事業承継税制,中小企業
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中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

平成30年(2018年)4月1日、事業承継時の贈与税・相続税の納税を猶予する事業承継税制が大幅に改正された。10年間限定の特例措置が設けられたことで、事業承継税制を活用した次世代への引継ぎを検討する中小企業が増えている。今回は、平成30年からの特例措置と、従来の一般措置について解説する。

目次

  1. 事業承継とは?
  2. 事業承継税制とは?
  3. 事業承継税制の一般措置と特例措置の比較
  4. 事業承継税制の一般措置
    1. 先代・後継者の要件
    2. 納税猶予の対象株式など
    3. 納税猶予期間中の要件
  5. 事業承継税制の特例措置(2018年4月1日より10年間限定)
    1. 先代・後継者の要件
    2. 納税猶予の対象株式など
    3. 納税猶予期間中の要件
  6. 事業承継税制の注意点 特例承認計画の提出が必要
  7. 事業承継は相続・贈与が先行してもOKだが…
  8. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

事業承継とは?

事業承継とは、会社の経営権を先代経営者から後継者に引き継ぐことだ。経営者個人が所有する株式や出資持ち分を、後継者が取得するかたちで行われる。

後継者が取得した株式などには、その評価額に対して贈与税・相続税がかかる。経営者が生存しているうちに取得した場合は贈与税、経営者が亡くなり相続や遺贈で取得した場合は相続税の対象になる。

非上場会社の株式などは、その評価額で税額が計算される。非上場会社には、大企業並みの会社から家族と数人の従業員で運営する小さな会社まである。規模が大きい会社の場合は、類似する上場企業の株価を参考にすることが多いので評価額が少なくなる傾向があるが、中規模や小規模な会社の場合は、会社の純資産の時価を参考にすることが多いため、評価額が高くなることが多い。評価額が高ければ、支払う贈与税・相続税も高くなる。贈与税と相続税の納期限は、以下のとおりだ。

納期限
贈与税翌年3月15日まで(暦年課税)
相続税死亡を知った日の翌日から10ヵ月以内

これから事業承継を考える経営者にとって、後継者の税負担が円滑な承継の妨げになる可能性は十分ある。

>>事業承継についてもっと知りたい方はこちら

事業承継税制とは?

事業承継税制とは、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく都道府県知事の認定によって、一定要件を満たす事業承継について納税が猶予されるものだ(ただし猶予される税額に見合う担保の提供は求められる)。

さらに納税猶予期間中も一定の要件を満たし続けることで、最終的には後継者の死亡などによって納税猶予額がすべて免除される。つまり、この制度のゴールは「納税猶予額の免除」だ。
免除までの流れは、以下のとおりだ。

・納税猶予を受ける
・納税猶予期間中、一定の要件を満たす
・納税猶予額の免除を受ける(後継者の死亡など)

この事業承継税制に、平成30年(2018年)から10年間限定の新しい制度が誕生した。従来の事業承継税制を「一般措置」、新しいものを「特例措置」と呼ぶ。

事業承継税制の一般措置と特例措置の比較

一般措置特例措置
適用期限なし10年
(平成30年1月1日 ~令和9年12月31日)
計画の策定等なし令和5年3月31日までに「特例承継計画」の提出が必要
適用後継者の数1人最大3人
納税猶予の対象株式総株式数の2/3まで全株式
納税猶予割合相続税:80%
贈与税:全額猶予
相続税、贈与税ともに全額猶予
その他・計画策定は不要・事業の継続が困難な事由が生じた場合の納税猶予額の免除制度あり
・相続時精算課税の適用が「推定相続人と孫への贈与」に限られない

「納税猶予の対象株式」「納税猶予割合」「その他」のすべてにおいて、特例措置のほうがメリットが大きい。納税猶予期間中に満たさなければならない要件も特例措置のほうがハードルが低いため、それまで一般措置の適用を受けられなかった中小企業も、事業承継税制を活用しやすくなっている。

事業承継税制の一般措置

事業承継の税負担を抑えるには、まずは特例措置の活用を目指したい。一般措置・特例措置の要件の違いを比較していこう。まずは一般措置から見ていく。

先代・後継者の要件

一般措置の先代・後継者の要件は下記のようになっている。

・贈与

主な要件
先代経営者
(贈与者)
・会社の代表権を有していたこと
・贈与の時に会社の代表権を有していないこと
・贈与の直前に、総議決権数の50%超(特別関係者も含む)を保有し、かつ後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
後継者
(納税猶予が適用される後継者は1人まで)
贈与のときにおいて、下記の要件を満たしていること。
・会社の代表権を有している
・20歳以上である
・役員等の就任から3年以上を経過している
・総議決権数の50%超(特別関係者も含む)を保有し、かつこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること

・相続

主な要件
先代経営者
(被相続人)
・会社の代表権を有していたこと
・相続開始直前において、総議決権数の50%超(特別関係者も含む)を保有し、かつ後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
後継者
(納税猶予が適用される後継者は1人まで)
・相続開始の日の翌日から5ヵ月を経過する日において会社の代表権を有していること
・相続開始の時において、総議決権数の50%超(特別関係者も含む)を保有し、かつこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
・相続開始の直前において役員であること(被相続人が60歳未満で死亡した場合を除く)

納税猶予の対象株式など

一般措置で納税猶予を受けられる株式は、発行総数の3分の2が上限だ。すでに後継者が株式を保有している場合、納税猶予を受けられる株数は減少することがある。また相続税については、その8割しか猶予されない。

納税猶予期間中の要件

経営承継期間中(申告期限の翌日から5年間)、後継者は取得した株式などを継続して保有する必要がある。同期間中に納税猶予を受けている株式を譲渡すると、納税猶予額のすべてと利子税を納付しなければならない。

そのほか、後継者が会社の代表権を有しなくなった場合、雇用の平均が相続時の雇用の8割を下回った場合、会社が資産管理会社に該当した場合も、納税猶予額のすべてと利子税を納付することになる。特に雇用維持については、もともと雇用者数が少ない小規模事業者とってはハードルが高いだろう。

ただし経営承継期間を過ぎれば、資産管理会社に該当した場合を除き、納税猶予が継続される(株式を一部譲渡した場合は、譲渡した分の納税猶予は終了する)。

事業承継税制の特例措置(2018年4月1日より10年間限定)

一方、特例措置の先代・後継者の要件は下記のようになっている。

先代・後継者の要件

・贈与

主な要件
先代経営者
(贈与者)
・会社の代表権を有していたこと
・贈与の時において会社の代表権を有していないこと
・贈与の直前に、総議決権数の50%超(特別関係者も含む)を保有し、かつ後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
後継者
(納税猶予が適用される後継者は最大3人まで)
贈与のときにおいて、下記の要件を満たしていること。
・会社の代表権を有している
・20歳以上である
・役員等の就任から3年以上を経過している
・総議決権数の50%超(特別関係者も含む)を保有している
・後継者が1人の場合は、上記の者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
・後継者が2人以上の場合は、総議決権数の10%以上を保有し、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること

・相続

主な要件
先代経営者
(被相続人)
・会社の代表権を有していたこと
・相続開始直前において、総議決権数の50%超(特別関係者も含む)を保有し、かつ後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
後継者
(納税猶予が適用される後継者は最大3人まで)
・相続開始の日の翌日から5ヵ月を経過する日において会社の代表権を有していること
・相続開始の直前において役員であること(被相続人が60歳未満で死亡した場合を除く)
・相続開始の時において、総議決権数の50%超(特別関係者も含む)を保有することとなること
・後継者が1人の場合は、上記の者の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
・後継者が2人以上の場合は、総議決権数の10%以上を保有し、かつ後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除く)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること

納税猶予の対象株式など

特例措置では、すべての株式が納税猶予の対象になる。しかも、相続税・贈与税ともに最終的には納税猶予額のすべてが免除される仕組みだ。

納税猶予期間中の要件

特例措置では、特例経営承継期間中は取得した株式などを継続して保有する必要がある。特例経営承継期間とは、申告期限の翌日から5年間か、先代の死亡日の前日のいずれか早い日のことだ。
一般措置との大きな違いは、雇用の平均が相続時の雇用の8割を下回ったときの対応だ。特別措置ではこの場合にただちに納税猶予が終了するわけではなく、都道府県の確認を受けた報告書の写しを添付した「継続届出書」を税務署に提出することで納税猶予が継続される。

報告書には、「経営革新等支援機関」に認定された専門家の所見を記載する必要がある。つまり、手続きさえ怠らなければ、雇用要件で納税猶予が受けられなくなることはない。ただし以下の場合の扱いは、一般措置と同様だ。

・納税猶予を受けている株式の一部を譲渡した場合
・会社が資産管理会社に該当した場合
・会社の代表権を有しなくなった場合

>>会社売却時の税金についてもっと知りたい方はこちら

事業承継税制の注意点 特例承認計画の提出が必要

事業承継の税負担を抑えるためには特例措置の活用がポイントになるが、活用にあたっては注意点もある。

特例措置の適用を受けるためには、令和5年3月31日までに、会社の後継者や承継時までの経営の見通しなどを記載した「特例承継計画」を提出し、都道府県知事の確認を受ける必要がある。

事業承継税制では、一般措置・特例措置のいずれも円滑化法の認定を受けている会社であることが適用の前提となるが、特例措置については「特例承継計画」の確認を受けていることが、円滑化法の認定を受けるための要件となる。

事業承継は相続・贈与が先行してもOKだが…

相続や贈与が先行した場合でも、その後特例承継計画を提出して特例措置の適用を受けることができる。
しかしその場合は、円滑化法の認定の申請期限までに特例承継計画を提出することになるため、スケジュールはタイトになる。

円滑化法認定の申請期限は、贈与税の猶予を受ける場合は翌年1月15日まで、相続税の猶予を受ける場合は、相続開始後8ヵ月までだ。もちろん特例承継計画の提出期限に間に合わせる必要があるので、さらにタイトになる可能性もある。

認定後はすぐに税務申告(納税猶予を受ける旨の申告)と担保提供の期限がやってくるので、事前に特例承認計画の確認を受けておくことをおすすめする。

>>事業承継の相談について知りたい方はこちら

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文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)

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