自らの会社を経営している方にとって、「EXIT」は気になることのひとつだろう。EXITの方法には①株式を上場する②M&Aなどで株式を売却する③売却せずに後継者に譲渡するなどがある。株式を売却する場合において、問題となるのは税金がどうなるかだ。ここでは、会社の売却のときにどのような税金がどれだけかかるかについて説明する。
なお、本稿では会社の株式などを現金で売却した場合について説明し、それ以外、例えば別の会社の株式などを受領した場合については説明を省略する。
目次
個人で持っている会社の株式を売却したときの税金
通常、会社を経営している個人は、会社の株式を持っていると思われる。会社を売却する際は、個人で持っている株式を売却する方法をとる。この場合、株式を売却した利益は、譲渡所得があったものとして所得税および住民税が課せられる。
譲渡所得の計算方法
譲渡取得の計算方法は、以下の算式で表される。
総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等) =株式等にかかる譲渡所得等の金額 |
そのうち、譲渡価額は売却によって入ってきた金銭などの額で表される。必要経費の委託手数料などは、証券会社などに対して支払った手数料も含む。また、必要経費の取得費は以下の方法によって算出される。
まず、株式会社への払込や他の人から譲り受けた場合はその金額を指す。ただし、証券会社などに手数料を支払った場合は、その手数料も足してよい。次に、株式を相続や遺贈で手に入れた場合は、被相続人、遺贈者または贈与者の取得費をそのまま引き継ぐ。なお、3年以内に売却した場合は、相続税のうち当該株式に見合う部分については取得費に加えることが可能だ。相続などで取得した株式については取得費が分からない場合があるが、譲渡価額の5%を取得費として譲渡所得の計算を行うことができる。
さらに、ストック・オプションを利用して取得した株式の場合を見ていこう。まず、税制適格ストック・オプションについては、権利行使時に支払った金額が取得費となる。次に、税制非適格ストック・オプションについては、権利行使の日における価額が取得費になる。
なお、複数の株式を売った場合は上場株式の利益と上場株式の損失、非上場株式の利益と非上場株式の損失は互いに相殺できるが、上場株式の利益と非上場株式の損失、上場株式の損失と非上場株式の利益は相殺できない。
税率・税額
株式を売った場合の税金は給料や報酬などは、他の所得とは別に計算する(分離課税)。 計算式は以下のとおりだ。
所得税(復興特別所得税を含む) | 譲渡所得×15.315% |
---|---|
住民税 | 譲渡所得×5% |
なお、上場株式にかかる譲渡所得の税金と非上場株式にかかる譲渡所得の税金は別々に計算し、それらを相殺することはできない。
個人で持っている会社の株式を発行会社に売却したときの税金
株式を売却した相手がその株式の発行会社の場合、計算方法は異なる。
配当所得(みなし配当)の発生
株式を発行会社に売却した場合、税金を計算する上では株式を売却したのではなく、出資金の払い戻し、配当の受け取り(みなし配当という)の2つを行ったものとされる。そのため、確定申告の際には、かかる売却の利益について「譲渡所得にかかる収入として申告する部分」と「配当所得にかかる収入として申告する部分」に分けられるのだ。
なお、どの部分がみなし配当になるかは、会社からのお知らせ、もしくは次の項目で説明する「控除された源泉所得税」を逆算することで分かる。
源泉所得税
みなし配当を受けた場合、通常の株式配当と同じく源泉所得税が控除される。源泉所得税の税率は、復興特別所得税も含め、上場株式の場合は15.315%、非上場株式の場合20.42%となっている。
確定申告
確定申告をする際は、譲渡所得と配当所得と各々に分けて申告する。これらは同じ株式の売却によって発生したものではあるが、相殺することはできない。配当所得がある場合には、最大で配当金の10%の配当控除を使うことができる。
相続などで受け取った株式の売却についての特例
ただし、その株式が相続または遺贈で受け取ったものであり、かつ相続税を課税され、相続の開始から3年10ヶ月以内に発行会社に売却した場合、発行会社を通じて届出を出せば、みなし配当はなかったものとみなされて全額譲渡所得となる。
みなし配当は総合課税であり、発行会社以外の第三者に売却した場合は所得税の計算上、不利を受ける場合があるため、それを解消するために、係る制度が設けられている。
法人で持っている会社の株式を売却したときの税金
株式を個人で持たずに資産管理会社を通じて保有したり、あるいは複数の事業を運営している場合には、持株会社を通じて複数の会社を所有したりすることがある。このときに会社の株式を売却したら、その会社の株式を持っている会社に対してさまざまな税金が直接的、間接的にかかる。
法人税・法人住民税・事業税
法人が保有する株式を売却したときに直接かかる税金は、法人税、法人住民税、事業税などである。それらの税金は、株式を売却した利益に課せられる。 株式の売却の際の利益(所得)の計算方法は、下記のとおり、個人が株式を売却した場合と同じだ。
株式売却額 – 株式売却にかかった費用の合計=所得の金額 |
税金は他の所得と一緒に計算して算出され、税率はすべて合わせておよそ30%である。なお、所得がマイナスになったとき、すなわち損失が出た場合は他の所得と相殺でき、その分、法人税などを減少させることが可能だ。
消費税
株式の売却額に消費税がかかることはないものの、株式を売却した会社が消費税を納めている場合は注意しなければならない。なぜならば、株式を売った会計期間において他の収支が例年と変わりがない場合は、納める消費税が増えることがあるからだ。
消費税は売上に対して付けられた消費税から、仕入や経費に対して付けられた消費税を引いて計算する。ここだけを見ると、仕入や経費に対して付けられた消費税はすべて引かれる対象となるかと思われるが、それは違う。仕入や経費のうち、消費税がかからない売上に対して支出されたものに付けられた消費税は、引かれないのだ。
また、消費税がかかる売上と、消費税がかからない売上の両方にかかる仕入や経費の消費税は、消費税がかかる売上の分と消費税がかからない売上の分とで按分して、消費税のかかる売上の分のみを引くことになっている。つまり、株式を売却した場合、引くことができる消費税はその分少なくなり、納める消費税が増える。
法人で持っている会社の株式を発行会社に売却したときの税金
個人の場合と同じく、法人が持っている会社の株式を発行会社に売却した場合は、みなし配当が発生することがある。この場合は個人のときと同じ要領で、源泉所得税が控除された金額が支払われる。控除された源泉所得税は、法人税の申告時に法人税から保有期間に関係なく控除され、控除しきれなかった部分については還付される。
また、配当の部分については配当金の益金不算入の規定が適用される。ただし、発行会社が自己株式の取得が予定されている株式等を取得した場合においては異なるため、注意が必要だ。受け取ったみなし配当で予定されていた事由に基因して受けるものについては、配当金の益金不算入の規定は適用されない。なお、自己株式を取得する場合は、剰余金の規制に従う必要がある。
会社の株式を売却したときにかかるその他の税金は?
会社の株式を売却するとき、所得税あるいは法人税等以外の税金が課せられるかについて説明する。
印紙税
株式を売買する際に契約書を作ることがあるが、この契約書は印紙税法で規定されているどの課税文書にも当てはまらないため、印紙税はかからない。一方、株式を売却した代金の領収書は、価格が5万円以上の場合には印紙税が課せられる。
不動産取得税
株式の売却により会社の所有者が変わった場合において、その会社が不動産を持っていたとしても不動産の持ち主は当該会社であることは変わらないため、不動産取得税は課税されない。
会社売却時の税金を軽減する4つの方法
会社を売却する場合、株式を売却した代金として受け取るばかりではなく、他の手段を用いて受け取ることによって、税金を軽減することができる場合がある。
方法1.役員退職金
自らが経営する会社を売却する際に会社の役員を退くことを選択した場合、会社から退職金を受け取ることができる。これを利用して、株式を売却する際に相手から代金全額を受け取るのではなく、一部を税額が低くなる可能性の高い退職金の形で受け取る方法がある。
一例として、会社の売却によって1億円の利益を得る場合、所得税・復興特別所得税がどれだけ異なるかを見ていこう。
ここでは、次の2つについて考える。
(1)全額を株式の売却額として受け取り、利益が1億円となる場合
(2)一部を退職金として受け取り、株式売却の利益が7,000万円、10年間勤めたものとして、当初まったく受け取る予定のない退職金を3,000万円受け取る場合
(1)全額を株式の売却額として受け取る場合
100,000,000 × 15.315% = 15,315,000円
(2)株式の売却額と退職金とで分けて取得する方法
(a)株式の分
70,000,000 × 15.315% = 10,720,500円
(b)退職金の分
(ア)30,000,000 - 400,000 × 10 = 26,000,000
(イ)26,000,000 ÷ 2 = 13,000,000
(ウ)(13,000,000 × 33% - 1,536,000) × 1.021 = 2,811,834円
(c)合計
13,532,334円
この場合、税金は退職金を絡めたほうが200万円近く安くなるのだ。
ただし、実行するにあたって注意点がある。まず、現金で退職金を支払うことになるため、会社の現金が少なくなり、場合によっては資金繰りが悪化することも考えられる。また、不相当に高額な役員退職金を支払った場合、高額な部分は経費として認められない。
この場合、会社は追加の税金を支払うことになることもある。少なくとも会社売却後に株式を少しでも保有するなど会社と接点を保つ場合は、株式の価値の思わぬ減少が起こるため注意が必要だ。
方法2.役員報酬
自らが経営する会社を売却したときには、会社を立ち去らずに引き継ぎなどを行うことがある。また、買い手や売却した会社側の資金が不足して、いくらか支払うことができない場合もあるだろう。このようなときは、役員報酬を利用して代金見合いの一部を支払う方法も考えられる。
方法3.配当
退職金や報酬以外の方法として、会社に直接株式を売却しなくとも、配当控除が適用される配当を受け取って、支払う税金を減らす方法もあり得る。ただし、自分以外に株主がいる場合はその人にも配当を支払わなければならない。また、株式を発行会社に売却する場合と同様に剰余金の規制があるため、それに従う必要がある。
方法4.第三者割当を利用する
会社の売却ではないもの、経営権を譲る場合で税金を支払いたくないときは、第三者割当を利用して経営権を移す先に出資してもらうのもひとつの方法だ。売却する会社が資金不足に陥っている場合には、有効な手立てになるものと考えられる。ただし、この方法では相手側は持分比率を100%にすることができないため、株式の取得と合わせて利用するのに適している。
会社の一部を売却する場合(事業譲渡)の税金
会社を売却する方法としては、会社の所有者が株式を売る方法以外にも売却の対象となる会社自身が資産や負債を売却相手に譲り渡すことも考えられる。この方法を使えば、会社の一部だけを売却することも可能だ。また、税金の面でも、事業譲渡を行ったときに会社の株主はまったく課税されることはなく、会社にのみ税金がかかる。
法人税
会社の事業を売って利益を得た場合、その利益に対して法人税などが課せられる。つまり、受け取った金銭が譲り渡す資産と負債の差額を上回った場合、その上回った分が利益となり、それに対して税金が課せられるのだ。それに対して課せられる税金は、法人税の他、法人住民税、事業税などがある。
一方で、受け取った金銭が譲り渡す資産と負債の差額を下回った場合、その下回った分は当期に発生した他の利益と相殺することができ、その分法人税などの負担を減少させることが可能だ。いずれにしても、この場合の実効税率はおよそ30%である。
消費税
事業の売却において、その中に有形固定資産などの消費税の課税対象となる資産がある場合、それらに対して消費税が課せられる。主な課税資産、非課税資産は以下のとおりだ。
課税資産:土地以外の有形固定資産、ソフトウェア等の無形固定資産、棚卸資産(土地は除く) 非課税資産:土地、売掛金、株式
印紙税
株式を売買する際の契約書に印紙は不要であるが、事業譲渡を行った場合は営業の譲渡に関する契約を行ったものとされ、印紙税がかかる。例えば、売却価格が1億円の場合は6万円となる。また、事業譲渡代金の領収書は、価格が5万円以上の場合には印紙税が課せられる。
不動産取得税
事業譲渡した資産の中に不動産がある場合、株式を売却した場合とは異なり不動産の所有者が変更になるため、相手側には不動産取得税が課せられる。売却時にはそのことが影響する(その分売却価格から引かれる)ことも考えられるため、事業譲渡時は考慮するほうがいいだろう。
注意事項
事業譲渡は適正な価格で行うことが必要だ。過度に低い価格で取引をした場合、差額に関して税務上不利を被ることがある。なぜならば、過度に低い価格で取引すると税務上は時価で売却したものとされ、差額は相手方に寄附をしたものとして寄附金という名目で費用計上したものとして扱われる。
寄附金は法人税法上、税金の計算で認められる金額に制限があり、それを超えた部分は認められない。その分、法人税などが増加する結果となってしまうのだ。
また、会社の一部を売却する方法として、売却する事業を分社化して株式を売却する方法もある。この場合、適用される税金は「法人で持っている会社の株式を売却したときの税金」の項目と同じだ。なお、分社化については組織再編の税制が適用されるが、複雑なため、ここでは記載を省略する。
会社の売却は意外と税がかかる
会社を売却して利益を得る方法としては、主に
・株式等の売却
・事業譲渡
の2通りあり、それぞれについてどのような税金がかかるかを説明した。会社の売却にはさまざまな税金が絡むため、取引について考える際にはそれらを考慮した上で計画を立てることをお勧めする。
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文:中川崇(公認会計士・税理士)