古尾谷 裕昭
古尾谷 裕昭(ふるおや・ひろおき)
ベンチャーサポート相続税理士法人(相続サポートセンター)代表税理士。昭和50年生まれ、東京浅草出身。税理士・司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社が在籍しているベンチャーサポートグループの中核を担う「ベンチャーサポート相続税理士法人」を率いている。相続税の申告のみならず、相続登記、相続争い、事業承継(M&A)、遺言書作成、民事信託、資料収集から不動産売却や財産コンサルティングまで様々な業務に対応している。年間の相続税申告1,000件超(令和1年度実績1,247件)であり、国内最大級の資産税チームを築き上げた。

近年、投資ファンドやアクティビストによる敵対的買収のニュースが報道されることが多くなった。これらはM&Aによって買収するだけでなく、その後M&AやIPOによる売却を予定しているものだ。買収した後に売却して利益を得ることを目的とするのが、バイアウトだ。

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敵対的買収とは?成功事例と失敗事例から学ぶ傾向や対策を紹介

本稿では、従業員が会社を買収するEBOと買収先企業の資産や収益力を担保にバイアウトを行うLBO、経営者が自社を買収するMBOに加えて、経営者と従業員が一緒に買収するMBEOの4つのバイアウトについて説明する。

目次

  1. 経営権を買い取るバイアウトの手法とは?
    1. バイアウトとM&Aの違い
    2. バイアウトとイグジットとの違い
  2. 従業員によるバイアウト、EBOのメリットとデメリット
    1. EBOの2つのメリット
    2. EBOのデメリット2つ
  3. 上場企業のバイアウトであるMBOとは?
  4. MBOの2つのメリットと3つのデメリット
    1. MBOのメリット2つ
    2. MBOのデメリット3つ
  5. EBOの資金調達問題にも対応できるLBOの2つのメリットと3つのデメリット
    1. LBOの2つのメリット
    2. LBOのデメリット3つ
  6. 経営者と従業員によるバイアウトであるMEBOのメリット、デメリット
    1. MEBOのメリット2つ
    2. MEBOのデメリット2つ
  7. バイアウトを成功させるための4つのポイント
    1. 1.既存株主の理解が得られるように株価の設定や交渉を行う
    2. 2.ファンドなどの外部のバイアウトに関する専門家に相談する
    3. 3.融資を受ける際には金融機関からの制約をクリアする
    4. 4.バイアウト後の経営戦略を事前に計画する
  8. バイアウトの事例
  9. バイアウトの具体的な取引スキームとは?
  10. バイアウトで税金対策も!
  11. 会社売却をご検討の方は専門家に相談を
  12. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
  13. 監修者紹介
バイアウト
(画像=Nattakorn_Maneerat/Shutterstock.com)

経営権を買い取るバイアウトの手法とは?

バイアウトとは、企業全体または事業部門を買収し、一定期間経営した後に売却することで利益を得ることだ。

バイアウトでは、分散した株式を買い集める必要があるため、スポンサーの存在が不可欠である。日本ではまだ浸透しているとは言えないが、欧米では機関投資家や富裕層がファンドを作り、そのファンドがスポンサーとなってバイアウトを頻繁に実行している。日本でもバイアウトの事例は増えているため、今後は日本でもバイアウト・ファンドが増えていくだろう。

バイアウトの目的は売却して利益を得ることのため、事前に株式を売却する手段を考える必要がある。選択肢は、他社への売却または株式上場だ。大企業のバイアウトでは、その企業を買収しようとする他社を見つけることが容易ではないため、上場を選択されるケースが多い。

バイアウトとM&Aの違い

バイアウトとよく混同される会社の買収方法に、「M&A:Mergers And Acquisitions」がある。M&Aは、日本語で「合併と買収」という意味であり、以下のようなさまざまな方法で会社の合併や買収を行う。

  • 買収:株式譲渡や事業譲渡
  • 合併:新設合併や吸収合併
  • 分割:新設分割や吸収分割
  • 業務提携:技術提携や販売提携など
  • 資本提携:資本参加や相互保有

バイアウトはこの中でも「買収」にあたる行為であり、会社の経営者や役員といった経営陣や従業員が、株式の買い取りなどによって自社の経営権を得る方法である。一方で、M&Aには買収以外に合併などの方法が含まれるだけでなく、基本的には社外の個人や法人が、買収・合併先企業の事業の運営や将来的な売却を目的に買収することがほとんどだ。

バイアウトとイグジットとの違い

「イグジット:Exit」は、日本語で「出口」という意味であり、企業の創業者や国内外のファンドなどが、保有している企業の株式を売却することで、資本回収や利益の確定を行うことだ。

イグジットは「会社売却」という意味で使用されており、そのための手法として「IPO(株式公開)」や「M&A」、経営陣による株式の買い取りによるバイアウトの「MBO」や従業員によるバイアウトである「EBO」がある。

そのため、バイアウトはあくまでイグジットの手法の一つと受け止められることが多い。バイアウトならば、IPOやM&Aほどハードルは高くないため、業績があまりよくない企業であってもイグジットできる可能性がある。

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従業員によるバイアウト、EBOのメリットとデメリット

従業員が、所属している企業のバイアウトをすることをEBO(エンプロイー・バイアウト)と呼ぶ。EBO

EBOの2つのメリット

EBOは、元々その企業に在籍している従業員がバイアウトを行うことから、経営面のメリットがある一方で、資金調達などでデメリットが生じる。

・(1)事業承継がスムーズに行える

EBOは、自社の事業内容や企業理念はもちろん、経営方針や社風なども理解している従業員が事業を買い取るため、引き継ぎにかかる時間や費用面での負担も小さくて済む。

M&Aなどの社外の第三者による事業承継の場合は、買収後の事業運営は基本的にM&A先が行うため、現場レベルでの混乱や摩擦が生じることも少なくない。また、取引先に取引方法やシステムの変更などで負担をかけたり、M&Aに納得していない社員の離職を招いたりすることもある。EBOならば、これら第三者によるM&Aに伴うリスクを減らすことができる。

・(2)株式の非公開化によりTOBなどの敵対的買収を防げる

EBOによって既存社員から選んだ経営者に事業を引き継げば、その後に株式を非公開化することによって、TOBなどの敵対的買収を防ぐことができる。また、株主自体が厳選されることになるため、多種多様な要望に応える必要がなくなるだろう。

上場を廃止すれば、これまで上場企業として必要とされてきた財務状況の公開や決算報告などの手間も無くなるため、事業活動の負担を減らすこともできる。

EBOのデメリット2つ

・(1)経営革新が難しくなる恐れがある

EBOは、これまで経営に関わってきた従業員によるバイアウトなので、経営者が変わるとはいえ、事業方針や組織体系には大きな変化が生まれない。M&Aのように、外部企業のノウハウや販路、システムなどの共有によるシナジー効果を期待することはできないので、経営革新は難しくなる恐れがある。

また、経営権を引き継いだ従業員がいくら優秀だったとしても、企業経営をうまく進められるとは限らないため、役員や組織などの見直しも必要になるだろう。

・(2)株式の買い取りに必要となる資金の調達が難しい

従業員に事業を承継させる場合、従業員に事業を買い取らせる、つまりバイアウトをさせることになる。EBOのバイアウトには、従業員が資金をどこから調達するかという問題が伴う。

従業員の資金調達力が乏しいからといって、従業員に安く株式を売却することはできない。オーナーと従業員との関係であっても、税務上の時価と乖離した価格で取引すると、経済的な価値の移転が認識されて課税されてしまうからだ。

株式の税務上の時価が著しく高いと、簡単にバイアウトの資金を調達できなくなる。従業員の給与を増やしてバイアウト資金を準備させようとしても、それに伴う所得税負担が大きくなるといった問題が生じる。

上場企業のバイアウトであるMBOとは?

バイアウトと言うと、大企業の非中核事業部門の切り出しなどをイメージする人が多い。しかし、バイアウトの対象は事業部門だけではなく、会社が丸ごとバイアウトされることもある。しかも、上場企業がその経営陣によって買収され、非上場化されるケースもあるのだ。

このタイプのバイアウトは、上場を廃止して経営を立て直すことが主な目的だが、相続対策として活用されるケースも増えている。

上場企業のオーナーに相続が発生すると、株式が複数の相続人に分散することで、後継者による経営権の維持が難しくなることがある。そこで、上場企業オーナーが経営から退く際に、自社株式を現金化したいと考えた場合、手段となるのがMBOによるバイアウトだ。

MBO(マネジメント・バイアウト)とは、その会社の経営陣によるバイアウトのことである。

上場企業のオーナーは、投資ファンドなどのスポンサーの協力を得てバイアウトを実施し、当面は社長として経営を続ける。その後経営が安定してきたら社長を引退し、保有する株式をスポンサーに売却するのだ。

外食大手のすかいらーくや、青汁メーカーのキューサイが行ったMBOが代表的事例である。なお、上場企業オーナーが自分自身で自社をバイアウトして上場を目指すなど、オーナーの地位を手放さないケースもある。

上場企業オーナーの資産承継では、「上場株式」を後継者に承継しなければならないが、これは非上場株式の承継よりも難しい。その場合は、一般投資家から上場株式をバイアウトによって買い集め、自社の相続対策を一から組み立てる。

また、非上場化を目的とするバイアウトを実施する上場企業がある。2010年代に、このタイプのバイアウトが急増した時期があった。これには、上場企業の事業承継と企業オーナーの相続対策が関係している。

MBOの2つのメリットと3つのデメリット

MBOは、経営者が自社の既存株主から株を買い上げることで経営権を強めることを目的としており、実施に際してはメリットとデメリットがある。

MBOのメリット2つ

・(1)経営の自由度が高められる

MOBによって広く株を買い集めれば、経営権を強められるのと同時に株主自体も厳選されていく。そのため、これまでのように数多くの株主の多種多様な要望に応える必要はなくなり、経営者にとっては経営の自由度が高まるだろう。
また従業員にとっても、第三者によるM&Aなどに比べて経営方針の変更や組織改変などのリスクが下がるというメリットがある。そのため、バイアウトの理解が得られやすくなり、結果的に事業承継もスムーズに行うことができる。

・(2)TOBなどの敵対的買収を防げる

MOBによって経営権を獲得した後に上場を廃止すれば、TOBなどの敵対的買収を仕掛けられたとしても、株式の譲渡に株主の同意が必要となるため、自分の会社を守ることができる。

MBOのデメリット3つ

・(1)MBOに対して株主の反発を受ける

ステークホルダーである既存の株主は、それぞれが自身の思惑を持っている。株の売却による利益を得たいものもいれば、経営に関わりたいという株主もいるだろう。そのため、MBOによって経営権を既存の経営者に握られることを嫌い、株式の買取価格を上げさせたり、逆にTOBによって経営権を奪取しようとしたりする株主が現れることもある。

・(2)会社経営に変化が生まれにくくなる可能性がある

MBOは、これまで同社の経営の指揮を取ってきた経営者によるバイアウトなので、これまでの事業方針や経営体質からの大きな変化は生まれにくくなるだろう。この点は、従業員とはいえ、経営者が変わるEBOよりもさらに深刻なデメリットとなる可能性がある。

・(3)資金調達がこれまでより困難になる

MBOの目的には、上場廃止による経営の自由度向上やTOB防止などが挙げられる。ただし、上場を廃止すれば信用度の低下は避けられないため、金融機関などからの融資は受けにくくなる可能性が高い。また、MBOを行うための資金調達として借入を行っていれば、その返済によってしばらくは資金繰りが悪化するだろう。

EBOの資金調達問題にも対応できるLBOの2つのメリットと3つのデメリット

EBOには、従業員が買収のための資金を集める際に、調達や税金面での負担が大きくなるというデメリットがある。レバレッジド・バイアウト(LBO)とは、このEBOのデメリットを解決するために、受皿会社である「特別目的会社(SPC)」が借入で調達した資金で株式を買い取り、その直後に合併することで借入金をLBOの対象となる事業会社に負担させる方法だ。

なお、LBOは第三者によるM&Aの際に、買収先の企業に調達資金の返済を負担させる際にも利用されるため、必ずしもEBOのための資金調達とは限らない。

LBOの2つのメリット

LBOは、EBOのデメリットを補う手法であり、M&Aにおいても資金調達の負担が小さくなる可能性があるが、実施にあたってメリットとデメリットがある。

・(1)少ない資金でも企業が買収できる

LBOでは、対象となる事業のキャッシュ・フローを担保として、設立したSPCが銀行から借入を行い、その資金で株式を買い取らせる。この方法であれば、バイアウトしようとうする従業員の出資額は少なくて済む。そのため、従業員に手持ち資金がほとんどなくても、評価額の高い株式を買い取ることができる。

・(2)借入の返済リスク低減や法人税の節税ができる

LBOを行う際には、基本的には設立したSPCの名義で融資を受けるため、買収元の企業が直接的に調達や返済の義務を負うことはない。これは「ノンリコースローン」と呼ばれており、返済リスクを低減できる。

また、借入金の返済時には元本だけでなく利息の支払いも義務付けられる。利息分は損金参入できるため、結果的に節税効果が期待できる。

LBOのデメリット3つ

・(1)LBOのために借り入れた費用は返済しなければならない

LBOを行う際には、SPCを設立した上で、企業の資産や収益力などの企業の将来性を担保にバイアウトのための資金調達をすることになる。借り入れた費用は、もちろん金利分も含めて返済の義務が生じるため、その覚悟が必要だ。また、返済が終わるまでは資金の活用は制限されるため、経営の自由度は低くなるだろう。

・(2)多額の借入金により財務リスクを負う

LBOを行うために借入する場合は、バイアウト先の資産だけでなく収益力などの将来性も担保にするので、高金利になることも多い。そのため、バイアウトを実行すると会社の借入金は急増し、財務内容は一気に悪化することになる。その後の財務リスクには十分注意した上で、これまで以上に経営の効率化を図っていく必要があるだろう。

・(3)他社を買収した際に期待したシナジー効果が得られないことがある

LBOによって他社を買収する際には、M&Aと同じようにシナジー効果を期待するだろう。しかし、経営統合がうまくいかなければ、期待したほどのシナジー効果を得られないこともある。

経営者と従業員によるバイアウトであるMEBOのメリット、デメリット

MEBO(マネジメント・アンド・エンプロイ・バイアウト)とは、その名の通り、「MBO(経営者による買収)」と「EBO(従業員による買収)」を組み合わせたバイアウトだ。

バイアウトを行う際には、経営権を握るだけの株式取得が必要であり、そのためには多額の資金が必要となる。しかし、資金の不足によってMBOやEBOの実施が不可能な場合、経営者と従業員がお互いに協調してバイアウトのための出資を行うのがMEBOである。

一般的には、経営者と従業員の出資だけでMEBOを行うのが困難な場合は、ファンドや金融機関から借り入れる。

MEBOのメリット2つ

MEBOは、基本的にはMBOとEBO双方のメリットとデメリットを持つことになる。

・(1)出資金の負担がMBOとEBOよりも小さい

MEBOでは、バイアウトに必要な資金を経営者と従業員で出資し合うため、MBOやEBOよりもそれぞれの負担金額は少なくなる。また、出資金が足りずに借入を行う際にも、同様にリスクを分散できるというメリットがある。

・(2)経営方針はそのまま引き継げる

MEBOでは、既存の経営者と従業員で株式の大半を保有するため、経営方針はそのまま引き継ぐことができる。自社の一部事業の買い取りによって親会社からの独立などを目的としたMEBOも可能なため、経営方針は引き継ぎつつも独自の事業展開を行うことも不可能ではない。

MEBOのデメリット2つ

・(1)借入を行えば返済しなければならない

MEBOに必要な資金を、経営者や従業員だけで確保できなければ、金融機関やファンドからの借入が必要となる。借り入れた資金は、利息も含めて返済しなければならないため、MEBOを行った後は資金繰りに注意しなければならない。

・(2)経営方針や事業内容に変化が生まれにくい

MBOやEBOのデメリットと同じように、外部から経営者を募るわけではないので、経営方針などはそのまま引き継がれることが多く、これまでの事業内容からの大きな変化やシナジー効果は望みにくい。

バイアウトを成功させるための4つのポイント

バイアウトを成功させるためには、株式を買い取るための資金調達などさまざまなハードルを越えなければならない。ここでは、バイアウトを成功させるためのポイントを4つ紹介する。

1.既存株主の理解が得られるように株価の設定や交渉を行う

バイアウトを行う際には、既存の株主から株を買い取ることになるため、株主の構成を把握することから始める。

次に、株式の評価を行った上で買取価格を決めることになるが、株式の評価は「純資産価額方式」「配当還元方式」などの評価方法を用いて、客観的な目線で行わなければならない。そのため、企業の価値算定に詳しい税理士などの専門家に依頼することがほとんどだ。

バイアウトを行うにあたって、客観的に評価された株式評価額を既存の株主に提案したとしても、必ずしも理解を得られるとは限らない。それぞれの株主には株を保有している目的があるため、バイアウトを快く思わないこともあるからだ。

株価の正当性だけを示しても納得を得られないこともあるため、評価額の正当性を示しつつ、根気強く株主との交渉を行わなければならない。

2.ファンドなどの外部のバイアウトに関する専門家に相談する

バイアウトを行う際には、株式の評価額の算定などで専門家の力が必要となる。その他にも、バイアウト手法に応じた手続き内容や、既存株主と交渉がまとまらない場合の相談なども必要となるだろう。

そのような場合には、投資家から預かった資金で企業のバイアウトを行う、M&A専門企業である「バイアウト・ファンド」に相談するといいだろう。もちろん、これまでのバイアウト実績を確認した上で、サポート実績が豊富なファンドに相談しよう。

3.融資を受ける際には金融機関からの制約をクリアする

バイアウトのために金融機関などから資金調達を行う際には、情報開示義務や財務制限条項などの「コペナンツ」の締結など、さまざまな制約を受けることがある。借り入れた資金の返済が完了するまでは、金融機関からのモニタリングを受けることになるため、事前に取り決めた約束事をしっかりと守らなければならない。

4.バイアウト後の経営戦略を事前に計画する

バイアウトを行う際には、その手法によらず、株式の買取資金確保のための融資が必要となるケースが多い。そのため、バイアウトが完了した後の資金返済によって、資金繰りが悪化することが少なくない。バイアウトを行う前に、融資を受ける際にも必要となる資金返済までの事業計画をしっかり立案する必要がある。

また、EBOやLBOのように、従業員の中からバイアウト後の新しい経営者を決めなければならない場合には、対象となる社員の選定はもちろん、それをサポートする組織体制の構築についても事前に定めておかなければならない。

バイアウトの事例

興味深いバイアウトの事例がある。2011年にTSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブがMBOのバイアウトを実施して非上場化した。経営環境の急変によって業績が傾いていたものの、時価総額は1,000億円を超えていた。このMBOに関して、当時のプレスリリースに以下のようなコメントがあった。

「より厳しさを増すことが予想される経営環境のもと、競争優位を引き続き維持し、将来にわたって安定的かつ持続的に企業価値を向上させていくためには、・・・(中略)・・・抜本的かつ機動的な事業の再構築が必要不可欠であると考えております。上場を維持したまま事業の再構築を実行した場合には、短期的であるにせよ、売上規模の縮小や利益水準の低下、キャッシュ・フローの悪化などを伴うリスクがあり、筆頭株主以外の株主の皆様に対して多大なる影響を与えてしまう可能性があります。」

つまり、筆頭株主以外の少数株主の利益保護のために非上場化を行ったのだ。しかし、この時の株主構成を見ると、筆頭株主であるオーナー個人は、その資産管理会社を合わせて92%の株式を保有しており、利益が保護されるべき少数株主はわずか8%だった。

少数株主を保護するために、時価総額1,000億円超の上場企業をバイアウトして非上場化したという説明は理解しづらい。もしかしたら、カルチュア・コンビニエンス・クラブの上場株式の相続に伴う相続税負担を考慮して、バイアウトが行われたのかもしれない。

税理士としては、時価900億円もの上場株式に対する相続税負担が気になるが、税率を50%としても、450億円もの相続税を納めなければならないことになる。相続税対策を考えるのであれば、バイアウトによる非上場化が最適であろう。株式の評価額が引き下げられるからだ。

上場株式の相続税評価は時価によるため、その評価額を意図的に下げることはできない。つまり、カルチュア・コンビニエンス・クラブが上場会社である限り、効果的な相続税対策を講じることはできなかっただろう。

これに対して、バイアウトによって非上場化すれば、上場株式は「非上場株式」となる。すると、さまざまな方法で評価額を引き下げることができる。

上場企業オーナーの多くは、「株価は市場で決まるため、相続税対策を講じることは難しい」とあきらめている。しかし、バイアウトによって非上場化すれば、経営承継と株式承継を同時に実現できるのだ。

バイアウトの具体的な取引スキームとは?

上場会社の非上場化を目的としてバイアウトを実施する場合、その取引スキームは以下のようになる。

まず、上場会社の買収を目的とするSPC(受皿会社)を設立し、銀行借入によって買収資金を調達した上で、TOB(株式公開買付け)を実施する。これによって、株式のほとんどを買い集めることができる。その後、少数株主排除(スクイーズ・アウト)の手続きなどを経て、上場会社をSPCの完全子会社化する。すると上場廃止となり、非上場化が実現できる、という流れだ。

完全子会社化した後は、SPCの銀行借入を返済するために、SPCと対象会社を合併させなければならない。つまり、事業会社の収益力を担保に銀行から資金を借り入れる、いわゆるLBO(レバレッジド・バイアウト)の手法を使うのだ。

借入金によって株式の取得資金を調達した状態になれば、合併した会社の純資産を小さくすることができるので、株式の評価額が引き下げられる。

バイアウトで税金対策も!

さらなる相続税対策を講じるとすれば、バイアウトによって非上場化した事業会社の株式をオーナーが直接保有するのではなく、法人(資産管理会社)を通じて間接保有する方法がある。この資産管理会社の株式評価に類似業種比準価額を適用できるのであれば、その評価額を一気に引き下げられる。

しかしながら、株式保有を目的とした資産管理会社は一般的に株式保有特定会社に該当し、純資産価額で評価されるケースがほとんどである。株式取得後の株価の上昇分のうち法人税等相当額37%を控除することがため、ある程度は株価を引き下げる効果がある。

この効果に満足できないのであれば、不動産を取得することで株式保有特定会社に該当しないようにし、類似業種比準価額を適用できるようにすればいいだろう。これが、いわゆる「特定会社外し」と呼ばれる手法である。

このように、上場企業のオーナーであってもMBOのバイアウトを行えば、何段階もの相続税対策を講じることができるのだ。相次ぐMBOの裏側には、そんな事情があるのかもしれない。

>>節税策について詳しく知りたい人はこちら
税理士が解説!誰でもできる中小企業の節税策3選

会社売却をご検討の方は専門家に相談を

会社売却を考え始めたら、まずは情報や知識を仕入れよう。基本的な知識を最初に身につけておけば、具体的に相談する相手を探す際に、良い業者・悪い業者の判断もつきやすくなる。

スピード感や手厚いサポートを重視するなら、M&A仲介業者への相談がいいだろう。会社売却においては、専門家の力を借りることは不可欠だ。自学自習だけで、弁護士や税理士などの専門家を取りまとめ、M&Aを進めていくことは不可能に近い。契約書の雛形などを活用して形だけ実行しても、あとで訴訟トラブルに発展するケースもある。

M&A仲介業者に支払う報酬は決して安くはないので、出費を惜しむ気持ちが生まれるかもしれないが、会社の出口戦略であるイグジットは、それだけ経営において重要な位置づけだといえる。

実績豊富なM&A業者は、最新の法律やスキームを熟知しているうえ、会社売却のノウハウの蓄積がある。M&Aでは、買い手候補先との条件交渉や、従業員への説明、取引先への説明など、法務的・税務的手続き以外の手続きも慎重に進めていくことが必要だ。

このようなすべてのプロセスで相談できるM&A業者の担当者は、力強い味方になるだろう。また、失敗事例などを聞くことで、自社の売却で想定されるリスクに早いうちから備えられる。

プロの力を借りることで、会社売却が成功すれば、自分にとっても社員にとっても望ましい結果を引き寄せられるはずだ。

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文・古尾谷 裕昭(税理士)

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監修者紹介

斎藤弘樹
株式会社日本M&Aセンター 地域金融1部 部長
斎藤弘樹 (さいとう・ひろき)
一橋大学卒業後、外資系金融機関入社。 2012年日本M&Aセンター入社以降、地域金融機関と数多くのM&Aに携わり、後継者に悩んでいる、または更なる成長を志向する経営者に、M&Aという手段で会社の継続と発展を支援している。