後悔を残さない経営〜社長が60歳になったら考えるべきこと やるべきこと やってはいけないこと〜
三宅 卓
株式会社日本M&Aセンター代表取締役社長。1952年神戸市生まれ。日本オリベッティを経て、株式会社日本M&Aセンターの設立に参加。数百件のM&A成約に関わって陣頭指揮を執った経験から、「中小企業M&Aのノウハウ」を確立し、品質向上と効率化を実現。営業本部を牽引し大幅な業績アップを実現して上場に貢献。中堅・中小企業のM&A実務における草分け的存在であり、経験に基づくM&Aセミナーは毎回好評。

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社会構造が大きく変わりつつある

60歳からのラストスパートを実現するには、「自分は何をしたいのか?」「本当は会社をどうしたいのか?」を考えると同時に、会社の成長の弊害になりかねない要因について社外と社内の両面で洗い出し、対処することが大切です。

まず、外部要因から見ていきましょう。

現在、日本が抱える問題の1つに、超少子高齢化社会の到来があります。2017年4月に総務省統計局が公表したデータによると、2016(平成28)年10月の時点で日本の総人口は在日外国人を含めて1億2693万3000人で、前年比16万2000人の減少。在日外国人を除くと1億2502万人で前年比29万9000人の減少となっており、減少幅は6年連続で拡大しています。

都道府県別に見ていくと、人口が増加したのは東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県、愛知県、福岡県、沖縄県の7都県のみ。逆に人口減少率が高かったのは、秋田県、青森県、高知県、和歌山県、山形県の順となっています。

年代別にみていくと、65歳以上の高齢者は3459万1000人で、総人口に占める割合は27・3%、75歳以上は1690万8000人で同13・3%となり、ともに過去最高を更新しています。

一方、0~14歳の年少人口は1578万人で36年連続の減少です。これは記録のある1950(昭和25)年以降では最低人数を更新しており、ピークだった1954(昭和29)年の2988万人からほぼ半減しています。

そして、経営者にとって最も大きな問題なのは、働き手である15~ 64 歳の生産年齢人口(就業者人口)の変化です。1995年に8726万人だった生産年齢人口は、その後減少に転じ、2015年で7728万人、2016年時点では約7656万人となっており、この20年で約1000万人も減少しています。

さらに深刻なデータもあります。

2017年4月に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表したデータ「日本の将来推計人口(平成29年推計)」によると、日本の人口は2065(平成77)年には8808万人にまで減少すると推計されています。それにともない、生産年齢人口は、出生中位推計の結果によれば、2029年には7000万人、2040年には6000万人、2056年には5000万人をそれぞれ割り込み、2065年には4529万人にまで減少すると推計されているのです。

これは単純に考えると、働く人の数が50年後には半分近くにまで減少してしまうということです。「働く人=モノを消費する人」ですから、モノを消費する人の数も半分になります。洋服を買ったり、マイホームやマイカーを買ったり、飲食をする人の大部分は就業者人口と同じ15~64歳の人たちですから、このままいくと消費者の人口が今後、急激に減少していき、あらゆる企業の売上げも落ちていくでしょう。

また、人口の減少に比例して会社の数も減少しています。2014年時点で、日本の中小企業の数は約381万社あるといわれていますが、就業者人口が半分になるということは、単純に考えて企業自体も半分の200万社弱にまで減ってしまう可能性があるということです。年間約4万社の企業がなくなっていくのです。

実際、前述の通り、2016(平成28)年に休廃業・解散した企業数は2万9583件(前年比8・2%増)、2016年中に倒産した企業の件数は8446件(前年比4・1%減)となっています。年間約3万8000社がなくなっており、すでに日本ではこうした現実が始まっているのです。

すると、どういったことが起きるでしょうか?

働く人は減り続ける。会社を引き継ぐ人もいなくなる。会社を買う会社もなくなっていく。

この先、何も手を打たないで経営していると、あなたの夢の実現どころか、会社自体の体力も弱って、じり貧になってしまうでしょう。

セミナーや講演などで全国を飛び回っていると、この数年、日本経済が一段と変動してきたことを肌で感じます。

右肩上がりの高度経済成長期は、まじめに働いて、がんばっていれば会社の業績も上がっていく時代でした。特に製造業などでは物をつくればつくるほど売れるという時代が続きました。しかし、現代ではどの業界も頭打ちで、成長産業や分野を見つけることがむずかしい、大変な時代に突入しているのです。

これが、会社の成長を阻む外部要因です。

鍵はリーダーのコミュニケーション

では次に、内部要因を見ていきましょう。

60歳になる前、自分を見つめ直し、これまでの人生を振り返った私は、あることに気がつきました。それは現場を離れてから、社員たちとしっかりコミュニケーションをとっていないのではないかということでした。

実は、会社の成長を阻害する大きな要因に、社内でのコミュニケーション不足の問題があります。これは経営者にとって盲点になりやすい部分です。

社長が考えている会社の成長のビジョンや夢が社員全員にうまく伝わっていなければ、そしてベクトルが合っていなければ、会社の成長は見込めません。そのベースを成すものがコミュニケーションだと思います。

私は、自分の能力を発揮するポイントとして、現場でのリーダーシップと問題解決に焦点を合わせて仕事をしてきました。この2点に関しては自分でも高く評価していいと思っています。実際、社長になって現場から離れてからも、リーダーシップをしっかりと発揮し、精力的に問題解決をしてきたつもりです。

しかし、以前のように部下たちと一緒になって考えているだろうか、問題の本質に向き合っているだろうかと考えた時、疑問符がついたのです。

現場にいた頃は、週に2、3回は、仕事の後に部下たちとの飲み会を入れていました。地方出張に行った際は、必ず部下とご当地料理を食べに行き、近況を聞いてアドバイスしたり、将来のビジョンを語り合ったりしていたものでした。

しかし、あと数年で60歳、という時期になると、その種のことをしなくなってしまいました。週に6日は取引先への接待、金融機関との会食、同業仲間との情報交換などで夜のスケジュールはびっしり埋まっているのに、社員との飲み会の予定は1つも入っていない。そんな状況だったのです。

上場して社長になり、お付き合いする層のレベルが上がったことや、範囲が格段に広がったこと、組織が大きくなり私自身が現場から離れて経営に専念し出したことが原因です。

私はM&Aの実務を進めていくうえで、これまで多くの経営者のヒアリングを行い、会社の現状分析を行ってきました。そうした経験から、多くの会社に、経営者と社員とのコミュニケーション不足によって起きるマネジメント上の問題があることもわかっていました。それなのに、知らず知らずのうちに自分も同じような問題を抱えていることに気づいたのです。

多くの経営者は、自分はコミュニケーションが得意だ、社員や子供たちとの意思疎通は問題なくできていると思っていらっしゃるでしょう。しかし私は、多くの経営者は、コミュニケーションが得意なようでいて、実は不得意だと感じています。

経営者は、常に大きなリーダーシップで社員を引っ張っていかなければなりません。問題が発生した時には、「心配するな、俺がなんとかする」と言って社員たちを安心させ、時には鼓舞していかなければなりません。ワンマンだと陰で文句を言われたとしても、「俺についてこい」という力強さがないと、長く会社を経営していくことはできないものです。ですから、どの経営者も、対外的にも社内的にも独自の個性とカリスマ性をもっています。

しかし、そうした経営者は、往々にして人の話を聞きません。自分が言いたいことは言い、強引に話を進めたりしますが、社員たちと同じ目線に立って考えを聞くとか、気持ちを理解してコミュニケーションをとろうとする部分がどうしても薄くなりがちです。

本来はコミュニケーション能力に長けた人でも、経営者としての長年の経験や習慣が染みついているために、カリスマ社長というペルソナ(仮面)が逆に邪魔をしてしまっている場合があります。そのため、自分から意識してコミュニケーションをとろうと努力しなければ、社員たちと同じステージに立って、彼らの目線で語り合うことがなかなかできなくなってしまうのです。

すると社員たちはやる気を失い、最悪の場合は離反という事態を招くかもしれません。そうした状態では、とても会社のさらなる成長は望むべくもありません。こうしたことは、家族との間でも起きる可能性があるでしょう。

そこで私がとった方法は、週に1回、社員たちと合宿をすることでした。毎回、4~5人の幹部や社員をホテルに集めて、夕方の6時頃から9時頃まで3時間のミーティングを行います。

ここでは、私はファシリテーター(調整役、促進者)として、自分からは意見を言いません。とにかく社員たちの意見を聞くことに徹します。そこでまずは問題を明確にして、全員で話し合っていきます。比較的軽めの話の場合もあれば、事業戦略や事業承継、後継者問題にまで話が及ぶこともあります。

その後は3時間ほど食事をし、持ち込んだワインを飲みながらディスカッションを展開していきます。そして、その夜はみんなでホテルに宿泊をするという流れです。

私の場合は、この合宿のおかげで社員たちとの信頼関係を再構築することができました。

私はこの合宿を年間40回、3年連続実行しましたが、「まじめなディスカッション3時間」と「お酒を飲みながらのディスカッション3時間」というバランスもよかったようです。話が多方面に展開しますし、社員のいろいろな顔や表情を見ることができます。

いくら同じ釜の飯を食べてきた仲間だと思っていても、社員1人ひとりが同じ価値観や思いで仕事をしているわけではありません。必ずしも、一枚岩の関係というわけではないのです。社長であるあなたが何かしらのアクションを起こして、コミュニケーションをとる努力をしなければ、信頼関係は醸成されません。

会社の将来を考えるうえで、コミュニケーションは想像以上に重要な要素であることをご理解いただければと思います。