M&A(エムアンドエー)は、後継者のいない会社の出口戦略や、事業拡大や販路拡大を狙う会社の成長戦略として、広く利用されている。今回は、M&Aの基本的な内容を網羅的に解説する。M&Aについて知りたい経営者は、この記事を読み終わる頃には、一通りの知識が身についているだろう。
目次
M&Aとは?
M&Aとは、会社の合併・買収のことだ。英語の「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の頭文字をとって、M&Aと呼ばれている。たとえば、A社がB社を買い取ってB社の事業を継続するケースなどが当てはまる。
M&Aには、敵対的M&Aと友好的M&Aがある。敵対的M&Aとは、買収される側の経営陣に同意がないまま、強制的に買収が実行されることをいう。一時期メディアで頻繁に取り上げられたため、いまだにM&Aというと、敵対的M&Aのイメージを持つ人も少なくない。
しかし、中小企業で行われるM&Aのほとんどは、友好的M&Aだ。友好的M&Aとは、買収される側の経営陣が同意しているケースをいう。売却側としては、友好的M&Aによって会社を売却すれば、売却益が得られるうえに事業を後世に引き継ぐことができる。
中小企業で敵対的M&Aがほとんど起こらない理由は、そもそも上場していなければ強制的に買収することなど不可能だからだ。非上場の会社の場合、株式を保有するオーナーの同意があって初めて契約が成立する。そのため、友好的M&Aしかありえない。
M&Aとは? 目的やメリット・デメリット、成功のポイントまで総まとめ
M&Aが増加している背景
株式会社レコフデータの発表によると、M&A件数は増改傾向にある。日本国内のM&A件数は、20年前の1999年は年間で1,169件、10年前の2009年は1,957件だったのに対し、2019年は4,088件だった。20年でおよそ4倍、10年でおよそ2倍に増加したことがわかる。
M&Aが増加している理由は、売却側・買収側の双方にある。まず売却側としては、後継者不足があげられる。帝国データバンクが発表した2019年の後継者不在率は65.2%だ。およそ1.5人に1人の経営者が、後継者が決まらず悩んでいることになる。
かつては世襲制が一般的だったが、今では親の仕事を継がない選択をする子どもも増えてきている。このような現状を踏まえた時、第三者に会社を売却するM&Aは、後継者不足の効果的な解決策だ。
買収側としては、M&Aによって比較的容易に事業拡大ができることに関心が集まっている。最近では、IT分野をはじめとした進歩の速度が目覚ましく、自社で一からノウハウを蓄積しているうちに時代から取り残されてしまうリスクがある。こうしたリスクの回避策として、M&Aは効果的といえるだろう。
M&Aで会社を売却する3つのメリット
続いて、M&Aで会社を売却する側の3つのメリットを解説する。
商品・サービスを後世に遺せる
自分が興した事業や親から引き継いだ事業が今後も継続していくことは、売却側にとって大きなメリットだ。事業を存続させることは、これまで長年商品やサービスを提供してきた顧客に報いることにもなる。
事業を継続したいけれど親族や従業員の中に後継者が見つからず、八方ふさがりの状況に陥っている経営者は、M&Aによって事業継続の望みを叶えられることがある。
従業員の雇用を守れる
従業員の雇用を守れることも、M&Aのメリットの1つだ。雇用契約は会社と従業員の間で結ばれるため、M&A後も基本的に継続することになる。
廃業となると、従業員は次の就職先を探さなければならない。業種や従業員の年齢によっては、簡単には次の就職先が見つからないこともある。従業員が一家の大黒柱である場合など、経営者にとっては大きな悩みとなるだろう。
長年勤めた従業員の雇用を守りたいと思う一方で、自分自身の体力の衰えやセカンドライフのことを考えると、いつまで事業を続けられるか不安を覚える経営者は多い。しかし、M&Aで会社を売却すれば、従業員の雇用を守りながら、自分は家族と勇退生活を満喫できる。
売却益を得られる
売却価格にもよるが、M&Aによって売却益を得られるのも、売却側の経営者にとって大きなメリットだ。廃業となると、逆に廃業コストがかかってしまう。機械や備品を廃棄したり、不動産を売却したりすると、数百万円単位のコストが発生することもある。
一方M&Aによって会社を売却すれば、会社の売却益を得られる。売却益によっては、悠々自適のセカンドライフを送ることもできるだろう。最近では、売上や利益が下がり始める前の事業が好調なうちにM&Aを行い、多額の売却益を得る経営者もいる。売却益のことを考慮して、M&Aのタイミングを決めるのも1つだろう。
M&Aで会社を買収する2つのメリット
続いて、M&Aで会社を買収する側の2つのメリットを解説する。
成長スピードが上がる
M&Aの買収側のメリットは、よく「時間を買う」と表現される。新規事業を立ち上げたり、販路を拡大したり、特定の技術に関してノウハウを蓄積したりするには、数十年単位の時間がかかることも少なくない。しかし、M&Aで事業や販路、技術力やノウハウを持つ会社を買収すれば、時間短縮ができる。
事業の成長や会社の拡大にかかる時間をお金で買えることが、買収側にとってのM&Aの大きなメリットだ。
シナジー効果が得られる
M&Aによって、シナジー効果が狙えることがある。A社が行うA事業の利益が3、B社が行うB事業の利益が2とする。M&AでA社がB社を買収した場合、A社の利益は「3+2」の5だと思えるかもしれない。しかし、双方のノウハウを吸収したり、顧客リストを共有したりすることで、「3×2」の6という利益をあげられる可能性がある。
数字をもとに簡略化して説明したが、実際にシナジー効果によってM&A後に飛躍的に事業が成長した事例は数多くある。買収候補先を探す際には、自社の事業とのシナジー効果に注目するようにしたい。
M&Aのデメリット
うまく活用すればメリットの多いM&Aだが、当然デメリットもある。まず、希望通りの売却候補先・買収候補先がなかなか見つからない可能性がある。
こればかりはどんな条件を提示するか、どんな業種業態かによって変わってくるうえに、運の要素も強い。ほんの数ヵ月で希望通りの候補先が見つかりトントン拍子でM&Aが進むケースもあれば、数年かけて探しても候補先が見つからないケースもある。
大切なのは、早めにM&Aについて学び、適切なタイミングを見極めて行動に移すことだ。
M&Aの種類を解説
M&Aには、主に株式譲渡と事業譲渡という2つの方法がある。続いて、それぞれの特徴について解説する。
株式譲渡とは
株式譲渡とは、売却側の会社の株式を、買収側の会社が買い取るというM&Aの方法だ。
A社がB社を買収する場合、B社の株式を取得することで、B社の資産や従業員、事業をすべてA社が引き継ぐことになる。B社の経営者は株式を売却して勇退し、その後はB社と直接の関係はなくなる。中小企業が後継者不足の解決策としてM&Aを選択する場合、ほとんどがこのケースだ。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、売却側の会社が行う特定の事業だけを、買収側の会社が買い取るというM&Aの方法だ。
A社がB社の特定の事業を買収する場合、B社の特定の事業に関する資産、従業員、商品等をA社が引き継ぐことになる。事業譲渡後も、B社は存続する。買収側としてはピンポイントで必要な事業を買い取れるメリットがあり、売却側としては事業譲渡で得た収益を他の事業に回せるというメリットがある。
M&Aの一般的な流れとは?各プロセスのポイントや、クロージング後の注意点まで詳しく解説
M&A(エムアンドエー)を成功させる秘けつ
M&Aを成功させるには、「粘り強く取り組むこと」「慎重に進めること」の2つが大切だ。
実際に候補先探索をスタートしたり、トップ面談を経て条件交渉に移ったりすると、なかなか思い描いた通りに進まないことも少なくない。しかし、そこであきらめてしまったり投げ出したりしては、M&Aは成立しない。
「なぜM&Aをしようと思ったか」という目的を忘れず、粘り強く取り組むことが大切だ。
M&Aでは少しの気のゆるみが大きなトラブルを招いてしまう可能性がある。たとえば、事前に家族に相談せずにM&Aの候補先を探し始めたことで、子どもとの間に深い亀裂が入ってしまったケースもある。また、M&Aを考えていることが従業員に知られてしまい、集団離職につながったケースもある。
M&Aを進める際には、家族と事前によく相談し、情報漏洩には細心の注意を払うことが大切だ。
政府もM&Aを後押ししている
利益の出ている会社や、すばらしい技術力を持つ会社が、後継者不足により廃業を余儀なくされる。これは日本社会にとっても、大きな損失だ。そのため、政府も中小企業庁を中心として、事業承継ガイドラインを定めたり後継者人材バンクを創設したりして、M&A支援に努めている。
今後はますますM&Aが活発化すると予想されるので、自分が持つ会社の出口戦略として、事業を発展させる成長戦略として、積極的にM&Aを活用するようにしたい。
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文・木崎涼(フィナンシャルプランナー・M&Aシニアエキスパート)