マネーロンダリングに該当する行為とは?具体例や特定事業者の対策
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中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
税理士・税理士事務所所長。中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

マネーロンダリングは、日本では「資金洗浄」とも呼ばれている犯罪行為である。経営者はもちろん、会社自体もマネーロンダリングを行うことはもちろん、加担することも許されない。

この記事では、マネーロンダリングに該当する3つの行為や具体的な事例、日本のマネーロンダリング防止対策について解説する。

目次

  1. マネーロンダリングとは
    1. マネーロンダリングの3段階の分類
  2. マネーロンダリングに該当する行為
    1. 規制されている3つの行為
    2. マネーロンダリングの「犯罪収益」と「前提犯罪」
    3. 脱税はマネーロンダリングの前提犯罪になるのか
  3. マネーロンダリングの5つの具体的事例
    1. 【事例1】企業間の架空取引で得た金銭を隠匿した行為
    2. 【事例2】不正に得た融資金を隠匿した行為
    3. 【事例3】違法営業者から家賃名目で金銭を受け取った行為
    4. 【事例4】違法営業者からコンサル料名目で金銭を受け取った行為
    5. 【事例5】盗品等譲り受けの罪と同時に検挙された事例
  4. 日本のマネーロンダリング防止対策
    1. マネーロンダリングを防止するための法律「犯収法」とは
    2. 「犯収法」による特定事業者に義務付けられる措置とは
    3. 各機関のマネーロンダリング対策
  5. マネーロンダリングについての教育を行おう

マネーロンダリングとは

「マネーロンダリング(money laundering)」とは、犯罪によって手にいれた収益の出どころや持ち主をわからなくする行為のことであり、次の3段階に分けられる。

マネーロンダリングの3段階の分類

これは、マネーロンダリング対策を国際的に行う「FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)」が、各国のマネーロンダリングのリスクを特定・評価する上で有益なものとして示した、マネーロンダリングのステップである。

3つ目の「インテグレイション」からわかるとおり、マネーロンダリングでは、最終的に犯罪で手に入れた資金を合法な資金と混ぜることで判別しにくくする。

たとえば、貯蓄性の高い保険商品に全納したり、株式などの有価証券や仮想通貨に換えたりするような行為である。こうした手口から、日本ではマネーロンダリングを「資金洗浄」とも呼んでいる。

マネーロンダリングに該当する行為

それでは、具体的にどのような行為がマネーロンダリングに該当してしまうのだろうか。

マネーロンダリングを取り締まる法律の中核となるのは、『組織犯罪処罰法』である。

同法では、組織的な犯罪やその準備行為をより厳重に取り締まるほか、マネーロンダリング行為の処罰や犯罪収益の保全(没収など)の手続きについて定められている。

規制されている3つの行為

『組織犯罪処罰法』で規制されるマネーロンダリング行為は、次の3つである。

  1. 法人等事業の経営支配
  2. 犯罪収益等の隠匿
  3. 犯罪収益の収受
マネーロンダリングに該当する行為とは?具体例や特定事業者の対策

同法違反による2019年の検挙件数は528件で、うち378件が犯罪収益等隠匿罪、150件が犯罪収益等収受罪となっている。法人等事業経営支配罪については、統計上ほとんど検挙事例がない。

なお、これらの行為は個人が行っても処罰対象になる。法律名のイメージから、組織的な集団による犯罪だけを取り締まるものと誤解されやすいが、個人による違法行為も対象になるものがある。上記の3つはその代表格だ。

『組織犯罪処罰法』違反で検挙された528件のうち、犯罪収益を得る元になった犯罪行為で圧倒的に多かったのは、「窃盗(206件)」と「詐欺(167件)」の二つである。「窃盗」や「詐欺」のような犯罪を、マネーロンダリングでは「前提犯罪」という。

(参考)警察庁「犯罪収益移転に関する年次報告書(令和元年)」

マネーロンダリングの「犯罪収益」と「前提犯罪」

『組織犯罪処罰法』の「犯罪収益」とは、「前提犯罪」として定められる一定の犯罪によって得た財産やその犯罪行為の報酬をいう。(組織犯罪処罰法第2条第2項)

したがって、何が犯罪収益になるかを考えるには、まず前提犯罪を知る必要がある。では、何が前提犯罪に該当するかというと、これが非常に広範囲である。

まず、長期4年以上の懲役刑が定められているものはすべて該当する。そのため、脱税や粉飾決算、背任などの行為から得た財産を隠したり受け取ったりすると、『組織的犯罪処罰法』の対象になる可能性がある。

その他にも、同法で定められる一定の犯罪は、前提犯罪として扱われる。

脱税はマネーロンダリングの前提犯罪になるのか

脱税とは「偽りその他不正の行為」によって租税を免れる行為であり、法人税であれば、「10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金、またはこの併科」となる。(法人税法第159条)

懲役が「10年以下」であるため、「長期4年以上」の要件を満たす。「長期4年以上」とは、4年以上の懲役刑になる可能性のある罪と読み替えられ、法人税の脱税は前提犯罪に該当する。

脱税とは租税債務を免れるものなので、窃盗や詐欺とは異なり消極的に得られる利益であることから、犯罪収益に該当するかどうかの議論がある。

税務大学校研究部の教育官である西住憲祐先生の研究によると、詐欺利得罪の通説・判例をもとに租税債務を免れることは財産上の利益にあたり、脱税の利益は『組織犯罪処罰法』の犯罪収益に該当するとしている。

なお、詐欺利得罪とは、無銭飲食や無賃乗車などを処罰する「二項詐欺」のことである。

(参考)国税庁HP:「税務当局によるマネー・ロンダリング対策

マネーロンダリングの5つの具体的事例

それでは、具体的にどのような行為がマネーロンダリングとして検挙に至っているのだろうか。警察庁の資料から、「会社役員」が検挙されている5つの事例について紹介する。

【事例1】企業間の架空取引で得た金銭を隠匿した行為

会社役員が、企業間の架空取引等によってだまし取った約束手形を現金化した後、犯罪で得た収益の一部「現金約4,000万円」を、会社役員の親族が契約した銀行の貸金庫に保管した。

【事例2】不正に得た融資金を隠匿した行為

会社役員が、会社の財務内容が良好であるかのように装って得た8,000万円の融資金のうち500万円を、事情を知らない者に渡して他人名義の証券口座に振り込ませた。

証券口座に振り込まれた金銭は、その会社役員が株投資に利用していた。

【事例3】違法営業者から家賃名目で金銭を受け取った行為

会社役員が、違法な風俗営業を経営する男に建物を提供し、犯罪収益と知りながら家賃の名目で自己名義の口座に振り込ませた。

この金銭は、家族名義の積立式の生命保険の保険料に充当されていた。

【事例4】違法営業者からコンサル料名目で金銭を受け取った行為

会社役員が、違法な風俗営業の収益であることを知りながら、コンサルティング報酬名目で会社の口座に金銭を振り込ませた。

【事例5】盗品等譲り受けの罪と同時に検挙された事例

会社役員が、外国人から盗品であると知りながら化粧品等を買い取り、盗品等有償譲受け及び組織的犯罪処罰法違反で検挙された。

事件の詳細は不明であるが、マネーロンダリングとしての規制範囲内という判断に至ったのだろう。

(参考1)警察庁:「犯罪による収益の移転の危険性の程度に関する評価書
(参考2)警察庁「犯罪収益移転に関する年次報告書(令和元年)

日本のマネーロンダリング防止対策

日本はFATFの参加国として、マネーロンダリングのリスクとなる経済活動を、警察活動などによって毎年調査している。

また、FATFからの「40の勧告」や日本のマネーロンダリング対策への評価を受けて、『犯罪収益移転防止法』という法律により、一定の事業者に対してマネーロンダリングの防止措置を義務付けている。

マネーロンダリングを防止するための法律「犯収法」とは

『犯罪収益移転防止法』(犯収法)は、マネーロンダリングを直接的に取り締まるのではなく、金融機関などの民間事業者に、顧客の確認や疑わしい取引の届け出を義務付けるための法律である。

なお、『犯罪収益移転防止法』によって措置義務を受けた事業者のことを「特定事業者」と呼ぶ。税理士などの士業も「特定事業者」に含まれるが、疑わしい取引の届け出義務までは課せられていない。

同法では、他人に通帳やキャッシュカード等を売買する行為や、それを勧誘する行為などの処罰規定も設けられている。

「犯収法」による特定事業者に義務付けられる措置とは

『犯罪収益移転防止法第2条』において、「特定事業者」に該当する事業者について記載されているので、自社が該当するか否か確認が必要である。

特定事業者に対して義務付けられる主な措置は以下の通りであり、士業は取引時確認の一部や疑わしい取引の届け出義務がない。

  • 取引時確認(本人特定事項・取引を行う目的・職業や事業内容などの確認)
  • 確認記録と取引記録の作成と保存
  • 疑わしい取引の届け出

各機関のマネーロンダリング対策

『犯罪収益移転防止法』で特定事業者に指定されている事業所は、マネーロンダリングを防ぐために、それぞれが対策を行なっている。

・銀行

口座開設や貸し金庫などの契約時、200万円を超える現金取引時、10万円を超える現金振り込みなどの際に、取引時確認や記録の作成・保存を行わなければならない。

また金額にかかわらず、疑わしい取引の届け出義務がある。

・保険会社

200万円を超える現金取引や保険金の支払い時に、取引時確認や記録の作成・保存を行わなければならない。金額にかかわらず、疑わしい取引の届け出義務もある。

・仮想通貨(暗号資産)交換業者

2016年5月に、犯罪収益移転防止法の特定事業者に追加されている。銀行と同様に、取引時確認や記録の作成・保存、疑わしい取引の届け出義務等がある。

・カジノ事業者

平成2018年7月に、犯罪収益移転防止法の特定事業者に追加されている。

犯罪収益移転防止法の措置に加えて、特定複合観光施設区域整備法により、100万円超の現金取引についてはカジノ管理委員会へ届け出ることが義務付けられている。

(参考)カジノ取引委員会:マネー・ローンダリング対策について

マネーロンダリングについての教育を行おう

マネーロンダリングについて、該当する3つの行為や具体的な事例、日本のマネーロンダリング防止対策について解説した。

マネーロンダリング行為を自社が起こさないのはもちろんだが、加担することももちろん許されない。経営者が預かり知らぬところで社員がマネーロンダリングに加担しないように、マネーロンダリングについての教育を行い、情報共有や相互監視の体制を構築することも重要である。

文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)

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