後悔を残さない経営〜社長が60歳になったら考えるべきこと やるべきこと やってはいけないこと〜
三宅 卓
株式会社日本M&Aセンター代表取締役社長。1952年神戸市生まれ。日本オリベッティを経て、株式会社日本M&Aセンターの設立に参加。数百件のM&A成約に関わって陣頭指揮を執った経験から、「中小企業M&Aのノウハウ」を確立し、品質向上と効率化を実現。営業本部を牽引し大幅な業績アップを実現して上場に貢献。中堅・中小企業のM&A実務における草分け的存在であり、経験に基づくM&Aセミナーは毎回好評。

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事業承継は会社を成長させる重要なトリガーとなる

60歳という節目を迎えた経営者の方々が直面する経営上の課題にはさまざまなものがありますが、やはり大きな課題は次の3つです。

①後継者への事業承継
②経営課題の解消
③会社のさらなる成長と発展の実現

これらをクリアして会社を存続、永続、さらに発展させていくことこそが、60歳になられた経営者としての最大の責務だといえます。

実は近年、事業承継をトリガーや起爆剤として使い、会社を引き継ぐタイミングで大きく成長させようと考える経営者が非常に増えています。

多くの場合、後継者には超えられない壁があります。

たとえば、大きな志を胸に抱き、努力を重ねて成長させてきた会社を息子さんや娘婿などの親族や、いわゆる番頭さんのような幹部社員に会社を継がせたいと考えているとします。しかし、彼らが創業社長であるあなたより経営能力が勝っていることは、残念ながらあまりありません。同じレベルか、それ以下ということが大半です。

結局、彼らは会社の新しいビジョンを構築することができず、あなたが実現してきた成長曲線の延長線上で経営をしていくのが精一杯で、多くのケースでは創業社長を超えて会社を成長させることができない、ということになってしまいます。

これまでの時代とは違って今後は経営環境がますます厳しい時代に突入していきます。生産年齢人口(就業者人口)も消費者人口も会社の数自体も急激に減少していきます。こうした厳しい時代では、後継者は創業社長がつくってきた成長曲線すら維持できず、徐々にスローダウンしていく可能性も否定できません。では、会社をこれからも成長、発展させていくためにはどうすればよいのか。会社を成長させる戦略には、オーガニック戦略とレバレッジ戦略があります。

オーガニック戦略とは何か

オーガニックとは、「有機的」とか「自然に」というニューアンスの言葉で、オーガニック戦略とは、社内に蓄積された人材、商品、技術などを有機的に結びつけ、活かして、自助努力で会社を成長、発展させていく方法です。

わかりやすく言いかえると、社長ご自身が会社の成長戦略をつくり、成長シナリオを描いて、自助努力で会社を大きく発展成長させていくことです。社長自らの経営理念やDNAで会社を成長させていくわけですから、経営者にとっては最高の戦略です。

しかし、業界の先行き不安や経営環境の変化、人口減少問題、規制の緩和や強化などの外的要因もあって、ご自身の努力だけで会社を成長させていくのは、いずれ限界を迎えます。

たとえば、関西で創業し、名古屋、さらには関東まで進出することができ、現在は北関東にまで勢力を拡大することができた食品卸売業の会社があるとします。今後さらには東北にも進出したいと考えた時、越えなければならない壁があります。それは、関西と東北ではさまざまな面で大きく異なる文化の壁です。

関西人的な手法が東北で好意をもって受け入れられるとは限りません。私の経験からも、関西人の営業マンがまったく土地勘もない秋田や山形、青森などに行って自力で商売を広げていくオーガニック戦略は、かなりむずかしいことです。

レバレッジ戦略とは何か

もう1つの考え方は、レバレッジ戦略です。

レバレッジとは、「てこ」のことで、てこを使うと10kgの力で50kgのモノを持ち上げることが可能となります。金融の世界では、レバレッジ戦略というのは、他人資本、言いかえると他社の資金、人材、技術、販売ルートをうまく活用して自社の企業を成長させる戦略です。

つまり、ここでいうレバレッジ戦略とは、M&Aによって他社の力を借り、これを“てこ”として会社を大きくしていく戦略です。

レバレッジ戦略には次の手法があります。

  1. 会社を買う……買収戦略
  2. 大手の傘下に入る……パートナー戦略
  3. ファンドと組む……パートナー戦略