M&A
(画像=PIXTA)

M&Aには多くのプロセスがあり、すべての工程が成否を左右する。そのポイントを押さえながら各プロセスを丁寧に進めることが、M&Aを成功させる近道だ。今回はM&Aの流れとポイントを徹底的にまとめたので、検討中の経営者はひとつずつ確認していこう。

目次

  1. M&Aの準備フェーズの流れとポイント
    1. 1.目的の明確化
    2. 2.M&A仲介会社やM&Aアドバイザーの選定
    3. 3.各種契約の締結
    4. 4.資料の提供とノンネームシートの作成
  2. M&Aの交渉フェーズの流れとポイント
    1. 1.相手企業の選定と、ノンネーム資料の提供
    2. 2.ネームクリア
    3. 3.トップ面談
    4. 4.条件交渉
  3. M&Aの契約フェーズの流れとポイント
    1. 1.基本合意契約・秘密保持契約の締結
    2. 2.デューデリジェンスの実施
    3. 3.交渉・最終譲渡契約の締結
    4. 4.クロージング
  4. 売り手と買い手でM&Aはどう変わる?双方の流れをひと目でチェック
  5. クロージング後に潜むリスクとは?リスクへの対策も解説
    1. 具体的なリスクについて
  6. 各プロセスのポイントを押さえて、綿密なM&A計画を

M&Aの準備フェーズの流れとポイント

M&Aの流れは、自社が「買い手・売り手」のどちらの立場になるかによって異なる。基本的に中小企業は、後継者不足などを解消するために売り手になることが多いので、まずは売り手側の一般的な流れから解説していく。

まずは、M&A全体の方向性を決定づける「準備フェーズ」についての解説だ。準備フェーズがM&Aの成功を左右するケースも珍しくないので、各プロセスの概要やポイントをしっかりと押さえていこう。

1.目的の明確化

企業にとってM&Aは、目的を達成するための「手段」に過ぎない。この目的にブレが生じると、途中から方向性にズレが生じたり、最終的な目標を達成できなくなったりするため注意が必要になる。

したがって、まずは会社に潜んでいる課題を突きとめて、「M&Aの目的」を明確にする必要がある。設定した目的については、M&Aに携わるチーム全体にもしっかりと共有し、M&Aをスムーズに進めるための体制を整えておこう。

2.M&A仲介会社やM&Aアドバイザーの選定

M&Aの目的を明確にしたら、次は「専門家選び」の工程へと移る。なかには自力でM&Aを進めるケースもあるが、M&Aではさまざまなプロセスで専門知識が求められるため、M&A仲介会社やM&Aアドバイザーなどの専門家に頼る方法が無難だ。

なお、専門家によって得意とする業種や規模、エリアなどは異なるので、「自社がどのような形のM&Aを望んでいるのか?」を意識しながら、その形を得意とする専門家を選ぶことが重要になる。

3.各種契約の締結

信頼できる専門家を見つけたら、次は契約を結ぶ工程へと移っていく。締結する契約はケースごとに異なるが、中小企業のM&Aにおいては以下の2つの契約を結ぶ形が一般的だ。

・提携仲介契約…依頼する業者の業務範囲や、報酬を決めるための契約。「FA契約」や「アドバイザリー契約」とも呼ばれる。
・NDA…情報漏えいを防ぐ目的で締結される、機密情報に関する契約のこと。「秘密保持契約」とも呼ばれる。

会社に関する機密情報を多く取り扱うM&Aでは、NDAの締結は必要不可欠とも言える。もし契約内容にNDAが含まれていない場合には、相談先に対してきちんと確認を取っておきたい。

4.資料の提供とノンネームシートの作成

次はM&Aのスキームや方向性を決定するために、依頼先(※以下、仲介会社として解説)に対して自社の資料を提供する。この資料を受け取った仲介会社は、その内容をもとに「ノンネームシート」と呼ばれる資料を作成する。

ノンネームシートとは、売り手企業の概要や希望条件をまとめた資料のことだ。この資料は買い手企業に提供される形となるが、すべての情報が抽象的に記載されているので、ノンネームシートだけで売り手企業が特定されることはない。

したがって、この工程では情報漏えいなどを心配せず、必要な資料をしっかりと依頼先に提供することが望ましい。

M&Aの交渉フェーズの流れとポイント

M&Aの交渉フェーズでは、契約をする相手企業を選定したうえで、買い手・売り手のお互いの希望条件を煮詰めていく。つまり、交渉フェーズの進め方次第で契約内容は大きく変わってくるため、以下の内容はM&Aの成否を決定づけるプロセスとして認識しておきたい。

では、具体的にどのようなプロセスがあるのか、各工程のポイントと合わせて確認していこう。

1.相手企業の選定と、ノンネーム資料の提供

仲介会社による事業分析や業界調査を経たら、いよいよ相手企業を選定する段階へと移っていく。まずは、仲介会社が候補企業をまとめた資料を作成してくれるので、その資料にしっかりと目を通しておこう。ちなみに、このときに仲介会社が作成する資料は、「ロングリスト」や「ショートリスト」と呼ばれている。

ロングリストやショートリストの中から相手企業を絞ったら、次は準備フェーズで作成したノンネームシートを提供し合い、買い手・売り手のお互いが検討を進めていく。この工程で妥協すると、希望条件に合致する相手と契約を結ぶことは難しくなるので、時間をかけて入念に検討を進めることが重要だ。

なお、M&Aの準備フェーズからこのプロセスまでには、短く見積もっても1ヶ月程度の時間を要する。

2.ネームクリア

ネームクリアとは、売り手側が経営に関する重要な情報を、買い手側に対して提供する工程のこと。買い手側は、ノンネームシートだけでは買収するかどうかを判断できないため、売り手側は自社の強みや魅力、経営状況などをしっかりと伝える必要がある。

なお、売却に関する情報が広まると、従業員や取引先に不安を与える恐れがあるので、売り手側はネームクリアのタイミングを慎重に判断することが必要だ。

3.トップ面談

買い手側が買収に興味を示したら、経営者同士が顔を合わせて「トップ面談」を行う。トップ面談は、双方が質問をしながらお互いの意思を確認する工程であるため、M&A成立のカギを握るプロセスと言っても過言ではない。

なお、お互いが納得していない形で次の工程に進むと、双方が後悔するM&Aになりかねないので、トップ面談では徹底的に話し合うことが必要になる。

4.条件交渉

実際にM&Aを進めるには、さまざまな条件面を調整しなければならない。1度のトップ面談ですべての詳細を煮詰めることは難しいので、トップ面談の実施後には改めて「条件交渉の場」が設けられるケースが一般的だ。

このプロセスでは、買収価格や従業員の処遇など、売り手にとって非常に重要なポイントを決めることになる。したがって、望まない形での契約にならないよう、買い手側・売り手側の双方が慎重に交渉を進めなくてはならない。

M&Aの契約フェーズの流れとポイント

M&Aの契約フェーズでは、買い手側と売り手側がさまざまな契約を結ぶことになる。ここまでのプロセスをうまく進めても、契約フェーズで失敗するとM&Aは成立しないため、双方が慎重に物事を進めることが重要だ。

では、具体的にどのようなプロセスがあるのか、以下で詳しくチェックしていこう。

1.基本合意契約・秘密保持契約の締結

M&Aの話がまとまったら基本合意書などの契約書類を用意し、基本合意契約・秘密保持契約を締結する。これらの契約の中でも特に意識しておきたい事項が、「独占交渉権」と「買収価格」の2つだ。

基本合意書の中に独占交渉権が含まれていると、買い手側・売り手側の双方が他社とは交渉できなくなる。また、買収価格の項目に法的拘束力を持たせると、売り手側の経営状態が一変しても買収価格を変えられなくなるため注意しておきたい。

したがって、M&Aが完了するまでに「どんな事態が起こり得るのか?」を意識しながら、法的拘束力を持たせる範囲については慎重に検討をする必要がある。なお、M&Aの動き出しから基本合意契約までには、通常で2ヶ月程度の期間を要するため、スケジュール面を意識しながら計画を立てることも重要だ。

2.デューデリジェンスの実施

デューデリジェンスとは、売り手側に関して「これまでに提供された情報が正しいかどうか?」を判断するために、買い手側がその調査を専門家に依頼すること。仮にデューデリジェンスによって致命的な問題が見つかると、この段階でM&Aが不成立になることもある。

デューデリジェンスは買い手側が実施するものだが、売り手側としても協力的な姿勢を見せることが必要だ。不利な事実の隠蔽や改ざんは、買い手側からの信用を大きく失う結果となるため、求められた情報はきちんと共有するようにしよう。

3.交渉・最終譲渡契約の締結

デューデリジェンスが終了した後には、買い手側・売り手側の間で最終条件の交渉を行う。買収価格や従業員の処遇、支払い方法などの詳細が煮詰まったら、ついに「最終譲渡契約」を結ぶ工程へと移っていく。

最終譲渡契約を締結するともう後戻りはできないため、契約内容は何度も見直す必要があるだろう。ちなみに、買い手側・売り手側の間で交わす契約は、この最終譲渡契約が最後となる。

4.クロージング

最終譲渡契約を締結したら、譲渡対価の決済や、株券・代表印の引き渡しを行う。契約からこの引き渡しまでの工程は、一般的に「クロージング」と呼ばれている。

このクロージングが完了すればひとまず一区切りとなるが、準備フェーズからクロージングまでには早くても4ヶ月~5ヶ月程度の時間を要する。つまり、売り手側はM&Aによる売却を決めたからと言って、すぐに売却益を得られるわけではないので、その点を意識した資金計画やスケジュールを考えておかなくてはならない。

売り手と買い手でM&Aはどう変わる?双方の流れをひと目でチェック

ここまでは売り手側から見たM&Aの流れを解説してきたが、売り手側と買い手側とではM&Aのプロセスに若干の違いがある。そこで以下では、双方のM&Aの流れを簡単にまとめた。

売り手側買い手側
【STEP1】目的の明確化目的の明確化
【STEP2】M&A仲介会社やM&Aアドバイザーの選定M&A仲介会社への個別相談
【STEP3】各種契約の締結(NDAやFA契約など)M&A仲介会社へのニーズ登録
【STEP4】資料の提供とノンネームシートの作成秘密保持契約の締結
【STEP5】相手企業の選定と、ノンネーム資料の提供ノンネームシートの受領・検討
【STEP6】ネームクリアM&A仲介会社との契約
【STEP7】トップ面談
【STEP8】条件交渉
【STEP9】基本合意契約・秘密保持契約の締結
【STEP10】デューデリジェンスの実施
【STEP11】交渉・最終譲渡契約の締結
【STEP12】クロージング

上記を見て分かる通り、トップ面談からクロージングまでの流れはいずれも同じだ。しかし、それ以前のプロセスは順序がやや異なっており、買い手側はトップ面談の直前にM&A仲介会社と契約を結ぶ形になる。

なお、動き出しからクロージングまでの期間については、双方に大きな違いはない。どちらの立場であっても、クロージングまでには早くて半年、長ければ1年以上の期間を要するケースもあるので、M&Aを決めた時点で早めに行動を始めることが重要だ。

クロージング後に潜むリスクとは?リスクへの対策も解説

M&Aのクロージングを済ませた後は、「PMI」と呼ばれる統合業務にあたることになる。実はこのPMIにも思わぬリスクが潜んでいるため、クロージングを済ませたからと言って安心できるわけではない。

具体的なリスクについて

たとえば、事前に想定していなかった形でPMIが進められると、経営環境が大きく変化することにより、従業員が大きな不安を抱く恐れがある。あまりにも不安や不満が募ると、従業員が退職してしまうことも十分に考えられるため、「従業員のケア」は特に意識しておきたいポイントだ。

したがって、クロージングを済ませた後には、買い手側・売り手側の双方が従業員とコミュニケーションを図る必要がある。M&Aの事実を公表するだけではなく、ときには従業員同士でフォローし合える状況を作れるように、経営環境の整備や仕組みづくりにしっかりと取り組んでおこう。

また、M&Aによって市場における力関係が変わると、市場状況にも変化が表れてくる。想定していた状況とかけ離れてしまうと、期待していたシナジー効果が発生しなくなる恐れがあるので、特に買い手側は細心の注意を払わなくてはならない。

さまざまな状況が変化するM&Aでは、常に想定通りの結果が表れるとは限らないので、常に専門家からのフォローを受けられるようにM&A仲介会社のサービス内容も確認しておこう。サービス内容に「アフターM&A」が含まれている仲介会社を選べば、クロージング後のさまざまなリスクに対応できるはずだ。

各プロセスのポイントを押さえて、綿密なM&A計画を

M&Aを成功させるには、ひとつひとつのプロセスを丁寧に進める必要がある。すべてのプロセスが成否を左右するため、動き出す前の段階からきちんと計画を立てておくべきだ。

M&Aを検討している中小経営者は、本記事で紹介した各プロセスのポイントや注意点を意識しながら、慎重に計画を立てていこう。

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)

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