銀行や証券会社で働く人は、一般の人よりも資産運用に関する知識を豊富に有しているはずだ。それならば、普通の人よりも株式投資で大きなリターンを得て儲けられそうなものだが、日本では銀行員や証券会社勤めの人は、投資において一定のルールがある。
金融商品取引法などによる制限
銀行や証券会社の役職員に対しては、「金融商品取引法」や「金融商品取引業等に関する内閣府令」、日本証券業協会の「協会員の従業員に関する規則」などによって、投資行為の一部が制限されている。
例えば、金融商品取引法第38条第9号や金融商品取引業等に関する内閣府令の第117条第12号においては、銀行や保険会社で働く役員や社員が、投機目的で有価証券の売買などを行うことが禁止されている。
また、日本証券業協会の協会員である従業員に関する規則として、同協会に加入している証券会社に勤務する人について、「株式信用取引」や「先物・オプション取引」などを行うことが禁止されている。
このような法律・規則や日本証券業協会が独自に定めるルールに準じ、各証券会社は、銀行や証券会社に勤める人が証券口座を開こうとする際の「一定の制限」を設けている。この「一定の制限」によって、銀行や証券会社に勤める人は一部の投資行為ができないようになっている。
各証券会社による「一定の制限」を比較
証券会社による「一定の制限」は、どの証券会社も同じようなものだが、一部異なる部分もある。例を出して説明しよう。
auカブコム証券の場合
auカブコム証券では、日本証券業協会の正会員である証券会社に勤務している人は、原則取引ができないことになっている。日本証券業界の登録金融機関である銀行などに勤務し、投資などに関連する業務に従事している人の場合は、以下の5つの取引を制限している。
・株式信用取引
・指数先物・オプション取引
・海外証券先物取引
・FX(外国為替証拠金取引)
・CFD取引
楽天証券の場合
楽天証券では、証券会社に勤務する人や、銀行で投資などに関連する業務に従事している人について、以下の口座の開設を受けつけていない。
・信用取引口座
・先物・オプション取引口座
・海外先物取引口座
一方、証券会社に勤務する人や、銀行で投資などに関連する業務に従事している人であっても総合取引口座を開設することはでき、現物株への株式投資はできるようだ。
前述のauカブコム証券では証券会社に勤務している人は原則すべての取引ができないルールのため、楽天証券とは扱いにおいて若干の違いがある。
マネックス証券の場合
マネックス証券の場合、日本証券業協会の会員である証券会社に勤める人や、日本証券業協会の特別会員である銀行などに勤め、かつ有価証券の取り次ぎなどに従事している場合、以下の取引が禁止されている。
・信用取引
・先物・オプション取引
・その他デリバティブ取引
一方、これらの条件に当てはまる人であっても総合取引口座を開くことはでき、現物株への株式投資や投資信託への投資は可能なようだ。
現物株への投資は、法律上は可能だが……
証券会社や銀行に勤める人も基本的には、株式の信用取引はできなくても、現物株に対する株式投資はできるということになる。ただし、銀行や証券会社によって、独自の社内規定を設けていることがあり、法律的には現物株の株式投資が可能でも、社内規定によって取引が制限されているところもある。
このような社内規定については、社外に対して公開している例はないが、例えば以下のようなケースがある。
・株式を購入する前に事前に勤め先で申請・許可を得る必要がある
・株式を購入したらその株式を半年もしくは1年ほどの期間、売ることができない
・個別の現物株への投資は禁止で、投資信託への投資に限ること
事前に勤め先で許可を得て、その株式を一定期間売らないというルールを守れば、株式投資ができるケースもある。しかし、個別株への投資は認められておらず、投資信託への投資しか許可しない銀行や証券会社もあるようだ。
インサイダー取引をしてしまった場合の末路
銀行や証券会社で働く人は、さまざまな企業の内部情報が耳に入る機会が多い。その情報をもとに株式投資で利益を得た場合、「インサイダー取引」に該当し、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方が科せられる。
インサイダー取引に該当する取引をしてしまうと、信用上の問題から、その人はもう同じ金融機関で働くことができなくなるだろう。日々多くの情報が耳に入る中で、本人がその情報を忘れていたとしても、たまたま行った株式投資でインサイダー取引を疑われるケースもなくはない。
結局のところ、銀行や証券会社に勤めている人でも、勤務先の制限があったり、インサイダー取引への注意が必要だったりして、豊富な知識があっても株式投資で簡単に儲けられるわけではないのだ。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)