「ESG」という言葉を聞いたことはあるが、それがどういうものなのか、よく分からないという経営者は少なくない。ESG投資とは、環境や社会、ガバナンスに対して積極的な取り組みをする企業に投資することである。ESG投資は2006年に国連が提唱し、マーケットにおいてメインストリームになりつつある。この記事では、ESGの意味やCSR・SDGsとの違い、企業での対応法について徹底的に解説していく。

目次

  1. ESGの意味とは?
  2. ESG投資の意味
  3. CSRとESGの違い
  4. SDGsとESGの違い
  5. ESG投資の市場規模
  6. ESG投資の分類
    1. 1.ネガティブ・スクリーニング
    2. 2.国際規範スクリーニング
    3. 3.ポジティブ・スクリーニング
    4. 4.サステナビリティ・テーマ投資
    5. 5.インパクト・コミュニティ投資
    6. 6.ESGインテグレーション
    7. 7.エンゲージメント/議決権行使
  7. ESG投資の格付けとは?
  8. ESGが利害関係者に与える影響
    1. 顧客への影響
    2. 従業員への影響
    3. 取引先への影響
    4. 地域社会への影響
    5. 投資家への影響
    6. 政府への影響
  9. 企業がESGに対応する4つの方法
    1. 1. 利害関係者の期待を見極める
    2. 2. ガバナンスと情報開示を徹底する
    3. 3. ウェルビーイング向上に取り組む
    4. 4. BCPに対応する
  10. ESGの観点から考える中小企業の経営戦略
    1. ムダを省くことによって環境に配慮する
    2. 働き方改革によって社会に貢献する
    3. コンプライアンス・リスクマネジメントの徹底によってガバナンスを整備する
    4. 対外的にESGに対する積極的な姿勢をアピールする
  11. ESGにおける問題点・注意点
    1. 短期的な有効性を判断しづらい
    2. 基準が複数あり評価基準が分かりにくい
  12. ESGに対する企業の取り組み事例4つ
  13. ESGについて学べる書籍3選
  14. ESGにしっかり取り組み、企業価値を向上させよう
  15. ESGに関するQ&A
    1. Q1.ESGってどういう意味?
    2. Q2.ESGはいつから提唱された?
    3. Q3.日本ではいつからESGが注目された?
    4. Q4.ESG経営は何のために行う?
    5. Q5.ESGのガバナンスはなぜ重要?
    6. Q6.ESGの「マテリアリティ」とは?
    7. Q7.ESG投資の起源は?
    8. Q8.なぜESG投資が重視されている?
  16. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
ESG
(画像=thithawat/stock.adobe.com)

ESGの意味とは?

ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」のことだ。企業が長期的に成長するためには、ESGへの取り組みが重要との見方が急速に広まっている。それに伴って、ESGに積極的に取り組む企業に投資する「ESG投資」が、マーケットのメインストリームといえるほど、大幅に拡大している。

ESGの具体的な取り組み例は、以下の通りだ。

ESGとは? 意味や目的、具体的な取り組みについて徹底解説

これまで、多くの投資家が「環境や社会を意識する投資はリターンが小さい」と考えていた。しかし近年では、環境や社会を意識する投資はリターンが大きく、リスクが小さいとの研究結果が多く発表されるようになり、流れは大きく変わっている。

ESG投資の意味

前述の通り、ESG投資とは「ESGに配慮した企業に対して投資を行うこと」である。ESGが投資で重視されるようになった背景に、国連が2006年に「責任投資原則(PRI)」を提唱したことが挙げられる。責任投資原則は、以下の6項目である。

2006年の提唱以来、機関投資家やアセットオーナーが続々と署名し、署名数は2019年現在2,000件を上回っている。

責任投資原則(PRI)への署名数

2015年には、「世界最大の年金基金」である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)もPRIに署名した。日本政府もESG投資を推進し、2014年2月に金融庁により発表された“日本版スチュワードシップ・コード”である「“責任ある機関投資家”の諸原則」、および2015年6月に東京証券取引所により公表された「コーポレートガバナンスコード」は、いずれもESG投資を推進するものである。

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CSRとESGの違い

ESGと似た意味を持つ言葉に「CSR」がある。ESGとCSRは、何が違うのだろうか。

CSRとは「Corporate Social Responsibility」の略で、日本語では「企業の社会的責任」と訳されている。企業が成長を続けていくためには、株主や従業員、顧客、取引先、地域社会などから信頼を得なければならない。

そのためには、製品やサービスが高品質であるだけではなく安全であること、公正で倫理に沿った活動を行っていること、環境に配慮していることなどの「社会的責任」が近年は求められるようになった。

CSRは、「企業が社会的責任を果たすための活動を経営に組み込んでいくこと」を意味する。利益の一部を社会に還元していくとともに、ガバナンスに関する情報を定められたガイドラインに沿って開示する。つまり、CSRは「企業側の視点」といえる。

それに対してESGは、「社会的責任を果たす企業に投資をすること」を意味する。したがって「投資家側の視点」といえる。この視点の違いが、CSRとESGの違いである。

SDGsとESGの違い

「SDGs」も、ESGと似た意味を持つ言葉だ。SDGsとESGの違いは、何だろうか。

SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳される。2015年9月の国連サミットで採択された「2030年までに持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現する」ための国際的な目標だ。貧困や飢餓、保険、教育、ジェンダー、水・衛生、エネルギー、不平等、気候変動、陸上資源など17の目標が定められており、さらに詳細な169のターゲットも示されている。

各国政府もSDGsに主体的に取り組んでおり、日本でも2016年5月に総理を本部長とし、全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」設置された。「SDGsアクションプラン2020」では、企業が中心となる「ビジネス」のほか、科学技術イノベーション、地方創生の推進、強靱なまちづくり、循環共生型社会の構築、次世代・女性のエンパワーメント、保健・教育などについて、政官財が一丸となって取り組むとしている。

「ビジネス」の目標には、「ESG投資を後押し」することも掲げられている。したがって、SDGsとESGの違いは「取り組みの規模の違い」であり、SDGsが政府や行政も含めた日本全体で取り組んでいくものであるのに対し、ESGは主に投資家が取り組んでいくものといえる。

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ESG投資の市場規模

ESG投資の市場規模は、世界的に年々拡大している。

世界のESG投資残高

上の図は、世界のESG投資残高をグラフ化したものだ。

SDGsが採択される以前(2014年)の投資残高は約18.2兆ドルだったが、2016年には20兆ドルを、そして2018年には30兆ドルの大台を超えた。さらに、2020年のESG投資残高は約35.3兆ドルと発表されており、この数値は2018年比で15%増となっている。

ちなみに、日本におけるESG投資残高は、2018年の時点で231兆円(約2兆ドル)といわれている。欧米に比べると市場規模は大きくないが、新型コロナウイルスの影響を受けた2019年までは増加傾向が続いており、アジア諸国のなかではトップクラスの投資残高を維持している。

このように、ESG投資の規模は欧米を中心に拡大しているが、欧州(※特にEU)に関しては状況が少し変わりつつある。投資家からの資金を集める目的で、見せかけだけの取り組みを行う企業が増えてきたため、ESGの定義を厳格化するなどのルール整備が行われているのだ。

この基準見直しにより、2020年における欧州のESG投資残高は15%ほど減少した。オーストラリアをはじめ、ほかにもルール整備を行う地域がいくつか見られるため、今後しばらくはESG投資残高の伸び率が低下することも考えられる。

ESG投資の分類

ESG投資は、以下の7種類に分類される。

1.ネガティブ・スクリーニング

ネガティブ・スクリーニングとは、投資の対象から特定の業界を除外することである。除外する業界には、武器や原子力発電、化石燃料、ギャンブル、ポルノ、タバコ、アルコールなどがある。ネガティブ・スクリーニングは、ESG投資の代表的な手法といえる。

2.国際規範スクリーニング

国際規範スクリーニングとは、特定の業界を除外するネガティブ・スクリーニングに対し、環境や社会に関する国際的な規範について、一定の水準に達していない企業を業界として横断的に除外するものである。除外される国際規範は、児童労働や強制労働、環境破壊などがなる。

3.ポジティブ・スクリーニング

ポジティブ・スクリーニングとは、前述の2つが特定の企業を除外するものであるのに対し、ESGについて高水準な取り組みをする企業に積極的に投資していく手法である。環境問題や人権問題、従業員への対応、ダイバーシティなどさまざま基準について、銘柄をスコアリングする「ESG評価」が行われている。

4.サステナビリティ・テーマ投資

サステナビリティ・テーマ投資とは、持続可能な社会を実現するために特定のテーマを選び、そのテーマについての取り組みを積極的に行う企業に対して行われる投資のことである。選ばれるテーマには「再生可能エネルギー投資ファンド」や「水ファンド」、「エコファンド」などがある。世界的に見れば少数派ではあるが、日本では比較的以前から行われている投資手法だ。

5.インパクト・コミュニティ投資

インパクト・コミュニティ投資とは、社会や環境、コミュニティなどに対するインパクトが大きい活動を行う企業に対して行われる投資のことである。インパクトが大きい活動を行う企業は非上場であることが多いため、非上場企業や特定のプロジェクトなどに対して投資を行うことになる。

6.ESGインテグレーション

ESGインテグレーションとは、投資先を判断する際に財務情報のみならずESG情報も取り込むことである。特定の企業を排除・選抜するのではなく、またESGのみについて評価するのでもなく、銘柄を評価する際の情報としてESGも勘案する。比較的穏当な手法であるため急成長しており、ESG投資全体のなかでは、ネガティブ・スクリーニングに次ぐ規模になっている。

7.エンゲージメント/議決権行使

エンゲージメントや議決権行使は、ラジカルなESG投資手法といえる。エンゲージメントとは、単に投資を行うだけではなく、株主の立場から企業に対して発言することを意味する。議決権行使は、エンゲージメントよりさらに強力な手法である。ESG投資の議決権行使では、委任状争奪戦にまで発展することもある。

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ESG投資の格付けとは?

ESG投資の観点は従来の投資(※財務情報を重視した方法)とは大きく異なるため、機関投資家などは多方面から情報収集を行っている。なかでも投資家から重視されているのは、各企業のESGに関する取り組みを評価する「格付け機関」の存在だ。

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ほかにも格付け機関は世界中に存在しており、各機関が「AAA」や「B」などの分かりやすい形で各企業を評価している。この評価によって投資先・出資先を決める投資家も少なくないので、現代企業はESG格付け機関の存在を軽視できない。

つまり、これからは格付け機関による評価を意識し、ESGに関する取り組みをより強化する企業が増えると予測される。

ESGが利害関係者に与える影響

企業がESGに関する取り組みを強化することで企業と関わりのある利害関係者(ステークホルダー)にもさまざまな影響があると予測される。具体的に各利害関係者には、どのような影響があるだろうか。ここでは、利害関係者別に企業のESG対応により与える影響を整理する。

顧客への影響

現代では、グリーンコンシューマーやエシカル消費(倫理的消費)などの消費者運動が活発化している。グリーンコンシューマーとは、環境に配慮した消費活動により環境に与える負荷を減らす消費者のことだ。またエシカル消費とは、環境や貧困、人権問題に配慮した消費活動を指す。

企業がESGを意識し環境や社会に配慮した商品やサービスを提供することで、その企業の顧客はグリーンコンシューマーやエシカル消費などの社会貢献ができるようになる。

従業員への影響

企業におけるESGの取り組みのなかには、ダイバーシティやワークライフバランスなど従業員がより働きやすくなる環境整備も含まれる。労働環境改善により、従業員には「労働意欲の向上」「従業員個人の能力開花」「適正な労働時間による健康維持」といったプラスの影響が期待できるだろう。

これから主力の労働力となるZ世代の仕事に対する価値観は「家族や自分を優先しつつ安定した収入を得る仕事に就く」という調査結果もある。ESGへの取り組みで従業員へ良い影響を与えられれば採用にも有利に働き持続的な事業活動にもつながるだろう。

取引先への影響

サプライチェーンは、現在だけでなく将来的にもグローバル化が予想され、海外企業との取引は増える一方だ。ESGに取り組む海外企業も増えているため、海外企業よりESG対応を要請されることも少なくない。企業がESGに対応することで取引可能な企業が増え、ビジネスチャンスも大きく広がる可能性がある。

例えばApple社は、2030年までにカーボンニュートラルの達成を公約。取引先にも使用電力の100%再エネルギー化を求めており、日本でも対応企業が増えている。

地域社会への影響

企業がESGを取り組む事例のなかには、地域社会への貢献も含まれる。地域社会で事業活動を行うことで「地域の雇用創出」「人口定着への貢献」といったことが可能だ。人口流出や過疎化に悩む地域社会にとっては、地域活性化が期待できるだろう。

政府や地方自治体で取り組む地方創生は、資金や人材、ノウハウが不足しており、うまくいっているとは言い難い状況だ。一方、企業には豊富な経営資源や人材、ノウハウがあり、地方の雇用創出による人口定着に貢献できるだけのポテンシャルがある。

投資家への影響

企業は、ESGの一環で投資家に対して投資判断に役立つ情報開示を充実させ大手金融サービス企業による評価指標の開発と周知を実施。投資家は、企業の発信するこれらの情報を確認し投資するかどうかを判断できるようになる。

投資家が上記の情報を求めるようになっている背景としては、欧州を中心に法的整備が強化されたり、グリーンボンド原則などの世界的なガイドラインが策定されたりといった状況が背景にある。

政府への影響

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、排出量を全体として「ゼロ」にするという意味だ。2020年10月、日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すと宣言した。企業がESGに取り組むことで政府の掲げるカーボンニュートラル実現への貢献となる。

企業がESGに対応する4つの方法

このように、近年ESG投資はマーケットにおいて拡大している。ESGに対応した経営を行うことによって、投資先として選択されてキャッシュフローが拡大する、また「信頼できる企業」としてブランディングができるなどのメリットがある。企業がESGに対応する方法には、以下のようなものがある。

1. 利害関係者の期待を見極める

まず必要になるのは、自社の利害関係者がESGに対してどのような期待を抱いているかを見極めることである。企業がESGに対応するメリットは、利害関係者の共感や賛同を得ることによる投資の拡大や、ブランド力の向上だ。ESGへの対応を利害関係者の期待に合わせたものにすることで、より大きなメリットを享受できる。

2. ガバナンスと情報開示を徹底する

ESG投資においては、ガバナンスや情報開示も重視される。適切な組織体制の構築、および透明性の高い情報開示は欠かせない。ダイバーシティに配慮して女性社員の育成・登用を積極的に行うことも、ESGの観点では重要である。

3. ウェルビーイング向上に取り組む

ウェルビーイング(well-being)とは、従業員が「精神・肉体・社会のすべてにおいて満たされた状態」であることを指す。従業員のウェルビーイング向上により、利害関係者の従業員や投資家の共感や賛同を得られるだろう。

従業員のウェルビーイング向上施策としては、多様な働き方への対応や長時間勤務の是正、福利厚生の充実などが挙げられる。コミュニケーションの円滑化や仕事がしやすいオフィスの整備なども、従業員が前向きに仕事に取り組める環境作りに有効な施策だ。

4. BCPに対応する

ESG取り組みの一環としてBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の策定や事業を継続する具体的な取り組みも重要だ。BCPとは、災害やシステム障害、感染症拡大などのトラブルに見舞われても損害を最小限にしつつ、優先事業を継続または早期復旧するための計画である。

例えば新型コロナウイルス感染症の拡大時においても事業を継続できるようにチャットツールなどの準備を行いテレワークの環境を整えるのも事業を継続する取り組みの一例だ。

ESGの観点から考える中小企業の経営戦略

ここからはESGの観点から、中小企業がとれる経営戦略をもう少し詳しく見ていこう。

ムダを省くことによって環境に配慮する

食品や製造に関する業種の場合は、「ロスをなくすこと」や「廃棄物を減らすこと」に着目したい。例えば、これまで捨てていた部分をローコストで商品化するだけでも、環境面には大きく貢献できる。

そのほかの業種に関しても、環境面に対する基本的な考え方は同じだ。これまで発生していた仕入れのムダ、輸送のムダ、製造工程のムダなどを見直せば、環境配慮に向けて改善すべきポイントが見えてくる。

再生可能エネルギーの活用も一つの手だが、中小企業の場合はコスト面で難しくなる可能性があるため、まずは改善しやすい業務から見直すことをおすすめする。

働き方改革によって社会に貢献する

ESG経営を目指して大きな改革をすると、会社全体がうまく機能しなくなる恐れがある。そのため、社会(Social)の観点についても、まずは取り組みやすい部分から見直すことがポイントだ。

中小企業が実践しやすい取り組みとしては、主に以下のようなものが挙げられる。

ESGとは? 意味や目的、具体的な取り組みについて徹底解説

地域活性化やボランティア活動なども考えられるが、近年の日本では「働き方改革」が重視されていることから、上記の2つに取り組む意味合いは大きい。また、女性の活躍推進もESG経営と働き方改革を両立する手段となるため、女性の管理職や人材が少ない企業は積極的に検討してみよう。

コンプライアンス・リスクマネジメントの徹底によってガバナンスを整備する

ガバナンス(Governance)に関しては、まずは「コンプライアンス(法令順守)」を徹底するところから始めたい。単に法令・条例を遵守するだけではなく、ホームページ上にコンプライアンス宣言を掲載したり、従業員にコンプライアンス教育を受けさせたりなど、プラス面として評価されるような取り組みを行うことが重要になる。

また、自社に潜むリスクを徹底的に洗い出し、丁寧にリスク対策を考える方法(リスクマネジメント)も一つの手だ。リスクマネジメントに取り組むと、商品・サービスの質や消費者からの評価が高まるので、結果的に財務情報を向上させることにもつながる。

対外的にESGに対する積極的な姿勢をアピールする

企業としてESGに取り組むだけでなく取り組み姿勢を利害関係者に周知しなければならない。消費者や投資家から評価を得るためには、取り組みのアピール方法が重要となる。例えば業績と同じように環境や社会に対する取り組みを評価し、数値化など分かりやすい形で自社サイトに掲載するのも一つの方法だ。

また大企業の多くは取締役を中心にESGを先導するが、中小企業の場合は経営者が先導してESGに取り組み、企業理念や経営戦略にESGを反映するのも効果的な方法である。さらに自社サイトにESGへの取り組み内容を掲載するだけでなく従業員や投資家対象に説明会を開催する企業も増加傾向だ。

単純にESGへ取り組むだけでなく自社にできる方法で対外的にアピールするまでを施策として進めていくように検討したい。

ESGにおける問題点・注意点

ESG投資において、企業のESGを判断する7つを紹介したが、ESGを用いた企業評価の判断には難しい点がある。

短期的な有効性を判断しづらい

ESGは投資判断の指標として用いられるが、取り組んだ内容がすぐに成果として現れるわけではない。直ちに結果が出ないという点ではSDGsに似ているが、日々継続して活動を続け、中長期的な視野でのリターンを見込むのがESGの基本的なあり方である。

基準が複数あり評価基準が分かりにくい

企業のESGを財務諸表から判断するのは難しい。そのため、各調査会社等が算出する指標を基に、ESGの計画を構築するのが一般的だ。

例えばアメリカの「MSCI指数」は、二酸化炭素の排出抑制や労働安全衛生などにおける課題を設定し、リスクが発生した際の企業財務に与える影響を考慮して評価が行われる。

また、ロンドンで2000年に設立された非営利団体であるCDPは、グローバルに活動するESGの評価機関である。全世界の1万5,000以上の企業に質問状を送付し、回答内容を基に「気候変動」「水セキュリティ」「フォレスト(森林保護)」分野での企業活動のスコアリングを実施し、結果の公開を行っている。

日本でも、例えば「サステナブル・ラボ株式会社」(東京都)は、ESGへの取り組みにより収益・株価の上昇にどれだけ貢献したかを“見える化”する「ESGテラスト」の開発を進めている。また、同社はESG・SDGsへの取り組みが、環境・社会利益にどれだけ貢献したかを提示する「GIRIGO」の開発にも取り組んでおり、国内のESG評価に取り組む先駆的な企業といえよう。

しかし、こうしたESG評価基準は団体・企業ごとに開発・提示されているため、統一性や整合性に欠ける。評価方法によって、ESGの評価内容も変わってくるため、客観性に限界がある。

ESGに対する企業の取り組み事例4つ

ESGに対して取り組みを行っている企業の4つの具体的な事例を説明する。

(1)SOMPOホールディングス

保険業界大手のSOMPOホールディングスでは、グループが直面しているESG課題を把握した上で、取り組み内容をすべて情報開示している。

環境分野では、温室効果ガス(GHG)の排出制限に取り組み、「直接排出」「エネルギー起源の間接排出」「購入した製品・サービス」「燃料・エネルギー関連活動」「輸送・配送」「事業活動で発生する廃棄物」「出張」などの項目における年度ごとのGHG排出量を試算し、その減少に取り組んでいる。

また社会分野では、「グループ内の女性管理職比率」「障がい者雇用率」「労働組合等の加入率」「育児休業取得者数」「育児支援制度」「介護休業取得者数」などをすべて開示し、取り組み内容を公開。各種比率・制度利用者数の上昇を目指している。

(2)丸井グループ

首都圏を中心に商業施設を展開している丸井グループでは、環境分野において以下のように取り組んでいる。

気候変動:GHG排出量、エネルギー使用量、エネルギーコストの削減
資源と廃棄物:リサイクル率の上昇
サプライチェーン:法令・人権・公正な取引に抵触しないCSR調達の実施
グリーンポンド:グリーンポンドへの充当

また、社会分野においては、「女性管理職比率」「育児休職取得率」「人材への投資額」「社員離職率」などの情報公開や、各数値の改善に取り組んでいる。企業内ガバナンスにおいても、「サステナビリティ委員会の設置」「女性取締役の選任」などにも取り組み、その成果・情報を公開している。

(3)オムロン

大手電機機器メーカーのオムロンは、環境分野では「温室効果ガスの排出削減」「エネルギー使用量の削減」「水銀削減」「使用化学物質の管理」「ゼロエミッション」などに取り組み、その成果を年度ごとに公開している。

また、社会分野では「海外重要ポジションの現地化比率向上」「日本人以外のグローバルな従業員の確保」「女性管理職の採用」「障がい者雇用」などに取り組んでいる。ほかにも「ステークホルダーエンゲージメント」(社会貢献活動への支出)や「ガバナンス」(内部通報・相談件数の開示)などにも取り組み、その成果を開示している。

(4)KDDI

大手電気通信事業者のKDDIは、環境分野では、情報通信技術を活かした業務効率化や人の移動削減に取り組んでいる。また、「KDDI GREEN PLAN 2017-2030」「KDDI Sustainable Action」を策定し、2050年までにCO2排出量実質ゼロを目指している。

社会分野では、時間や場所に縛られない多様な働き方や、さまざまな才能を如何なく発揮できる魅力的な労働環境の提供を行っている。2019年4月にKDDIラーニング株式会社を設立し、2020年4月には「LINK FOREST」という複合型の研修施設を開設した。教育プログラムや教育管理システムなどの人材育成サービスを法人へ提供している。

ESGについて学べる書籍3選

ESGについて実際に理解が深まる書籍を3冊ご紹介する。

・『1冊で分かる!ESG/SDGs入門』:中央公論新社

企業における利潤追求とESGとに整合性を持たせ、株主の合意を得るための企業経営のあり方について解説している。入門書なので内容が分かりやすく書かれており、図やデータが多いので内容の理解を助けてくれる。

・『投資家と企業のためのESG読本』:日経BP社

ESGに取り組んできたアナリストによる著作で、入門書として最適。ESG投資のこれまでと今後の動きを詳細に分析し、企業のIR部門がESG投資家にどのような情報を開示すべきなのかを示している。

・『ESGケーススタディ20』:日経エコロジー

ESGに配慮した経営を行っている先進企業を実際に取材し、その取り組み内容を紹介している。実例を学べるので、ESGの理念や取り組み方法などを解説する入門書と合わせて読むと理解をより深められる。

ESGにしっかり取り組み、企業価値を向上させよう

マーケットのメインストリームとなりつつあるESG投資は、環境と社会、および自社のガバナンスに配慮した企業に対して行われる投資である。CSRとの違いは視点が「企業側であるか投資家側であるか」、SDGsとの違いは「日本の政官財が一丸となって行うものか投資家を主体としたものか」である。

今後多くの投資を呼び込んだり、ブランディングを向上させたりする際は、ESGは欠かせないものになるだろう。ESGにしっかりと取り組んで、企業価値を向上させていこう。

ESGに関するQ&A

ESGは企業の在り方を変える新しい概念であるため、意味や目的については十分に理解することが必要だ。ここからはESGに関するQ&Aをまとめたので、本記事の内容をおさらいするためにも最後までチェックしていこう。

Q1.ESGってどういう意味?

ESGとは、「環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)」の頭文字を取った用語である。ESGは投資判断における新たな観点であり、その考え方は世界中に広まりつつある。

企業に対しても「ESG経営」を求める声は強まってきており、近年ではさまざまな企業が環境問題・社会問題の解決に取り組んでいる。2015年に採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」とも深く関連しているため、ESGへの取り組みはさらに拡大していく可能性が高い。

Q2.ESGはいつから提唱された?

ESGは、当時の国連事務総長であるコフィー・アナン氏によって2006年に提唱された。もともとは機関投資家に対する「責任投資原則(PRI)」のなかで提唱されたものだが、その考え方は一般投資家にも広がってきている。

ESGは金融業界全体のガイドラインとして機能しており、提唱されてからは非財務情報にも目が向けられるようになった。また、機関投資家に「リスクマネジメント基準の設定」や「社会的責任」が強く求められるようになった点も、経営者が押さえておきたい変化である。

Q3.日本ではいつからESGが注目された?

日本でESGが注目されたきっかけは、コフィー・アナン氏による「責任投資原則の提唱」といわれている。世界的にESGの概念が広がっていくなかで、2006年以降は日本でもさまざまなシーンで議論が交わされるようになった。

近年では経済産業省や財務省などが、ESGに関する資料や検討状況などをホームページ上で公開している。

Q4.ESG経営は何のために行う?

持続可能な社会づくりが求められる現代において、ESG経営は中長期的な成長に欠かせないものといわれている。ESG(環境・社会・企業統治)の概念は一般投資家にも広がっているため、ESG経営は資金調達やイメージアップにもつながるだろう。

一方で、利益のみを求める従来の経営体質は、投資家などにマイナスイメージを与える恐れがある。ブランド力や信頼性を向上させるためにも、特に環境問題・社会問題との関わりが深い企業はいち早くESG経営を意識したい。

Q5.ESGのガバナンスはなぜ重要?

ESGのなかでもガバナンス(Governance)は、ステークホルダー(株主・従業員・取引先など)の利益を守ることにつながる。例えば、徹底した監視によって上層部による不正を防止すれば、株価の暴落やイメージダウンのリスクを抑えられる。

ガバナンスの実施方法としては、コーポレートガバナンス体制の明記や発信、社外の取締役・監査役の設置などが挙げられる。また、会社全体の透明性を高めるために、最近では意思決定のプロセスを公開しているケースも多い。

Q6.ESGの「マテリアリティ」とは?

マテリアリティとは、ESGのなかでも企業が優先的に取り組むべき課題のことである。業種や地域によって関わりがある環境問題・社会問題は異なるため、マテリアリティも企業によって変わってくる。

マテリアリティの要素は、環境・社会が企業に与える影響(※1)と、企業が環境・社会に与える影響(※2)に分けられている。このうち、投資家の判断を支援するものは「シングルマテリアリティ(※1のみ)」、幅広いステークホルダーに利用されるものは「ダブルマテリアリティ(※1と※2を合わせたもの)」と呼ばれている。

Q7.ESG投資の起源は?

ESG投資の起源は、アメリカのキリスト教協会が1920年代に始めた投資規制といわれている。当時のキリスト教協会は、宗教上の理由によってアルコールやギャンブル、タバコの関連産業への投資を禁止した。

ESG投資の本格的な普及は2006年以降だが、社会問題については1960年代、環境問題は1990年代から注目され始めている。つまり、ESGは近年いきなり広がった考え方ではなく、社会問題・環境問題が深刻視されるにつれて徐々に注目されるようになった。

最近では2015年に採択されたSDGsも、ESGを広く普及させる一因となっている。

Q8.なぜESG投資が重視されている?

ESG投資は、長期的なリターンを狙うための手法として注目されている。ESG経営に取り組む企業は、社会問題・環境問題への貢献を通して、持続的な成長を遂げる可能性が高いためだ。

従来の財務情報に加えて非財務情報も重視すると、投資家はさまざまリスクを抑えやすくなる。その結果として安定的なリターンを期待できるため、ESG投資は年金を運用するファンドや機関などからも採用されている。

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