M&A,中小企業,メリット
(写真=PIXTA)

中小企業が抱えるさまざまな問題を解決する手段として、近年「M&A」が注目されている。ただし、M&Aは多方面に影響を及ぼすので、安易に実施を決めるべきではない。M&Aを検討中の経営者は、これを機に概要や基礎知識をしっかりと身につけておこう。

目次

  1. M&Aとは?
  2. M&Aはなぜ注目されている?現状と背景をチェック
  3. 中小企業がM&Aを行う主な目的
    1. 【目的その1】後継者不足を解決するため
    2. 【目的その2】従業員の雇用を守るため
    3. 【目的その3】不採算事業を整理するため
  4. M&Aで特に押さえておきたい3つの手法
    1. 1.株式譲渡
    2. 2.事業譲渡
    3. 3.会社分割
  5. 買い手側から見たM&Aのメリット・デメリット
    1. 買い手側に発生するメリット
    2. 買い手側に発生するデメリット
  6. 売り手側から見たM&Aのメリット・デメリット
    1. 売り手側に発生するメリット
    2. 売り手側に発生するデメリット
  7. 実際のM&Aの流れを3ステップで解説
    1. 【STEP1】事前準備
    2. 【STEP2】交渉・検討
    3. 【STEP3】契約締結(クロージング)
  8. M&A案件の探し方は?仲介会社を探そう
  9. M&A仲介会社を探すときに注意したい3つのこと
    1. 1.得意分野や実績を確認する
    2. 2.税金に詳しく、税務をサポートしてくれる仲介会社を選ぶ
    3. 3.悪徳業者の存在
  10. M&Aの成功事例・失敗事例
    1. 【成功事例1】必要な経営資源を補い合うM&A
    2. 【成功事例2】海外進出・事業拡大を狙ったM&A
    3. 【失敗事例1】景気低迷による多額の損失
    4. 【失敗事例2】文化・慣習の違いによる計画のズレ
  11. 最適な方法を見極めるために、専門家に相談することも検討しよう
  12. 監修者紹介

M&Aとは?

M&Aは「Mergers and Acquisitions」の頭文字を取った言葉であり、直訳では「合併と買収」を意味する。この直訳の通り、2社以上の合併や吸収、資本による買収も当然M&Aに含まれるが、広義の意味では以下のようにさまざまなものが含まれるため注意しておきたい。

M&Aに含まれるもの(広義)具体的な内容
【1】買収株式譲渡や事業譲渡
【2】合併新設合併や吸収合併
【3】分割新設分割や吸収分割
【4】業務提携販売提携や技術提携、生産提携など
【5】資本提携資本参加や相互保有

つまり、何らかの企業戦略によって会社の形態が変わる場合は、広義の意味でM&Aに含まれる可能性があるだろう。ちなみに上記【1】~【3】は「経営統合」、【4】~【5】は単に「提携」と呼ばれることもある。
もともとM&Aは、主に海外企業が企業戦略として活用していた手法だ。近年では日本にもその考えが浸透してきており、企業が抱えるさまざまな課題・問題を解決するために、上記のように多様な形式で実施されている。
M&Aと言えば、中には大企業の「敵対的買収」をイメージする経営者もいるだろう。しかし、日本国内では友好的買収が圧倒的に多く、中小企業がM&Aに取り組むケースも増えてきている。
実際にM&Aが中小企業の救いの手になる事例は多く、今後さらにM&Aの重要性が高まる可能性も十分に考えられるため、中小経営者はこれを機に正しい知識を身につけておくことが重要だ。

M&Aはなぜ注目されている?現状と背景をチェック

国内で実施されているM&Aの件数は、2010年~2017年まで右肩上がりで伸びている。さらに、中小企業のM&Aを手がける大手3社の成約件数も伸びていることから、世の中の中小企業がM&Aに目を向け始めていることがわかる。
では、なぜ現代になってM&Aが注目され始めたのだろうか?主な要因としては、以下の点が挙げられる。

・主に後継者不足など、中小企業が抱える問題点の解決策になる
・買い手と売り手のお互いにメリットが生じるケースが増えたことで、M&Aのイメージが向上した
・M&Aを実施しやすい環境が徐々に整いつつある

特に2000年以降には会社法が見直される、公正なルール作りへの取り組みが実施されるなど、M&Aを支援・促進する動きが社会全体に広がった。現在ではM&Aを仲介する企業やアドバイザーも多く見られ、そのような専門家に中小企業が相談するケースも珍しくない。
このようなM&Aを支援・促進する動きは、今後もさらに拡大すると考えられている。中小企業にとっては、M&Aにより取り組みやすい環境が整えられる可能性があるため、こまめに情報を確認しておきたいところだろう。

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中小企業がM&Aを行う主な目的

中小企業がM&Aをする場合、一般的には売り手側の立場に回ることが多い。では、会社や事業を売却する中小企業は、具体的にどのような目的でM&Aを実施しているのだろうか?
数ある目的の中でも、以下では特に重要なものを紹介していこう。

【目的その1】後継者不足を解決するため

近年M&Aの注目度が大きく上昇したのは、「後継者不足を解決できるから」と言っても過言ではない。後継者不足に悩まされている中小企業は非常に多く、そんな会社を存続させるためにM&Aが実施されているのだ。
たとえば、後継者が見つからないまま経営者が倒れてしまえば、その会社は一気に窮地に立たされてしまう。また、仮に後継者の候補となる人物がいたとしても、株式の承継に伴うコストや税負担によって、事業承継を断念してしまうケースも多い。
このような問題に直面している企業にとって、M&Aは救いの手となり得る。買い手が見つかれば後継者問題が解消される上に、経営者の手元に売却益が残る点も大きなメリットとなる。

【目的その2】従業員の雇用を守るため

中小経営者のなかには、これまで会社を一緒に支えてきた従業員を家族のように考えている方もいるだろう。しかし、後継者が見つからないまま経営者が引退すれば、多くの従業員は路頭に迷ってしまう可能性がある。
また、仮に後継者が見つかっていたとしても、事業承継をきっかけに経営が傾いてしまうかもしれない。後継者となる人物に必ずしも経営能力が備わっているとは限らないため、安易に事業承継を進めるべきではないのだ。
その点、M&Aによって経営地盤が安定した企業に買い取ってもらえば、従業員の雇用も守られるため安心できる。ただし、雇用条件が変わることで従業員が戸惑う恐れもあるので、各従業員の処遇については事前協議でしっかりと固めておくことが重要だ。

【目的その3】不採算事業を整理するため

不採算事業とは、マイナス収支の赤字事業のこと。不採算事業を抱えている中小企業は、その事業の赤字が大きな負担となり、どうしても経営が伸び悩んでしまう。
そのため、中小企業が不採算事業から撤退することも珍しくないが、すべての不採算事業に成功の可能性がないわけではない。たとえば、生産性を向上させれば採算がとれる事業になるものの、その資金を用意できないようなケースもあるだろう。
このように何らかの魅力がある事業については、M&Aの買い手が見つかる可能性がある。仮に買い手が見つかれば、経営者の手元には事業の売却益が残るうえに、ほかの事業に集中する環境も整えられる。
つまり、M&Aは「不採算事業を整理する」という企業戦略として実施されることもあるのだ。自社にとっては不採算事業であっても、ほかの企業から見れば魅力的な事業になる可能性がある点は、しっかりと覚えておきたい。

M&Aで特に押さえておきたい3つの手法

前述の通り、広義の意味でのM&Aにはさまざまな手法が含まれる。ただし、日本国内で主に活用されている手法としては、「株式譲渡・事業譲渡・会社分割」の3つが挙げられるだろう。
そこで以下では、この3つの手法の概要と特徴を詳しく解説していく。手法による特徴や目的の違いを、しっかりと押さえていこう。

1.株式譲渡

株式譲渡は、売り手が保有している自社株式を売却することで、買い手に会社の経営権を譲渡する手法だ。仕組みが比較的シンプルであり、複雑な手続きも不要であることから、中小企業のM&Aにおいては最も活用されている。
企業の価値次第では多くの売却益を残せるが、株式譲渡では「税金」に特に注意しなければならない。株主が法人の場合は法人税、個人の場合は所得税・住民税が発生し、取引価格によっては税金面で不利になってしまう恐れもあるため、売却額は慎重に検討するべきだろう。
なかでも創業者利潤を目的としている場合には、専門家に相談しながら最適な方法を模索することが重要だ。

2.事業譲渡

事業譲渡は株式譲渡とは違い、会社そのものを売却する手法ではない。譲渡会社が営む事業の全て、もしくはその一部を譲渡する手法であり、中小企業のM&Aにおいては株式譲渡に次いで多く活用されている。
事業譲渡の最大のメリットは、不採算事業のみに絞って整理できる点だ。さらに買い手も必要な事業に絞って買い取れるため、コストを抑えた形で事業拡大や新たな市場への進出を狙える。
ただし、事業譲渡は株式譲渡に比べると手続きが複雑であり、多くの手間と時間がかかる点は軽視できない。具体的には、資産・債務の移転手続きや株主総会による特別決議などが必要になる。
この点が大きなハードルとなり、事業譲渡になかなか取り組めないケースは珍しくない。特にスピードが求められるようなケースでは、事前にしっかりと計画を立てておく必要があるだろう。

3.会社分割

会社分割は事業に関して有する権利・義務を、別の会社に承継させる手法だ。既存の会社に承継する場合は「吸収分割」、新たに設立する会社に承継する場合は「新設分割」として区別されている。
会社分割では事業をまとめて移転するため、契約をはじめとする複雑な要素もシンプルに継承できる。そのため、事業譲渡よりも確実なM&Aの手法として活用されるケースが多い。
ただし、その一方で不要資産や簿外債務など、マイナスの要素も承継されてしまう点は軽視できないポイントだ。したがって、上記の株式譲渡や事業譲渡に比べて、必ずしも優れている手法とは言えない。

>>事業譲渡と会社分割について詳しく知りたい方はこちら

メリットデメリット
1.株式譲渡・仕組みがシンプルであり、手続きもそれほど難しくない・取引価格によっては、税金面で不利になってしまう
2.事業譲渡・不採算事業のみを整理できる・手続きが複雑であり、実施までに多くの手間や時間がかかる
3.会社分割・事業譲渡に比べると、手間や時間を抑えやすい・不要資産や簿外債務など、マイナスの要素も承継されてしまう

上記の通り、M&Aは手法によって特徴が大きく異なるため、目的に応じて手法を変えることが重要だ。
たとえば、創業者利潤を目的としている場合は「株式譲渡」、コア事業に集中したいときは「事業譲渡」が適した手法となるだろう。その一方で、特定の事業に関して組織再編をしたい場合には「会社分割」を選ぶ必要がある。
ほかにもM&Aにはいくつかの手法があり、M&Aを実施する目的は企業ごとに大きく異なる。したがって、M&Aを検討中の経営者は目的を明確にしたうえで、その目的に最適な手法をしっかりと見極めるようにしよう。

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買い手側から見たM&Aのメリット・デメリット

ここからはM&Aの各手法ではなく、全ての手法に関連する内容を解説していく。M&Aを実施するメリット・デメリットは、買い手側・売り手側のどちらの立場に該当するかによって変わってくる。
そこでまずは、買い手側から見たM&Aのメリット・デメリットを解説していこう。以下で解説する内容は、買い手側の企業を探す際に役立つ知識となるので、売り手側の企業もしっかりと理解しておくことが大切だ。

買い手側に発生するメリット

買い手側の最大のメリットとも言える点が、必要な経営資源をスピーディーに獲得できることだ。経営資源を新たに作り出す場合、設備はもちろん知識・ノウハウを持った従業員も用意する必要があるため、多くの時間を費やすことになる。
その点、M&Aでは資金面のコストだけで経営資源を獲得できるので、従業員を1から見つけたり育てたりする必要がない。そのため、特に市場の変化が早いような業界では、経営資源を迅速に確保できるM&Aが重宝されることもある。
また、既存の事業と新たな事業の融合によって、「シナジー効果」を期待できる点も大きなメリットだろう。シナジー効果とは、複数の企業・事業を組み合わせることで、単体で得られる以上の成果を得られることだ。
この解説だけでは少し分かりづらいため、以下では具体的な例をひとつ挙げてみよう。

〇シナジー効果の例
あるバス会社がM&Aによって、近くにあるテーマパークを買収した。
買い手側の企業はより大きな収益を上げるために、駅からテーマパークまで運行するバスの路線を新たに開通。
交通の便が良くなった結果、テーマパークに訪れる人がどんどんと増えていき、バスとテーマパークの両方の事業の売り上げが向上した。

シナジー効果による恩恵は、想定以上に大きいこともある。事業の組み合わせ次第では、利益が何倍にも伸びる可能性があるため、シナジー効果を狙ってM&Aを実施する例も多い。

買い手側に発生するデメリット

簿外債務や偶発債務など、想定外の費用が発生する恐れがある点は買い手にとって軽視できないデメリットだ。引き継ぐ資産を指定できる事業譲渡では問題ないが、それ以外の手法でM&Aを進めると、売り手側のさまざまなマイナス要素を引き継ぐ恐れがある。
一般的なM&Aでは、この点を防ぐために「デューデリジェンス」が実施されている。デューデリジェンスとは、売り手側の資産状況を詳しく調査することだ。デューデリジェンスを実施すれば確実性は高まるが、当然実施するためのコストや時間がかかってしまう。
また、シナジー効果を得られない可能性がある点も、事前に注意しておきたいポイントだろう。仮にシナジー効果を織り込んで計画を立てていた場合は、M&Aにかかった費用が無駄になってしまう恐れがある。

売り手側から見たM&Aのメリット・デメリット

次は、売り手側から見たメリット・デメリットを確認していこう。将来的にM&Aによる会社・事業売却を検討している場合は、以下のメリット・デメリットをしっかりと意識した上で、慎重に計画を立てることが重要だ。

売り手側に発生するメリット

M&Aの売り手側に発生するメリットは、創業者利潤の獲得だけではない。特に近年注目されているのは、「事業承継問題を解決できる」というポイントだ。
M&Aでは外部から次期経営者を探すため、身内で後継者を見つけたり育てたりする必要がない。あらかじめ経営スキルを備えており、かつ事業のノウハウも持った買い手が見つかれば、売り手側が抱える事業承継問題は一気に解決される。
また、前述でも解説した企業を存続できる点、従業員の雇用を守れる点なども、中小経営者が確実に押さえておきたいメリット。特に経営地盤が安定している買い手が見つかれば、企業や従業員の生活を今よりも安定させられる可能性がある。

売り手側に発生するデメリット

売り手側にさまざまなメリットが生じるM&Aだが、必ずしも買い手が見つかるわけではない。買い手側も資金を無駄にすることはできないため、何かしらの魅力がある企業・事業にしか興味を示さないのだ。
仲介会社を利用する手もあるが、それでも買い手を見つけられないケースは多く存在する。また、仮に買い手の候補が見つかったとしても、交渉が決裂する可能性もゼロではない。M&Aではこのような状況に陥ると、売り手側もコストや時間を無駄にしてしまう恐れがあるのだ。
また、労働条件や企業文化が変わることで、従業員のモチベーションが低下する可能性も軽視できない。そのため、従業員とも事前にしっかりと話し合い、各従業員が納得できる形でM&Aを進める必要があるだろう。

メリットデメリット
買い手(譲受企業)・必要な経営資源をスピーディーに獲得できる
・シナジー効果を期待できる
・想定外の費用が発生する恐れがある
・デューデリジェンスの実施にコストや時間がかかってしまう
・必ずしもシナジー効果を得られるわけではない
売り手(譲渡企業)・創業者利潤を獲得できる
・会社を存続させられる
・従業員の雇用を守れる
・必ずしも買い手が見つかるわけではない
・従業員のモチベーションが低下する恐れがある

上の表は、ここまで解説したメリット・デメリットをまとめたものだ。M&Aには、買い手・売り手の双方に魅力的なメリットがあるものの、深刻なリスクにつながるデメリットも潜んでいるため、どちらの立場でも慎重に計画を立てる必要がある。
また、売り手側は従業員や取引先など、多方面に影響を及ぼす恐れがあるため注意しておきたい。創業者が利益を得て終わりではなく、従業員や取引先の今後をきちんとカバーする必要があるので、さまざまな準備が必要になる点はきちんと理解しておこう。

実際のM&Aの流れを3ステップで解説

M&Aに関する基礎知識としては、「契約に至るまでの流れ」も押さえておきたい。細かく見るとM&Aにはさまざまなプロセスがあり、段階ごとに意識しておきたいポイントが変わってくる。
そこで以下では、M&Aの全プロセスを大きく3つに分けて解説していく。M&Aに向けて動き出す前に、各プロセスのポイントを理解しておこう。

【STEP1】事前準備

M&Aのステップの中でも、特に「事前準備」は多くの時間をかけるべき部分だ。希望条件に適した相手を見つけなければ、買い手側・売り手側のどちらの立場になってもメリットが発生しないため、少なくとも以下の準備に取り組む必要がある。

M&Aにおける事前準備概要
【1】目的の明確化「なぜM&Aに取り組むのか?」を明確にし、自社が目指すべきM&A戦略を策定していく。
【2】M&Aスキームを決める株式譲渡・事業譲渡・会社分割のうち、実施する手法を決める。
【3】調査・分析業界全体の調査や、自社が取り組む事業についての分析などを行う。この段階で相手企業の候補を絞り、各候補に関する情報収集にも取り組んでいく。
【4】相手側に渡す資料の用意企業概要書やノンネームシートなど、相手側に渡す自社の資料を用意する。

上記の中でも「調査・分析」は、M&Aの成功・失敗を大きく左右するポイント。単に相手企業の情報収集をするだけではなく、自社の事業との相性を考えながら、発生するシナジー効果なども予測しなければならない。
また、計画を進めていくうちに方向性がブレないよう、最初に「M&Aの目的」を明確にすることも忘れてはいけないプロセスだ。

【STEP2】交渉・検討

検討を経て候補となる相手を絞ったら、いよいよ交渉の段階へと移っていく。ただし、M&Aはお互いの企業に多大な影響を及ぼすため、一般的なケースでは交渉に入ってからも慎重に事が進められる。
実際にクロージングの段階まで進むには、以下のような工程が必要になるだろう。

交渉段階で必要になるプロセス概要
【1】経営者同士の面談本格的な契約の前段階として、お互いの価値観や理念などを共有する。面談において違和感がなければ、いよいよ契約に向けて動き出していく。
【2】基本合意契約の締結一定期間の「独占交渉権」を発生させるために、まずは買い手が買取方法・価格などを記載した「意向表明書」を提出。その内容に問題がなければ、両者で「基本合意契約書」を締結する。
【3】デューデリジェンスの実施売り手側の情報の真偽を確かめるために、「デューデリジェンス」と呼ばれる調査を買い手側が実施する。

上記で注目しておきたい点は、基本合意契約の締結後にデューデリジェンスが実施される点だ。デューデリジェンスでは財務や法務、会計など、売り手側のあらゆる情報を確認していく。企業情報の確認には専門知識が求められるので、一般的なケースでは買い手側が専門家に依頼することになる。
この段階でもし問題が見つかれば、基本合意契約書を交わしても破談になる可能性が高いので、売り手側の企業は特に注意をしておきたい。

【STEP3】契約締結(クロージング)

ここまでの過程で問題がなければ、買い手側・売り手側の間で「最終譲渡契約書」を交わす。これが最終的な成約であり、最終譲渡契約を締結した後は株券や会社代表印をはじめ、必要なものをお互いに引き渡していく。
また、M&Aではクロージングまで進んだ後にも、「PMI」と呼ばれる統合作業を進めなくてはならない。PMIも今後の状況に大きな影響を及ぼすので、計画を確認しながら慎重に作業を進めることが重要だ。

M&A案件の探し方は?仲介会社を探そう

M&Aの相手企業を探そうにも、ひとつの企業が調査できる範囲は限られている。自社と同じくM&Aに興味を持っており、かつ希望条件も合致する相手企業を自力で探すことは至難の業だ。
そのため、ほとんどのM&Aは「仲介会社」に依頼する形で実施されている。仲介会社とは、M&Aにおける相手探しや調査、交渉などを広くサポートしてくれる業者のこと。
本記事では「仲介会社」と一括りにして解説するが、実はM&Aの仲介会社に該当する存在は非常に多い。

○M&Aの仲介会社の例
M&A仲介会社、ファイナンシャルアドバイザー(FA)、ファイナンシャルプランナー(FP)、弁護士、税理士、公認会計士、証券会社、銀行など

いずれもM&Aをサポートする存在だが、得意分野やサポート内容は業者によってやや異なる。たとえば、M&A仲介会社は売り手・買い手の間に入ってサポートをするが、FAはどちらか一方が依頼人となり、M&Aに関するアドバイスを提供するケースが多い。
なお、いずれの業者に関しても、実際にM&Aをサポートする担当者は「M&Aアドバイザリー」と呼ばれる。

着手金や成功報酬などのコストは発生するが、買い手・売り手の膨大なデータを所有している仲介会社を選べば、最適な相手を見つけられる可能性がぐっと高まる。また、経営者がM&Aだけではなく、本業に集中できる点も仲介会社に依頼をするメリットだろう。
なお、仲介会社に依頼をする場合は、前述【STEP1】の「事前準備」の段階で業者と契約を結ぶ必要がある。

M&A仲介会社を探すときに注意したい3つのこと

M&Aのサポートを仲介会社に依頼する場合は、その業者が成功のカギを握ることになる。つまり、仲介会社選びにもこだわらないと、成功の可能性を高めることは難しいだろう。
そこで以下では、仲介会社選びで注意しておきたい3つのポイントをまとめた。これから仲介会社を探す経営者は、以下のポイントを強く意識しておこう。

1.得意分野や実績を確認する

仲介会社によって中心的に扱っているM&A案件は異なり、大規模な案件を得意とする業者もいれば、中小企業同士の案件に特化した業者も存在する。つまり、仲介会社ごとに知識・スキルには偏りがあるので、自社のケースに該当する分野を得意とする業者を選ぶことが重要だ。
また、その中でも「取引実績数」の多い仲介会社は、より多くのデータ・情報を持っている可能性がある。取引実績はホームページ上でチェックできる場合もあるが、すべての実績が公開されているとは限らないので、できれば担当者に直接確認をしておきたい。

2.税金に詳しく、税務をサポートしてくれる仲介会社を選ぶ

一般的なM&Aでは、株式譲渡や事業譲渡にともなって多額の税金が発生する。そのため、成約後の節税対策にも力を入れるべきだが、M&Aに関する税金にはやや複雑な側面があるので、専門的な知識を備えていないと万全な対策をとることは難しい。
そこでぜひ検討したい点が、税理士や公認会計士が在籍しているような「税金に詳しい仲介会社を選ぶこと」だ。税務まで広くサポートしている仲介会社を選べば、安心して節税対策を任せられるため、経営者はその後のPMIや事業に集中できる。

3.悪徳業者の存在

中小企業同士の案件であっても、一般的なM&Aでは多くのお金が動く。また、M&A仲介会社の運営には特別な資格や免許が必要ないため、いわゆる「悪徳業者」が潜んでいる可能性も否定できない。
悪徳業者に依頼をすると、思わぬ不利益が生じてしまう恐れがあるので、特に以下のケースに該当する業者は強く警戒することが必要だ。

・守秘義務を守らない
・成約に不利な情報を隠して交渉を進めようとする
・ほかの業者に依頼させないように、強引な契約を結ぼうとする
・利益だけを優先して、クライアントの利益にならない案件を勧めてくる

悪徳業者から身を守るには、契約前の段階で「信用性」を細かく判断する必要がある。ホームページだけではなく、実際の担当者とじっくり話し合ったうえで、契約するかどうかを慎重に検討しよう。

M&Aの成功事例・失敗事例

M&Aの成功率を高めるには、過去の事例に目を通しておくことも重要だ。成功事例からは見習うべきポイントを、失敗事例からは避けるべきポイントを学べる。
そこで以下では、M&Aの成功事例・失敗事例を2つずつまとめた。自社のケースと照らし合わせながら、成功につなげるポイントを学んでいこう。

【成功事例1】必要な経営資源を補い合うM&A

最初に紹介する事例は、国内の中小企業同士のM&Aだ。シャッターや住宅建材を取り扱う「文化シヤッター」は、建材分野の事業領域や販路を拡大する目的で、2015年3月に「西山鉄網製作所」の全株式を取得した。
両社はいずれも、建築関連の事業に長く取り組んできた中小企業。同じ業界ではあるものの、それぞれが異なる強みを持っていたため、協業によって以下のようなメリットが発生したと予測される。

・経営基盤の強化
・収益モデルの多様化
・顧客基盤の強化
・商品やサービスの拡充

このケースのように、不足している経営資源を補い合うようなM&Aは、多くのシナジー効果を発生させる。どんな経営資源を共有でき、さらにその経営資源を組み合わせることでどんな変化が生じるのかについては、M&Aでは特に意識しておきたいポイントだろう。

【成功事例2】海外進出・事業拡大を狙ったM&A

国内の大手食品メーカーである「味の素」は、2017年8月にトルコの「キュクレ食品社」を買収した。このM&Aの最大の目的は、トルコや中東地域において事業強化を果たす点だ。
つまり、味の素にとってこのM&A案件は「海外進出への足がかり」であり、売り手企業の販売網やマーケティング情報などを活用することで、狙い通りに海外進出を果たしている。また、2018年3月には事業拡大の加速化を目指して、さらに「イスタンブール味の素食品販売社・キュクレ食品社・オルゲン食品社」の3社を統合した。
この成功事例のように、近年では海外企業とのM&A案件も多く見られるようになった。海外進出を目指している企業にとって、現地の販路や顧客情報を確保している海外企業は魅力的な存在だろう。
また、M&Aが実施されてからさらに事業拡大を狙っている点も、ぜひ見習っておきたいポイントだ。企業にとってM&Aは最終的な目標ではないため、成約後も積極的に行動を起こすことが重要になる。

【失敗事例1】景気低迷による多額の損失

大手飲料メーカーの「キリンホールディングス」は、2011年8月にブラジルの飲料メーカーである「スキンカリオール」を買収した。当時は人口減少によって生じる国内市場の縮小が懸念されていたため、同社は新興国であったブラジルに目をつけた。
しかし、約2,000億円の費用をかけて買収したにも関わらず、その後ブラジルの景気は低迷。2015年には1,000億円を超える減損損失を計上しており、さらに2017年にはブラジルの子会社を手放した。
その売却益によって被害を最小限に食い止めてはいるものの、最終的な損失は300億円を超えている。このように海外企業とのM&Aでは、国内はもちろん海外の景気の影響も受けるので、さまざまな観点から情報収集・分析をする必要がある。

【失敗事例2】文化・慣習の違いによる計画のズレ

スーパーマーケットチェーンである「西友」は、2002年にアメリカの小売大手「ウォルマート」と資本提携を結んだ。このM&Aは業績不振に直面していた西友を、ウォルマートが立て直す目的で実施されたと言われている。
資本提携が結ばれると、ウォルマートはさっそくアメリカで取り組んできた手法を西友に導入。しかし、日本国内ではその手法が期待通りに通用せず、結果的に西友の経営状況を立て直すまでには至らなかった。
このように、M&Aでは文化や慣習による違いも、深刻なリスクになる恐れがある。国内と海外に限らず、国内企業同士のM&Aにおいても地域によって文化・慣習が異なる可能性があるので、やはり業界や市場の調査は欠かせない事前準備と言えるだろう。

最適な方法を見極めるために、専門家に相談することも検討しよう

中小企業はM&Aに取り組むことで、現在抱えているさまざまな問題を解決できる可能性がある。ただし、今回解説したようにM&Aにはメリットがある反面で、注意しておきたいデメリットやリスクも潜んでいるため、計画を立てずに安易に行動を始めるべきではない。
M&Aを成功させるには、多方面への影響をしっかりと予測した上で、最適な方法を見極めることがポイントだ。そのためには、ある程度の専門知識を身につけておく必要があるので、実際のM&Aでは専門家に頼るケースが多い。
M&Aに興味を持ち始めている経営者は専門家に相談することも考えながら、慎重に計画を立てるようにしよう。

文・THE OWNER編集部

監修者紹介

斎藤弘樹
株式会社日本M&Aセンター 地域金融1部 部長
斎藤弘樹 (さいとう・ひろき)
一橋大学卒業後、外資系金融機関入社。 2012年日本M&Aセンター入社以降、地域金融機関と数多くのM&Aに携わり、後継者に悩んでいる、または更なる成長を志向する経営者に、M&Aという手段で会社の継続と発展を支援している。
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