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「後継者がいない」典型的な3つのケース
後継者がいないという理由の背景には、経営者の皆さんが直面するさまざまな現実があります。たとえば、次のようなものです。
①後継者となる子供はいるが、そもそも親の会社の事業に興味がない、またはすでに自分の仕事と家族という人生の基盤をもって生活しているため親の会社を継ぐ意思がない。
②子供はいるが、経営者としての資質に欠けるため会社を継がせることができない。
③経営者の資質をもつ子供がいて、本人にも会社を引き継ぐ意思はあるが、時代遅れの業種のため、先行き不安があって継がせることができない。
経営者の方々からは、次のような話をよく聞きます。
「私の息子は高校時代から優秀で、勉強も運動もよくできた自慢の息子でした。高校を卒業して東京の慶応大学に進学できた時は、天下を取ったように嬉しかったものです。
大学で学ぶうちに、これからは国際的な視野に立ってビジネスをしなければ乗り遅れると言い出して、大手総合商社に就職しました。その会社で大活躍している様子で、現在はニューヨーク支店の副支店長をしています。帰国するたびにいつも海外ビジネスのすばらしさを楽しげに語り、また社内で評価されているので取締役までは出世できるだろうと考えているようです。
そんな息子に、田舎の中小企業を継いでほしいなどとは絶対に言えません。また、大企業で仕事ができる能力と、中小企業で社長として仕事ができる能力は違うと思うので、無理に連れ戻しても、成功するかどうかはわからないと思っているのですよ」
これはまさに、息子さんが自分のライフワークをもって、それを生きがいに頑張っている①の典型的なケースです。
また、次のような話もよく聞きます。
私が、「社長、息子さんが社内に入ってくれて幸せですね! 先ほども玄関でお会いしましたが、元気一杯に挨拶してくれましたよ」とほめると、社長は「ウ~ン。町内の青年部会や、若手の経済団体等では非常に人気者なんですけどね……」と浮かぬ顔で答えます。
「どうしたのですか?」と聞くと、
「どうも息子は、経営者としての資質に欠けているようなのです。社内では古い社員からはボンと呼ばれて相手にされていないし、若手からは人望がなくて親の七光りだと噂されている。自分もそれに気がついていて、会社が面白くないので6時になったらさっさと退社し、街の飲み屋街に出て憂さを晴らしている。だから町の若い経営者連中からは人気者なのですが、彼を後継ぎにしても、会社を引っ張っていくことはむずかしいと思うのです」としみじみと答えられます。
これは、親も息子もつらい②の典型的なケースです。適性のない息子に無理やり継がせても、「継がす不幸」が待っているだけです。
こんなケースもありました。
社長は繊維問屋を経営している2代目です。
初代社長の頃は、繊維問屋は花形産業で事業も順調に伸びてきました。2代目の社長の息子は子供の頃から会社を継ぐ気持ちが強く、「おじいちゃんの次はお父さん、お父さんの次は自分だ」と思って育ってきました。現在大学生ですが、家を継ぐなら大手繊維商社に就職して修業しようと考えています。
しかし、社長はこう言います。
「三宅さん、私は息子に継がせるべきかどうか、本気で悩んでいます。それは2つの点からです。
1つは、問屋という事業形態がすでに古くなっていて、今後社会からは必要とされない時代になるだろうと肌で感じているからです。
通信網も流通網もなかったかつての時代には、問屋の通信機能・在庫機能・配送機能・マーチャンダイジング機能は社会的に必要とされてきました。しかし現在ではインターネットが発達し、宅配が発達し、問屋の存在意味がなくなりつつあります。しかも小売りが大手化して力をもち、PB商品の開発も進んでいます。メーカーと小売、メーカーと消費者が直結していく時代です。
2つ目は、最近はAmazon やZOZOTOWN、メルカリ等が台頭して、消費者はそれらを活用して『安く、早く』商品を買う時代になってきました。我々中堅中小の問屋では、彼らのような商品点数、低価格を実現することは絶対に不可能です。
繊維問屋に20年、30年後の未来はありません。息子を次期経営者として継がせたら、22歳の息子は65歳まで40年間商売をしなければなりません。多くの負債と、それに係わる連帯保証・担保提供を抱えたまま20年、30年と経営を続けていけるとは考えづらいのです。息子にどんな話をして、進路を決定させたらよいのか……。私は、息子には継がせられないと考えています」
典型的な③のケースです。
後継者に継がせるためには、後継者の資質や気持ちだけではなく、継がせる会社の事業の将来性もよく考えなければなりません。
当社にM&Aや事業承継の相談に来られる中堅・中小企業の経営者は年々増加しており、私はこの問題の大きさを肌で感じています。
今後、後継者不在問題はさらに顕在化していき、多くの企業の命運を左右する問題になっていくことは間違いないでしょう。