GX(グリーントランスフォーメーション)とは、クリーンエネルギーを主軸とする産業構造、社会システムへと変革を図る概念だ。本記事では、GXが注目される背景や経産省のGX戦略、国内外の取組事例などについて分かりやすく解説する。
目次
GX(グリーントランスフォーメーション)とは
GX(Green Transformationの略称)とは、化石燃料ではなく太陽光発電などのクリーンエネルギーを利用し経済社会システムや産業構造を変革して温室効果ガスの排出削減と産業競争力向上の両立を目指す概念。世界で緊急課題となっている地球温暖化対策のなかでも温室効果ガスの排出削減は重要な施策の一つとなっている。企業にとってもGXへの取り組みを進めることがブランド力の強化となるだろう。
GXとカーボンニュートラルとの違い
カーボンニュートラルとは「温室効果ガスの排出量と森林などによる温室効果ガスの吸収量を均衡させ排出量を実質ゼロにする」という地球温暖化対策の一種だ。カーボンニュートラルは、GXの基軸となる施策の一つであり、GXはカーボンニュートラルを包含する概念である。
GXとDXの関連性
GXとDXは、密接な関連性がある。なぜならGXの実現には、さまざまなデジタル技術が必要になるからだ。例えば脱炭素化に欠かせない電気自動車は、自動車のDXが必要不可欠である。また電力の需要予測を行い電力生産の最適化を図るためには、AIを活用した業務フロー改善などが必要だ。2020年10月、日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言した。
しかし目標実現のためには、電力ネットワークのデジタル制御など強固なデジタルインフラを構築しなければならない点を指摘している。
GXが注目されている背景
GXが注目されている背景には、地球温暖化の深刻化や日本政府の2050年カーボンニュートラル宣言、岸田内閣がGXを「重点投資分野」の一つに位置付けたことなどが挙げられる。それぞれの背景について以降で順番に整理していく。
地球温暖化の深刻化
地球温暖化の深刻化に伴い大規模な水害や森林火災などさまざまな環境問題が発生している。環境問題による経済損失は計り知れず、温室効果ガスの排出の高い状況が続いた場合、2100年までに平均気温が約2.6~4.8度上昇する。未曽有の干ばつや洪水の発生リスクが高まっている状況だ。
欧米では、以前より地球温暖化対策に尽力した結果、技術力向上によってマーケットシェアを高め大きな収益を上げる企業が増加している。かつて温室効果ガスを多く排出している米国と中国は、地球温暖化対策に熱心ではなかった。しかし経済的な機会損失や国際的な影響力低下を懸念していることもあってか現状両国ともに地球温暖化対策に取り組み始めている。
2050年カーボンニュートラル宣言
日本政府は、2020年10月にカーボンニュートラルの実現を2050年までに目指すことを宣言した。2021年6月には「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表。成長が期待される14の分野別に現状と課題を整理し成長戦略の「工程表」を掲げている。
カーボンニュートラル宣言とは、分かりやすい言葉で表現すると「地球の温暖化を防ぐため、人々が出す二酸化炭素の量と、それを吸収する量を同じにしよう」という考え方を指す。これが何を意味するのか、もう少し詳しく説明しよう。
我々が普段使っている車や電気、そして工場での生産活動などにより、大量の二酸化炭素が空気中に放出されている。二酸化炭素が多くなると地球の気温が次第に上昇し、「地球温暖化」と呼ばれる現象を引き起こす。このままでは、海面上昇や異常気象が増えるなど、日常生活に大きな影響が出ることが予想されている。
地球温暖化を防ぐための目標が「カーボンニュートラル」だ。多くの国や企業が「カーボンニュートラル」を目指して行動を起こしている。具体的には、二酸化炭素の排出を少なくするための新しい技術の導入や、再生可能エネルギーの利用拡大などの取り組みを行う。また、排出をゼロにすることが困難なケースでも、森を増やすことで、自然が二酸化炭素を吸収する力を増やす方法も考えられる。
「カーボンニュートラル宣言」は、このような考え方や取り組みを公式に表明することだ。つまり、「地球温暖化を防ぐために、二酸化炭素の排出と吸収のバランスをとる努力をする」という意志を宣言することを意味する。
GXがビジネス界での重点投資分野として浮上
2022年6月、岸田内閣は経済の成長戦略として「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を発表した。岸田内閣は、この計画のなかでGXを今後の成長のキーとして位置づけ、重点投資分野の一つに指定している。
この背景には、GXが持つ経済的な潜在力や産業のイノベーションを促進する可能性を評価し、国の競争力を高めるための戦略として取り入れたいという意図がある。具体的な取り組みとして「今後10年間に官民が協力して150兆円規模のGXへの投資を実現する」という野心的な方針を打ち出しており、これにより日本の経済活性化や新しい産業の創出を目指している。
企業がGXへ参加するメリット
企業がGXへ参加する主なメリットには、以下の3つが挙げられる。
- 政府のサポートや公的予算の増加
- ブランドイメージの向上
- 人材獲得の優位性向上
各メリットについて以降で詳しく見ていこう。
政府のサポートや公的予算の増加
日本政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」「GXを重点投資分野の一つに指定する」などGXに力を入れている。上述した通り、今後10年の間に官民協調で150兆円規模の投資を行う方針もあるため、企業はGXに参加することで資金的な援助が期待できるだろう。
ブランドイメージの向上
企業は、GXへ参加することで環境問題に力を入れていることを社内外にアピールできる。消費者側も環境問題に対する意識が向上しているため、環境問題に取り組む企業姿勢が評価されブランドイメージの向上が期待できるだろう。
人材獲得の優位性向上
GXに取り組む企業は、世界的なトレンドを積極的に取り入れ先進的な事業運営を行っているとして、求職者の認知度やイメージの向上につながる。結果として「より優秀な人材が集まる」「多くの応募がある」など人材獲得のうえでも有利に働く可能性が高まるだろう。
日本政府のGX戦略
日本政府の主なGX戦略としてGXリーグとGX実行会議を紹介する。
GXリーグ
GXリーグとは、産官学が協働しカーボンニュートラル時代の未来像やGX市場のルール形成について議論しながら新たな市場を創造する実践の場だ。GXリーグにより経済と環境および社会の好循環を目指す。GXリーグは、未来社会像対話の場・市場ルール形成の場であるとともに自主的な排出量取引の場としても提供される。
GX実行会議
2022年7月、岸田内閣は「GX実行会議」を設置した。GX実行会議では、以下の2点について議論する。
- 日本のエネルギーにおける安定供給の再構築
- 脱炭素に向けた経済・社会、産業構造変革の今後10年間におけるロードマップ
2022年8月の第2回会議では、2022年2月に勃発したウクライナ情勢により世界的にエネルギーの需給状況が不安定となっている点を整理。再エネ政策の今後の進め方について議論が進められた。
国内の取組事例
ここからは、国内の以下4例の取組事例を紹介する。
- 経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)
- 東京電力ホールディングス株式会社
- トヨタ自動車株式会社
- NTT(日本電信電話株式会社)
自社でGXに取り組む場合の参考としてチェックしてほしい。
経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)
2022年5月に経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)は、GXに向けた提言を発表した。提言のなかでは、産業の国際競争力強化や官民の投資を最大限に引き出すために日本政府に対してGX政策パッケージ(グランドデザイン)の早急な提示を要求している。またエネルギーの供給側には、エネルギー安全保障の強化や原子力など既存技術の活用を指摘。
エネルギーの需要側には「省エネ・電化」「イノベーション」「グローバル・バリューチェーン」から見直した温室効果ガス排出量削減などによるカーボンニュートラルの対応を求めている。
東京電力ホールディングス株式会社
2022年3月、東京電力「GXリーグ基本構想」への賛同を発表した。東京電力は、発表のなかで「ゼロエミッション電源の開発」「エネルギー需要の更なる電化促進」の2点を重点的に取り組むことを宣言している。
トヨタ自動車株式会社
2015年10月、トヨタ自動車株式会社は「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表した。車が環境に与えるマイナスの要素をゼロに近づけて環境や社会にプラスをもたらすことを目指している。自動車製造時に生じる二酸化炭素の排出量を削減するほか、新車の平均二酸化炭素排出量を2050年までに2010年と比較して90%削減など目標は具体的に数値化している。
NTT(日本電信電話株式会社)
NTTグループは、2020年5月に「環境エネルギービジョン」を発表。同ビジョンによると自社の再生可能エネルギー利用率を2030年度までにNTTグループの温室効果ガス排出量を2013年度比で80%削減し2040年度にはグループ全体でカーボンニュートラㇽの実現を目指すとしている。カーボンニュートラルで目指す主な施策は、以下の2つだ。
- 再生可能エネルギー利用を拡大して温室効果ガスを45%削減
- IOWN(アイオン)導入により電力消費量を削減し温室効果ガスを45%削減
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)とは、次世代コミュニケーション基盤。NTTは、2024年に仕様確定、2030年ごろにIOWNの実用化を目指している。
海外の取組事例
次に海外での代表的なDXの取組事例を4社紹介する。
Googleは2007年にカーボンニュートラルを達成している。また2030年までに24時間365日炭素排出ゼロにすると宣言。Googleは、早くから再生可能エネルギー源を確保し風力や太陽光発電だけでなく地熱発電も取り入れ、2022年からは米国のネバダ州にあるデータセンターで地熱発電を利用している。
また天候や時間帯などにより発電量が大きく異なる再生可能エネルギーの安定供給に、コンピューター処理を利用する予定だ。
Amazon
2021年、Amazonは2040年までにネットゼロカーボン達成を宣言した。2025年までに自社の事業を100%再生エネルギーで行うのが目標だ。
Apple
2020年、Appleは2030年までにサプライチェーンの100%のカーボンニュートラル達成を宣言している。カーボンニュートラル達成のためにAppleが実践しているアクションは「低炭素の再生材料使用した製品デザイン」「再生可能エネルギーへの移行継続」などだ。またApple向けに製品や部品を供給している日本企業も100%再生可能エネルギーで生産を開始する準備を求められている。
Microsoft
2020年1月、Microsoftは2030年までに二酸化炭素の排出量よりに吸収量が上回る「カーボンネガティブ」を達成すると宣言。さらに2050年までには、創業(1975年)以来排出してきた二酸化炭素をすべて吸収する「カーボンマイナス」を目指すとも宣言している。
GXとESG投資の広がり
近年、投資の世界で「ESG投資」という言葉が頻出している。ESGという言葉は、企業の取り組みが「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」の3つの面で持続可能かどうかを示す指標だ。
では、なぜこのESG投資が注目されているのだろうか。これは、単に利益を追求するだけでなく企業が社会や地球環境に負担をかけず、持続的に成長できるかどうかが投資家たちにとって非常に大切になってきたからだ。
実際、世界のグリーンボンド発行総額は2021年まで右肩上がりに上昇し6,244億米ドルに達した。前年比で2倍以上の増加だ。しかし世界では、2022年・2023年において発行実績が減少。ただ日本では、2023年も2兆円以上ものグリーンボンドが発行されており、ESG投資が重要視されていることがうかがえる。
GXは、ESGの考え方と非常に密接な関係がある。なぜなら環境や社会に対する取り組みの弱い企業は、その事業の持続性や株価に悪影響を及ぼすリスクが高まるからだ。逆にいえばGXに焦点を当てた企業は、ESGの観点からも高い評価を受けることが期待できる。
世界中では、企業のESGの取り組みを評価するさまざまな基準や指標が設けられている。投資家たちは、これらの基準を参考に環境(E)や社会(S)、企業統治(G)に配慮した経営を行っている企業に投資することを選択している状況だ。
まとめるとESG投資の広がりは、企業が持続可能な成長を目指すうえでの重要な方向性を示しており、その中でGXの重要性が高まっているといえよう。今後も企業の持続可能な成長と投資の方向性は、このESGとGXを中心に動いていくだろう。
GXは環境保護と産業の発展の両立に不可欠
現代の経済成長の背景には、環境問題という大きな課題が存在する。産業の発展と環境の保全は、しばしば相反するものと見られがちだ。しかし持続可能な未来を築くためには、これらを同時に進める必要がある。
GXは、環境技術や環境ビジネスを中心に環境と経済の両立を追求する新たな投資領域として注目されているキーワードだ。企業は、GXの取り組みを進めることで環境問題の解決に貢献しつつ、新しいビジネスチャンスを生み出すこともできる。
再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の高い技術、リサイクルや廃棄物の削減など、多岐にわたる環境対策を取り入れながら、それをビジネスの新しい成長エンジンとして活用することがGXの主な特徴だ。
GXの推進は、企業のリスク管理やブランド価値の向上にも寄与する。環境問題が深刻化するなか、持続可能な経営を追求する企業は、投資家や消費者からの信頼を得やすくなるだろう。GXは、産業の発展と環境保護を同時に進めるための鍵となる要素だ。
経済と環境、この2つの要素が調和を取りながら発展する未来を築くために、GXの重要性はますます増していくだろう。
GXに関するQ&A
Q1.GXの正式名称は?
GXの正式名称は「グリーントランスフォーメーション」だ。英語では、「Green Transformation」と記載する。
Q2.GXとは何をすること?
GXは、さまざまな環境問題を先進技術の力で解決することで地球環境保護と産業競争力向上を両立させる。GXに利用される先進技術のなかにはDX(デジタルトランスフォーメーション)の技術も含まれる。
Q3.GXの目的は?
GXの目的は、温室効果ガスの排出削減による地球環境保護と産業競争力向上の両立だ。
Q4.GXとカーボンニュートラルとの違いは?
GXとは、クリーンエネルギーを主軸とする産業構造、社会システムへと変革を図る概念である。一方カーボンニュートラルは、GXの基軸となる施策の一つだ。GXは概念、カーボンニュートラルは具体的な対策の一種であり、GXのなかにカーボンニュートラルを包含するという関係である。
Q5.GXとDXの関連性とは?
クリーンエネルギーを主軸とする産業構造、社会システムへと変革を図るGXの実現には、さまざまな場面でDX技術が必要となるため、両者には密接な関連性がある。
Q6.グリーントランスフォーメーションとは?
グリーントランスフォーメーションとは、略してGXとも呼ばれる。クリーンエネルギーを主軸とする産業構造、社会システムへと変革を図る概念のことだ。
Q7.経済産業省のGXリーグとは?
GXリーグとは、産官学が協働しカーボンニュートラル時代の未来像やGX市場のルール形成について議論しながら、新たな市場を創造する実践の場として定義されており、経済産業省が場を提供する形だ。GXリーグは、未来社会像対話の場・市場ルール形成の場であるとともに自主的な排出量取引の場としても提供される。