続する6ヵ月のうち、任意の3ヵ月の合計売上高が2019年1月~2020年3月の同3ヵ月の合計売上高と比較して10%以上減少していること。
④再生計画等を策定中の者か公募終了日から遡って3年以内に再生計画等が成立している者のうち、一定の支援を受けている者
・Ⅱ型・Ⅲ型の後継者に経営等の経験や知識があること
【Ⅱ型:経営者交代型】・【Ⅲ型:M&A型】で申請する場合、後継者には経営などに関する一定の実績や知識を有することが求められる。また、申請の時点で事業承継が完了していない場合、後継者に実績や知識などがあることを証明するための書類が必要になる。申請類型や必要書類については後述する。
専門家活用事業
「専門家活用事業」とは、M&Aで専門家を活用した際の費用を補助する事業であり、売り手と買い手の各々が申請できる補助金だ。補助対象となる経費は、専門家に対する謝金や旅費など幅広い。
ただし、「M&A支援機関登録制度」に登録された事業者への支払いしか補助対象にならないものもある。例えば、FA業務や仲介業務にかかる委託費などの諸費用やM&Aマッチングサイトの利用料などがこれに該当する。
専門家活用事業の申請には、主に以下の条件を満たす必要がある。
・事業再編や事業統合が行われること
株式や経営資源の売買によって事業再編や事業統合が行われる必要がある。グループ内の事業再編や親族内の事業承継は、この条件を満たさない事例として掲げられている。
・地域経済をけん引すること
事業再編や事業統合によって、地域経済をけん引する事業が営まれる見込みがあることが求められる。
・買い手は経営革新も必要
買い手側が申請する場合は、上記の条件に加えてシナジーを活かした経営革新等を行う見込みがあることも求められる。
廃業・再チャレンジ事業
「廃業・再チャレンジ事業」とは、既存事業の廃業費を補助する事業であり、承継者と被承継者のいずれにも申請のチャンスがある。ただし、「廃業」をするのみでは申請できず、「再チャレンジ」を伴うか、「経営革新事業」または「専門家活用事業」と併用申請する必要がある。
つまり、「廃業+再チャレンジ」で「廃業・再チャレンジ事業」として申請するか、「廃業」と他の事業を併用し、「経営革新事業」や「専門家活用事業」に廃業費を上乗せする形で併用申請するかの2択となる。以下、それぞれの場合について解説する。
・「廃業・再チャレンジ事業」の単独申請の場合
「廃業・再チャレンジ事業」のみで単独申請ができるのは、M&Aによって事業を売却しようとしたが成約に至らずに既存事業を廃業するケースである。
この場合、廃業後に地域の新たな需要や雇用の創出に役立つような新しいチャレンジが求められる。新事業の開始だけでなく、自身の知識や経験を生かした企業への就職や社会貢献活動も新しいチャレンジとみなされる。
・併用申請の場合
併用申請ができるのは、事業譲渡やM&Aによって譲り受けた事業を廃業する場合(「経営革新事業」との併用)や、M&Aで買い取った事業や売り手の手元に残った事業を廃業する場合(「専門家活用事業」との併用)である。
併用申請をする場合、「廃業・再チャレンジ事業」は他の事業の枠で申請を行う。例えば「経営革新事業」と併用申請する場合、申請枠は「経営革新事業」となり、これに廃業費の補助が上乗せされるしくみだ。
併用申請をすれば「廃業・再チャレンジ事業」としての別途申請は必要ないが、「経営革新事業」や「専門家活用事業」における補助対象者の要件を満たさなければならない。
事業承継・引継ぎ補助金の補助対象経費・補助率・上限額
それぞれの補助対象経費、補助率等は下記の通りだ。

事業承継・引継ぎ補助金の申請類型
「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」の3つには、それぞれに「申請類型」がある。
申請類型は何のためにある?
申請類型によって補助率や補助金額が変わることはないが、申請時に提出する書類が異なる。少し細かく言うと、①申請類型、②実施した事業承継やM&Aの手段(事業譲渡、株式譲渡、合併分割、株式交換といった手段の違い)、③当事者が法人であるか個人であるかなどの違いの組み合わせによって、交付申請における提出書類や、後の実績報告における提出書類が変わる。
事業承継・引継ぎ補助金の申請類型
事業承継・引継ぎ補助金の申請類型ごとの必要書類については、以下の表を参考に、まずは自身がどの申請類型に当たるか判断しなければならない。

事業承継・引継ぎ補助金の申請から交付までの流れ
ここでは、事業承継・引継ぎ補助金を利用する際の申請から交付までの流れを解説する。
認定経営革新等支援機関への相談(経営革新、廃業・再チャレンジのみ)
「経営革新事業」と「廃業・再チャレンジ事業」の申請では、認定経営革新等支援機関に相談して経営革新や再チャレンジにおける事業計画の確認を受ける必要がある。
gBizIDプライムアカウントの取得
「gBizID」アカウントを取得する。発行の際には必要書類の提出が必要で、申請から発行までに1週間から3週間程度かかる。
参考:gBizID
https://gbiz-id.go.jp/top/
jGrantsでの交付申請
必要書類を準備し、経済産業省が運営する補助金の電子申請システムである「jGrants(Jグランツ)」を使った電子申請によって交付申請を行う。
参考:jGrants
https://www.jgrants-portal.go.jp/
交付決定通知
jGrants上において採否の結果が通知される。
補助対象事業実施・実績報告
補助対象事業を実施する。事業の実施完了後は、原則30日以内に実績報告書等を提出する。
補助金交付
交付金額を事務局が確定し、補助金が交付される。
後年報告
補助対象事業完了後、一定の報告を行う。申請した事業によって必要とされる報告内容や期間が異なる。
令和4年度当初予算における事業承継・引継ぎ補助金
令和3年度補正予算における事業承継・引継ぎ補助金と同時に、令和4年度当初予算における同補助金の公募も実施されている。令和3年度補正予算の公募回数は全4回であるが、このうち、第2回目(2022年7月下旬~)が、令和4年度当初予算の公募期間と重複している。
令和4年度当初予算における事業承継・引継ぎ補助金も同名の3事業に分かれており、内容は似ているが補助率や申請要件に若干異なる部分がある。補助金額や補助率は令和3年度補正予算のほうが高いため、まずは令和3年度補正予算の事業承継・引継ぎ補助金の申請を検討すべきだ。
なお、同じ事業で両方に申請することはできない。
【令和3年度補正予算・令和4年度当初予算の違い】

事業承継・引継ぎ補助金の申請に必要な書類
事業承継・引継ぎ補助金の申請に必要な書類は、申請類型、事業譲渡等に用いた手段、当事者が法人か個人事業主かによって細かく分かれている。自身がどのパターンに該当するかを確実に把握した上で、必ず公募要領に基づいて準備を進めなければならない。
ここでは、本人確認関係書類や事業譲渡の方法で変わる書類は省略し、特に注意が必要な書類のみを解説する。
【3事業共通】確定申告・決算書関係
・法人の場合
直近3期分の決算書(貸借対照表、損益計算書)
・個人事業主の場合
税務署の受付印のある直近3期分の確定申告書B(第一表・第二表)と所得税青色申告決算書(全4枚)
※電子申告の場合は、受付結果が確認できるメールなどでよい。
※青色申告決算書において貸借対照表が未作成である場合は、1~3枚目まででよい。
【経営革新】補助対象者の要件関係
新型コロナウイルスによる売上減少において補助対象者の要件を満たす場合は、売上高減少を証明できる書類と宣誓書が必要になる。また、再生計画において要件を満たす場合は、公募申請時に再生事業者であることを証明する書類を提出しなければならない。
【経営革新】後継者の要件関係
Ⅱ型・Ⅲ型の申請時に事業承継が完了していない場合、後継者について以下の書類の中からいずれか1つが必要になる。
・経営経験を有していることを証明する書類(役員・経営者3年以上の要件を満たす場合)
・同業種で実務経験を有していることを証明する書類
・創業・承継に関する一定の研修等を受けたことを証明する書類
【経営革新、廃業・再チャレンジ】認定経営革新等支援機関による確認書
経営革新事業と廃業・再チャレンジ事業のみで必要となる。様式は事務局が指定したもので、認定経営革新等支援機関の署名が必要となる。
【専門家活用】常時使用する従業員1名の労働条件通知書
常勤従業員が1名以上いることが確認できるものであればよく、個人が特定できる部分は墨消しが必要である。【Ⅱ型】売り手支援の場合は、補助対象が不動産業ならば提出する。
【廃業・再チャレンジ】M&Aに着手したことの証憑
M&A(売却)に着手したことの証憑として、以下のいずれか1つが必要となる。
・事業承継・引継ぎ支援センターへの支援依頼書の写し
・M&A仲介業者や地域金融機関などM&A支援機関との業務委託契約書の写し
・M&Aマッチングサイトへの登録が完了したことを確認できるWEBページまたは電子メールの写し
事業承継・引継ぎ補助金の加点事由と追加書類
補助金の採択を有利に進めるものに「加点事由」がある。該当しなくても申請できるが、容易に取り組めそうなものがあれば1つでも多く活用したほうがよい。
各事業の加点事由は、以下の通りである。
経営革新事業
・「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」の適用を受けていること
【加点に必要な書類】
顧問会計専門家印のあるチェックリスト
・交付申請時に有効な期間における経営力向上計画の認定、経営革新計画の承認又は先端設備等導入計画の認定書を受けていること
【加点に必要な書類】
認定書及び申請書類、経営革新計画の承認書、先端設備等導入計画の認定書
・交付申請時に地域おこし協力隊として地方公共団体から委嘱を受けており、かつ承継者が行う経営革新等に係る取組の実施地が当該地域(市区町村)であること
【加点に必要な書類】
地域おこし協力隊員の身分証明書
・【Ⅰ型】認定市区町村による特定創業支援等事業の支援を受けていること
【加点に必要な書類】
支援を受けたことの証明書
・【Ⅰ・Ⅲ型】第三者により補助対象事業となる事業承継の形態に係るPMI計画書(100日プラン等)が作成されていること
【加点に必要な書類】
第三者が作成したPMI計画書
・地域未来牽引企業であること
【加点に必要な書類】
地域未来牽引企業の選定証
・新型コロナウイルス感染症拡大以後(2020年1月以降)に承継をしていること
専門家活用事業
・経営力向上計画や経営革新計画の承認を得ている
【加点に必要な書類】
それぞれの承認通知
・地域未来牽引企業の認定を受けている
【加点に必要な書類】
認定通知
・中小企業の会計に関する基本要領・指針を遵守している
【加点に必要な書類】
顧問会計専門家印のあるチェックリスト
・中小企業基本法等の小規模企業者であること(【Ⅱ型】売り手のみ)
・直近決算期の、営業利益または経常利益が赤字の者
・2020年4月1日以降に決算が行われた任意の事業年度の売上高が、2020年3月末日までに決算が行われた事業年度のうち、最新の事業年度の売上高と比較して減少していること
廃業・再チャレンジ事業
・再チャレンジする主体の年齢が若い
・再チャレンジの内容が、「起業(個人事業主含む)」「引継ぎ型創業」である
事業承継・引継ぎ補助金で新規事業にチャレンジしよう
今回は、令和3年度補正予算における事業承継・引継ぎ補助金について解説した。申請する際には、「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」のそれぞれの申請要件の理解や類型ごとの必要書類といったポイントを理解しておく必要がある。
令和4年度補正予算における同補助金の申請受付も始まっており、期限も限られているため、是非本文を参考にしつつ支援機関の相談窓口も積極的に活用して申請を検討してほしい。
事業承継・引継ぎ補助金に関するQ&A
Q1:事業承継・引継ぎ補助金とは?
事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継やM&Aに伴って行われる経営革新や経営資源の引継ぎなどにかかる経費に対する補助金である。令和3年度補正予算における事業承継・引継ぎ補助金からは、再チャレンジを伴う廃業が新たに補助対象となった。
「事業承継をして新しい商品の開発やサービスの提供に取り組みたい」「他から経営資源を引き継いで開業してみたい」「M&Aに着手する予定がある」「事業をリタイアして次のステップに進みたい」などと考えている人におすすめの補助金である。
Q2:事業承継・引継ぎ補助金の対象は何?
令和3年度補正予算における事業承継・引継ぎ補助金の対象となる経費は、事業承継やM&Aを契機とした経営革新に伴う事業費、経営資源を引き継いで開業する場合の事業費、M&Aで専門家を活用した際に支払った報酬やサイトの利用料などの費用、再チャレンジを伴う廃業時に支払った廃業費などである。
Q3:事業承継・引継ぎ補助金はいくらもらえる?
事業承継・引継ぎ補助金の補助率と補助上限額は、申請する3つの事業それぞれで上限が以下のように定められており、重複申請が可能である。
【経営革新事業】
補助率が3分の2、補助上限額が600万円(400万円超は補助率2分の1)
【専門家活用事業】
補助率が3分の2、補助上限が600万円、
【廃業・再チャレンジ事業】
補助率が3分の2、補助上限が150万円
Q4:事業承継・引継ぎ補助金はいつまで対象になる?
令和3年度補正予算における事業承継・引継ぎ補助金において、補助対象になる経費は2023年1月31日までに契約・発注して支払った経費である。もちろん、この日までに支払った経費を補助対象にできるのは交付申請が採択された場合のみで、交付申請は公募期間中が期限となる。
今回の公募の最終期限は未定だが、全4回実施されることは予定されており、第2回目が2022年7月下旬から実施されている。いつまでに申請すれば補助金の対象になるのかについては、今後の動向を事務局のホームページで確認する必要がある。
Q5:事業承継・引継ぎ補助金は何回申請できる?
同じ申請者については原則1回である。
例えば、【経営革新】で複数の申請類型に該当する場合でも1回の申請が限度となるため、どれか1つを選ぶ必要がある。【廃業・再チャレンジ事業】と他の事業を併用申請する場合は、他の事業で1回申請すればよいため廃業・再チャレンジ事業の申請は不要である。
例外的に【専門家活用事業】の申請では、同一の被承継者が複数の対象会社を異なる承継者に引き継ぐ場合は複数の交付申請が可能である。
なお、過去に事業承継・引継ぎ補助金や事業承継補助金の交付決定を受けていると、そもそも申請できない可能性がある。
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文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)