共同経営者
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鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

株主間契約という言葉をご存じだろうか。創業後に経営者の対立が経営に支障を及ぼさないよう結ぶ契約だ。今回は、経営者が共同で創業した会社に株主間契約が必要な理由に触れた後、使い方やタイミング、メリット、デメリットについて解説する。

目次

  1. 共同経営に株主間契約が有効な理由
    1. 株主間契約とは何か
    2. 共同経営で生じるトラブル
  2. 共同経営における株主間契約の使い方
    1. 活用方法1.意見の食い違いに備える
    2. 活用方法2.共同経営者の退社に備える
  3. 株主間契約のメリット
    1. メリット1.登記や株主総会が不要
    2. メリット2.会社情報を秘密にできる
    3. メリット3.契約内容を自由に決められる
  4. 株主間契約のデメリット
    1. デメリット1.法的拘束力が弱い
    2. デメリット2.経営判断のスピードが低下する
  5. 株主間契約を有効活用するためのポイント
    1. ポイント1.お互いの利益に配慮する
    2. ポイント2.要所を押さえて内容を決める
    3. ポイント3.可能な限り創業前に契約する
  6. 株主間契約で経営を安定させよう!

共同経営に株主間契約が有効な理由

そもそも株主間契約とは何だろうか。なぜ、共同経営に株主間契約が必要なのだろうか。まず、共同経営に株主間契約が求められる背景について見ていこう。

株主間契約とは何か

株主間契約とは、株主同士の合意事項を規定した契約をさす。創業者同士であれば、創業株主間契約と呼ぶこともある。

契約が必要な理由は、株式数や取締役会だけでは解決できない問題が生じるからだ。複数人で立ち上げたスタートアップだと、特に問題を解決しづらい。

そのほか、議決権の少ない少数株主の意見を通りやすくしたり、新たな企業や投資家がM&Aで過半数株主の地位を確保したりするのに用いられる。

共同経営で生じるトラブル

株主間契約は複数の経営者で創業する際に有効である。共同経営には単独での起業にはないトラブルが生じやすい。具体的な共同経営のトラブルを以下に挙げてみる。

トラブル1.重要事項が決められない

2人の経営者が創業した会社で、発行株式を半分ずつ持つパターンは珍しくない。どちらも対等であることを重視した結果の配分だからだ。ただ、共同経営者の経営方針が異なったとき、「半分ずつ」が経営を難航させる。

起業して経営が軌道に乗ると、資金の使い道で経営者同士が対立しがちだ。片方が事業拡大のために大規模な技術開発に投資したいと主張すると、他方が資金の枯渇を懸念して反対するなどがよい例だろう。

主張をめぐって関係が悪化すると、取締役の再任決議など会社の重要事項を決めるのに支障をきたす。どちらも50%ずつ議決権を有しているため、過半数に達しないからだ。

トラブル2.退社した経営者に判断を委ねるケースがある

創業に関わった共同経営者が、自社株の一部を保有したまま退社すると経営に支障をきたす。

たとえば、3人いた経営者のうち1人が、3分の1にあたる株式を保有したまま海外に移住したり、行方不明になったりしたとしよう。

会社の重要事項に関して残った2人の意見が対立したとき、退職した経営者を探して意見を聞かなくてはいけない。

つまり、経営者同士のトラブルは単に人間関係の問題にとどまらず、議決権行使を通じて会社全体に悪影響をもたらす。

これらの問題を株式数や種類だけで解決するのは難しい。そこで、株主間契約が効果を発揮するのだ。

共同経営における株主間契約の使い方

では、共同経営において株主間契約はどのように使うべきか。先ほどの共同経営に関するトラブルにあてはめて考えてみたい。

活用方法1.意見の食い違いに備える

経営者同士の意見に食い違いがあっても、株主間契約で意見の不一致に関する対処を決めておけば、個人間のトラブルを最小限に食い止められる。

具体的には、次のような条項を株主間契約に入れておくとよい。

「会社の重要事項について○○と△△の判断が異なる場合、〇〇及び△△は相手方に対して協議を申し入れることができ、相手方は協議に応じなければならない。この場合、当該申し入れから1週間以内に、当該重要事項の判断について双方が合意できるよう努める。(この後で重要事項を列挙)」

このように協議義務を条項にしておけば、経営者同士の対立で会社の意思決定が遅れる事態を防げる。

活用方法2.共同経営者の退社に備える

会社に関する重要事項の決定に影響を及ぼさないよう、株主間契約で共同経営者の退社に備える。具体的には、保有している自社株すべてをほかの経営者に譲渡するよう、以下の条項を契約に定めておくとよい。

「〇〇または△△が会社の取締役及び従業員ではなくなった場合、取締役及び従業員ではなくなった退社当事者は、理由の如何を問わずに残留当事者の請求により、残留当事者または残留当事者の指定する第三者に対し、その保有する会社株式の全部を譲渡する」

問題になるのが、譲渡する際の株式の価額だ。無償・取得時の価格・簿価純資産額・時価純資産額のいずれかとなる。

しかし、時価評価は手間や金銭的コストがかかるため、簿価純資産価額や取得時の価格が現実的といえよう。譲渡時の価額も上記条項と共に記載しておくとよい。

株主間契約のメリット

企業経営を安定させる方法として、種類株式という方法もある。普通株式とは違い、特殊な権利が設定されていたり、逆に普通株式で認められている権利が制限されたりする。

この種類株式を設定するのではなく、なぜ株主間契約を締結したほうがよいのだろうか。株主間契約には、種類株式にない3つの強みがあるからだ。

メリット1.登記や株主総会が不要

種類株式には登記が必要だが、株主間契約は登記が不要だ。また、種類株式は登記前に株主総会を開催し、株主の3分の2の同意を得たうえで定款を変更しなくてはならない。

この手続きも株主間契約には必要なく、あくまでも当事者同士の契約だ。

つまり、株主間契約を選択すると、株主総会の開催・定款変更・登記にかかる時間的・金銭的コストを節約できる。

メリット2.会社情報を秘密にできる

登記を完了すると、第三者に会社情報を知られる。当然、都合の悪い情報もさらされてしまう。

しかし、株主間契約は登記をせずに当事者同士の契約で完了するため、会社の秘密に関する事項を契約の中に盛り込みやすい。

メリット3.契約内容を自由に決められる

種類株式は内容の自由度が低い。内容は、第三者に譲渡されても一律に適用できるよう、法律で剰余金の配当優先や譲渡制限などを含む9種類に規定されている。

一方、株主間契約は会社を通さなくて済み、あくまでも株主同士の契約に過ぎない。民法第90条に規定する公序良俗に違反しなければ自由に内容を決められる。

株主間契約のデメリット

株主間契約のメリットは、裏返すとデメリットにもなる。具体的なデメリットも見ていこう。

デメリット1.法的拘束力が弱い

登記が必要ないということは、第三者に主張できないことでもある。つまり、当事者の一方が株主間契約に違反しても、その行為を無効にできず、損害賠償請求にとどまるのだ。

拘束力の弱さは、種類株式と比較するとわかりやすい。種類株式の場合、会社が違反したら株主総会で議題にしたり、経営者の行為を無効にしたりできる。

法律手続きを要しない分、法的拘束力は弱くなることに注意したい。

デメリット2.経営判断のスピードが低下する

株主契約は自由度が高いので、契約内容を細かくできる。しかし、契約内容が細かいと議決権を行使しづらく、経営が難航する。非常事態では判断スピードの低下が致命傷になりかねない。

株主間契約を有効活用するためのポイント

以上が株主間契約の大まかな内容だ。この仕組みはただ使えばよいわけではない。会社経営に役立てるには、当事者間の配慮が欠かせない。

ポイント1.お互いの利益に配慮する

契約当事者双方が納得できるよう、お互いの利益に配慮する姿勢が求められる。

主要株主に有利な内容だと、少数株主が不利益を被りかねない。逆に少数株主の顔をうかがいすぎると、経営判断が遅れてしまい経営が難航する。

自分の利益ばかりを考えず、相手の利益にも配慮することが株主間契約のポイントだ。

ポイント2.要所を押さえて内容を決める

契約内容を細かく決めると経営判断が遅れる。したがって、会社経営に外せない要所を見極めることが肝心である。

起業前後は同じ目的を共有できた経営者同士でも、経歴や背景、考え方が異なる以上、いつどこで意見が合わなくなるかわからない。

万が一に備えて、お互いが納得して会社経営に向き合えるよう、事前に契約事項の焦点を検討しておきたい。

ポイント3.可能な限り創業前に契約する

共同経営における株主間契約は、創業前に契約するのが望ましい。創業前は複数の経営者が事業に向けて一致団結しているだけでなく、利害関係が生じていないため協力しやすいからだ。

反対に、共同経営者間の対立は創業後に生じやすい。役割分担をして事業を運営していく中でさまざまな取引が生じる。

役員報酬が支払われ、利益を生み出すようになってから、それぞれの考え方やビジョンの食い違いが明確になる。この点は結婚前後で変わる夫婦関係と非常によく似ている。

創業前に夢を語らうだけでなく、経営者同士の関係を守るための契約についても話し合っておきたい。

株主間契約で経営を安定させよう!

共同経営者の意見や方針が異なるのは、それぞれが会社のためを思っているからにほかならない。その反面、各経営者が抱える事業への思いが深いほど、対立は激しくなる。

時が来たら、事前に定めた株主間契約に則って行動する。そのうえで、相手の熱意も経営の推進力であることを思い出してほしい。

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文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)

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