自動車業界は「電動化」や「自動運転化」といった最新の潮流により、いま激動の時代となっている。「世界のトヨタ」と呼ばれるトヨタ自動車は時価総額トップの座を、EVで大きな成功を果たしたテスラに明け渡している。この記事では自動車業界の時価総額ランキングの世界版・日本版を紹介する。
目次
世界における時価総額ランキング
自動車業界ではいま「CASE」という言葉がトレンドワードになっている。Cは「コネクテッド(Connected)」、Aは「自動運転(Autonomous)」、Sは「シェアリング(Sharing)」、Eは「電動化(Electric)」を示しており、この4つの革新がいま同時に起きている。
特に、「E」の電動化についてはすでに市場が出来上がっていることもあり、電動化への力の入れ具合が各社の時価総額に大きく影響している。このような視点を持ちつつ、以下の時価総額ランキングを眺めてみてほしい。
1位:テスラ(アメリカ)6,958億ドル
1位はアメリカのEV大手企業であるテスラ(Tesla)だ。鬼才の経営者イーロン・マスク氏が率いる企業で、2022〜2023年にかけて株価は軟調であるものの、自動車メーカーの中では時価総額が最も高い状況となっている。
2024年1月14日時点の時価総額は6,958億ドルだが、2021年10月にテスラの時価総額は1兆ドルを初めて突破しており、当面は過去最高額を更新できるかが焦点となりそうだ。ただテスラに関しては、EV販売で世界首位の座から陥落しており、株価の下落圧力も強い。
2位:トヨタ(日本)2,638億ドル
2位となっているのは日本のトヨタ自動車だ。時価総額は2,638億ドルとなっている。トヨタは2023年の年間生産台数で過去最高を更新しているほか、2024年3月期の連結純利益が3兆9,500億円と過去最高になりそうだという見通しを明らかにしている。
生産台数ではテスラをはるかにしのぐが、トヨタが2位に甘んじているのは、イーロン・マスク氏率いるテスラの将来的に対する投資家の期待感が大きいのが一因だ。トヨタが投資家に大きな成長期待性を感じさせれば、テスラを抜いて1位となることも十分可能だと考えられる。
ちなみにトヨタは2020年7月にテスラに抜かれるまで、自動車業界においては時価総額が首位だった経緯がある。
3位:BYD(中国)790億ドル
勢いにのっているのが中国の自動車メーカーであるBYDだ。リチウムイオン電池の世界的メーカーでありつつ、EVやプラグインハイブリット車(PHEV)の開発・販売を手掛けており、2024年1月にはEV販売台数でテスラを抜いた。
日本における時価総額ランキング
続いて、日本の自動車メーカーに限った時価総額ランキングを紹介しよう。
首位のトヨタに続き、ホンダ、スズキ、日産、SUBARUがランクインしている。時価総額10兆円を超えているのはトヨタだけで、1兆円超えはトヨタやホンダを始め8社となっている。
次なる注目は「自動運転化」の進捗状況
現時点では、CASEの中で「E」、すなわち電動化への力の入れ具合が、自動車メーカーの時価総額ランキングに大きな影響を与えている。しかし投資家はいつの時代も次から次へと新しいテーマを探す。次なる注目はCASEにおける「A」、すなわち「自動運転化」になりそうなムードだ。
というのも、Google系のWaymoがすでに車内無人の自動運転タクシーを有料で商用展開しており、中国でも自動運転技術の実用化に向けた取り組みが進んでいる。時価総額上位のテスラやトヨタ、BYDが自動運転技術の実装に今後どの程度取り組んでいくのか、要注目だ。
自動車業界の注目ベンチャー企業
時価総額ランキングの上位企業はいずれも「上場企業」だが、現時点では未上場であるものの頭角を現しつつあるベンチャー企業も多数存在する。例えば自動運転関連ベンチャーだと、アメリカで言えば、May MobilityやNuro、中国で言えばAutoXやPony.ai、欧州でいえばNavyaやEinrideなどが挙げられる。
これらの企業は将来的に株式市場に上場後、大きな注目を集める可能性があるので、いまのうちから動向を気にしておきたいところだ。
テスラの独走は果たして続くのか
テスラが時価総額でトヨタを抜いたことは、CASE時代を象徴する出来事であると言える。
テスラのEVはまだ自動運転化を実現していないが、「E(電動化)」に加えて「A(自動運転化)」のイノベーションを果たすことができれば、時価総額はもっと高まっていくだろう。大手自動車メーカーとの差はもっと開いていくことになるのか、引き続き注目したい。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)