事業譲渡、組織再編における減価償却

償却資産の取得について、これまでは売買取引を前提とした減価償却を解説しましたが、M&Aにおいては事業譲渡や組織再編(合併、会社分割など)による取得も考えられます。 事業譲渡や組織再編によって買い手企業が償却資産を取得した場合、主に買い手企業目線でどのような処理を行うか、その概要について解説します。

事業譲渡の場合

事業譲渡とは、事業を運営している企業が、そのうちの一部もしくは全部の事業を切り出すM&A手法の1つであり、売買取引と似た課税関係が生じます。 譲渡企業(売り手)では、事業にかかる譲渡対象資産等を特定して譲渡し、その対価として現金等の経済的価値のあるものを受け取ります。

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譲渡企業(売り手)側では、譲渡対象資産等に含み益があれば(簿価より時価が大きければ)課税が生じます。

一方、譲受け企業(買い手)側では、新たな資産の取得として、譲渡対象資産等を時価で資産計上します。そのため償却資産の取得については、売買取引によって取得した場合と同様の処理を行います。

また減価償却についても、耐用年数、償却方法などについて個別に判断することから、原則として前述までの売買取引による場合と同様の処理を行います。即時償却や一括償却を適用することもできます。

なお耐用年数については、中古資産の耐用年数を用いることができます。これは譲渡企業(売り手)での使用状況を加味した耐用年数であり、税法上、合理的に見積もることが原則となりますが、実務上は簡便的に算出した耐用年数を用いるケースが一般的です。

中古資産の耐用年数
【原則】 合理的に見積もった耐用年数

【簡便法】
・ 法定耐用年数を全部経過したもの:  法定耐用年数 × 20/100

・ 法定耐用年数の一部を経過したもの:(法定耐用年数-経過年数)+ 経過年数 × 20/100

組織再編の場合

組織再編には、2つ以上の企業をくっつけて1つの会社にする合併、企業における事業の一部または全部を切り出す会社分割などがあり、償却資産の取り扱いについては、適格要件を満たすかどうかがポイントとなります。

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複雑であるため、適格要件の詳細について本記事では割愛しますが、以降では、適格要件を満たす組織再編のことを「適格合併等」、適格要件を満たさない組織再編のことを「非適格合併等」とし、吸収合併を前提として、税法上の取り扱いを解説します。

非適格合併等に該当する場合

税務上は、移動対象となる資産について「経済的実態に変更が生じた」と考えます。 具体的に、移動対象となる資産について、譲渡企業(売り手)では「投資の清算」と考え、含み益があれば課税が生じます。

また譲受け企業(買い手)において、移動対象となる資産は「新たな資産への投資(新たな資産の取得)」と考え、時価で計上することになります。そのため譲受け企業(買い手)における償却資産の取得、減価償却について、事業譲渡と同様の処理を行うこととなります。

適格合併等に該当する場合

税務上、投資が継続しているものと考えます。そのため移動対象となる資産について、譲渡企業(売り手)では、含み益があっても課税は生じません。譲受け企業(買い手)では、売譲渡企業(売り手)の帳簿価額を引き継ぐこととなります。

帳簿価額は、税務上の帳簿価額を意味しており、譲渡企業において償却超過額がある場合には、当該償却超過額についても引き継ぐことになります。

また減価償却について、原則として売買取引による場合と同様の処理を行います。 耐用年数については、中古資産の耐用年数を用いることができない場合があります。償却方法は、譲渡企業が採用していた償却方法を採用できる場合もあります。

中堅・中小企業のM&Aでは株式譲渡を用いるケースが多く見られますが。減価償却については上記のような取り扱いとなることを押さえておきましょう。

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