売上を減らそう
中村 朱美(なかむら・あけみ)
1984年生まれ、京都府出身。専門学校の職員として勤務後、2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。その後、「すき焼き」と「肉寿司」の専門店をオープン。連日行列のできる超・人気店となったにもかかわらず「残業ゼロ」を実現した飲食店として注目を集める。また、シングルマザーや高齢者をはじめ多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され、2017年に「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選出。2019年には日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞(最優秀賞)を受賞。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます

100食限定は儲かるのか?

佰食屋のビジネスモデルを説明すると、いつも聞かれるのはこの2つです。

「それで儲かるのですか?」「やっていけるのですか?」。

もちろん、佰食屋は「開店から3年後の廃業率が約7割」と言われる飲食業界で6年以上つづけてこられていますから、「やっていけないことはない」とは言えます。

ただ、「めちゃめちゃ儲からない」それは、くれぐれもお伝えしておきたいことです。参考までに、実際の数字を書きます。

佰食屋の母体である「株式会社minitts」の2018年8月期末の年間売上は、全体で1億7000万円を超えました。けれども、経常利益としてはギリギリの赤字でした。第5章で詳しくお伝えしますが、2018年6月に関西一円を襲った大阪北部地震の被害、続く西日本豪雨や台風の被害により、佰食屋3店舗での営業利益は約600万円の赤字となってしまったのです。

幸い、当社には夫が担っている不動産部門というもう1つの柱があって、その赤字を少しカバーすることはできましたし、会社を揺るがすほどの危機には至らず、なんとか乗り越えることができました。

佰食屋のスタンスは、とにかく倒産さえしなければいい、会社として存続していけたらいい、です。

お金はあくまで、わたしたちの夢を叶えるために最低限あればいい。そして、わたしたちの夢は、「佰食屋を続けていくこと」「佰食屋が従業員一人ひとりの夢を叶えるための土台になること」なのです。

FLコスト80%でも利益を出しつづける秘密

飲食店を経営するうえで、大切な指標となるものがあります。

それは「FLコスト」。Fは「Food(原価、材料費)」、Lは「Labor(人件費)」で、この2つを合計したのがFLコストです。そして、FLコストを売上で割ったFL比率を約50〜55%に抑えるのが飲食店経営の鉄則、と言われています。

では佰食屋はというと……食材の原価率は約50%、人件費も約30%に上るため、FL比率は、なんと約80%です。数字だけ見ると、税理士や経営コンサルタントはこう言うでしょう。「このままでは絶対に潰れます」と。けれども佰食屋は、この「絶対に解けない難問」をクリアしています。なぜなら、残りの約20%をなるべく低く抑えるため、さまざまな工夫をしているからです。

まず1つめは、何度も言う通り「1日限定100食だから」。

営業時間が限られているため、光熱水費を低く抑えることができますし、食材を安定的に仕入れることもできます。人件費の大幅な変化もないため、一定以上のコストがかかりません。

2つめは、「広告費ゼロで100食を売り切っているから」。

佰食屋はシンプルに、でも間違いなく「ほかのお店よりも安くておいしい」商品を提供しています。これだけ選択肢も多く、お客様の口コミも来店直後にネットに書き込まれるような時代です。一切ごまかしは効きません。本当においしいもの、選ばれるものを提供することが、いちばんの集客への近道です。

圧倒的な商品力を武器に、口コミや取材のみによるメディア露出でプロモーションを行っているため、広告宣伝費は一切かかりません。雨の日でも雪の日でもコンスタントに1日100食を売り切っています。

3つめは、「家賃を低く抑えているから」。

佰食屋の店舗はどこも駅の近くにありますが、「一本路地に入った住宅街」や「錦市場の2階」など、通りがかりの人からの集客に若干難のある物件ではあります。けれども佰食屋は口コミやメディア露出で集客しますから、まったく問題ありません。そのため、佰食屋の家賃比率は、全体で約8%とかなり低く抑えられているのです。

これはわたしたちが不動産部門を営んでいる利点でもありますが、誰よりも「安くていい物件」を見つけ出すことに長けているのかもしれません。周辺の様子や間口を見て、ピン! と来る条件があるのです。

その条件は、言語化できる範囲で言うと3つです。

  • 近くに大規模な集客施設があること
  • 人や車が通るルートがあること
  • 公共交通機関から徒歩10分圏内にあること

まず、スーパーや量販店でもいいのですが、「どこかに行くついでに来れる」というのは、来店のきっかけの1つになります。

次に、人が行き交う場所であるかどうかは、その周辺のにぎわいにもつながります。そして、地元の人にとっては「車で行ければいい」と考えるかもしれませんが、それでは県外のお客様にとってハードルになってしまいます。

そして、駐車場を契約するにも固定費がかかりますし、せめて近くのコインパーキングで対応する形で、「公共交通機関で来てもらうこと」を前提に考えています。