斎藤弘樹
監修
株式会社日本M&Aセンター 地域金融1部 部長
斎藤弘樹 (さいとう・ひろき)
一橋大学卒業後、外資系金融機関入社。 2012年日本M&Aセンター入社以降、地域金融機関と数多くのM&Aに携わり、後継者に悩んでいる、または更なる成長を志向する経営者に、M&Aという手段で会社の継続と発展を支援している。

中小企業が抱えるさまざまな問題を解決する手段として、近年「M&A」が注目されている。ただし、M&Aは多方面に影響を及ぼすので、安易に実施を決めるべきではない。M&Aを検討中の経営者は、これを機に概要や基礎知識をしっかりと身につけておこう。

目次

  1. M&Aとは?
  2. M&Aの歴史
    1. バブル景気をきっかけに、クロスボーダー型のM&Aが流行する
    2. 事業承継ガイドラインの策定により、M&Aは成長フェーズへと移行
  3. M&Aはなぜ注目されている? 現状と背景をチェック
    1. 国内のM&A件数は2000年の2倍以上に
    2. M&Aを支援・促進する動きはさらに拡大へ
  4. 中小企業がM&Aを行う3つの目的
    1. 【目的その1】後継者不足を解決するため
    2. 【目的その2】従業員の雇用を守るため
    3. 【目的その3】不採算事業を整理するため
  5. M&Aで特に押さえておきたい手法は?それぞれの特徴も解説
    1. 合併
    2. 買収
    3. 会社分割
  6. 買い手側から見たM&Aのメリット・デメリット
    1. 買い手側に発生するメリット
    2. 買い手側に発生するデメリット
  7. 売り手側から見たM&Aのメリット・デメリット
    1. 売り手側に発生するメリット
    2. 売り手側に発生するデメリット
  8. 実際のM&Aの流れを3ステップで解説
    1. 【STEP1】事前準備
    2. 【STEP2】交渉・検討
    3. 【STEP3】契約締結(クロージング)
  9. 買い手がM&Aを進める手順
    1. 1.買収先の条件を絞り込む
    2. 2.候補企業にアプローチをかける
    3. 3.秘密保持契約を締結する
    4. 4.売り手の基礎情報を分析する
    5. 5.トップ面談を経て、基本合意書を交わす
    6. 6.デューデリジェンスを実施する
    7. 7.最終条件を交渉してクロージング
  10. 売り手がM&Aを進める手順
    1. 1.決算書(3期分)を準備する
    2. 2.ノンネームシートを作成する
    3. 3.秘密保持契約を締結する
    4. 4.IMを作成・提示する
    5. 5.トップ面談を経て、基本合意書を交わす
    6. 6.デューデリジェンスを実施する
    7. 7.最終条件を交渉してクロージング
  11. PMIで必要になる業務は?アフターM&Aを成功させるコツ
    1. 1.デューデリジェンスの段階で計画を立てておく
    2. 2.リーダーシップのある人材を探しておく
    3. 3.明確な目標を周知する
    4. 4.両社の経営幹部が十分なコミュニケーションをとる
    5. 5.想定外のトラブルが生じたら優先順位をつける
  12. M&Aにかかる費用は?発生する税金と手数料
    1. 売り手側に発生する税金・手数料
    2. 買い手側に発生する費用
  13. M&Aの会計・税務の基本とは?
    1. M&Aには3つの会計処理がある
    2. M&Aで用いられる会計基準
  14. M&A案件の探し方は?仲介会社を探そう
  15. M&A仲介会社を探すときに注意したい3つのこと
    1. 1.得意分野や実績を確認する
    2. 2.税金に詳しく、税務をサポートしてくれる仲介会社を選ぶ
    3. 3.悪徳業者の存在
  16. M&Aの事例から学ぶ成功・失敗のポイント
    1. 【成功事例1】必要な経営資源を補い合うM&A
    2. 【成功事例2】海外進出・事業拡大を狙ったM&A
    3. 【成功事例3】イノベーションを狙ったIT企業同士のM&A
    4. 【失敗事例1】景気低迷による多額の損失
    5. 【失敗事例2】文化・慣習の違いによる計画のズレ
    6. 【失敗事例3】デューデリジェンスの不足
  17. 将来的に拡大が見込まれているM&A市場
  18. M&Aに関するQ&A
    1. Q1.M&Aとは?何の略?
    2. Q2.M&Aは何のために行う?
    3. Q3.M&Aはどういう会社が行う?
    4. Q4.M&Aをすると会社はどうなる?株式は?
    5. Q5.M&A後の社員や従業員はどうなる?
    6. Q6.M&Aの企業価値は?利益の何倍が目安?
    7. Q7.M&Aの減税措置とは?
    8. Q8.M&Aの減税措置はいつから?
  19. 最適な方法を見極めるために、専門家に相談することも検討しよう
  20. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
M&A,中小企業,メリット
(写真=PIXTA)

M&Aとは?

M&Aは「Mergers and Acquisitions」の頭文字を取った言葉であり、直訳では「合併と買収」を意味する。この直訳の通り、2社以上の合併や吸収、資本による買収も当然M&Aに含まれるが、広義の意味では以下のようにさまざまな種類があるため注意しておきたい。

M&Aの種類(広義) 具体的な内容
【1】買収株式譲渡や事業譲渡
【2】合併新設合併や吸収合併
【3】分割新設分割や吸収分割
【4】業務提携販売提携や技術提携、生産提携など
【5】資本提携資本参加や相互保有

つまり、何らかの企業戦略によって会社の形態が変わる場合は、広義の意味でM&Aに含まれる可能性があるだろう。ちなみに上記【1】~【3】は「経営統合」、【4】~【5】は単に「提携」と呼ばれることもある。
もともとM&Aは、主に海外企業が企業戦略として活用していた手法だ。近年では日本にもその考えが浸透してきており、企業が抱えるさまざまな課題・問題を解決するために、上記のように多様な形式で実施されている。
M&Aと言えば、中には大企業の「敵対的買収」をイメージする経営者もいるだろう。しかし、日本国内では友好的買収が圧倒的に多く、中小企業がM&Aに取り組むケースも増えてきている。
実際にM&Aが中小企業の救いの手になる事例は多く、今後さらにM&Aの重要性が高まる可能性も十分に考えられるため、中小経営者はこれを機に正しい知識を身につけておくことが重要だ。

M&Aの歴史

かつての日本では、「成長戦略のために企業買収をする」という考えは一般的ではなかった。では、国内で頻繁にM&Aが行われるようになったのはいつ頃からだろうか。

バブル景気をきっかけに、クロスボーダー型のM&Aが流行する

国内でM&Aが増えたきっかけは、1980年代に到来した「バブル景気」と言われている。この時期には余った資金で海外投資を行う国内企業が多く、その投資対象としてリゾートホテルやマンションなどの不動産が含まれていた。つまり、もともと日本ではクロスボーダー型のM&A(※海外企業を対象としたM&A)が流行っていたのだ。しかし、1990年代に入ってからバブルが崩壊すると、以下のような中小企業が目立つようになった。

○1990年代の中小企業の特徴
・少子高齢化を懸念し、事業承継を意識する中小企業が増えた
・後継者のいない中小企業が、事業承継の悩みを専門家に相談し始めた
・一部の中小企業が、M&Aによる事業承継に取り組み始めた

このように、事業承継問題は1990年代から注目され始めたが、その解決策としてM&Aが多用されるのはまだ先の話となる。

事業承継ガイドラインの策定により、M&Aは成長フェーズへと移行

ITバブルが訪れた2000年代に入ると、M&Aを取り巻く状況は大きく変化する。当初は、ライブドアによる敵対的買収のニュースなどによって、M&Aの悪いイメージのみが広がっていった。しかし、2006年に中小企業庁が「事業承継ガイドライン」を公表すると状況が一変し、M&Aを「会社を存続させる手段」として認識する中小企業が増加していく。

実際に、2010年代に入ってからは国内のM&A件数が急増しており、後継者不足の解決策としてだけではなく、業界再編型や成長戦略型のM&Aなども活発に行われるようになった。その流れは現在も続いているため、今後も国内のM&A件数は伸びていくことが予想されている。

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M&Aはなぜ注目されている? 現状と背景をチェック

国内で実施されているM&Aの件数は、2010年〜2017年まで右肩上がりで伸びている。さらに、中小企業のM&Aを手がける大手3社の成約件数も伸びていることから、世の中の中小企業がM&Aに目を向け始めていることが分かる。

では、なぜ今になってM&Aが注目され始めたのだろうか?その主な要因とともに、以下ではM&Aの現状や市場動向について解説する。

国内のM&A件数は2000年の2倍以上に

株式会社レコフが発表した「2020年のM&A回顧(2020年1-12月の日本企業のM&A動向)」によると、2020年のM&A実施件数は3,730件ほどであった。前年比は8.8%の減少となったが、2000年頃と比較するとM&A件数は2倍以上に増えている。

M&Aの種類 件数(前年比)
IN-IN(国内企業同士) 2,944件(−1.9%)
IN-OUT(国内企業による海外企業の買収) 557件(−32.6%)
OUT-IN(海外企業による国内企業の買収) 229件(−12.6%)
全体 3,730件(−8.8%)

上記の通り、2020年のM&A件数はいずれの種類も落ち込んでおり、特に海外企業とのM&A件数は大幅に減少した。また、2019年までは8年連続で前年の件数を上回っていたことからも、2020年はひとつのターニングポイントになったことが分かる。

M&Aを支援・促進する動きはさらに拡大へ

2020年のM&A件数が減少した要因としては、新型コロナウイルスの蔓延が挙げられる。M&Aでは当事者同士のコミュニケーションが重要になるため、特に渡航制限が設けられた時期には海外企業とのM&Aが難しくなってしまった。

とは言うものの、以下の理由などによりM&Aの注目度はますます高まってきており、コロナ禍以前の2019年には初の4,000件超を記録している。

・主に後継者不足など、中小企業が抱える問題点の解決策になる
・買い手と売り手のお互いにメリットが生じるケースが増えたことで、M&Aのイメージが向上した
・M&Aを実施しやすい環境が徐々に整いつつある

特に2000年以降には会社法が見直される、公正なルール作りへの取り組みが実施されるなど、M&Aを支援・促進する動きが社会全体に広がった。現在ではM&Aを仲介する企業やアドバイザーも多く見られ、そのような専門家に中小企業が相談するケースも珍しくない。
このようなM&Aを支援・促進する動きは、今後もさらに拡大すると考えられている。中小企業にとっては、M&Aにより取り組みやすい環境が整えられる可能性があるため、こまめに情報を確認しておきたいところだろう。

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中小企業がM&Aを行う3つの目的

中小企業がM&Aをする場合、一般的には売り手側の立場に回ることが多い。では、会社や事業を売却する中小企業は、具体的にどのような目的でM&Aを実施しているのだろうか?
数ある目的の中でも、以下では特に重要なものを紹介していこう。

【目的その1】後継者不足を解決するため

近年M&Aの注目度が大きく上昇したのは、「後継者不足を解決できるから」と言っても過言ではない。後継者不足に悩まされている中小企業は非常に多く、そんな会社を存続させるためにM&Aが実施されているのだ。
たとえば、後継者が見つからないまま経営者が倒れてしまえば、その会社は一気に窮地に立たされてしまう。また、仮に後継者の候補となる人物がいたとしても、株式の承継に伴うコストや税負担によって、事業承継を断念してしまうケースも多い。
このような問題に直面している企業にとって、M&Aは救いの手となり得る。買い手が見つかれば後継者問題が解消される上に、経営者の手元に売却益が残る点も大きなメリットとなる。

【目的その2】従業員の雇用を守るため

中小経営者のなかには、これまで会社を一緒に支えてきた従業員を家族のように考えている方もいるだろう。しかし、後継者が見つからないまま経営者が引退すれば、多くの従業員は路頭に迷ってしまう可能性がある。
また、仮に後継者が見つかっていたとしても、事業承継をきっかけに経営が傾いてしまうかもしれない。後継者となる人物に必ずしも経営能力が備わっているとは限らないため、安易に事業承継を進めるべきではないのだ。
その点、M&Aによって経営地盤が安定した企業に買い取ってもらえば、従業員の雇用も守られるため安心できる。ただし、雇用条件が変わることで従業員が戸惑う恐れもあるので、各従業員の処遇については事前協議でしっかりと固めておくことが重要だ。

【目的その3】不採算事業を整理するため

不採算事業とは、マイナス収支の赤字事業のこと。不採算事業を抱えている中小企業は、その事業の赤字が大きな負担となり、どうしても経営が伸び悩んでしまう。
そのため、中小企業が不採算事業から撤退することも珍しくないが、すべての不採算事業に成功の可能性がないわけではない。たとえば、生産性を向上させれば採算がとれる事業になるものの、その資金を用意できないようなケースもあるだろう。
このように何らかの魅力がある事業については、M&Aの買い手が見つかる可能性がある。仮に買い手が見つかれば、経営者の手元には事業の売却益が残るうえに、ほかの事業に集中する環境も整えられる。
つまり、M&Aは「不採算事業を整理する」という企業戦略として実施されることもあるのだ。自社にとっては不採算事業であっても、ほかの企業から見れば魅力的な事業になる可能性がある点は、しっかりと覚えておきたい。

M&Aで特に押さえておきたい手法は?それぞれの特徴も解説

M&Aの手法は「合併・買収・会社分割」の3つに大きく分けられ、どれを選ぶかによって買い手・売り手の状況は変わってくる。また、細分化すると数多くの手法が存在するため、ここからは特に押さえておきたい手法とそれぞれの特徴を解説していこう。

合併

合併とは、複数の企業をひとつの会社に統合する手法である。細かく分けると「吸収合併」と「新設合併」の2つがあり、権利義務や資産の承継先に違いがある。

・吸収合併
吸収合併は、一方の企業にすべての権利義務を承継させ、もう一方の企業は消滅させる手法である。新設合併に比べるとスピーディーに実施できることから、急を要するM&Aなどで活用されるケースが多い。

ただし、現場の従業員に負担がたまりやすくなる点は、計画を立てる前に注意しておきたいポイントだ。合併の実施日からひとつの法人として運営することになるため、迅速に統合作業を進めなくてはならない。

また、存続会社と消滅会社の顧客が重複している場合は、取引を縮小されてしまう恐れがある。これは新設合併にも言えることだが、状況次第ではシナジー効果が表れにくくなる手法なので、その点に注意しながら計画を立てることが必要になる。

・新設合併
一方で新設合併は、権利義務や資産などを承継させる新会社を設立する手法である。基本的な特徴は吸収合併と同じだが、新設合併には以下のようなデメリットがあるため、M&Aにおいて活用されるケースは少ない。

○新設合併のデメリット
・許認可や資格が承継されない
・新会社の設立に手間がかかる

・上場企業の場合は、再度審査を受けなくてはならない
また、新企業の設立にあたっては、登録免許税や印紙税などのコストも発生する。ほかの手法と比べてもデメリットが多いので、基本的には選択肢から除外しても構わないだろう。

買収

M&Aにおいて買収は最も活用されている手法であり、仕組みや手続きもそれほど複雑ではない。ただし、具体的な方法によって特徴が大きく異なるので、以下でそれぞれの特徴をチェックしていこう。

・株式譲渡
株式譲渡は、売り手が保有している自社株式を売却することで、買い手に会社の経営権を譲渡する手法だ。仕組みが比較的シンプルであり、複雑な手続きも不要であることから、中小企業のM&Aにおいては最も活用されている。

企業の価値次第では多くの売却益を残せるが、株式譲渡では「税金」に特に注意しなければならない。株主が法人の場合は法人税、個人の場合は所得税・住民税が発生し、取引価格によっては税金面で不利になってしまう恐れもあるため、売却額は慎重に検討するべきだろう。

なかでも創業者利潤を目的としている場合には、専門家に相談しながら最適な方法を模索することが重要だ。

・第三者割当増資
第三者割当増資とは、特定の第三者に新株の引き受け権利を付与し、その対価として現金を受け取る手法である。資金調達手段としても用いられるが、M&Aの場合は売り手が新株の発行者、買い手が引き受け側となる形で実施される。

第三者割当増資のメリットは、新株を付与する相手を確実に選べる点だ。また、売り手側の企業は経営資金を手に入れられるため、第三者割当増資は企業再生型のM&Aで活用されることが多い。

ただし、M&Aのために新株を発行すると、持ち株比率の低下によって既存株主が不利益を被ってしまう。株式の希薄化はデリケートな問題であるため、第三者割当増資を実施する前には株主への十分な説明が必要になるだろう。

・株式交換
株式交換とは、売り手側の株主が保有株式を引き渡す代わりに、その対価として買い手側の株式を受け取る手法だ。文字通り、株式の交換によってM&Aが行われるため、買い手側に買収資金がなくても実施できる。

また、中小企業にとっては少数株主を排除しやすい点も、株式交換を実施するメリットになるだろう。株式交換は、株主総会特別決議における承認を受けるだけで実施できるため、反対する株主がいても強制的に株主を移転させられる。

ただし、買い手側が新株を発行して対価を支払う場合は、株式の希薄化が生じてしまう。つまり、買い手側の既存株主が不利益を被るので、第三者割当増資と同じく株主への説明が必須となる。

・事業譲渡
事業譲渡は株式譲渡とは違い、会社そのものを売却する手法ではない。譲渡会社が営む事業の全て、もしくはその一部を譲渡する手法であり、中小企業のM&Aにおいては株式譲渡に次いで多く活用されている。

事業譲渡の最大のメリットは、不採算事業のみに絞って整理できる点だ。さらに買い手も必要な事業に絞って買い取れるため、コストを抑えた形で事業拡大や新たな市場への進出を狙える。

ただし、事業譲渡は株式譲渡に比べると手続きが複雑であり、多くの手間と時間がかかる点は軽視できない。具体的には、資産・債務の移転手続きや株主総会による特別決議などが必要になる。

この点が大きなハードルとなり、事業譲渡になかなか取り組めないケースは珍しくない。特にスピードが求められるようなケースでは、事前にしっかりと計画を立てておく必要があるだろう。

・MBO
近年のM&Aでは、「MBO(マネジメント・バイアウト)」と呼ばれる方法が注目されている。これは、企業の経営陣がファンドや金融機関などから資金を調達し、既存株主から自社株式を買い取る方法のことだ。

ここまでの方法と大きく異なるポイントは、買い手となる企業が存在しない点である。基本的にMBOでは、会社に理解のある人物が新たなオーナーとなるため、統合作業や引き継ぎなどの面で苦労することがない。

ただし、MBOは既存株主からの理解が前提であり、買い取りに応じてもらえない場合は実施できないこともある。また、ほかの手法に比べると経営体質の変化が少ないので、経営改善や企業再生の手法としては活用しづらいだろう。

会社分割

会社分割には「新設分割」「吸収分割」の2つがあり、いずれも複数の企業に分割することでM&Aを進める手法である。資産や契約をスムーズに引き継げる特徴があるため、事業譲渡よりも確実なM&Aの手法として用いられている。

>>事業譲渡と会社分割について詳しく知りたい方はこちら

・新設分割
新設分割とは、分割した事業やそれに関する権利・義務を、新たに設立した企業に引き継がせる手法である。事業をまとめて移転する手法であるため、資産や契約、資本準備金、資本剰余金などをスムーズに済ませられる。

また、一定の要件を満たすことで、資産の含み益が課税対象外となる点も新設分割のメリットだ。ただし、移転資産の支配権などの要件が複雑であり、ケースによっては税理士などの専門家に相談をしないと判断が難しいこともある。

ちなみに、売り手側が非上場企業にあたる場合は、その株式のすべてを現金化することが難しい。つまり、設立した新会社が損をするリスクがあるので、新設分割は主に上場企業のM&Aに活用されている。

・吸収分割
一方で吸収分割は、既存の企業に事業やその権利・義務を移転させる方法である。新設分割に比べると新たな会社を設立する手間を省けるので、吸収分割では資産・契約などのさらにスムーズな移転が可能だ。

そのほか、労働者の同意なしに人材を移転できる点も吸収分割のメリットである。ただし、人材の移転にあたっては「労働契約承継法」に基づいた手続きが必要であり、この工程を飛ばすと分割自体が無効になってしまう。

また、株主構成の変化によって業務に支障が出るケースもあるため、新たな株主に「敵対的な人物がいないか?」はしっかりと確認しておく必要があるだろう。

M&Aの主な手法 メリット デメリット
吸収合併 ・新設合併よりも手間がかからない
・統合効果が早期にあらわれやすい
・株式を合併対価にすれば、資金がなくても実施できる
・統合作業の負担が大きい
・取引を縮小される恐れがある
・株式譲渡よりは手間がかかる
新設合併 ・資金がなくても実施できる
・対等なイメージが強いため、平等な合併であることをアピールしやすい
・許認可や資格が承継されない
・新会社の設立に手間やコストがかかる
・上場企業の場合は、再審査を受けなくてはならない
株式譲渡 ・必要な手続きが少ない
・仕組みがわかりやすい
・創業者利益を得られる
・取引価格によっては税金面で不利になる
・特定資産を譲渡対象外にする場合は、やや複雑な手続きが必要
第三者割当増資 ・企業再生に活用しやすい
・当事者同士の関係強化につながる
・敵対的買収の防衛策になる
・株式の希薄化が生じる(売り手側)
・手続きにやや手間がかかる
株式交換 ・資金がなくても実施できる
・少数株主を排除できる
・株式の希薄化が生じる(買い手側)
・手続きにやや手間がかかる
事業譲渡 ・一部の事業のみを承継できる
・不採算事業を整理できる
・残したい資産や従業員を確保できる
・手続きが複雑であり、実施までに手間がかかる
・20年間は同一事業を行うことができない(売り手側)
MBO ・会社に理解のある人物がオーナーとなる
・引き継ぎが円滑に進みやすい
・迅速な意思決定を図れる
・既存の株主と対立するリスクがある
・資金調達を成功させるハードルが高い
新設分割 ・資産や契約をスムーズに移転できる
・一定の要件を満たせば、資産の含み益が課税対象になる
・税務上の判断や取り扱いが複雑
・日上場企業には適していない
吸収分割 ・新設分割に比べても資産や契約の移転がスムーズ
・従業員の同意が不要
・株主構成の変化によって、新たな弊害が生じることも
・強引に進めると現場が混乱する可能性が高い

上記の通り、M&Aは手法によって特徴が大きく異なるため、目的に応じて手法を変えることが重要だ。
たとえば、創業者利潤を目的としている場合は「株式譲渡」、コア事業に集中したいときは「事業譲渡」が適した手法となるだろう。その一方で、特定の事業に関して組織再編をしたい場合には「会社分割」を選ぶ必要がある。
ほかにもM&Aにはいくつかの手法があり、M&Aを実施する目的は企業ごとに大きく異なる。したがって、M&Aを検討中の経営者は目的を明確にしたうえで、その目的に最適な手法をしっかりと見極めるようにしよう。

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買い手側から見たM&Aのメリット・デメリット

ここからはM&Aの各手法ではなく、全ての手法に関連する内容を解説していく。M&Aを実施するメリット・デメリットは、買い手側・売り手側のどちらの立場に該当するかによって変わってくる。
そこでまずは、買い手側から見たM&Aのメリット・デメリットを解説していこう。以下で解説する内容は、買い手側の企業を探す際に役立つ知識となるので、売り手側の企業もしっかりと理解しておくことが大切だ。

買い手側に発生するメリット

買い手側の最大のメリットとも言える点が、必要な経営資源をスピーディーに獲得できることだ。経営資源を新たに作り出す場合、設備はもちろん知識・ノウハウを持った従業員も用意する必要があるため、多くの時間を費やすことになる。
その点、M&Aでは資金面のコストだけで経営資源を獲得できるので、従業員を1から見つけたり育てたりする必要がない。そのため、特に市場の変化が早いような業界では、経営資源を迅速に確保できるM&Aが重宝されることもある。
また、既存の事業と新たな事業の融合によって、「シナジー効果」を期待できる点も大きなメリットだろう。シナジー効果とは、複数の企業・事業を組み合わせることで、単体で得られる以上の成果を得られることだ。
この解説だけでは少し分かりづらいため、以下では具体的な例をひとつ挙げてみよう。

〇シナジー効果の例
あるバス会社がM&Aによって、近くにあるテーマパークを買収した。買い手側の企業はより大きな収益を上げるために、駅からテーマパークまで運行するバスの路線を新たに開通。交通の便が良くなった結果、テーマパークに訪れる人がどんどんと増えていき、バスとテーマパークの両方の事業の売り上げが向上した。

シナジー効果による恩恵は、想定以上に大きいこともある。事業の組み合わせ次第では、利益が何倍にも伸びる可能性があるため、シナジー効果を狙ってM&Aを実施する例も多い。

買い手側に発生するデメリット

簿外債務や偶発債務など、想定外の費用が発生する恐れがある点は買い手にとって軽視できないデメリットだ。引き継ぐ資産を指定できる事業譲渡では問題ないが、それ以外の手法でM&Aを進めると、売り手側のさまざまなマイナス要素を引き継ぐ恐れがある。
一般的なM&Aでは、この点を防ぐために「デューデリジェンス」が実施されている。デューデリジェンスとは、売り手側の資産状況を詳しく調査することだ。デューデリジェンスを実施すれば確実性は高まるが、当然実施するためのコストや時間がかかってしまう。
また、シナジー効果を得られない可能性がある点も、事前に注意しておきたいポイントだろう。仮にシナジー効果を織り込んで計画を立てていた場合は、M&Aにかかった費用が無駄になってしまう恐れがある。

売り手側から見たM&Aのメリット・デメリット

次は、売り手側から見たメリット・デメリットを確認していこう。将来的にM&Aによる会社・事業売却を検討している場合は、以下のメリット・デメリットをしっかりと意識した上で、慎重に計画を立てることが重要だ。

売り手側に発生するメリット

M&Aの売り手側に発生するメリットは、創業者利潤の獲得だけではない。特に近年注目されているのは、「事業承継問題を解決できる」というポイントだ。
M&Aでは外部から次期経営者を探すため、身内で後継者を見つけたり育てたりする必要がない。あらかじめ経営スキルを備えており、かつ事業のノウハウも持った買い手が見つかれば、売り手側が抱える事業承継問題は一気に解決される。
また、前述でも解説した企業を存続できる点、従業員の雇用を守れる点なども、中小経営者が確実に押さえておきたいメリット。特に経営地盤が安定している買い手が見つかれば、企業や従業員の生活を今よりも安定させられる可能性がある。

売り手側に発生するデメリット

売り手側にさまざまなメリットが生じるM&Aだが、必ずしも買い手が見つかるわけではない。買い手側も資金を無駄にすることはできないため、何かしらの魅力がある企業・事業にしか興味を示さないのだ。
仲介会社を利用する手もあるが、それでも買い手を見つけられないケースは多く存在する。また、仮に買い手の候補が見つかったとしても、交渉が決裂する可能性もゼロではない。M&Aではこのような状況に陥ると、売り手側もコストや時間を無駄にしてしまう恐れがあるのだ。
また、労働条件や企業文化が変わることで、従業員のモチベーションが低下する可能性も軽視できない。そのため、従業員とも事前にしっかりと話し合い、各従業員が納得できる形でM&Aを進める必要があるだろう。

対象 メリット デメリット
買い手(譲受企業) ・必要な経営資源をスピーディに獲得できる
・シナジー効果を期待できる
・想定外の費用が発生する恐れがある
・デューデリジェンスの実施にコストや時間がかかってしまう
・必ずしもシナジー効果を得られるわけではない
売り手(譲渡企業) ・創業者利潤を獲得できる
・会社を存続させられる
・従業員の雇用を守れる
・必ずしも買い手が見つかるわけではない
・従業員のモチベーションが低下する恐れがある

上の表は、ここまで解説したメリット・デメリットをまとめたものだ。M&Aには、買い手・売り手の双方に魅力的なメリットがあるものの、深刻なリスクにつながるデメリットも潜んでいるため、どちらの立場でも慎重に計画を立てる必要がある。
また、売り手側は従業員や取引先など、多方面に影響を及ぼす恐れがあるため注意しておきたい。創業者が利益を得て終わりではなく、従業員や取引先の今後をきちんとカバーする必要があるので、さまざまな準備が必要になる点はきちんと理解しておこう。

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実際のM&Aの流れを3ステップで解説

M&Aに関する基礎知識としては、「契約に至るまでの流れ」も押さえておきたい。細かく見るとM&Aにはさまざまなプロセスがあり、段階ごとに意識しておきたいポイントが変わってくる。
そこで以下では、買い手・売り手に共通するM&Aの全プロセスを、大きく3つに分けて解説していく。M&Aに向けて動き出す前に、各プロセスのポイントを理解しておこう。

【STEP1】事前準備

M&Aのステップの中でも、特に「事前準備」は多くの時間をかけるべき部分だ。希望条件に適した相手を見つけなければ、買い手側・売り手側のどちらの立場になってもメリットが発生しないため、少なくとも以下の準備に取り組む必要がある。

M&Aにおける事前準備 概要
【1】目的の明確化 「なぜM&Aに取り組むのか?」を明確にし、自社が目指すべきM&A戦略を策定していく
【2】M&Aスキームを決める 株式譲渡・事業譲渡・会社分割のうち、実施する手法を決める
【3】調査・分析 業界全体の調査や自社が取り組む事業についての分析などを行う。この段階で相手企業の候補を絞り、各候補に関する情報収集にも取り組んでいく
【4】相手側に渡す資料の用意 企業概要書やノンネームシートなど相手側に渡す自社の資料を用意する

上記の中でも「調査・分析」は、M&Aの成功・失敗を大きく左右するポイント。単に相手企業の情報収集をするだけではなく、自社の事業との相性を考えながら、発生するシナジー効果なども予測しなければならない。
また、計画を進めていくうちに方向性がブレないよう、最初に「M&Aの目的」を明確にすることも忘れてはいけないプロセスだ。

【STEP2】交渉・検討

検討を経て候補となる相手を絞ったら、いよいよ交渉の段階へと移っていく。ただし、M&Aはお互いの企業に多大な影響を及ぼすため、一般的なケースでは交渉に入ってからも慎重に事が進められる。
実際にクロージングの段階まで進むには、以下のような工程が必要になるだろう。

交渉段階で必要になるプロセス 概要
【1】経営者同士の面談 本格的な契約の前段階として、お互いの価値観や理念などを共有する。面談において違和感がなければいよいよ契約に向けて動き出していく
【2】基本合意契約の締結 一定期間の「独占交渉権」を発生させるために、まずは買い手が買取方法・価格などを記載した「意向表明書」を提出。その内容に問題がなければ、両者で「基本合意契約書」を締結する
【3】デューデリジェンスの実施 売り手側の情報の真偽を確かめるために、「デューデリジェンス」と呼ばれる調査を買い手側が実施する

上記で注目しておきたい点は、基本合意契約の締結後にデューデリジェンスが実施される点だ。デューデリジェンスでは財務や法務、会計など、売り手側のあらゆる情報を確認していく。企業情報の確認には専門知識が求められるので、一般的なケースでは買い手側が専門家に依頼することになる。
この段階でもし問題が見つかれば、基本合意契約書を交わしても破談になる可能性が高いので、売り手側の企業は特に注意をしておきたい。

【STEP3】契約締結(クロージング)

ここまでの過程で問題がなければ、買い手側・売り手側の間で「最終譲渡契約書」を交わす。これが最終的な成約であり、最終譲渡契約を締結した後は株券や会社代表印をはじめ、必要なものをお互いに引き渡していく。
また、M&Aではクロージングまで進んだ後にも、「PMI」と呼ばれる統合作業を進めなくてはならない。PMIも今後の状況に大きな影響を及ぼすので、計画を確認しながら慎重に作業を進めることが重要だ。

買い手がM&Aを進める手順

ここからは買い手と売り手に分けて、M&Aのさらに細かい流れを紹介しよう。まずは、買い手がM&Aを進める手順から解説していく。

1.買収先の条件を絞り込む

前述の事前準備が完了したら、買い手は買収先の条件を絞り込んでいく。明確にしておきたい条件としては、例えば業種や地域、事業内容、従業員数(規模)などが挙げられる。

買収先の条件を決める際には、自社の成長戦略やビジョンを意識することが重要だ。買収後の会社の在り方まで深く考えることで、より目的に適した相手企業を探しやすくなる。

2.候補企業にアプローチをかける

M&Aアドバイザーを利用する場合は、設定した条件をもとにロングリストを作成し、さらにショートリストへと絞っていく流れが一般的となる。

・ロングリスト:対象企業を20~30社に絞ったリストのこと
・ショートリスト:ロングリストの企業を比較し、さらに対象企業を8社程度に絞ったリストのこと

ショートリストまで作成できたら、次は残っている候補企業に対してアプローチをかけていく。この候補企業の選び方によってM&Aの成功率は変わってくるため、特にショートリストを作成する際には情報収集や分析に力を入れて、専門家のアドバイスも参考にしていこう。

3.秘密保持契約を締結する

交渉を進める相手企業が決まったら、まずは秘密保持契約を締結する。秘密保持契約とは、M&Aに関する情報の漏えいを防ぐ契約のことだ。

基本的には財務情報などを提供する売り手を守るための契約だが、秘密保持契約には買い手を守る意味合いもある。例えば、買収に乗り出していることが公になると、企業によっては従業員や株主などから反発される恐れがあるため、買い手の立場からも秘密保持契約はしっかりと結んでおきたい。

4.売り手の基礎情報を分析する

秘密保持契約を締結すると、売り手側から経営資料が送られてくる。次はその資料を確認しながら、売り手の基礎情報を丁寧に分析していく。

ここで注意しておきたいのは、必ずしも経営資料が実態を表すわけではないという点だ。特に財務情報は時期によって変化するため、受け取った資料はあくまで参考程度に受け止め、独自の観点から企業価値などを分析する必要がある。

また、自社のニーズに合致する相手企業が見つかったら、最適なM&Aスキーム(手法)についても考えなくてはならない。前述の通り、どの手法を選ぶかによってお互いのメリット・デメリットは変わってくるので、本格的な交渉を始める前に大まかな方針を決めておこう。

5.トップ面談を経て、基本合意書を交わす

基礎情報の分析で問題が見つからなかったら、いよいよトップ面談を経て基本合意書を締結する。

ちなみに、トップ面談の目的はあくまで意思確認であり、本格的な交渉をする場ではない。一般的なM&Aでは、トップ面談までの間にお互いの条件を調整しておく。細かいことを確認する程度であれば問題ないが、有利な条件にしようとすると破談する恐れがあるため注意しておこう。

また、基本合意契約はM&Aを決定づけるものではないが、この後のクロージングまでの流れに影響する。特に、M&Aスキームやデューデリジェンスの協力、独占交渉権などは重要なポイントになるので、漏れがないように契約書をしっかりと確認しておきたい。

6.デューデリジェンスを実施する

買い手のプロセスの中でも、最も重要なものが「デューデリジェンス」である。

買い手側がデューデリジェンスを行う目的は、シナジー効果を最大限発揮させることと、新たなリスクの発生を抑えることの2つだ。これらはM&Aの成功を大きく左右する要素なので、多くの費用や時間がかかったとしてもデューデリジェンスを省くことはできない。

ちなみに、デューデリジェンスには以下の6つがあり、それぞれ調査や評価を行う対象が異なる。

○6つのデューデリジェンス
・ビジネスデューデリジェンス:相手企業を取り巻く市場全体を分析・評価すること
・財務デューデリジェンス:財務情報をもとに企業価値を分析・評価すること
・法務デューデリジェンス:過去の契約を遵守しているかや、取引行為の正当性などを調査すること
・人事デューデリジェンス:人材の採用環境など、主に人事や労務に関する調査を行うこと
・税務デューデリジェンス:申告納税の妥当性や透明性を評価すること
・ITデューデリジェンス:M&Aを進めるにあたって、管理システムをどうやって統合するのかを調査すること

すべてのデューデリジェンスを行う必要はないが、買収後に大きな影響を及ぼしそうな懸念点については、必ずデューデリジェンスで細かく調査・評価することを意識したい。

7.最終条件を交渉してクロージング

最終条件の交渉は、主に基本合意契約とデューデリジェンスの内容を踏まえて行われる。

買い手側が行うべきことは、デューデリジェンスの内容に基づいてM&Aスキームや取引価格を調整し、必要な対策を売り手側に要求することだ。このタイミングで補償やリスク対策の実行などを要求しておかないと、想定外のトラブルが生じた場合に対応ができなくなってしまう。

しかし、売り手の義務や責任に関する内容は、一方的に決めると争点になりやすい。クロージング前に破談すると、ここまで費やしてきたコストや労力が無駄になってしまうので、売り手側に寄り添う姿勢も見せることが重要だ。

売り手がM&Aを進める手順

次は、売り手がM&Aを進める手順を紹介する。買い手とは意識すべきポイントや注意点が異なるので、その点を意識しながらひとつずつ確認していこう。

1.決算書(3期分)を準備する

M&Aを検討している売り手の状況は、直近の業績だけで判断することが難しい。中長期的な課題を抱えている可能性も高いため、M&Aアドバイザーとの初期の打ち合わせでは3期分の決算書を提出することになる。

また、このときに算定した株価をもとに計画を立てていくので、そのほかの経営資料についても積極的に提示しておきたい。

2.ノンネームシートを作成する

ノンネームシートとは、特定されない範囲で会社の情報をまとめた資料のことである。買い手がロングリスト・ショートリストを作成する際に活用する資料なので、間違った内容や虚偽の情報を記載することは許されない。

記載する主な情報としては、地域や設立年月日などの会社概要のほか、想定しているM&Aスキームや財務内容、オーナー情報などが挙げられる。利用するサービスによっては、従業員や取引先の情報もまとめる必要があるため、自社の現状を把握できる資料をきちんとそろえておこう。

3.秘密保持契約を締結する

M&Aの売り手はさまざまな情報を提供するため、秘密保持契約の内容には細心の注意を払わなくてはならない。契約にあたって特に意識しておきたいポイントとしては、主に以下の4つが挙げられる。

○秘密保持契約で意識しておきたいポイント
・対象となる情報が書面上で特定されているか?
・秘密保持義務の範囲に問題はないか?
・効力発生日や失効日を正しく設定できているか?
・秘密情報の返還方法や破棄方法が明示されているか?

また、契約に違反した場合のペナルティや対処についても、できるだけ書面上で明確にしておきたい。一般的なケースでは違約金の発生が多いものの、ほかにも損害賠償請求や差し止め請求、専門機関による調査の要求といった方法がある。

管理ミスによって情報が漏えいする可能性もあるため、仮に信頼できそうな買い手企業が見つかっても、秘密保持契約の内容にはしっかりとこだわることが重要だ。

4.IMを作成・提示する

IM(インフォメーションメモランダム)とは、会社概要や事業内容、財務データ、雇用状況などをまとめた資料のことである。基本的にはM&Aアドバイザーなどが用意するものだが、買い手側はこのIMをもとに相手企業を絞っているため、専門家に作成のすべてを任せることは望ましくない。

IMの作成においては、主に「自社の魅力をアピールできているか?」や「問題がある内容に見えないか?」などを確認することが重要だ。虚偽の内容を記載することは厳禁だが、プラス評価につながる情報が漏れている場合は、積極的に指摘・修正をする必要がある。

なお、利用するサービスによってはIMのほか、「プロセスレター」と呼ばれる資料も作成する。これは入札のルールや手順などをまとめた資料となるため、もし細かい希望がある場合は早めに伝えておこう。

5.トップ面談を経て、基本合意書を交わす

自社に興味を示す買い手候補が見つかったら、次はトップ面談を経て基本合意契約へと進む。基本合意書を交わすと、その内容に法的拘束力が発生するため、M&Aに関する不安や疑問はトップ面談の時点で解決しておかなくてはならない。

ただし、買い手の手順でも触れたように、トップ面談において過度な交渉をすることはマナー違反だ。トップ面談は条件交渉の場ではないので、疑問に感じている点を質問したり、細かい部分を突き詰めたりする程度に留める必要がある。

買い手に対して細かい条件交渉を行いたい場合は、前もってM&Aアドバイザーなどに相談しておこう。

6.デューデリジェンスを実施する

デューデリジェンスは、基本的にM&Aの買い手が行うものである。そのため、一見すると売り手側は何もできないように思えるが、買い手と良好な関係を築くためにも協力する姿勢を見せることが必要だ。

特に意識しておきたい点は、情報の提示を求められた場合にすぐさま対応することである。資料の提出などが少しでも遅れると、買い手から「何か隠しているのでは?」「不正を働いているのでは?」のように疑われてしまう。

また、買い手から要求されなかったとしても、重要な情報・資料などが見つかったら迅速に提示することが望ましい。情報開示に積極的な姿勢を見せることが、買い手・売り手の信頼関係を築くことにつながるので、不利になりそうな情報であっても正直に提示することを心がけよう。

7.最終条件を交渉してクロージング

デューデリジェンスの結果によって、最終条件の交渉内容は変わってくる。例えば、新たに簿外債務などが発覚した場合は、クロージングまでに解決することを要求されるかもしれない。

買い手の要求に対しては真摯に対応することが望ましいが、すべての点を妥協することは危険だ。特に取引価格や補償内容などは経営者個人にも影響が及ぶため、買い手の要求をそのまま受け入れるのではなく、慎重に交渉していくことが必要になる。

クロージングの前であれば引き返すことも可能なので、焦って最終契約を結ばないように注意しておきたい。

一般的なM&Aの流れをまとめた図

上の図は、一般的なM&Aの流れを簡単にまとめたものだ。実際の手順はケースによってやや異なるが、この流れを頭に入れておくだけでも全体の計画は立てやすくなる。

買い手・売り手の立場の違いを意識した上で、どのような準備から取りかかるべきか慎重に見極めていこう。

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PMIで必要になる業務は?アフターM&Aを成功させるコツ

M&Aはクロージングで終わりではなく、その後にも「PMI」や「アフターM&A」と呼ばれる統合プロセスを行う必要がある。具体的にどのような業務が発生するのか、5つの分野に分けて確認していこう。

業務が発生する分野 主な業務
経営面 経営理念や経営戦略のすり合わせ、新会社への戦略移行など
制度面 人事制度や評価制度、会計制度などの統合。ひとつの会社になる場合は、就業規則も見直す必要がある
業務面 情報システムやオペレーションの統合、適材な人材配置など
事業面 事業戦略の立案や仕入れ先の調整など。事業内容によっては、新部門の創設も必要になる
人材面 企業文化の統合や意思決定の調整など。各従業員に求める役割もこのタイミングで明確にしておく

PMIは複数の会社をひとつにする作業であるため、お互いの経営理念や企業文化がかけ離れていると思わぬ失敗を招く可能性がある。では、PMIを成功させるにはどのような点を意識すべきだろうか。

1.デューデリジェンスの段階で計画を立てておく

前述の通り、PMIではさまざまな業務が発生するため、実際に統合してから計画を立てていたのでは間に合わない。統合直後からスムーズに動き出すには、遅くてもM&Aを実施するまでに計画を立てておく必要がある。

計画を立てるベストなタイミングとしては、デューデリジェンスの実施後が挙げられるだろう。デューデリジェンスの直後であれば、売り手企業の課題やリスクが明確になっているため、優先的に取り組むべき作業を見極めやすくなる。

2.リーダーシップのある人材を探しておく

PMIには経営者も積極的に関わるべきだが、すべての統合プロセスを1人で指揮することは不可能だ。中小規模のM&Aであっても、実際に統合作業を進めるのは現場の従業員となるので、前もってリーダーシップのある人材を探しておく必要がある。

特に業務面や人材面の統合プロセスは、現場の状況をしっかりと見ながら細かく調整しなければならない。また、場合によってはステークホルダー(株主や顧客など)に対する説明も求められるため、指揮をとるリーダーには経営者から近しい人物や、M&Aの意図を十分に理解している人物を選ぶことが望ましいだろう。

3.明確な目標を周知する

PMIには分かりやすいゴールがないため、各々の従業員に任せていると本来の目的を見失ってしまうことがある。したがって、M&Aの実施前には「明確な目標」を設定し、すべての従業員に周知しておくことが重要だ。

PMIの目標は、事業計画やデューデリジェンスの結果、期待できるシナジー効果などを組み合わせることで策定できる。また、売り手企業の経営者や役員からのアドバイスも参考になるだろう。

明確な目標を設定できたら、ステークホルダーなどの外部に発信することも検討したい。例えば、株主や顧客に「自社の目指すべき姿」が伝われば、外部からの信用性や期待感を高めることができる。

4.両社の経営幹部が十分なコミュニケーションをとる

そもそも経営理念の異なる2つの企業を、完璧な形で統合させることは非常に難しい。統合を進める過程で新たな課題が浮き彫りになるケースも多いため、こまめに計画を微調整することが求められる。

だからこそ、両社の経営幹部による十分なコミュニケーションが必要であり、しっかりと認識を共有しなければならない。特に経営のビジョンや方向性、PMIを進めるスピードなどは認識がズレやすいため、両社が納得できるまできちんと話し合っておこう。

5.想定外のトラブルが生じたら優先順位をつける

PMIを実際に進めると、以下のような想定外のトラブルに見舞われることがある。

○PMIで発生しやすいトラブル
・負担の増加により人材が流出する
・部署ごとの進捗に差が生じ、会社全体がうまく回らなくなる
・短いスケジュールの影響で、現場のオペレーションが混乱する

上記のようなトラブルが発生したら、まずは優先順位をつけることから始めたい。無理にすべてのトラブルを解決しようとすると、現場の従業員に大きな負担がかかってしまうため、さらなる混乱を引き起こすことになるだろう。

また、PMIを進める前の段階で、あらかじめトラブルを想定しておく方法も効果的だ。各トラブルへの対策を事前に考えておけば、解決までにかかる時間を大きく短縮できる。

従業員の負担を考えると、PMIはできるだけ早めに完了させることが理想であるため、どのような状況にもスピーディーに対応できる体制を整えておこう。

M&Aにかかる費用は?発生する税金と手数料

M&Aにはさまざまな費用がかかるため、実際に進めてみると予想以上にコストがかさむケースもある。特に売り手には税金も課されるので、翌年の納税を見越した上で計画を立てることが必要だ。

そこで次からは、「売り手」と「買い手」に分けてM&Aにかかる費用をまとめた。会社の将来や経営者の人生にも関わってくる要素なので、費用の内訳はしっかりとチェックしておこう。

売り手側に発生する税金・手数料

売り手側に発生する費用としては、まず「税金」が挙げられる。売却益に対する税金なので計算はそれほど難しくないが、以下の通りM&Aの方法によって課税方式が異なる点には注意したい。

M&Aの方法 課税方式 税金を課される者
株式譲渡 株式を売却した譲渡益に対して、所得税・住民税(※合計で約20%の税率)の2つが課される 株主
事業譲渡 事業や資産を売却した利益に対して、法人税(※実効税率は30〜33%程度)が課される 売り手側の法人

また、買い手を探すにあたって仲介会社やM&Aアドバイザーを利用した場合は、税金に加えて以下の費用も支払うことになる。

・事前相談料
・着手金や最低手数料
・リナイティーフィー(定期顧問料)
・成功報酬

実際の料金体系は依頼先によって異なり、中でも「成功報酬」は差がつきやすい費用といわれている。M&Aの規模次第では数百万円の差が出ることもあるため、成功報酬の計算方法や金額は契約前に細かくチェックしておきたい。

また、相談料や着手金については無料のところも多く見られるので、「買い手が見つからないかも」と不安を感じている経営者はそのような相談先を探してみよう。

買い手側に発生する費用

M&Aの買い手は取引価額を負担する側なので、売り手のように税金が課されることはない。ただし、仲介会社やM&Aアドバイザーに支払う費用(着手金や成功報酬など)に加えて、事前調査にかかる「デューデリジェンス費用」を負担する必要がある。

では、デューデリジェンスにはどれくらいの費用がかかるのか、以下で一般的な相場を紹介しておこう。

デューデリジェンスの種類 相場(※一般的なM&Aを想定)
財務デューデリジェンス 50〜100万円以上
労務デューデリジェンス 50〜100万円
法務デューデリジェンス 50〜100万円以上
税務デューデリジェンス 50〜100万円以上
ビジネスデューデリジェンス 50〜90万円

さまざまな企業でIT化が進んだ現代では、M&A契約の前に「ITデューデリジェンス(※情報システムを統合するための調査)」を実施するケースも多い。ITデューデリジェンスの費用には明確な相場がなく、両社のシステム数や依頼先によって金額が変動するため、実施を予定している場合は事前の情報収集を欠かさないようにしよう。

M&Aの会計・税務の基本とは?

M&Aではさまざまな利益・費用が発生するため、会計や税務の基本についても確認しておきたい。ここからは、M&Aで用いる会計処理と会計基準をまとめたので、経営者や経理担当者はしっかりと確認していこう。

M&Aには3つの会計処理がある

M&Aで行われる会計処理は、「個別会計・連結会計・税務会計」の3つに大きく分けられる。それぞれ特徴や意味合いが異なるので、「何のために行うのか?」や「自社のケースで必要なのか?」などを意識しながら確認してみてほしい。

・【1】個別会計

個別会計とは、個別財務諸表(※ひとつの企業について作成する財務諸表)に反映される会計処理のことである。公認会計士による監査の対象にも含まれるため、すべての会社が遵守すべき会計処理として知られている。

M&Aにおいては、売り手側の企業が存続するかどうかで処理方法が異なり、合併の場合は買い手側が売り手側を合算する形で処理が行われる。一方で、株式譲渡のように売り手側が存続する場合は、売り手・買い手のそれぞれが独自に処理を行う必要があるので注意しておきたい。

・【2】連結会計

次に紹介する連結会計は、親会社と子会社による「グループ」が関わっている場合に行う会計処理だ。例えば、あるグループ企業が株式譲渡によってM&Aを実施した場合は、株式の取得については個別会計、グループ全体の処理については連結会計で行う。

連結会計において、かつての日本では「持分プーリング法」と呼ばれる処理方法が用いられていたが、2008年の会計基準改正によってこの方法が廃止されてからは「パーチェス法」による処理が一般的となっている。

○連結会計で用いる処理方法の違い
・持分プーリング法:売り手側の資産や負債、資本を、帳簿価額をもとに処理をする手法のこと。
・パーチェス法:売り手側の資産や負債、資本を、グループに参画したタイミングでの時価をもとに評価する手法のこと。

上記を見ると分かるように、M&Aのグループに関連する会計については、時価による評価・処理しか認められていない。なお、海外の親会社・子会社と連結会計を行う場合は、原則として処理方法を統一する規則があるため、お互いの処理方法を確認し合いながら作業を進めていく。

・【3】税務会計

ここまで紹介した2つの会計処理は、主に財務諸表の作成や報告義務のために行うものだ。一方で、税務会計は税金(課税所得)の計算を目的とした処理であるため、個別会計・連結会計とは意味合いが大きく変わってくる。

M&Aの税務会計で注意しておきたいポイントは、スキームによって税金の種類や課税される対象、税率などが異なる点である。これらの違いを理解した上で処理を行う必要があるので、担当者にはやや専門的な会計・税務の知識が求められる。

ちなみに、税務会計には会計基準が存在しておらず、基本的には各種税法(法人税法や所得税法など)に準拠する形で処理を行っていく。

M&Aで用いられる会計基準

日本国内のM&Aでは、ほとんどのケースで「日本基準」と呼ばれる会計基準が用いられている。しかし、ほかの会計基準を用いる企業も少なからず存在しているため、ここからは主な会計基準による違いを見ていこう。

・【1】日本基準

ひとつ目の日本基準は、「企業会計原則」をベースに運用されている会計基準である。一般原則や損益計算書原則、貸借対照表原則を活用した日本独自の基準であり、現在では多くの国内企業が日本基準を採用している。

ほかの会計基準との大きな違いは、M&Aにおいて発生する「のれん」の処理方法だ。後述する2つの基準ではのれんが償却されることはないが、日本基準では20年以内の償却期間が設けられている。

なお、日本基準は度重なる改正によって海外の会計基準に近づいているため、将来的にはのれんが償却されない形に変更される可能性がある。

・【2】国際財務報告基準

国際財務報告基準(IFRS)は、ロンドンに本拠地を構える国際会計基準委員会が策定した会計基準である。主に欧米で多く活用されており、特にEUではすべての上場企業に導入が義務づけられている。

国際財務報告基準は世界的に統一された基準であるため、日本基準の改正にも大きな影響を与えている。また、当該基準を導入する日本企業も存在しており、2019年の時点では約200社が国際財務報告基準を適用したとされている。

・【3】米国基準

最後に紹介する米国基準は、主にアメリカで活用されている会計基準だ。米国財務会計基準審議会(FASB)が策定した財務会計基準書などがベースとなっており、日本基準と比べると国際財務報告基準にやや近い特徴をもっている。

国際財務報告基準との違いとしては、企業に与えられる裁量の大きさが挙げられる。

○米国基準と国際財務報告基準の主な違い
・米国基準:「規則主義」の基準であり、会計処理に関する細かい規則が定められている
・国際財務報告基準:「原則主義」の基準であり、細かい判断を企業に任せる部分が多い

ちなみに、アメリカの市場に上場する場合は、国内企業であっても米国基準を導入しなければならない。本記事では割愛するが、日本基準とは考え方や規則が大きく異なるため、米国進出を目指している企業は注意しておこう。

M&Aの会計処理 会計処理の目的 ベースとなる基準や法律
個別会計 財務諸表の作成や報告 日本基準、国際財務報告基準、米国基準のいずれか
連結会計 財務諸表の作成や報告 日本基準、国際財務報告基準、米国基準のいずれか
税務会計 所得税などの税金の計算 法人税法や所得税法

上の表は、ここまで解説したM&Aの会計・税務の知識をまとめたものである。

M&Aのプロセスの中でも会計・税務に関する業務は特に複雑なので、自社の力だけで無理に進めることは望ましくない。PMI(統合作業)に集中できる環境を整えるためにも、処理に悩む項目が出てきたら迷わず専門家に相談することを検討しよう。

M&A案件の探し方は?仲介会社を探そう

M&Aの相手企業を探そうにも、ひとつの企業が調査できる範囲は限られている。自社と同じくM&Aに興味を持っており、かつ希望条件も合致する相手企業を自力で探すことは至難の業だ。
そのため、ほとんどのM&Aは「仲介会社」に依頼する形で実施されている。仲介会社とは、M&Aにおける相手探しや調査、交渉などを広くサポートしてくれる業者のこと。
本記事では「仲介会社」と一括りにして解説するが、実はM&Aの仲介会社に該当する存在は非常に多い。

○M&Aの仲介会社の例
M&A仲介会社、ファイナンシャルアドバイザー(FA)、ファイナンシャルプランナー(FP)、弁護士、税理士、公認会計士、証券会社、銀行など

いずれもM&Aをサポートする存在だが、得意分野やサポート内容は業者によってやや異なる。たとえば、M&A仲介会社は売り手・買い手の間に入ってサポートをするが、FAはどちらか一方が依頼人となり、M&Aに関するアドバイスを提供するケースが多い。なお、いずれの業者に関しても、実際にM&Aをサポートする担当者は「M&Aアドバイザリー」と呼ばれる。

着手金や成功報酬などのコストは発生するが、買い手・売り手の膨大なデータを所有している仲介会社を選べば、最適な相手を見つけられる可能性がぐっと高まる。また、経営者がM&Aだけではなく、本業に集中できる点も仲介会社に依頼をするメリットだろう。
なお、仲介会社に依頼をする場合は、前述【STEP1】の「事前準備」の段階で業者と契約を結ぶ必要がある。

M&A仲介会社を探すときに注意したい3つのこと

M&Aのサポートを仲介会社に依頼する場合は、その業者が成功のカギを握ることになる。つまり、仲介会社選びにもこだわらないと、成功の可能性を高めることは難しいだろう。
そこで以下では、仲介会社選びで注意しておきたい3つのポイントをまとめた。これから仲介会社を探す経営者は、以下のポイントを強く意識しておこう。

1.得意分野や実績を確認する

仲介会社によって中心的に扱っているM&A案件は異なり、大規模な案件を得意とする業者もいれば、中小企業同士の案件に特化した業者も存在する。つまり、仲介会社ごとに知識・スキルには偏りがあるので、自社のケースに該当する分野を得意とする業者を選ぶことが重要だ。
また、その中でも「取引実績数」の多い仲介会社は、より多くのデータ・情報を持っている可能性がある。取引実績はホームページ上でチェックできる場合もあるが、すべての実績が公開されているとは限らないので、できれば担当者に直接確認をしておきたい。

2.税金に詳しく、税務をサポートしてくれる仲介会社を選ぶ

一般的なM&Aでは、株式譲渡や事業譲渡にともなって多額の税金が発生する。そのため、成約後の節税対策にも力を入れるべきだが、M&Aに関する税金にはやや複雑な側面があるので、専門的な知識を備えていないと万全な対策をとることは難しい。
そこでぜひ検討したい点が、税理士や公認会計士が在籍しているような「税金に詳しい仲介会社を選ぶこと」だ。税務まで広くサポートしている仲介会社を選べば、安心して節税対策を任せられるため、経営者はその後のPMIや事業に集中できる。

3.悪徳業者の存在

中小企業同士の案件であっても、一般的なM&Aでは多くのお金が動く。また、M&A仲介会社の運営には特別な資格や免許が必要ないため、いわゆる「悪徳業者」が潜んでいる可能性も否定できない。
悪徳業者に依頼をすると、思わぬ不利益が生じてしまう恐れがあるので、特に以下のケースに該当する業者は強く警戒することが必要だ。

・守秘義務を守らない
・成約に不利な情報を隠して交渉を進めようとする
・ほかの業者に依頼させないように、強引な契約を結ぼうとする
・利益だけを優先して、クライアントの利益にならない案件を勧めてくる

悪徳業者から身を守るには、契約前の段階で「信用性」を細かく判断する必要がある。ホームページだけではなく、実際の担当者とじっくり話し合ったうえで、契約するかどうかを慎重に検討しよう。

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M&Aの事例から学ぶ成功・失敗のポイント

M&Aの成功率を高めるには、過去の事例に目を通しておくことも重要だ。成功事例からは見習うべきポイントを、失敗事例からは避けるべきポイントを学べる。
そこで以下では、M&Aの成功事例・失敗事例を3つずつまとめた。自社のケースと照らし合わせながら、成功につなげるポイントを学んでいこう。

【成功事例1】必要な経営資源を補い合うM&A

最初に紹介する事例は、国内の中小企業同士のM&Aだ。シャッターや住宅建材を取り扱う「文化シヤッター」は、建材分野の事業領域や販路を拡大する目的で、2015年3月に「西山鉄網製作所」の全株式を取得した。
両社はいずれも、建築関連の事業に長く取り組んできた中小企業。同じ業界ではあるものの、それぞれが異なる強みを持っていたため、協業によって以下のようなメリットが発生したと予測される。

・経営基盤の強化
・収益モデルの多様化
・顧客基盤の強化
・商品やサービスの拡充

このケースのように、不足している経営資源を補い合うようなM&Aは、多くのシナジー効果を発生させる。どんな経営資源を共有でき、さらにその経営資源を組み合わせることでどんな変化が生じるのかについては、M&Aでは特に意識しておきたいポイントだろう。

【成功事例2】海外進出・事業拡大を狙ったM&A

国内の大手食品メーカーである「味の素」は、2017年8月にトルコの「キュクレ食品社」を買収した。このM&Aの最大の目的は、トルコや中東地域において事業強化を果たす点だ。

つまり、味の素にとってこのM&A案件は「海外進出への足がかり」であり、売り手企業の販売網やマーケティング情報などを活用することで、狙い通りに海外進出を果たしている。また、2018年3月には事業拡大の加速化を目指して、さらに「イスタンブール味の素食品販売社・キュクレ食品社・オルゲン食品社」の3社を統合した。

この成功事例のように、近年では海外企業とのM&A案件も多く見られるようになった。海外進出を目指している企業にとって、現地の販路や顧客情報を確保している海外企業は魅力的な存在だろう。

また、M&Aが実施されてからさらに事業拡大を狙っている点も、ぜひ見習っておきたいポイントだ。企業にとってM&Aは最終的な目標ではないため、成約後も積極的に行動を起こすことが重要になる。

【成功事例3】イノベーションを狙ったIT企業同士のM&A

世の中にはイノベーションを狙って、IT企業同士でM&Aを実施するケースも多い。大手電機メーカーである「シャープ」は、東芝の子会社にあたる「TCS(東芝クライアントソリューション)」を2018年10月に買収した。

シャープがこのM&Aを実施した目的は、自社の「AIoTプラットフォーム(※人工知能とインターネットを組み合わせたプラットフォーム)」を強化することだ。同社は2009年頃にパソコン事業から撤退した影響で、世界的な市場においては競争力を失いつつあった。しかし、TCSの技術(パソコン製品等の製造など)とAIoTプラットフォームを組み合わせることで、今では新たな競争力を身につけつつある。

この事例のように、AIやIoTに関する技術はさまざまな分野への応用がきく。シナジー効果はもちろん、既存事業の強化や海外進出、ケースによってはイノベーションを起こせる可能性もあるだろう。

そのため、自社だけでの開発や価値創造に行き詰まっているIT企業は、これを機に同業界でのM&Aを検討してみてほしい。

【失敗事例1】景気低迷による多額の損失

大手飲料メーカーの「キリンホールディングス」は、2011年8月にブラジルの飲料メーカーである「スキンカリオール」を買収した。当時は人口減少によって生じる国内市場の縮小が懸念されていたため、同社は新興国であったブラジルに目をつけた。

しかし、約2,000億円の費用をかけて買収したにも関わらず、その後ブラジルの景気は低迷。2015年には1,000億円を超える減損損失を計上しており、さらに2017年にはブラジルの子会社を手放した。

その売却益によって被害を最小限に食い止めてはいるものの、最終的な損失は300億円を超えている。このように海外企業とのM&Aでは、国内はもちろん海外の景気の影響も受けるので、さまざまな観点から情報収集・分析をする必要がある。

【失敗事例2】文化・慣習の違いによる計画のズレ

スーパーマーケットチェーンである「西友」は、2002年にアメリカの小売大手「ウォルマート」と資本提携を結んだ。このM&Aは業績不振に直面していた西友を、ウォルマートが立て直す目的で実施されたと言われている。

資本提携が結ばれると、ウォルマートはさっそくアメリカで取り組んできた手法を西友に導入。しかし、日本国内ではその手法が期待通りに通用せず、結果的に西友の経営状況を立て直すまでには至らなかった。

このように、M&Aでは文化や慣習による違いも、深刻なリスクになる恐れがある。国内と海外に限らず、国内企業同士のM&Aにおいても地域によって文化・慣習が異なる可能性があるので、やはり業界や市場の調査は欠かせない事前準備と言えるだろう。

【失敗事例3】デューデリジェンスの不足

大手製薬会社の「第一三共」は、2008年にインドの医薬品メーカー「ランバクシー」を約4,900億円(※当時のレート)で買収している。これは事業基盤の強化や海外進出につながるM&Aではあったものの、翌年の2009年3月期にはランバクシー関連だけで3,900億円もの特別損失を計上した。

このM&Aが失敗した大きな要因は、デューデリジェンスの不足といわれている。第一三共はデューデリジェンス自体を省いたわけではなかったが、ランバクシーの元株主がFDA(アメリカ食品医薬品局)に関する情報を隠ぺいした影響で、一部の製品をアメリカへ輸出することができなくなってしまった。

デューデリジェンスには費用や手間がかかるものの、丁寧に実施をしなければリスクは抑えられない。特に文化や慣習の異なる海外企業を買収する際には、多くの費用をかけてでも慎重に調査をする必要があるだろう。

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将来的に拡大が見込まれているM&A市場

一時的に低迷している時期はあるものの、国内のM&A実施件数は1990年代から伸び続けている。1990年代は毎年500件ほどだったが、2000年代に入ると毎年1,500件以上のM&Aが行われるようになり、2019年には年間4,000件の大台を突破した。 なかでも以下で挙げる業界は、今後もM&Aの市場規模が拡大すると予想されている。

M&Aニーズが高まる業界 概要
医療・介護業界 医療や介護のように人材附属が懸念される業界では、人材獲得を目的としたM&Aが注目されやすい。医療業界については、地域医療を守るためにM&Aを実施するケースも増えてきている
IT業界 国内のM&AはIT業界から広まったものの、現在でもなお人材不足に悩まされている企業が多く存在する。また、優秀なIT人材は短期間で育成することが難しいため、IT業界ではM&Aによる人材獲得を目指すケースが多い
不動産業界 少子高齢化や過疎化、人口減少などの影響により、国内の不動産業界は縮小すると考えられている。そのため、将来的には企業再建や経営改善、ブランド強化などを目的として、M&Aを行う企業が増える可能性が高い
金融業界 すでに金融業界では、生命保険や損害保険、銀行の再編などが活発に行われている。また、グローバルな経営体制を整えるために、海外の金融機関を買収する例も増えてきた
製造業界 最近では日本の技術力を評価して、海外メーカーが国内企業を買収するケースが目立つようになった。今後に関しても、日本の技術を取り入れたい海外企業によるM&Aは活発化すると考えられている

上記のほか、飲食業界や建設業界、調剤薬局なども、M&A市場の拡大が見込まれている業界だ。

例えば、飲食業界は2019年に発生した新型コロナウイルスの影響を大きく受けており、早急な経営改善・経営再建を必要とする企業が増えてきた。テイクアウトなどの工夫で乗り切ろうとする店舗も見られるが、それでも客足減少の根本的な解決には至っていない。

このような悩みを抱える企業にとって、現代のM&Aは効果的な解決策として注目されている。経営リスクが高い時代であることを考えると、創業者利益を得ながらビジネスから退ける点も大きな魅力になってくるだろう。

ただし、M&Aには失敗例も多く存在するため、活用するのであれば万全の準備を整えることが必要だ。ケースによっては手っ取り早い解決策とはならないので、実施後のリスクやデメリットも加味しながら、実施すべきかどうかを慎重に判断しよう。

M&Aに関するQ&A

M&Aをスムーズに進めるには、当事者となる企業が正しい知識をつけておくことが必要になる。ここからは、M&Aに関する基礎知識や気になるポイントをQ&A形式でまとめたので、本記事のおさらいとして一つずつ確認していこう。

Q1.M&Aとは?何の略?

M&A(エムアンドエー)とは、「Mergers and Acquisitions(合併と買収)」を略したビジネス用語である。合併や買収を通して会社の経営権などを移す戦略であり、近年では中小企業が抱えるさまざまな課題の解決策として注目されるようになった。

M&Aの当事者は、買い手側にあたる「譲受企業」と売り手側にあたる「譲渡企業」に分けられる。いずれの立場であっても、M&Aの実施には専門的な知識やスキルなどが必要になるため、M&Aアドバイザーや仲介業者などの専門家に相談をするケースが多い。

Q2.M&Aは何のために行う?

M&Aの実施目的は、当事者の立場によって異なる。

買い手側は経営資源の獲得や販路拡大など、さらなる成長を目指すためにM&Aを実施するケースが多い。また、多角的な事業を展開することで、リスクを分散させようとする買い手企業も多く見受けられる。

一方で、売り手側は早期のイグジットのほか、近年では事業承継のために実施するケースも増えてきた。後継者が見つからない地方企業などにとって、外部から経営者を招へいできるM&Aは自社を守ることにつながっている。

Q3.M&Aはどういう会社が行う?

M&Aを実施する買い手側の企業は、何らかの経営資源を必要としているケースが多い。具体的な資源としては、技術やノウハウ、設備、新たな事業領域や販路、優れた人材などが挙げられるだろう。

売り手側についても、基本的には何らかの経営課題を解決するためにM&Aを実施している。例えば、後継者不在や個人保証の解除、創業者利益の獲得などは、売り手側の目的として多く見受けられる。

また、大企業の買い手が見つかれば、ブランド力や信用力などが強化されるため、会社の成長を目指してM&Aを目指している売り手企業も存在する。

Q4.M&Aをすると会社はどうなる?株式は?

M&Aが実施されても、基本的には売り手側の企業が消滅することはない。事業や資産、従業員などの統合作業は必要だが、通例であればそのまま経営が継続されることになる。

譲渡される株式については、株主名簿の名義書換を経て買い手企業が保有する。なお、株式の移動が発生するのはあくまで当事者のみであるため、例えば子会社をもつ親会社が買収されるケースでは、子会社の株主や保有割合は変化しない。

ちなみに、当事者のイメージや事業の相性によっては、M&Aをきっかけとして株価が大きく変動することもある。

Q5.M&A後の社員や従業員はどうなる?

国内のM&Aにおいては、売り手側の社員・従業員の雇用は継続されるケースが多い。基本的には待遇面も引き継がれるため、一般従業員はこれまでとほぼ同じ環境で働き続けることになる。

ただし、就労条件や環境の調整は買い手企業が行うため、必ずしも売り手企業が希望する形になるとは限らない。社員や従業員の雇用を守りたいのであれば、トップ面談などで契約内容を十分に話し合う必要がある。

また、役員などの上層部については、M&Aをきっかけに待遇面が大きく変わることもあるので注意しておきたい。

Q6.M&Aの企業価値は?利益の何倍が目安?

売り手側の企業価値については、採用する計算方法によって異なる。

例えば、企業のキャッシュフローや業績から計算する方法では、営業利益の5~10倍がひとつの目安だ。業績の安定性や将来性が高い企業では、さらに高い倍率が採用されるケースもある。

一方で、企業の保有資産から計算する方法では、「純資産額+資産の含み益の50%+2~3年分の営業利益」などが基準とされている。実際の算出方法はケースによって大きく異なるため、これらの数値はあくまで目安として認識しておきたい。

Q7.M&Aの減税措置とは?

M&Aの減税措置とは、株式購入などのために費やした資金の一部を損金算入できる制度である。正しくは「経営資源集約化税制」と呼ばれており、設備投資や雇用確保、準備金の積立なども減税の対象に含まれる。

特に買い手にとってはメリットが大きい制度であるため、M&Aの実施前には概要をしっかりと確認しておきたい。

Q8.M&Aの減税措置はいつから?

M&Aの減税措置は、2021年8月2日から申請受付が開始された。中小企業のM&Aに関しては、「設備投資減税」「雇用確保を促す税制」「準備金の積立」の3つの措置が用意されており、中小企業庁の公式サイト上で税制の手引や概要が紹介されている。

なお、M&Aに関する制度は頻繁に見直されているため、計画を立てる前には最新の情報をチェックしておきたい。

最適な方法を見極めるために、専門家に相談することも検討しよう

中小企業はM&Aに取り組むことで、現在抱えているさまざまな問題を解決できる可能性がある。ただし、今回解説したようにM&Aにはメリットがある反面で、注意しておきたいデメリットやリスクも潜んでいるため、計画を立てずに安易に行動を始めるべきではない。
M&Aを成功させるには、多方面への影響をしっかりと予測した上で、最適な方法を見極めることがポイントだ。そのためには、ある程度の専門知識を身につけておく必要があるので、実際のM&Aでは専門家に頼るケースが多い。
M&Aに興味を持ち始めている経営者は専門家に相談することも考えながら、慎重に計画を立てるようにしよう。

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