
目次
- 20歳で入社 兄が転職して思いがけず会社を引き継ぎ 苦しい経営状態のなか迅速な対応力で次第に顧客の信頼を得る
- 会社運営の基本方針作りに本腰 認知度向上と人材確保を目指しホームページ作りに取り組む
- 受注は民間が8割 10年前から土木積算システムや施工管理システムを活用し少数精鋭で業務効率化を実現
- ワンマン測量システムを年内にも導入して柔軟な人員配置可能に 施工管理システムとの連携で図面作成の効率化も目指す
- 那須塩原市役所が本社近くに移転計画 2027年度下期に竣工予定 ビジネスチャンス拡大に意欲 転入見込みアパート建設に着手
- 社長就任10年を機に積極経営にハンドル 地域に根差して地域に頼られる存在を目指す 将来は農業参入し「米作りをしたい」との夢も
室井建設株式会社は栃木県北部で土木工事を中心に、舗装工事、下水道工事、外構工事などを手掛ける小規模な建設会社だが、地域の建築・土木工事の需要への対応が経営課題となっている。建設業の慢性的な人材不足のなか、少数精鋭で奮闘してきたが、人員増を視野に事業拡大に乗り出し、建設関連ICTシステムも積極的に活用していく方針だ。(TOP写真:地域の土木工事を少数精鋭で運営している現場の様子)
20歳で入社 兄が転職して思いがけず会社を引き継ぎ 苦しい経営状態のなか迅速な対応力で次第に顧客の信頼を得る

建築土木業に従事してブルドーザーなど重機の運転が得意だった室井和哉代表取締役の祖父が、1972年に室井建設を設立した。しかし、翌年には第1次石油ショックが起きて急激なインフレと、それを抑制する金融引き締めによって景気が悪化。苦しい経営の中、体調を崩した祖父から会社を引き継いだ祖母は「会社の仕事を手伝ってほしい」と言って半ば強引に会社に入れた。
入社したのは2007年で、室井社長は20歳だった。「兄も2年前に入社していたし、私は次男だったので全く会社を継ぐ意識はなかった」(室井社長)が、兄が別の職種に転職したため、室井社長が経営を引き継がざるを得なくなった。
室井社長が就任したのは2016年10月。国内の住宅着工数は微増に転じた時期だが、地方の中小建設業への波及効果はまだ小さく、「仕事が全くなくて、お世話になっていた会社から仕事を分けてもらいながら、どうにか事業を続けていた」状態だったという。
しかし、社長自ら現場に出てどんな質問や要望にも即答でき、その場で調整することも可能な柔軟性で次第に依頼主の信頼をつかみ、少しずつ仕事を頼まれるようになった。業績も次第に安定し、今では堅実な経営を維持している。
会社運営の基本方針作りに本腰 認知度向上と人材確保を目指しホームページ作りに取り組む

ただ、課題も浮上してきた。室井社長は就任当初より「業績向上のために遮二無二(しゃにむに)働いてきたが、当面の大きな目標がほぼ達成できたので、今後の経営についても考える必要がある」と語る。
そうした中、2002年にISO 9001を取得して以来、長期にわたり品質マネジメントシステムを維持している。品質方針は技術の経験を積みながら総合的なまちづくりを通じて地域への貢献を果たすことを掲げ、品質目標は「工事利益を上げて人材を確保・育成し、会社運営を盤石なものにすること」と室井社長が定めた。
現在、3人が現場作業に従事するが、人材不足は否めず、断らざるを得ない案件も少なくない状況が続いている。あと2、3人いれば機動力を発揮できると算段しているが、なかなか思うようにいかないようだ。しかし「室井建設なら」と話が来た仕事にしっかり応えられるよう、室井社長は本格的に人員増を考えるつもりだ。そのためにホームページの作成も検討しており、会社の認知度向上と人材採用への最大効果を狙って、システム支援会社との協力を進める方針だ。
受注は民間が8割 10年前から土木積算システムや施工管理システムを活用し少数精鋭で業務効率化を実現

業務効率化のためのICT導入は10年前ほどから取り組んできた。2015年には公共事業用土木積算システムを導入した。それまで担当部長が1人でこなしていた積算業務を誰でも行えるようにするためだったが、当時引き継いだ室井社長が「今も自分で運用している」と笑う。
同社の建築土木の施工主は民間が8割、公共が2割の比率だが、比率の低い公共分野でも、地域の土木積算ルールに合わせた自動積算機能など少人数だからこそ実感できる効率化効果がある。土木工事に特化した施工管理システムも並行活用し、案件名や担当者名などの基本情報に各種積算データを取り込み、施工管理基準や測点などを関連付けて必要なツールを使うことで、各工程の精度と作業効率の向上を図れるようになった。
ワンマン測量システムを年内にも導入して柔軟な人員配置可能に 施工管理システムとの連携で図面作成の効率化も目指す

最小限の人員で最大の施工実績をあげるために、室井社長は常に作業効率を考えてきた。通常は2人必要な測量作業を1人で行うために、新たな測量システムの導入も検討している。「測量が1人で足りると、その分をほかの現場に振り向けられる」と効率的な人員配置に頭を悩ませる日々だ。
いわゆる「ワンマン測量」はレーザースキャナー搭載の測量機とモバイル端末で操作して必要な土木データを収録するもので、施工管理システムと連携すれば、現場戦力が1人増えたのと同等の生産性向上が期待できる。年内には導入したい考えだ。
2022年にはサイバー攻撃から顧客データなどを防御するUTM(統合脅威管理)システムを導入、2025年3月には情報ファイルの一元管理・バックアップシステムを導入するなど、セキュリティー対策を強化。小規模だからこそデジタル武装化で無駄をそぎ落とした業務運営を心掛けている。
那須塩原市役所が本社近くに移転計画 2027年度下期に竣工予定 ビジネスチャンス拡大に意欲 転入見込みアパート建設に着手

那須塩原市は、最寄りのJR黒磯駅から約2キロメートル離れた現在の庁舎をJR那須塩原駅から徒歩10分の場所に移転する計画で、室井建設本社から数分の距離に近づく。2027年下期中に竣工予定で、近く入札が始まるが、室井建設も市役所建設を中心とした近隣の建設需要の増大に期待を寄せる。
「公共事業をことさら増やすつもりはないが、地元の建設業者が多く関わるので仕事が取れれば積極的に取り組みたい」と室井社長。本社敷地の一角には早速アパートを建設中だ。那須塩原市の市役所移転に伴う転入増を見込み、ビジネスチャンスの拡大が期待される。
室井社長は、少ない従業員でも対応しやすいよう、今後は外構工事の比率を上げていく方針だ。外構工事は建物や敷地の外部における造園・庭づくり、アプローチ、ガレージ等、建物周辺の環境を整える工事で、セキュリティーや安全性確保など近年はその機能性が重要視されている。室井社長は「1人でもできる作業が多いし需要もある」と見込んでおり、この分野を新たな得意分野に育てたい考えだ。
社長就任10年を機に積極経営にハンドル 地域に根差して地域に頼られる存在を目指す 将来は農業参入し「米作りをしたい」との夢も

本人が意図しないうちに経営を引き継ぐことになった室井社長だが、建設業へのやりがいは人一倍強く感じている。「図面通りに仕事が決まった時は実に楽しい。机上で描いた図面は現場でさまざまな障害に直面することも多いが、どう対処するか悩みながら進めるのもやりがいがある」。社長就任10年を前に積極経営に向けてハンドルを切り始めようとしている。
経営理念はこれから固めたい意向だが、「地域に特化して地域に根差した仕事をして、地域に頼られる存在になりたい」という室井社長の考えが反映されるものになりそうだ。
実は室井社長は建設土木事業を発展させることとは別に、「将来は農業もやりたい」という夢を持っている。栃木県庁によると、県は農業への新規参入者向け支援策が充実していて、2024年度の新規就農者数は増加傾向が続く。中でも自営就農者のうち異業種からの新規参入は71人と過去最高。ネギ栽培を事業化している建設業もいるが、室井社長は「米を作りたい」という。
まだ39歳と若い室井社長は、栃木県北部に広がる豊かな自然の中で、建設土木と農業という将来の“二足のわらじ”を目指して足場を固めつつある。
企業概要
会社名 | 室井建設株式会社 |
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本社 | 栃木県那須塩原市前弥六南町11番地4 |
電話 | 0287-65-2112 |
設立 | 1972年2月 |
従業員数 | 6人 |
事業内容 | 土木工事、舗装工事、下水道工事、住宅外構工事など |