減価償却で注意すべき論点
以降は、税務上の応用的な論点について解説します。
償却過不足について
税法上、損金算入が認められる金額を「損金算入限度額」と言います。会計上、減価償却として計上する金額がこれと異なる場合に、償却過不足が生じます。
法人税法上、減価償却費の計上は強制されていません。決算書への影響を気にする企業の中には、減価償却費を計上しないケースもありますが、損金算入限度額を下回る減価償却費を計上することを「償却不足」と言います。
一方、損金算入限度額を上回る減価償却費を計上することを「償却超過」と言い、超過分については損金にならないため、申告書上での調整が必要となります。
償却超過額は、翌期に繰り越すことができ、翌期の損金算入限度額の範囲内で損金算入が認められる一方、償却不足額は、翌期に繰り越すことができません。 これらについて、定額法を前提とした事例で確認します。
償却超過額について
1年目に減価償却費800、2年目に減価償却費100を計上した場合
この場合、1年目の償却超過額400は損金算入が認められず、申告書で加算調整が必要となります。
また、超過額400は翌期に繰り越されますが、2年目に償却不足額が300あることから、繰越償却額400のうち、300の損金算入が認められます。
償却不足額について
1年目に減価償却費100、2年目に減価償却費800を計上した場合
この場合、1年目に償却不足額300があり、損金として認められる金額は100となりますが、申告書での調整は不要です。
また2年目の償却超過額400は損金算入が認められず、申告調整が必要となり、当該超過額400は翌期に繰り越されることになります。
償却超過と償却不足では、税法上のそれぞれの取り扱いが異なるため、気を付けるようにしましょう。
修繕費、資本的支出について
固定資産について、取得後、定期的なメンテナンスや修繕など一定の支出が行われることが一般的です。 このような支出について税務上では「修繕費」と「資本的支出」という論点があり、減価償却にも関係してきます。
修繕費は税務上、その支出した事業年度において損金算入が認められる支出です。その内容は償却資産の原状回復にとどまるものであり、会計上は収益的支出ともいいます。
資本的支出は税務上、その支出した事業年度において資産として計上することが求められる支出です。その内容は、償却資産の使用可能期間を延長させるものや、価値を増加させるものが該当します。
資本的支出は新たな資産を取得したものと同等の経済的実態を有する、との考え方に基づき、資産として計上し、減価償却を行うことになりますが、
償却資産に対する支出について「修繕費」なのか「資本的支出」のいずれに該当するかは、理論上、経済的実態で判断すべきですが、実務的には悩ましい論点の一つです。
修繕費として処理した支出について、課税当局から資本的支出と認定された場合には、償却超過があった場合と同等の処理が求められ、償却超過額に相当する部分に対して追徴税額等が課税されることになります。
なお税法上は20万円未満や60万円未満といった金額による形式基準もあり、実務上、これを超えない場合には修繕費として処理するケースもあります。
しかし償却資産に対する多額の支出については、形式基準が使えず、経済的実態での判断が必要となります 。償却資産に対して多額の支出を実行する場合には、修繕費に該当するか資本的支出に該当するか、慎重に検討する必要があります。