後悔を残さない経営〜社長が60歳になったら考えるべきこと やるべきこと やってはいけないこと〜
三宅 卓
株式会社日本M&Aセンター代表取締役社長。1952年神戸市生まれ。日本オリベッティを経て、株式会社日本M&Aセンターの設立に参加。数百件のM&A成約に関わって陣頭指揮を執った経験から、「中小企業M&Aのノウハウ」を確立し、品質向上と効率化を実現。営業本部を牽引し大幅な業績アップを実現して上場に貢献。中堅・中小企業のM&A実務における草分け的存在であり、経験に基づくM&Aセミナーは毎回好評。

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自分が認知症になったら財産はどうなるのか

認知症になった場合、財産の相続についてどのような手続きをとればいいのでしょうか?

A ナビゲーター

認知症の場合、法律行為はできません。相続対策もなにもできません。

【解説】

認知症は深刻な問題です。65歳以上の人のうち、5人に1人が認知症または判断能力に疑義があるといわれています。経営者にとっても認知症は他人事ではないので、準備は必要です。

認知症に該当すると法律行為ができません。たとえば、認知症の人が遺言を作成した場合、その法律行為は無効となってしまいます。

ここでは、認知症の疑いのある経営者が公正証書遺言を作成し、その後に相続が起きた場合を考えてみます。

遺言の内容に不満がある次男は、「遺言作成時、父は認知症で判断能力はなかった。遺言は無効だ」と主張しました。それを受けて長男は「公証人の目の前で作成しており、問題はなかった」と主張しました。

ただし、公証人の立ち会いが法的な証明となるわけではありません。あくまで公証人は、その場で個人が言ったことを証明するもので、判断能力があるかどうかを判断しているわけではないからです。

父に判断能力があったことを長男が証明するのは、とてもむずかしいことです。判断能力に何の懸念もないうちは、誰も認知症かどうかの検査は受けないからです。

以前、次のような事例がありました。

亡くなった父がモルヒネなどの成分の入った薬を服用していました。父が残した遺言に不満をもっていた次男が、この事実をもとに遺言の無効を訴えました。長男は、「父は薬を飲んでいたが、判断能力に問題はなかった」と主張しました。しかし、医師が「モルヒネは判断能力を鈍らせる効果がある」と解説したことがポイントとなり遺言が無効となってしまいました。

認知症と診断されるかどうかではなく、判断能力があったかどうかがポイントとなります。そのため、今後、判断能力がポイントなるようなケースでは、必ず認知症の検査を受けたうえでの対策が必要です。

「うちの家族は仲がいいから、そんな対策は必要ない」と思うかもしれませんが、「まさか」に備えることが大切です(*著者注:私は弁護士のアドバイスにより、「妻が85歳を超えた場合は相続執行人を遺言書管理を任せている弁護士にする」と遺言書に明記しました。妻の認知症対策のためです)。

社長が急死したら誰が次の社長を選ぶのか

現在、会社の大株主であり社長である自分が突然死んだ場合、会社は誰が相続するのでしょうか。
また、誰が次の社長を選任するのでしょうか?
その他、留意することがあれば教えてください。

A ナビゲーター

誰が会社の代表を選ぶのかといえば取締役会です。
代表が死亡したら、残された取締役が代表取締役を選びます。
基礎的なことですが、ここで整理しておきます。

【解説】

現社長としては、自分が突然に亡くなってしまった場合、自分が気に入らない、あるいは想定していなかった人間には社長になってほしくないと考えているでしょう。社長であれば当然だと思います。

次の社長は会社の取締役会で選ぶわけですが、その取締役を選任するのは株主です。議決権の過半数をもっていれば、その株主が取締役を選ぶことができます。

相続が起き、ご家族が株式を相続した場合は、そのご家族が取締役を選任することになります。ですから、ご家族が事業に関連のない場合は、会社のために遺言などを残しておく必要があります。

また、社長の自宅が会社所有になっていて社宅扱いとなっている場合、ご家族が社宅から追い出されてしまうのではないかと心配される方もいますが、そのようなことがないように、賃貸借契約書を会社との間で締結しておく必要があります。

賃貸借契約書をつくっていない場合は問題が発生する可能性がありますので、事前に準備しておきましょう。

なお、自宅が会社所有であることをご家族が知らないケースもありますので、事前の説明も必要です。