減価償却 建物や機械、設備などの資産のうち、時間の経過とともに価値が減少していくものについて減価償却という会計処理を行います。本記事では減価償却の概要、M&Aにおける影響など、専門家がわかりやすく解説していきます。

減価償却とは?

減価償却とは、機械や設備など「価値が時間とともに減少する資産」の取得価額を耐用年数に応じて分割し、経費として計上する会計処理を指します。 実際の資産の価値減少を反映することで、企業は正確な経済状況を示すことができ、これは財務報告および税務処理において重要な役割を果たします。

時間の経過で価値が減少する固定資産(減価償却資産)は、取得した年に全額を費用計上するのではなく、原則として償却期間として定められた複数年にわたり費用計上します。

減価償却イメージ

賃借対照表(BS)では固定資産の金額の減額処理、損益計算書(PL)では費用(減価償却費)計上を行うことになります。例えば、100万円で取得した固定資産は、取得時点で100万円ですが、1年後に60万円、2年後に40万円と減額処理を行い、その減額分を減価償却費として計上します。

資産の経済価値が減少する要因

使用または時の経過により固定資産の経済的価値が減少する要因として「物理的減価」と「機能的減価」という考え方があります。「物理的減価」はその名の通り、物理的に磨滅損耗し、老朽化することを指します。

一方「機能的減価」は、例えば昔の機器が最新のものに比べてスペックが見劣りするなど、物理的には使用可能なものの、外的事情により陳腐化あるいは不適応化したことを指します。

このように、固定資産は使用や時の経過により経済価値が減少するため、会計上「減価償却費」という費用に捉えます。材料費や人件費と同様に費用が計上されないと、費用が過少、利益が過大になります。そのため、収益から減価償却費を含む費用を控除することで、期間損益計算は適正に表示されると考えます。

減価償却を行わないとどうなる

減価償却を行わないと企業運営においてさまざまな問題が生じる可能性が高まります。

例えば、財務諸表で実際の資産価値が実態より高く表示されている、純利益が過大に報告されている可能性があります。これは、株主や投資家などステークホルダーに対して企業の実態を正確に伝えられないことにつながります。

そして税務上にも影響が生じることが考えられます。税法では、減価償却費について、損金算入の限度額が定められおり、すなわち限度額の範囲内であれば減価償却費には 節税効果のメリットがあるため、減価償却を行わないと、これらのメリットを享受できなくなります。

このように、減価償却を行わないと企業の財務報告の信頼性に影響し、資産の適切な管理を妨げる可能性があります。

しかし、一方で赤字企業や収益性の低い企業において、減価償却費を除いた課税所得が0の場合、減価償却費による節税効果は見込めないことから、上記のような税務メリットを享受できません。そのため赤字企業や収益性の低い企業は、減価償却を行うことによる税務上のメリットがないと言えます。

なお中小企業の多くは、税法に準拠した決算書を作成していますが、税法上は減価償却費の計上が強制されていません。 そのため節税効果が見込めない企業や、決算書への影響を気にする企業の中には、減価償却費を計上しないことで、実態よりも利益が過大に表示されている場合が見受けられます。