敵対的買収
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国内の敵対的買収の例は少ないとは言え、相手企業との関係性によっては起こる可能性がある。そこで本記事では、敵対的買収の基礎知識や事例、仕掛けられやすい企業の特徴をまとめた。M&Aの知識を深めたい経営者は、しっかりと傾向と対策を押さえていこう。

目次

  1. 敵対的買収とは?
  2. 敵対的買収の目的
    1. 1.経営権の獲得
    2. 2.株式の回収
  3. 日本における敵対的買収の成功事例と失敗事例
    1. 敵対的買収が成立した事例
    2. 敵対的買収が不成立に終わった事例
  4. (結論)日本における敵対的買収は失敗しやすい
  5. 敵対的買収の標的になりやすい企業の特徴
    1. 1.総資産額に対して株価が割安で、持ち株比率が低い
    2. 2.特許や独自コンテンツを所有している
    3. 3.買収防衛策を導入していない
  6. 敵対的買収についての知識を深め、慎重な対応を

敵対的買収とは?

「敵対的買収」とは、相手企業の合意を得ずに実行する買収のこと。買収対象企業における過半数以上の株式を取得することにより、いわばその企業を「乗っ取る」形を取る強行的な手法だ。

ちなみに、買収の方法には「友好的買収」もあるが、こちらは相手企業の合意を得たうえで実行する買収を意味する。双方が納得した状態でスムーズに買収を進められるメリットがあることから、日本で実施されるM&Aのほとんどが友好的買収によるものだ。

そのため、M&Aを検討しているなかで「敵対的買収はありえない」と考えている経営者もいることだろう。しかし、相手企業との関係悪化によって、あるいは海外企業から仕掛けられるケースもあるため注意しておきたい。

敵対的買収の目的

リスクが大きい印象がある敵対的買収だが、成功すれば買収側には大きなメリットが生じる以下では、敵対的買収が行われる主な2つの目的をチェックしておこう。

1.経営権の獲得

敵対的買収における最大のメリットといえるのが、買収先企業の合意なしで経営権を獲得できる点である。一方で友好的買収の場合は、合意が得られなければ経営権を獲得できない。

敵対的買収によって強制的に経営権を握ることによって、合意を得なくても買収先企業における組織体制や経営体制の変更に臨める。買収先企業の技術力やノウハウといった良い面を手に入れながら、自社の方針に基づいて経営を進めていけるのだ。

もちろん、友好的買収によって合意のもとで経営権を獲得できるなら、それに越したことはないだろう。しかし、何らかの理由で友好的買収が困難な場合に、敵対的買収を仕掛けることは有効な手段といえる。

2.株式の回収

敵対的買収では、「TOB」という手法を用いることで大量の株式を一度に回収できる。ちなみにTOB(Take Over Bid)とは、あらかじめ株価や株数、期間を公開し、市場を通さずに株式を買い取る行為のことだ。

実は株主によっては、買収先企業の経営方針や株価、配当金などに不満を持っているケースも少なくない。TOBを公表することにより、そのような不満を持つ株主に向けて好条件を提示でき、うまくいけば株式の売却に応じる株主が現れて大量の株式を回収できるのだ。

株式の回収によって持ち株比率が高まれば高まるほど、経営の主導権を握りやすくなる。ただし、株式を大量に回収するには多くの資金を必要とするため、資金力が高い企業ほど敵対的買収は成功しやすい。

日本における敵対的買収の成功事例と失敗事例

日本国内では、相手先企業から反感を買いやすい敵対的買収は海外ほど活発に行われていない。しかし、数は少ないものの、敵対的買収が行われた事例は存在する。

そこで以下では、日本における敵対的買収の成功事例と失敗事例をチェックし、踏み切った経緯や成果について見ていこう。

敵対的買収が成立した事例

まずは、敵対的買収が成立した数少ない事例を紹介する。

・伊藤忠によるデサントへの敵対的買収

2019年3月、伊藤忠商事がスポーツメーカー大手のデサントを相手にTOBを仕掛けた。大手同士の敵対的買収とあって、大きな注目を集めた事例である。

実は両者は1964年頃から業務提携を開始し、伊藤忠はデサントの筆頭株主であるなど協力関係を続けてきた。しかし、デサントの業績悪化をきっかけに経営陣への不信感を募らせた伊藤忠は、デサント経営陣の刷新を目的として敵対的買収を実施することを決断したのである。

デサント側は反発し、ファンドを利用したMBO(目標管理制度)を提案したものの伊藤忠により却下された。その後も協議が続けられたが合意に至らず、結果的にTOBは成立に終わった。

・スカラによるソフトブレーンへの敵対的買収

続いて紹介するのは、2017年3月にスカラがソフトブレーンに仕掛けた敵対的買収の事例である。サイト内検索サービス首位のスカラは、営業支援システムを手掛けるソフトブレーンとの提携によって企業価値を向上させたい狙いがあった。

そこで、スカラは2016年~2017年にかけて段階的にソフトブレーンの株式を取得し、TOBにおける5%ルール(5%を超える割合の株式を取得・保有する際にはTOBを行う義務が生じるというもの)に接触するぎりぎりまで株式の保有率を高めた。さらに、その後一挙に大量の株式を取得することに成功し、敵対的買収が成立した。

敵対的買収が不成立に終わった事例

次に、日本における敵対的買収の失敗事例を3つ紹介する。

・王子製紙が北越製紙に仕掛けた敵対的買収

2006年5月、製紙業を手掛ける王子製紙は同業の北越製紙に対して敵対的買収を仕掛けた。その当時王子製紙は業界首位に位置しており、その座をさらに強化することを目的として実施された事例である。

北越製紙はこの打診に応じず、三菱商事を引受先として新規株を発行する「第三者割当増資」を発表。経営統合ができないように防衛策を投じて対抗した結果、王子製紙はTOBを成立させられず敵対的買収を断念した。

・ライブドアがニッポン放送に仕掛けた敵対的買収

2つめに紹介する敵対的買収は、2005年2月にライブドアがニッポン放送に仕掛けた敵対的買収である。もともとはフジテレビジョンがニッポン放送の子会社化を狙ってTOBを発表したのだが、突如ライブドアとその子会社がニッポン放送の筆頭株主に躍り出て支配を試みた。

するとフジテレビジョンはライブドアに対抗して策を打ち、TOBを成立させた。結果的にニッポン放送の新株予約権の発行が認められず発行を諦めると、ライブドアはニッポン放送の株式取得を停止して敵対的買収は不成立に終わった。

・スティール・パートナーズが明星食品に仕掛けた敵対的買収

3つめに、2006年10月にスティール・パートナーズが明星食品に仕掛けた敵対的買収を紹介する。

スティール・パートナーズはアメリカの投資ファンドで、明星食品の創業者一族や村上ファンドから大量の株式を回収してMBO(のれん分け)を迫った。この提案に明星食品が同意しなかったため、スティール・パートナーズはTOBを仕掛け、結果的に敵対的買収へと発展。

明星食品は同業の日清食品に自社を買収してもらえるよう依頼し、いわゆる「ホワイトナイト」と呼ばれる防衛策によって対抗した。するとスティール・パートナーズは買収を断念し、明星食品は結果的に日清食品の傘下に入った。

(結論)日本における敵対的買収は失敗しやすい

敵対的買収の成功事例・失敗事例をともに紹介したが、日本における敵対的買収の成功確率は非常に低い。もともと日本には「株式持ち合い」の風習があることから、敵対的買収を実施しにくい環境にあることが理由のひとつだ。

また、たとえ敵対的買収を仕掛けても、途中で友好的買収に持ち込んで展開が変わるケースも多く見られる。いずれにしても、リスクが大きい敵対的買収は失敗に終わる傾向があるため、特に仕掛ける側は注意が必要だ。

敵対的買収の標的になりやすい企業の特徴

成功確率が低い敵対的買収は、そう簡単に仕掛けられる手法ではない。とはいえ、「万が一のために対策しておきたい」と考える経営者も多いことだろう。

実は、敵対的買収を仕掛けられる企業には主に3つの共通点がある。以下で紹介する特徴を把握しておくことで、万が一敵対的買収を仕掛けられた場合にも対応しやすくなるだろう。

1.総資産額に対して株価が割安で、持ち株比率が低い

まず注意したいのが、総資産額に対して株価が割安で、持ち株比率が低い企業である。そのような場合は、買収側が敵対的買収における資金を調達しやすいため注意したい。

逆に株価が高くて持ち株比率が高い場合は、敵対的買収を行うために必要な資金のハードルが上がる。大きな資金が必要な買収ほど、失敗したときの損害が大きくなることから、株価が高く持ち株比率が高い企業は敵対的買収を仕掛けられにくいのだ。

2.特許や独自コンテンツを所有している

特許や独自コンテンツなど魅力的な要素を持っている企業は、敵対的買収の対象に選ばれやすい。特に、新規エリアへの参入を狙って敵対的買収を計画している企業にとって、特許や独自コンテンツは大きな武器となりうるためだ。

3.買収防衛策を導入していない

買収防衛策を導入していない企業も、敵対的買収を仕掛けられやすくなる。防衛策は実際に敵対的買収を仕掛けられてから行うイメージがあるかもしれないが、なかには「仕掛けられないように実施する予防策」もあるためぜひチェックしておきたい。

たとえば、敵対的買収を防ぐ主な対策としては以下の方法がある。

・ポイズンピル
既存の株主に新株予約権を発行するなど安い価格での株式取得を促し、買収側の持ち株比率を意図的に下げて回避する方法

・マネジメント・バイアウト
自社の経営陣が株式を買い取って非上場化させ、敵対的買収をするための公開株式買い付けを防ぐ方法

・ゴールデンパラシュート
経営陣を退職させることを目的として敵対的買収が行われないように、経営陣の退職金を高く引き上げて買収を抑止する方法

上記のほかにもさまざまな予防策があるが、買収防衛策を導入することが必ずしも良いとは限らない。たとえば、株価の流動性が下がる、株主や従業員に不利益が生じるなどのデメリットもあるのだ。

そのため、買収防衛策を実施する場合には、そのようなリスクを背負ってでも実施する必要があるのかどうかをしっかりと検討する必要がある。また、株主の合意を得ることや、買収防衛できたあとの経営について具体的に考えておくことなど、事前にきちんと準備を整えたうえで取り入れることが大切だ。

敵対的買収についての知識を深め、慎重な対応を

敵対的買収には経営権を獲得できるなどのメリットがあるものの、相手先企業や株主などから反感を買うリスクが大きい手法だ。そのため日本で実施された事例は少ないが、今後活発化する可能性はゼロではないため注意しておきたい。

本記事で紹介したような敵対的買収に関する基礎知識や注意点をしっかりと把握し、いざというときに経営者としてどう対応するべきなのか、事前に考えておくことが望ましいだろう。

文・THE OWNER編集部

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