ライブコマースの成功事例を紹介する連載の第3回は、大正2年から続く豆菓子メーカーであり、「楽豆屋」の屋号でネットショップも運営している株式会社冨士屋製菓本舗(本社大阪府)です。
同社は2020年にインスタライブでのライブ配信を開始しました。創業当時から作り続けている「雀の玉子」をはじめ、3代にわたって受け継いできた豆菓子を全国に販売しています。
ライブに出演しているのは、“3代目の嫁”こと北野雅江さん。関西弁の明るいキャラクターに加え、催事販売やテレビショッピングで培ったトークでライブコマースの売上を伸ばしてきました。
創業110年の伝統に、ライブコマースという新しい手法を取り入れることで進化を続けている楽豆屋。ライブコマースの手法や内容、配信で大切にしていることなどについて、冨士屋製菓本舗の皆さんにお話をうかがいました。
(聞き手:株式会社フューチャーショップ サービスプロデューサー/ライブコマースディレクター 稲生達哉 )
目次
創業110年の老舗豆菓子メーカーがECにも注力する理由
株式会社フューチャーショップ 稲生(以下、fs稲生):本日は冨士屋製菓本舗さんが取り組んでいるライブコマースについて、内容や配信手法、成果などをお聞かせください。はじめに、冨士屋製菓本舗さんが手がけている事業について教えていただけますか?
代表取締役 北野登己郎さん(以下、北野登己郎さん):弊社は大正2年に創業した豆菓子メーカーです。落花生などに寒梅粉(かんばいこ)をまぶし、焙煎や味つけをほどこした掛豆(かけまめ)と呼ばれるお菓子を製造しています。
創業当初から作り続けている「雀の玉子」や、ロングセラー商品の「豆味さん(とみさん)」など、豆の種類や味が異なる数十種類の商品があります。
自社ブランド「楽豆屋」を立ち上げたのは2003年のこと。それ以前は豆菓子メーカーなどへの卸売りのみを行っていましたが、安い海外製の豆菓子に押されて既存の取引が先細りになっていたこともあり、新しいビジネスを育てるためにオリジナルブランドを作って消費者向けのマーケットに参入しました。
「楽豆屋」の主な販売チャネルは百貨店や土産物屋、テレビショッピングなどへの卸売りと、自社ECサイトでの直販です。近年はギフト用に「楽豆屋」を買ってくださるお客さまも増えており、テトラの小袋を詰め合わせたギフトボックスは実店舗・ECを問わず人気です。
fs稲生:ECを始めたきっかけを教えていただけますか?
北野登己郎さん:ECを始めたのは2007年です。百貨店の催事で商品を買ってくださったお客さまがリピート購入できるように、自社ECサイトを立ち上げました。
「楽豆屋」を2003年に発売してから数年間は、主に百貨店の催事で商品を販売していました。当時、店頭の棚に「楽豆屋」の商品を並べてくださっていたのは大阪高島屋さんだけ。取扱店を増やすには、まずは「楽豆屋」の味を一人でも多くの方に知っていただかなくてはいけない。そう考えて、高島屋さんを含む各地の百貨店で試食販売を行いました。
催事を3年ほど続けた結果、催事会場では売れるようになりましたが、「楽豆屋」の取扱店が少なかったためにリピート購入できる場所が限られていたんです。そこで、リピーターさんの受け皿として自社ECサイトを開設しました。
fs稲生:「楽豆屋」を立ち上げた当初は、催事で売っていたのですね。
北野登己郎さん:そうなんです。妻の雅江が催事で売ってくれていました。
営業・企画 北野雅江さん(以下、北野雅江さん):「楽豆屋」を立ち上げたばかりのころは、お店の棚に並べているだけではほとんど売れませんでしたから、催事の経験はなかったですが「なんとかせなあかん!」と必死に売りました。
催事は1回あたり約1週間なので、その間は朝から晩まで売り場に立っていました。関東や東海などの百貨店に行くときは泊まり込みです。催事が終わったら自宅に戻って、ECの受注処理や出荷作業を行って、また次の催事に遠征する。そんな生活が何年も続きました。
fs稲生:そこからECを、どのように伸ばしていったのでしょうか。
北野雅江さん:催事で商品を試食していただきながら「ECもやってます!」とお伝えして、ECサイトを案内していました。そうこうするうちにECが軌道に乗り始めたので、ECの勉強会に参加したり、食品業界の先輩たちからノウハウを教えていただいたりして、ECサイトの売上を伸ばしてきました。
fs稲生:大変な時期を乗り越えて、今があるのですね。
北野雅江さん:大変でしたが、催事でお客さまの声を直接聞くことができたことは、その後の仕事にとても役立っています。お客さまからいただいたご意見やご要望を、商品開発やECサイトのコンテンツ作りに活かしてきました。ライブコマースでのしゃべりにも催事の経験が役に立っています。
fs稲生:雅江さんは2017年からテレビショッピングの「QVC」にも出演してらっしゃいますよね。催事の経験は、テレビショッピングのトークにも活かされたのでしょうか。
北野雅江さん:それもありますね。テレビショッピングには30回くらい出演しました。QVCの担当者さんが私のしゃべりを高く評価してくださって、何度もオファーをいただけたのは、催事の経験があったからだと思います。
年2回の工場直売セールなどでライブコマースを実施
fs稲生:冨士屋製菓本舗さんは2020年8月からライブ配信に取り組んでいらっしゃいますね。
北野雅江さん:実店舗やオンラインショップ、テレビショッピングに次ぐ新しい販売チャネルを作るために、ライブコマースも頑張っています。
fs稲生:どのようなライブを行っているのでしょうか。
北野雅江さん:工場直売セールやゲリラライブ、雑談配信などを行ってきました。
fs稲生:それぞれの内容を教えていただけますか?
北野雅江さん:工場直売セールは7月と12月の年2回、本社工場の敷地内で開催している特売イベントです。会場の一角に配信スペースを作り、工場直売セールでしか買えない超特価商品などをライブコマースでも販売しています。
工場直売セールには毎年多くのお客さまが足を運んでくださいますが、遠方にお住まいの方や、当日は予定があって現地に来られない方も少なくありません。そういったお客さまのために、2020年8月からライブ配信を行っています。
fs稲生:ゲリラライブでは、どのような企画を行っているのでしょうか。
北野雅江さん:ゲリラライブは、突発的なイベントに合わせて実施しています。例えば、「楽豆屋」のLINE公式アカウントの友だちが1000人を超えたことを記念し、2024年4月23日にゲリラライブを配信しました。このときはゴールデンウィーク直前でしたので、連休中に皆さんで楽しめる「GWお楽しみセット」などを販売しました。
fs稲生:雑談配信も行っているのですね。
北野雅江さん:週1回ほどの頻度で、夕方17時20分から約10分間雑談するライブコマースを今年5月から試験的に行っています。小腹が空いてきて、ひと休みしたくなる時間帯に、視聴者の皆さんと一緒に豆菓子をポリポリ食べながら雑談する配信です。
商品を積極的に売るというよりも、雑談や新商品の構想など、普段のライブコマースとは違ったテイストでしゃべることが多いです。豆菓子を食べて「よし、もうひと頑張りしよう」と思ってもらえるような、そんなライブを目指しています。
野球の話で視聴者と盛り上がることも
fs稲生:過去のライブコマースでは、北野社長と白浜さんが出演し、プロ野球の話で盛り上がっていたのも印象的でした。
北野登己郎さん:妻から「あんたもライブに出なさい」と言われて、何をしゃべろうか考えたんですが、ソフトバンクホークスのことならいくらでも話せるので、社内きっての野球ファンである白浜くんと一緒にしゃべりました。
製造部 白浜洋平さん:前半の30分ぐらいは野球の話しかしていませんでしたよね。誰々の打率がすごいとか。雅江さんから「そろそろ商品の話をしません?」って言われて、ようやく商品について話したぐらい、野球の話で盛り上がってしまいました。
fs稲生:その配信を見ていて印象的だったのは、お二人と視聴者さんの一体感が生まれていたことです。別々の場所にいるけれど、同じお菓子を食べながら、好きな野球チームの話で盛り上がる。共通の趣味の話で盛り上がって、そこからブランドのファンの輪が広がっていく。これからのECには、そういったコミュニケーションも大事なのかもしれないと感じました。
歴史と想いを伝える機会に
fs稲生:111周年を記念したライブでは、これまでの歴史や3代目社長の想いも伝えていらっしゃいましたね。
北野登己郎さん:創業者の祖父が業界の中で豆菓子の作り方を広めていった話や、家業を継ぐことを決めた時の想い、全然売れなかった頃の話もしましたね。これまでの歴史に関してはコーポレートサイトに書いてありますが、今回は細かいエピソードも交えて話すことができ、改めて深く知っていただける良い機会になったように思います。
北野雅江さん:もともと豆菓子が大好きだった私が豆菓子屋に嫁いだ話や、嫁いだ2年後に創業者のおじいちゃんが夢に出てきて「認められた気がした」不思議な話は、なかなかお話しする機会もないので、こういったライブの場で話せて楽しい時間でした。
fs稲生:それをインタビューしていらっしゃるのが実の娘さんという構図も、これまた面白いですよね。アットホームな雰囲気で楽豆屋の歴史やエピソードを話すライブは、過去配信のなかでもアーカイブの平均視聴時間が最も長いライブとなりました。聞いていて驚きのあるエピソードがいろいろと出てきたので、お客さまもつい聞き入ってしまったのかと思います。
ライブコマースの配信方法と告知の手段
fs稲生:ライブの配信方法を教えていただけますか?
北野雅江さん:ライブは「Live cottage」を使って配信しています。2020年8月にライブを始めてから3年間は、Instagramのインスタライブで配信していましたが、ライブの視聴者さんが配信中に商品を買えるようにしたかったので、2023年8月に「Live cottage」を導入しました。
fs稲生:視聴者さんがスムーズに買えるように、「Live cottage」を導入してくださったのですね。
北野雅江さん:はい。インスタライブは無料で配信できるなどメリットもありますが、ライブの視聴画面からECサイトの商品ページに動線を貼れないため、視聴者さんはライブを観ながら買い物をすることができません。
インスタライブ時代の視聴者さんは、欲しい商品をメモしておいて、ライブが終わったらECサイトに遷移して商品を探す必要があり、とても手間がかかっていたと思います。実際、視聴者さんから「商品を直接買いたい」という声もいただいていました。
fs稲生:ライブを告知する際は、どのような方法で周知していますか?
北野雅江さん: EC会員さん向けのメルマガや楽豆屋の公式LINE、Instagramのストーリーズ、Xのポストなど、使えるものはすべて使ってお知らせしています。
テレビショッピングから学んだ「売れるライブコマース」の秘訣とは?
fs稲生:ライブコマースに取り組んできたことで、売上にどのような成果が出ていますか?
北野登己郎さん:工場直売セールは、以前は現地での売上だけでしたが、ライブコマースを始めたことでオンラインでも売上が取れるようになりました。ゲリラライブもEC売上高の上積みにつながっています。
ライブコマースを行った日は、自社ECサイトのコンバージョン率が通常の3〜4倍に上昇することもあります。ライブコマースによって視聴者さんの購入意欲が高まった結果でしょう。
fs稲生:3〜4倍はすごいですね!ライブコマースで売上を作るために、意識されていることはありますか?
北野雅江さん:その配信でしか買えない限定商品を販売したり、特典を付けたりしています。
これは過去のライブコマースから学んだことなのですが、ECサイトでいつでも買える商品をライブコマースで紹介しても、なかなか売れません。イベントごとの限定商品や、その月の“推しセット”など、ライブコマースでしか買えない商品を準備することが重要だと思います。
fs稲生:ライブでのしゃべり方や、商品の見せ方などで工夫していることはありますか?
北野雅江さん:ライブだからこそ出来る表現を意識しています。
例えば、ライブコマース限定で作った大容量サイズのギフトボックスを紹介するときは、カメラに向かって箱の中身を見せて、どさっと出しながら「どどどーん」といった擬態語をしゃべるんです。商品の内容量を数字で伝えるだけでなく、動きやしゃべりを交えて、商品の魅力を直感的に理解していただけるように工夫しています。
また、ライブ中に商品情報をクリックしてくださる方が増えてきたら、「いま、たくさんの方にクリックしていただいています」「売り切れてしまったら、ごめんなさい」といったライブ感が高まる言い回しも使います。
そのほかにも、豆菓子の香ばしさやカリッとした食感を伝えるために、ボリボリというそしゃく音を長めに聞いていただくなど、ライブならではの表現を模索しています。
fs稲生:ライブ中に「この商品が良いと思ったら『いいね』を連打してくださいね!」と呼びかけるなど、視聴者さんを巻き込むのも上手いと感じました。そういった表現力やアドリブ力は、催事やテレビショッピングで培われたのでしょうか。
北野雅江さん:そうですね。アドリブのしゃべりは、特にテレビショッピングで鍛え上げられました。
fs稲生:ライブの台本はあるのでしょうか?
北野雅江さん:台本はありません。おおまかな流れや、紹介する商品を決めておくだけ。工場直売セールやゲリラライブでは、娘が声だけ出演し、私との掛け合いで配信することも多いですが、そのときもすべてアドリブです。
ライブコマースをオンライン販売の柱の1つに育てたい
fs稲生:最後に、ライブコマースの抱負をお聞かせください。
北野雅江さん:ライブコマースの配信スケジュールをしっかり組んで、売上計画にも織り込んでいきたいと考えています。Live cottageを導入した初年度は、手探りの部分もありましたので、突発的にライブコマースを実施することも少なくありませんでした。1年間続けてきて、Live cottageの使い方に慣れましたし、売れるライブコマースのパターンも見えてきました。これからも視聴者さんに楽しんでいただけるライブを配信して、オンライン販売の柱の1つに育てたいです。
fs稲生:北野社長と白浜さんは、また野球配信をされますか?
北野登己郎さん:プロ野球中継を観ながら配信するのもおもしろいかもしれませんね。ホークスがクライマックスシリーズに進出したら、やろうかな。
fs稲生:いろんな可能性がありそうですね。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
取材を終えて
大正2年から豆菓子一筋で、ものづくりに向き合ってきた株式会社冨士屋製菓本舗。創業から110年にわたって受け継いできた伝統は、食品メーカーとしての信頼につながっています。そして、明るいキャラクターの北野雅江さんや北野社長、白浜さんがライブコマースを行うことで、ブランドイメージに親しみやすさも加わりました。
伝統に裏打ちされた商品の“信頼”と、作り手の“親しみやすさ”が融合し、「楽豆屋」という唯一無二のブランドが作られていく。そのことが、「楽豆屋」が多くの顧客から支持される理由の1つなのではないかと感じた取材でした。
ライブコマースのアーカイブ視聴も可能
今回のインタビュー記事で紹介したライブコマースのアーカイブは、「楽豆屋」のサイトで視聴することができます。これからライブコマースに取り組みたい方や、ライブコマースを強化したい企業さまは、ぜひ参考にしてください。
「楽豆屋」ライブコマースのアーカイブをご視聴いただけます
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