M&A,中小企業,メリット
(写真=PIXTA)

中小企業が抱えるさまざまな問題を解決する手段として、近年「M&A」が注目されている。ただし、M&Aは多方面に影響を及ぼすので、安易に実施を決めるべきではない。M&Aを検討中の経営者は、これを機に概要や基礎知識をしっかりと身につけておこう。

M&Aとは?

M&Aは「Mergers and Acquisitions」の頭文字を取った言葉であり、直訳では「合併と買収」を意味する。この直訳の通り、2社以上の合併や吸収、資本による買収も当然M&Aに含まれるが、広義の意味では以下のようにさまざまなものが含まれるため注意しておきたい。

M&Aに含まれるもの(広義)具体的な内容
【1】買収株式譲渡や事業譲渡
【2】合併新設合併や吸収合併
【3】分割新設分割や吸収分割
【4】業務提携販売提携や技術提携、生産提携など
【5】資本提携資本参加や相互保有

つまり、何らかの企業戦略によって会社の形態が変わる場合は、広義の意味でM&Aに含まれる可能性があるだろう。ちなみに上記【1】~【3】は「経営統合」、【4】~【5】は単に「提携」と呼ばれることもある。
もともとM&Aは、主に海外企業が企業戦略として活用していた手法だ。近年では日本にもその考えが浸透してきており、企業が抱えるさまざまな課題・問題を解決するために、上記のように多様な形式で実施されている。
M&Aと言えば、中には大企業の「敵対的買収」をイメージする経営者もいるだろう。しかし、日本国内では友好的買収が圧倒的に多く、中小企業がM&Aに取り組むケースも増えてきている。
実際にM&Aが中小企業の救いの手になる事例は多く、今後さらにM&Aの重要性が高まる可能性も十分に考えられるため、中小経営者はこれを機に正しい知識を身につけておくことが重要だ。

M&Aはなぜ注目されている?現状と背景をチェック

国内で実施されているM&Aの件数は、2010年~2017年まで右肩上がりで伸びている。さらに、中小企業のM&Aを手がける大手3社の成約件数も伸びていることから、世の中の中小企業がM&Aに目を向け始めていることがわかる。
では、なぜ現代になってM&Aが注目され始めたのだろうか?主な要因としては、以下の点が挙げられる。

・主に後継者不足など、中小企業が抱える問題点の解決策になる
・買い手と売り手のお互いにメリットが生じるケースが増えたことで、M&Aのイメージが向上した
・M&Aを実施しやすい環境が徐々に整いつつある

特に2000年以降には会社法が見直される、公正なルール作りへの取り組みが実施されるなど、M&Aを支援・促進する動きが社会全体に広がった。現在ではM&Aを仲介する企業やアドバイザーも多く見られ、そのような専門家に中小企業が相談するケースも珍しくない。
このようなM&Aを支援・促進する動きは、今後もさらに拡大すると考えられている。中小企業にとっては、M&Aにより取り組みやすい環境が整えられる可能性があるため、こまめに情報を確認しておきたいところだろう。

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中小企業がM&Aを行う主な目的

中小企業がM&Aをする場合、一般的には売り手側の立場に回ることが多い。では、会社や事業を売却する中小企業は、具体的にどのような目的でM&Aを実施しているのだろうか?
数ある目的の中でも、以下では特に重要なものを紹介していこう。

【目的その1】後継者不足を解決するため

近年M&Aの注目度が大きく上昇したのは、「後継者不足を解決できるから」と言っても過言ではない。後継者不足に悩まされている中小企業は非常に多く、そんな会社を存続させるためにM&Aが実施されているのだ。
たとえば、後継者が見つからないまま経営者が倒れてしまえば、その会社は一気に窮地に立たされてしまう。また、仮に後継者の候補となる人物がいたとしても、株式の承継に伴うコストや税負担によって、事業承継を断念してしまうケースも多い。
このような問題に直面している企業にとって、M&Aは救いの手となり得る。買い手が見つかれば後継者問題が解消される上に、経営者の手元に売却益が残る点も大きなメリットとなる。

【目的その2】従業員の雇用を守るため

中小経営者のなかには、これまで会社を一緒に支えてきた従業員を家族のように考えている方もいるだろう。しかし、後継者が見つからないまま経営者が引退すれば、多くの従業員は路頭に迷ってしまう可能性がある。
また、仮に後継者が見つかっていたとしても、事業承継をきっかけに経営が傾いてしまうかもしれない。後継者となる人物に必ずしも経営能力が備わっているとは限らないため、安易に事業承継を進めるべきではないのだ。
その点、M&Aによって経営地盤が安定した企業に買い取ってもらえば、従業員の雇用も守られるため安心できる。ただし、雇用条件が変わることで従業員が戸惑う恐れもあるので、各従業員の処遇については事前協議でしっかりと固めておくことが重要だ。

【目的その3】不採算事業を整理するため

不採算事業とは、マイナス収支の赤字事業のこと。不採算事業を抱えている中小企業は、その事業の赤字が大きな負担となり、どうしても経営が伸び悩んでしまう。
そのため、中小企業が不採算事業から撤退することも珍しくないが、すべての不採算事業に成功の可能性がないわけではない。たとえば、生産性を向上させれば採算がとれる事業になるものの、その資金を用意できないようなケースもあるだろう。
このように何らかの魅力がある事業については、M&Aの買い手が見つかる可能性がある。仮に買い手が見つかれば、経営者の手元には事業の売却益が残るうえに、ほかの事業に集中する環境も整えられる。
つまり、M&Aは「不採算事業を整理する」という企業戦略として実施されることもあるのだ。自社にとっては不採算事業であっても、ほかの企業から見れば魅力的な事業になる可能性がある点は、しっかりと覚えておきたい。

M&Aで特に押さえておきたい3つの手法

前述の通り、広義の意味でのM&Aにはさまざまな手法が含まれる。ただし、日本国内で主に活用されている手法としては、「株式譲渡・事業譲渡・会社分割」の3つが挙げられるだろう。
そこで以下では、この3つの手法の概要と特徴を詳しく解説していく。手法による特徴や目的の違いを、しっかりと押さえていこう。

1.株式譲渡

株式譲渡は、売り手が保有している自社株式を売却することで、買い手に会社の経営権を譲渡する手法だ。仕組みが比較的シンプルであり、複雑な手続きも不要であることから、中小企業のM&Aにおいては最も活用されている。
企業の価値次第では多くの売却益を残せるが、株式譲渡では「税金」に特に注意しなければならない。株主が法人の場合は法人税、個人の場合は所得税・住民税が発生し、取引価格によっては税金面で不利になってしまう恐れもあるため、売却額は慎重に検討するべきだろう。
なかでも創業者利潤を目的としている場合には、専門家に相談しながら最適な方法を模索することが重要だ。

2.事業譲渡

事業譲渡は株式譲渡とは違い、会社そのものを売却する手法ではない。譲渡会社が営む事業の全て、もしくはその一部を譲渡する手法であり、中小企業のM&Aにおいては株式譲渡に次いで多く活用されている。
事業譲渡の最大のメリットは、不採算事業のみに絞って整理できる点だ。さらに買い手も必要な事業に絞って買い取れるため、コストを抑えた形で事業拡大や新たな市場への進出を狙える。
ただし、事業譲渡は株式譲渡に比べると手続きが複雑であり、多くの手間と時間がかかる点は軽視できない。具体的には、資産・債務の移転手続きや株主総会による特別決議などが必要になる。
この点が大きなハードルとなり、事業譲渡になかなか取り組めないケースは珍しくない。特にスピードが求められるようなケースでは、事前にしっかりと計画を立てておく必要があるだろう。

3.会社分割

会社分割は事業に関して有する権利・義務を、別の会社に承継させる手法だ。既存の会社に承継する場合は「吸収分割」、新たに設立する会社に承継する場合は「新設分割」として区別されている。
会社分割では事業をまとめて移転するため、契約をはじめとする複雑な要素もシンプルに継承できる。そのため、事業譲渡よりも確実なM&Aの手法として活用されるケースが多い。
ただし、その一方で不要資産や簿外債務など、マイナスの要素も承継されてしまう点は軽視できないポイントだ。したがって、上記の株式譲渡や事業譲渡に比べて、必ずしも優れている手法とは言えない。

>>事業譲渡と会社分割について詳しく知りたい方はこちら

メリットデメリット
1.株式譲渡・仕組みがシンプルであり、手続きもそれほど難しくない・取引価格によっては、税金面で不利になってしまう
2.事業譲渡・不採算事業のみを整理できる・手続きが複雑であり、実施までに多くの手間や時間がかかる
3.会社分割・事業譲渡に比べると、手間や時間を抑えやすい・不要資産や簿外債務など、マイナスの要素も承継されてしまう

上記の通り、M&Aは手法によって特徴が大きく異なるため、目的に応じて手法を変えることが重要だ。
たとえば、創業者利潤を目的としている場合は「株式譲渡」、コア事業に集中したいときは「事業譲渡」が適した手法となるだろう。その一方で、特定の事業に関して組織再編をしたい場合には「会社分割」を選ぶ必要がある。
ほかにもM&Aにはいくつかの手法があり、M&Aを実施する目的は企業ごとに大きく異なる。したがって、M&Aを検討中の経営者は目的を明確にしたうえで、その目的に最適な手法をしっかりと見極めるようにしよう。

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買い手側から見たM&Aのメリット・デメリット

ここからはM&Aの各手法ではなく、全ての手法に関連する内容を解説していく。M&Aを実施するメリット・デメリットは、買い手側・売り手側のどちらの立場に該当するかによって変わってくる。
そこでまずは、買い手側から見たM&Aのメリット・デメリットを解説していこう。以下で解説する内容は、買い手側の企業を探す際に役立つ知識となるので、売り手側の企業もしっかりと理解しておくことが大切だ。

買い手側に発生するメリット

買い手側の最大のメリットとも言える点が、必要な経営資源をスピーディーに獲得できることだ。経営資源を新たに作り出す場合、設備はもちろん知識・ノウハウを持った従業員も用意する必要があるため、多くの時間を費やすことになる。
その点、M&Aでは資金面のコストだけで経営資源を獲得できるので、従業員を1から見つけたり育てたりする必要がない。そのため、特に市場の変化が早いような業界では、経営資源を迅速に確保できるM&Aが重宝されることもある。
また、既存の事業と新たな事業の融合によって、「シナジー効果」を期待できる点も大きなメリットだろう。シナジー効果とは、複数の企業・事業を組み合わせることで、単体で得られる以上の成果を得られることだ。
この解説だけでは少し分かりづらいため、以下では具体的な例をひとつ挙げてみよう。

〇シナジー効果の例
あるバス会社がM&Aによって、近くにあるテーマパークを買収した。
買い手側の企業はより大きな収益を上げるために、駅からテーマパークまで運行するバスの路線を新たに開通。
交通の便が良くなった結果、テーマパークに訪れる人がどんどんと増えていき、バスとテーマパークの両方の事業の売り上げが向上した。

シナジー効果による恩恵は、想定以上に大きいこともある。事業の組み合わせ次第では、利益が何倍にも伸びる可能性があるため、シナジー効果を狙ってM&Aを実施する例も多い。

買い手側に発生するデメリット

簿外債務や偶発債務など、想定外の費用が発生する恐れがある点は買い手にとって軽視できないデメリットだ。引き継ぐ資産を指定できる事業譲渡では問題ないが、それ以外の手法でM&Aを進めると、売り手側のさまざまなマイナス要素を引き継ぐ恐れがある。
一般的なM&Aでは、この点を防ぐために「デューデリジェンス」が実施されている。デューデリジェンスとは、売り手側の資産状況を詳しく調査することだ。デューデリジェンスを実施すれば確実性は高まるが、当然実施するためのコストや時間がかかってしまう。
また、シナジー効果を得られない可能性がある点も、事前に注意しておきたいポイントだろう。仮にシナジー効果を織り込んで計画を立てていた場合は、M&Aにかかった費用が無駄になってしまう恐れがある。

売り手側から見たM&Aのメリット・デメリット

次は、売り手側から見たメリット・デメリットを確認していこう。将来的にM&Aによる会社・事業売却を検討している場合は、以下のメリット・デメリットをしっかりと意識した上で、慎重に計画を立てることが重要だ。

売り手側に発生するメリット

M&Aの売り手側に発生するメリットは、創業者利潤の獲得だけではない。特に近年注目されているのは、「事業承継問題を解決できる」というポイントだ。
M&Aでは外部から次期経営者を探すため、身内で後継者を見つけたり育てたりする必要がない。あらかじめ経営スキルを備えており、かつ事業のノウハウも持った買い手が見つかれば、売り手側が抱える事業承継問題は一気に解決される。
また、前述でも解説した企業を存続できる点、従業員の雇用を守れる点なども、中小経営者が確実に押さえておきたいメリット。特に経営地盤が安定している買い手が見つかれば、企業や従業員の生活を今よりも安定させられる可能性がある。

売り手側に発生するデメリット

売り手側にさまざまなメリットが生じるM&Aだが、必ずしも買い手が見つかるわけではない。買い手側も資金を無駄にすることはできないため、何かしらの魅力がある企業・事業にしか興味を示さないのだ。
仲介会社を利用する手もあるが、それでも買い手を見つけられないケースは多く存在する。また、仮に買い手の候補が見つかったとしても、交渉が決裂する可能性もゼロではない。M&Aではこのような状況に陥ると、売り手側もコストや時間を無駄にしてしまう恐れがあるのだ。
また、労働条件や企業文化が変わることで、従業員のモチベーションが低下する可能性も軽視できない。そのため、従業員とも事前にしっかりと話し合い、各従業員が納得できる形でM&Aを進める必要があるだろう。

メリットデメリット
買い手(譲受企業)・必要な経営資源をスピーディーに獲得できる
・シナジー効果を期待できる
・想定外の費用が発生する恐れがある
・デューデリジェンスの実施にコストや時間がかかってしまう
・必ずしもシナジー効果を得られるわけではない
売り手(譲渡企業)・創業者利潤を獲得できる
・会社を存続させられる
・従業員の雇用を守れる
・必ずしも買い手が見つかるわけではない
・従業員のモチベーションが低下する恐れがある

上の表は、ここまで解説したメリット・デメリットをまとめたものだ。M&Aには、買い手・売り手の双方に魅力的なメリットがあるものの、深刻なリスクにつながるデメリットも潜んでいるため、どちらの立場でも慎重に計画を立てる必要がある。
また、売り手側は従業員や取引先など、多方面に影響を及ぼす恐れがあるため注意しておきたい。創業者が利益を得て終わりではなく、従業員や取引先の今後をきちんとカバーする必要があるので、さまざまな準備が必要になる点はきちんと理解しておこう。