M&Aにおける減価償却の影響と留意点(譲渡企業視点)

M&Aにおいて減価償却はどのように関係してくるのでしょうか。以降は、譲渡対象企業(売り手)、譲受け企業(買い手)それぞれの減価償却の影響と留意点について解説します。まず譲渡企業視点で、減価償却による自社の株価(企業価値評価)への影響、押さえておくべき留意点について解説します。

企業価値評価の手法には、純資産に着目したコストアプローチ、市場価格に着目したマーケットアプローチ、将来の収益力に着目したインカムアプローチがあります。

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本記事では「実態としての純資産が大きく、収益力が高い企業の株式価値は高くなる」おおよそのイメージを持っていただければ大丈夫です。

減価償却費を計上していない場合

計上している場合に比べ、決算書上のBSの純資産の金額は大きく、PLの利益の金額は大きくなります。

企業価値評価では、実態としての純資産や収益力に着目し、株式価値を算出します。

減価償却費を計上していない企業は、貸借対照表(BS)の償却資産の金額、そして純資産も過大に表示されていると考えます。 一方損益計算書(PL)の費用は過少、利益は過大となっていると考えられます。

そのため企業価値評価では、決算書の金額をそのまま用いるのではなく、必要な修正を加え、株式価値を算出することになります。

具体的に、BSでは、減価償却費を計上していた場合の帳簿価額まで償却資産の減額を行い、純資産の減額を行います。

PLについても減価償却費を追加で計上し、利益を減額することが考えられます。そのため減価償却費を計上しないことにより、決算書の見映えがよくなったとしても、実態としての純資産や収益力には影響せず、株式価値は高くなりません。

特別償却で減価償却費を多額に計上している場合

特別償却による償却資産の帳簿価額は、必ずしも実態としての時価を表示するものではありません。 特別償却の影響により、貸借対照表(BS)の償却資産が実態よりも過少に表示され、純資産も過少に表示されていると考えられる場合があります。また損益計算書(PL)の費用も過大、利益は過少になっていると考えられます。

企業価値評価では、特別償却の影響を除く必要があると認められる場合、貸借対照表(BS)では普通償却額を計上していた場合の帳簿価額まで、償却資産の増額(純資産の増額)を行うことが考えられます。

損益計算書(PL)については、特別償却による減価償却費を、普通償却額まで減額(利益の増額)することが考えられます。