
自動車業界はいま変革の真っ直中だ。電動化や自動運転化が進んでおり、このような潮流にうまく乗った企業は、時価総額を大きく伸ばすことになりそうだ。現に、すでにEV(電気自動車)大手のテスラは自動車業界で時価総額トップとなっている。最新の時価総額ランキングを紹介しよう。
時価総額ランキング1位は米EV企業のテスラ
自動車業界ではいま「CASE」という言葉がトレンドワードになっている。Cは「コネクテッド(Connected)」、Aは「自動運転(Autonomous)」、Sは「シェアリング(Sharing)」、Eは「電動化(Electric)」を示しており、この4つの革新がいま同時に起きている。
特に、「E」の電動化についてはすでに市場が出来上がっていることもあり、電動化への力の入れ具合が各社の時価総額に大きく影響している。このような視点を持ちつつ、以下の時価総額ランキングを眺めてみてほしい。

1位はテスラで時価総額は9,012億2,000万ドル(約107兆1,000億円)、2位はトヨタで2,370億6,000万ドル(約28兆2,000億円)、3位はフォルクスワーゲン(VW)で1,060億ドル(約12兆6,000億円)という結果だ。
テスラが時価総額でトヨタを抜いたのは、2020年7月のことだ。時価総額は「発行済株式数×株価」で計算される。テスラは株価を急上昇させたことで、トヨタの時価総額を抜いた。
直近5年の株価の騰落率で比べると、テスラの株価はプラス1,506%となっている。驚異的な伸びだ。一方のトヨタ自動車はプラス58%にとどまる。ちなみに、テスラの時価総額は2021年10月、自動車メーカーとして初めて1兆ドルを一時突破した。
販売台数ではトヨタに敵わないテスラだが・・・
なぜテスラは、トヨタの時価総額を抜くことができたのだろうか。販売台数で言えば、テスラはトヨタにまだまだ及ばない。トヨタの2021年のグローバル販売台数は約1,049万台で、一方のテスラは約93万台だ。10倍以上も差がある。
つまりテスラに関しては投資家に株式を買いたいと思わせる「何か」があったということになる。
株価が上がれば時価総額も上がる仕組みは前述の通りで、もう少し細かく言えば、その企業の株式を買いたいという投資家が増えれば、需要と供給の関係で株価は上がり、時価総額も上がっていく。
では、テスラの株式を買いたいと思わせる「何か」とは? それは、EVに特化した自動車メーカーであることと、成長のスピードが早いことであり、そしてテスラの経営者がイーロン・マスク氏であることなどだろう。
テスラが投資家の投資意欲をそそるわけ
まず、テスラがEVに特化している点は、CASEの潮流から見ても、時代に非常にマッチしている。時価総額ランキングで10位にランクインしているルシード・モータースもEVに特化しており、ベンチャー企業ながら老舗メーカーと時価総額で肩を並べている。
テスラは成長スピードもすさまじい。例えば2021年の販売台数は、前年実績の約1.8倍になった。トヨタはわずか10%増にとどまる。販売台数ではトヨタに負けているが、伸び率ではテスラに軍配が上がるわけだ。
そして、テスラのCEO(最高経営責任者)がイーロン・マスク氏であることも、投資家の投資意欲を高めることに一役買っている。
マスク氏は、いまや世界を代表する起業家だ。宇宙船の打ち上げ事業などを手掛ける「スペースX」や、脳とAI(人工知能)を接続させる事業を手掛ける「Neuralink(ニューラルリンク)」を立ち上げており、マスク氏への注目度と比例してテスラへの注目度も高まっている。
「CASE」時代を象徴する出来事
テスラが時価総額でトヨタを抜いたことは、CASE時代を象徴する出来事であると言える。
テスラのEVはまだ自動運転化を実現していないが、「E(電動化)」に加えて「A(自動運転化)」のイノベーションを果たすことができれば、時価総額はもっと高まっていくだろう。大手自動車メーカーとの差はもっと開いていくことになるのか、引き続き注目したい。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)