巣ごもり需要で大人気~簡単!羽根つき冷凍餃子
コロナ禍でも売れ行き好調なのが冷凍食品。各社こぞってさまざまな商品を出しているが、中でも今、ある冷凍餃子が大人気だ。人気の理由は「そのまま焼けばできるから」。油も水もフタさえもいらないという。凍った餃子をフライパンに並べてから中火で加熱。5分ほど焼いてそのまま皿にひっくり返すと、きれいな「羽根つき餃子」ができあがった。
店のような餃子が簡単に作れる秘密が餃子の底の部分にある。そこに水と油の微粒子や羽根の素となる材料が入っている。これがじっくり溶け出すことで水と油が飛び散らないから、フタが要らない。具材は国産品のみで、香料や保存料なども使っていないという。
この冷凍餃子を作っているのが「大阪王将」。冷凍餃子の市場では業界シェアの3分の1。大手を脅かす存在となっている。
「大阪王将」は中華の飲食チェーンで、今では全国に351店舗を展開している。店でも一番人気は餃子。「メガ盛り餃子」は30個入り1300円(価格は店舗によって異なる。以下同様)だ。
多くのチェーン店は餃子をセントラルキッチンで作っているが、「大阪王将」ではその日に使う分だけ店で職人が手で包んでいる。作り置きだと、具材から水分が染み出して、鮮度が落ちてしまうからだという。さらに「ポイントは早く巻くこと」(「大阪王将」渡部卓也)。「手の温度が餃子に伝わってしまうので、早く巻いて鮮度を保ちます」と言う。
餃子のアンに使われている豚肉、キャベツなど具材は全て国産。中でもニンニクは、餃子に合うものを自社栽培するほどこだわっている。
そんな餃子を、ある店では多い時には1日2400個も作っているという。
「大阪王将」を展開するイートアンド会長・文野直樹(61)。「大阪王将」は、文野の父が「餃子の王将」からののれん分けで始めた店。2代目として中華の有力チェーンに成長させた文野だが、「お客さんは、『大阪王将』と『餃子の王将』の違いがわかっていない人もいます」と言う。
実際、以前は両方とも赤と白がベースの店がまえで、間違える客も多かった。そこで差別化を図るため、「一目見て違ったお店とわかるように、2年前から、黄色いテントの大阪王将に変えました」(文野)。
店内も黄色と赤、黒を基調にして、あえて古臭い町中華風に変えた。すると、リニューアルした店は月の客数、売り上げがともに3割もアップしたという。
「モダンな内装にして間接照明ですっきりさせると一見おしゃれになりますが、中華料理がおいしいと感じるのは、町中華のシーンなんです」(文野)
コロナ禍でも出店攻勢~老若男女の胃袋をつかむ
町中華だから餃子以外のメニューもいろいろあって約70種類。たとえば特製の醤油ダレを使ったチャーハン。チャーシューのかたまりをゴロゴロ乗っけて仕上げた「焼豚炒飯」(780円)が人気だ。「ふわとろ天津飯」(499円)も人気メニュー。「独自に開発した卵がフワトロに仕上がるペーストを使っている」と言う。
出店地域によってメニューも変えている。東京・御徒町駅前店は客の多くが男性のビジネスマン。そんな客に合わせたメニューが「麻辣玉子天国」(970円)。「山椒と辣油を効かせているこの店のオリジナルメニュー」だと言う。
ここはパンチを効かせた味付けとボリュームで働く男の胃袋を掴んでいる店。ほかにもニラレバにソバを入れて炒め、カレー味にした「スパイシーレバーカレー焼きソバ」(995円)なんてメニューもある。
一方、東京・広尾の広尾店は他の店に比べて女性客が多い。女性に向けたオリジナルメニューが、鶏ガラのパイタンスープにヘルシーな鶏肉のチャーシューを乗せ、ネギと生姜でサッパリさせたコラーゲンたっぷりの「葱生姜鶏白湯ラーメン」(754円)だ。
絶好調だった「大阪王将」だが、去年コロナショックが始まると、店の客数が半分近くまで減少。赤字に転落した。だがピンチのさなか、新規店舗の出店攻勢に打って出る。
この日は東京・世田谷の住宅街にある祖師ヶ谷大蔵店のオープン初日。「帰着駅を狙って、住んでいるお客様の多いエリアを中心に出店しています。テイクアウト需要を狙っています」と言う。
コロナ禍で客が減ったのは、ビジネス街や繁華街など、都心部の店。そこで「大阪王将」は狙いを住宅地に定め、ファミリー客やテイクアウト需要に活路を見出そうとしたのだ。出店の狙いは見事に当たった。開店と同時に行列が。定番の餃子はもちろん弁当やおかずなどが持ち帰りできる。
店舗探しから出店決定までたったの2週間。このスピード感で、コロナ以降、ファミリー層の多い住宅街を中心に12店舗を新規オープン。どこも想定の2倍を超える売り上げを記録している。
「高い料理もありなんでしょうけど、それは他の会社さんがされますから。僕らは日常食でお腹いっぱいの幸せを、たくさんの食のシーンを提供していく」(文野)
「餃子の王将」の呪縛から逃れるための奇策
東京・品川区にある「大阪王将」を展開するイートアンド東京本社。その一角にカフェのようなスペースがあり、バーカウンターもある。
「仕事終わりにみんなで軽く飲んだりします。上には昼寝ができるスペースも。ストレスフリーが一番大事だと思います。よくある会社の上司部下の関係ではなく、みんなが横一線でいろいろなアイデアを出しやすいような雰囲気を作りたい」(文野)
イートアンドという社名には、食を通じて楽しさや豊かさを提供しようという文野の思いが込められている。だがかつて、文野自身が食の楽しさを見失っていた時期があった。
今から50年ほど前、文野の父・新造は43歳で脱サラし、親戚が経営する「餃子の王将」で修業を始めた。1969年、のれん分けしてもらった新造は、大阪・京橋にわずか5坪の「大阪王将」を創業。他の料理には手を出さず、餃子一本にこだわった。地元客相手の家庭的な味が口コミで広がり、100店舗をかまえるまでに成長した。
息子の文野直樹は子どものころから家業を手伝い、高校に通いながら16歳で店長を任される。ところが、「餃子店が嫌に思い始めたんです」と言う。
「『餃子』『臭い』と言われて嫌になり、父に『レストランをやろう』と言いました。『餃子の王将』さんも、もっと大きくてきれいな店をやっているじゃないかと。でも父は身の丈が分かっているから『無理だ』と。『それなら自分で商売をさせてくれ』と言いました」(文野)
21歳の文野は大阪を飛び出し愛知県へ。ラーメンやチャーハンも出す中華のファミリーレストランを独自に出店。店は繁盛した。
25歳のとき、父に呼び戻されて「大阪王将」の社長に就任。しかしこの頃、文野はある呪縛にとらわれていた。「『餃子の王将』さんの呪縛。のれん分けから始まっているので、『餃子の王将』と同じ戦い方をするのは嫌だという気持ちを若い時から持っていました。違った成長、違った戦い方をしたい、と」
その「呪縛」から逃れるために文野が決断したのは、「大阪王将」が「モスバーガー」のフランチャイズに加盟することだった。
「当時『マクドナルド』があって、その横に小さな『モスバーガー』があった。『マクドナルド』という大チェーン組織に対して、小さな『モスバーガー』が立派に成長している姿を見て、外食は資本や力では計り知れない、地域密着感や商品で違う戦略があるはずで、勉強する意味で加盟しました。その後、『モスバーガー』で学んだことを本業に取り入れることで成長しています。良かったと思います」(文野)
敏腕経営者の原点回帰~家族で楽しめる店作り
「モスバーガー」でフードビジネスを学んだ文野は1996年、ラーメン専門店「よってこや」をオープンする。おしゃれなデザインの店内にジャズが流れるこれまでにないラーメン店。当時のラーメンブームにも乗って、超人気店となった。
「月1500万円の売上げで、ずっとお客さんが並んでいる状態。みるみるうちに4年間で125店舗になって、こんなに簡単なんだと思った」(文野)
その勢いで社名も「イートアンド」に変更し、大阪の一等地に9階建ての自社ビルも購入。文野自身も時代の寵児としてもてはやされた。
ところが、ラーメンブームは次第に陰りを見せ、「よってこや」は一気に失速。店は赤字に転落し、文野は窮地に陥った。
立て直し策を模索していたある日のこと。町の中華屋で笑顔の家族客を、見かけた。文野は気づく。「家族が楽しみに来てくれる店が一番強い」と。
「継続して発展するためには地域の人に何十年も来てもらわなければならない。イートアンドだから、さまざまな食のシーンを提案しようと」(文野)
地域に根づく食のシーンを作る。それこそ父の代から続く「大阪王将」への回帰だった。ファミリーや働く人など、地域の客層に合わせて既存店をリニューアル。ファンを増やしていった。
一方で「大阪王将」の名が広まっていくと、文野は他の外食チェーンが参入していない冷凍食品の製造に乗り出す。100億円をかけて群馬県に2つの工場を建設。その中にはおいしい冷凍餃子を生み出す秘密が隠されていた。
餃子の具材は全て国産。いかに鮮度を保ち、旨味を封じ込めるかがおいしい冷凍餃子のカギとなる。そこで導入したのが「スパイラルフリーザー」という冷凍機だ。
「均一した温度帯で商品を凍らせることで、品質を安定させることができます」(棚橋伸二工場長)
従来の冷凍機は一つの方向から冷風をあてて凍らせていたが、この冷凍機は高い湿度の冷気で全体を包むように凍らせる。それによって旨味を封じ込め、なおかつ乾燥も防ぐという。
ここでつくる冷凍餃子は1日25万パック。焼き餃子と並んで人気なのが「水餃子」でこちらはシェアナンバー1。今や大阪王将は26種類の冷凍食品を世に送り出している。
食と楽しさと豊かさと…~日常食を極めるベーカリー
食を通じた楽しさを追求する文野は7年前にベーカリーを作った。その名も「アールベイカー」。
「『大阪王将』も日常食。パン屋も日常食。間違っても1万円、2万円のフレンチレストランや懐石はやらないです。日常食で楽しんでいただけるのが出店の条件」(文野)
だから店で売っているのは、日常的に愛されているメロンパンやアンパンなどの定番が中心。天然酵母や米粉を使うなど、素材にもこだわる。
店の特徴は数多くのトースターが置かれていること。「パンを席で焼いて焼きたてを食べられる」のだ。レトロでかわいいポップアップ式から性能が自慢の高級品まで、店内にはさまざまなトースターが。カフェのメニューに付いてくるパンを好きなトースターで焼くことができるし、最新型のトースターを試すこともできる。
こうした「食の楽しさ」を追求していくうちに、文野の気持ちにある変化が現れてくる。
「いろいろな食のシーンとか、豊かさとか楽しさとかを作っていく会社にすると決めて、そこからは呪縛が外れて、いろいろな発想ができるようになりました」(文野)
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~
加盟店の本部である「大阪王将」が「モスバーガー」のフランチャイズをはじめた。当時、マックがあって、モスがあった。2番手という心地よいポジション、味で地域密着したら、勝てるとわかった。立ち位置としては食品製造業。冷凍水餃子は売上日本一。そして「おっさんの胃をわしづかみ」。既存顧客のニーズを徹底的に掘り起こす方が正しい。黄色に黒の看板が潔い。これこそアイコンだ。餃子一皿の幸せからお腹いっぱいの幸せへと受け継ぐアイコンだ。
<出演者略歴>
文野直樹(ふみの・なおき)1959年、大阪府出身。1980年、大阪王将食品株式会社入社。1985年、同社社長就任。2002年、イートアンド株式会社に社名変更。2017年、会長就任。
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