その他の税務上の減価償却
定額法と定率法による減価償却のほか、税務上、損金算入が認められる制度は他にも存在します。 「即時償却」「一括償却」「特別償却」について、それぞれの概要とメリットについて解説します。
即時償却とは
即時償却とは、取得した償却資産について、資産計上ではなく、「事業の用に供した事業年度」に一時の費用として処理することです。以下の場合に、税務上、損金算入が認められます。
使用可能期間が1年未満であるもの、取得価額が10万円未満であるもの、いずれかに該当する場合
そのため取得した事業年度に費用処理できる、節税メリットがあります。
また中小企業者等(※)では、さらに優遇措置があります。 ※中小企業者等の定義は、税法で規定がある中小企業のことであり「資本金が1億円以下、資本金が5億円以上の法人の100%子会社ではない」などの要件があります。
これは少額減価償却資産の取得価額の、損金算入の特例と呼ばれており、以下の場合に税務上、損金算入が認められます。
中小企業者等が、10万円以上20万円未満の償却資産を取得し、一時の費用として処理する場合
ただし損金算入が認められる金額は、1事業年度において取得した償却資産の取得価額の合計額が300万円まで、という制限があるため、注意が必要です。
一括償却とは
一括償却とは、取得した償却資産で「取得価額が20万円未満であるもの」について、3年間で費用処理し、損金算入が認められるものです。
厳密には事業年度の月数に応じて費用計上する金額は変わりますが、取得価額が18万円であった場合に損金として認められる金額は、以下の通りです。
- 1年目 6万円
- 2年目 6万円
- 3年目 6万円
毎期均等額の損金算入が認められることから、定額法と類似していると言えます。
一括償却のメリットとしては、償却方法や耐用年数の検討が不要となるため、決算書の作成や税務申告といった手続きを簡略化できる点が挙げられます。
特別償却とは
特別償却とは、特定の設備等を取得して事業の用に供した場合「災害対策」「地方経済政策」「中小企業対策」などの種々の政策的要請から、減価償却費の損金算入に関して税務上の特例を設け、特別償却額の損金算入が認められる制度です。
- 高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の特別償却(特別償却限度額=取得価額×20%)
- 中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却(特別償却限度額=取得価額×30%)
などがあり、 特別償却として計上した減価償却費は、普通償却額に加えて損金算入が認められるため、投資初期における節税効果が高い、と言えます。
特別償却とM&A
特別償却については、M&Aでも活用できるものもあり、上手に活用すれば、大きな節税効果を享受することが可能です。
中小企業経営強化税制において「中小企業の稼ぐ力」を向上させる取組を支援するため、一定の要件を満たした中小企業者等が取得した「特定経営力向上設備」について、即時償却することが認められています。
この対象となる資産にはA類型からC類型といわれる設備があり、令和3年度の税制改正により、M&Aの効果を高める設備としてD類型が追加されました。概要は、以下の通りです。
類型 | 生産性向上設備 (A類型) |
収益力強化設備 (B類型) |
デジタル化設備 (C類型) |
経営資源集約化設備 (D類型) |
---|---|---|---|---|
要件 | 生産性が旧モデルの 平均1%以上向上する設備 |
投資収益率が年平均5%以上の投資計画に係る設備 | 遠隔操作、可視化、自動制御化のいずれかを可能にする設備 | 修正ROA又は有形固定資産回転率が一定以上上昇する設備 |
確認者 | 工業会等 | 経済産業局 | 経済産業局 | ー |
対象設備 | ・機械装置 ・測定工具及び検査工具 ・器具備品 ・建物附属設備 ・ソフトウェア |
・機械装置 ・測定工具及び検査工具 ・器具備品 ・建物附属設備 ・ソフトウェア |
・機械装置 ・測定工具及び検査工具 ・器具備品 ・建物附属設備 ・ソフトウェア |
ー |
その他 | 生産等設備を構成するものであること(事務用器具備品・本店等にかかるもの等は該当しない/国内への投資であること/中古資産・貸付資産ではないこと等) | 左に同じ | 左に同じ | ー |
参考:令和3年度 経済産業関係 税制改正について 特定経営力向上設備の概要
このほか機械装置が160万円以上、工具・器具備品が30万円以上、建物附属設備が60万円以上、ソフトウェアが70万円以上等、金額の要件もありますが、要件を満たせば、即時償却が認められることから、節税効果は大きいと言えます。
なお、上記はM&Aによる生産性向上をさらに後押しする制度の1つに過ぎず、その他にもM&Aを後押しする税制度が存在します。M&Aを検討する際には、活用できる制度の有無について専門家のアドバイスをもとに、広く検討するようにしましょう。