県内随一の濃い泉質と割安な料金で根強い人気 業務の積極的なICT化により来客数増に対応 あいまがわ温泉(群馬県)

目次

  1. 市民農園が母体 総合温泉宿泊施設に衣替え ログハウスや天文台も運営 専任となった関社長が経営改革推進
  2. 相間川温泉は、イオン濃度が高い塩化物強塩泉で県内随一と言われる泉質 体を芯から温める効能に根強いファンを獲得
  3. コロナ禍で一時は売上ゼロ 「宝」である泉質と地元山菜や天日干しのコメを使った料理と割安な宿泊料金で経営危機乗り越える
  4. 人手不足補うために2024年から本格的なICT活用 認知度向上へPRを強化 2025年3月は前年同月比20%増と来客増に効果発揮
  5. 2024年にPOSレジをリニューアルし入力作業のミス撲滅 毎日の集計作業時間を短縮 計算し直しも不要になり業務効率大幅に向上
  6. 2027年にはNHK大河ドラマで地元の認知度アップに期待 手軽な基本料金は変えずに特別プラン設定して客単価増にも意欲
中小企業応援サイト 編集部
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関東有数の温泉地、群馬県高崎市のなかでも濃い泉質で異彩を放つ相間川(あいまがわ)温泉株式会社は、宿泊棟を中心に貸し農園やログハウス、天文台も備えており、温泉愛好者や家族連れなど幅広い客層に人気がある。堅実な経営で利用客は増加傾向にあり、ICT活用による業務効率化や顧客情報保護を推進し、小規模でも健全経営と顧客満足度の高い特色ある総合休養施設として認知度アップを目指す。(写真 濃い泉質と料理、割安な料金で多くのファンをつかむ)

市民農園が母体 総合温泉宿泊施設に衣替え ログハウスや天文台も運営 専任となった関社長が経営改革推進

県内随一の濃い泉質と割安な料金で根強い人気 業務の積極的なICT化により来客数増に対応 あいまがわ温泉(群馬県)
関 正代表取締役社長。市議会議員から温泉経営に転身し、経営改革を推進

相間川温泉がある倉渕町は、JR高崎駅から西に約30キロメートル、上毛三山の一つ榛名山の西麓(さいろく)に広がる里山にある。相間川温泉の母体は高崎市などが1995年に開設した市民農園「クラインガルデン」の事務・休息施設だった。高崎市の過疎対策事業の一環で温泉を掘削したところ、地下1000メートルから62度の温泉が湧き出たことから、温泉施設が主体の事業体に転換した。

株式会社群馬銀行や高崎市倉渕商工会など地元の企業・団体の出資を得て、1997年に「相間川温泉株式会社」として再スタートした。関 正代表取締役社長は元高崎市議会議員で、同じ倉渕町にある「はまゆう山荘」の理事長を務めていたが、前任社長から要請されて2016年5月に社長を兼任。2024年6月には理事長を退任して相間川温泉の経営改革に全力で取り組んでいる。

関社長は「設立後は温泉ブームもあって、日帰り温泉も人気で利用客が増え続けた。日帰り温泉は毎日200人以上いた」と当時の盛況ぶりを振り返る。相間川温泉は、温泉宿泊施設「ふれあい館」を中心に、クラインガルデン、グループ向けのログハウス、くらぶちこども天文台(委託運営)を一体経営している。

県内随一の濃い泉質と割安な料金で根強い人気 業務の積極的なICT化により来客数増に対応 あいまがわ温泉(群馬県)
高崎市から運営委託を受けている「くらぶちこども天文台」は30センチ反射望遠鏡で昼間でも天体観測ができる。天文課の武井課長、鈴木主任によると「子どもだけでなく大人の利用も多い」という

相間川温泉は、イオン濃度が高い塩化物強塩泉で県内随一と言われる泉質 体を芯から温める効能に根強いファンを獲得

県内随一の濃い泉質と割安な料金で根強い人気 業務の積極的なICT化により来客数増に対応 あいまがわ温泉(群馬県)
県内随一の塩化物強塩泉で、温泉成分が体に浸透しやすい

相間川温泉の泉質はナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのイオン濃度が突出して高いのが特徴で、源泉が62度の塩化物強塩泉だ。体の塩分濃度などより温泉成分が濃い高張性中性高温泉(湯1キログラムに10グラム以上の温泉成分)で、温泉成分が体に浸透しやすい県内随一の泉質だ。同様の泉質としては有馬温泉(兵庫県)が知られている。塩分を多く含むため体を芯から温めて湯冷めしにくく、冷え性等の改善に効果を発揮する

「源泉は無色透明だが鉄分や土成分が含まれるため、浴槽では少し赤茶けた黄土色に変色するのが、当館の源泉の特徴であり、掛流しの温泉です」と大川原順子副支配人は話す。

従業員が考えた標語「カップラーメン お湯を注いで3分 相間川の温泉(おゆ)入っても7分 これ以上は“のびる”だけ(※麺が伸びることにかけた表現)」が脱衣所などに貼られている。実際、通常の温泉に比べて体を温める効果は高く、長湯は要注意だ。

コロナ禍で一時は売上ゼロ 「宝」である泉質と地元山菜や天日干しのコメを使った料理と割安な宿泊料金で経営危機乗り越える

県内随一の濃い泉質と割安な料金で根強い人気 業務の積極的なICT化により来客数増に対応 あいまがわ温泉(群馬県)
コロナ禍を乗り越えて黒字経営に立て直した

2021年から新型コロナ感染症拡大による利用者減によって「経営の最大のピンチ」(関社長)に直面した。経営譲渡や廃業する同業者も少なくない中、相間川温泉も40日間の営業停止を余儀なくされたが、高崎市や金融機関の支援を受けたり、従業員大幅削減などの大ナタを振るってなんとか経営を維持してきた。

「就任5年で赤字を解消したが、その後のコロナ禍で売上ゼロ状態の経営危機を乗り越え、現在の経営指数を表わすBSシートは大幅に改善されました」(関社長)

「泉質が宝」(同)と話す温泉と有名温泉に比べて割安な利用料金、さらに一流料亭出身の料理人を招いて力を入れた料理がファンをつなぎとめてきたからだ。

地元で採れたキノコや山菜などを生かした釜めしは相間川温泉の名物になっているが、地元産の天日干ししたコメを目当てに食事に来るグループ客や宴会利用も多いという。

人手不足補うために2024年から本格的なICT活用 認知度向上へPRを強化 2025年3月は前年同月比20%増と来客増に効果発揮

県内随一の濃い泉質と割安な料金で根強い人気 業務の積極的なICT化により来客数増に対応 あいまがわ温泉(群馬県)
木のぬくもりがある吹き抜けの食堂・休息スペース

売上比率は宿泊(和室10部屋)が50%を占め、日帰り温泉と宴会・会食・お土産販売、ログハウス(6棟)で50%だが、2025年3月末までの年間宿泊者数は4500人、日帰り温泉利用者数は5万人でいずれも10%伸びたという。「2025年に入って、2月は(前年同月比)35%増、3月は20%増と大幅に増えています」(大川原副支配人)

地元紙への広告やフリーペーパー活用、温泉ライターによる評価など「認知度向上の取り組みが効果を上げてきた」(関社長)とみている。

しかし、現在の従業員はパートを入れて26人と、客足の伸びに対して人手不足も課題となっている。「ただ、従業員を増やすと売上規模も大きくしなければならず、多ければいいというものでもない」(同)という悩ましい状況を打開するため、2024年からICT活用による業務効率化や顧客情報保護に本腰を入れ始めた。

といっても、相間川温泉では20年ほど前からシステム支援会社のサポートでパソコンを利用して顧客管理システムや給与計算システムを利用してきた。大川原副支配人は「手書きだった計算作業が自動的に計算されるので格段に楽になったし、電話を受けながら顧客データを見られるようになったので、ベッドが必要な人だとか食事のお好みもわかるようになりました」と導入当初の利便性向上について説明する。

2024年にPOSレジをリニューアルし入力作業のミス撲滅 毎日の集計作業時間を短縮 計算し直しも不要になり業務効率大幅に向上

県内随一の濃い泉質と割安な料金で根強い人気 業務の積極的なICT化により来客数増に対応 あいまがわ温泉(群馬県)
POSレジのリニューアルによって、集計時間が短縮されたうえミスがなくなり作業効率は格段に向上した

2024年には新たにフロントに多機能POSレジを導入したことで課題だった業務効率が目に見える形で改善された。営業項目ごとにタッチパネルを押すだけなので入力ミスがなくなり、週単位や1日単位の利用者数、売上高も項目選択だけで自動集計できるため、集計作業の手間が格段に短縮した。

「毎日午後6時半にレジを閉めて、8時過ぎまで集計していましたが、いまは7時には終わっています」(大川原副支配人)。しかし、最も大きな効果は「ミスがなくなって、再計算などの確認作業が格段に減り、生産性が高まった」ことだ。

顧客情報の漏洩(ろうえい)防止のためのセキュリティ対策にも万全を期した。UTM(統合型脅威管理)によるコンピューターウイルスなどの侵入阻止を行うとともに、万が一侵入されても、ウイルスプログラムによる外部への不正通信を遮断して情報漏洩を防止するシステムを導入。顧客データなどの“情報の盗難”を完全に防ぐ措置を講じた。

オプションを含めた投資負担は小規模な施設には軽くはなかったが「お客様に安心してもらうために万全な対策が必要と考えました」(大川原副支配人)と顧客第一主義で判断した。顧客の利便性向上のためWi-Fiも早くに導入。2022年にはログハウスにも設置した。次の課題は予約システムのデジタル化だ。

パソコン画面で客室の図面を開きながら顧客情報を表示させることで、短時間で最適な空室情報を提供することが可能になる。「今の予約受付を抜本的に変えるには見やすさや操作性も十分配慮したい」(同)と使う人の立場に立ってシステムを検討中だが、少数精鋭で業務効率と顧客満足度を向上させるためには早急な対応が求められる。

2027年にはNHK大河ドラマで地元の認知度アップに期待 手軽な基本料金は変えずに特別プラン設定して客単価増にも意欲

県内随一の濃い泉質と割安な料金で根強い人気 業務の積極的なICT化により来客数増に対応 あいまがわ温泉(群馬県)
予約システムのデジタル化も課題となっている

来客数は少しずつ伸びているが、相間川温泉や倉渕町の認知度がさらに高まり、来客数が一挙に増加する可能性も出てきた。2027年に放送されるNHK大河ドラマ『逆賊の幕臣』では、横須賀の造船所建設などわが国の近代化に貢献し“明治の父”といわれた小栗上野介忠順(おぐりこうずけのすけただまさ)が主人公だ。小栗は、新政府誕生により職を解かれ領地の倉渕町に移住したが無実の罪を着せられて命をおとす。地元では英雄として慕われている人物だ。

2026年には撮影も始まるため、地元では早くも盛り上がりをみせており、ブームに乗って倉渕町・相間川温泉の認知度を一挙に高めたいところ。関社長は「ウナギや地元の名産の桃など小栗の好みを取り入れた“小栗プラン”を考えたい」と笑う。

燃料やサプライ用品などの高騰で5月1日には宿泊料金を1,000円値上げしたが、「1泊2食で1万1,000円から利用できる割安感を変更するつもりはない」(関社長)。基本システムは変えずには小栗プランなど集客力のある新プラン設定による客単価増とICT活用の拡大で収益増に期待を寄せている。

企業概要

会社名相間川温泉株式会社
本社群馬県高崎市倉渕町水沼27
HPhttp://aimagawa.co.jp/
電話027-378-3834
設立1997年6月
従業員数26人
事業内容宿泊施設、日帰り温泉、貸し農園、天文台