『丸亀製麺』で学んだ 超実直!史上最高の自分のつくりかた
小野正誉(おの・まさとも)
株式会社トリドールホールディングス 経営企画室 社長秘書・IR 担当。神戸大学経済学部卒業後、大手企業に就職するも1 年で退社。 その後、外食企業で店舗マネージャー、広報・PR 担当、経営企画室長、取締役などを歴任。2011 年より「丸亀製麺」を展開する株式会社トリドールホールディングスに勤務。 転職してわずか3 年で社長秘書に抜擢。 入社後8 年の間、国内外に1,700 店舗以上を展開する グローバルカンパニーに至るまでの成長の軌跡を間近に体験する。近著『丸亀製麺はなぜNo.1 になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』(祥伝社)は、各メディアで取り上げられてベストセラーとなり、海外版も出版されている。他、著書に『メモで未来を変える技術』(サンライズパブリッシング)がある。1972 年奈良市生まれ。和歌山市育ち。日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。

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口コミを生む熱気

第二章で「お客様は来ない」という発想からスタートするというお話をしましたが、どうすればお客様に足を運んでいただけるか、これは飲食店に突き付けられた命題です。街で配られているチラシなどの案内、アプリから取得できるクーポンなど、どれも集客を促すツールです。

「最大の販促は『口コミ』」というのは誰もがわかっていることですが、それだけに頼るのは難しいもの。では、どうやって「口コミ」は生まれ、広がっていくのでしょうか。

二〇一八年もっとも話題になった映画は、『カメラを止めるな!』。ご覧になられた方も多いでしょう。「カメ止め!」で通じたくらいですから。もちろん私も観ました。

僅か三〇〇万円の制作費で、当初二館だけの上映から、「面白い!」と評判が口コミで広まり、全国で上映されるまでになりました。興行収入は三一・二億円という驚異的な記録を打ち立てたといいますから、作品の良さもあるのですが、口コミの力には驚かされました。

繰り返しますが、口コミは最大の販促といわれます。また、最近では、ネットで拡散されますので、これまでとは比べ物にならないくらい広がるスピードは速くなりました。もちろんいいことだけではありませんので、怖い時代でもあるのですが。

欲しいものをネットで買う際も実際買った人の感想などレビューをみて、判断しますよね。口コミは、現場の体験により生まれるということ。店舗で言えば足を運んでくださった方、商品なら実際に使った人、体験した人でないと評価できません。又聞きではできませんので、自身の実体験がものを言うわけです。

また、そこそこの感動、体験なら口コミにはならない、ということ。想像以上の体験があって、周りに勧めたくなる、言いたくなるわけです。もちろんモノを売るときには、戦略的に売っていくことも大事です。費用をかけるわけですから、効率的に売る必要があるわけです。ただ、純粋にこれを伝えたい、届けたい、という思いが通じて、口コミになる場合もあるのではと思います。

『カメラを止めるな!』を観ているとそう思いました。つくり手の裏側にある、情熱やエネルギーが口コミを生んだのかもしれません。ヒットの裏側を紐解いてみると、そういった熱いものが潜んでいるかもしれません。

実直に、しなやかにコミュニケーションの方法を変える

とある打ち合わせの際、「丸亀製麺は、手づくり・できたてにこだわって愚直にやってきた」など、「愚直」という言葉が何度かでてきました。

私にはちょっと違和感がありましたので、話が途切れたとき「ちょっといいですか」と切り出して「愚直というのは、バカ正直とか臨機応変な対応ができないという意味があるので、軸はぶらさないけど、変化をするしなやかさを持っている丸亀製麺の場合は、『実直』という言葉のほうがふさわしいのでは」と伝えました。

愚直なまでにまっすぐやってきたのは事実ですが、やはり、「実直」のほうがしっくりくると。売り手側の我々が良かれと思って取り組んできたことも、お客様には響かないという局面もあります。ここでは、「実直」ななかにも柔軟性を持ち合わせ、どのようにお客様とのコミュニケーションを変えてきたのか、についてお話しします。

二〇一四年の八月から、丸亀製麺の快進撃が続きました。それまでは、自社競合が起こり、既存店前年対比が九五%前後と低迷していたのですが、高単価高付加価値のフェア商品「肉盛りうどん」とそれを訴求するテレビCMが奏功し回復。それから約四年間既存店前年対比が一〇〇%を上回るという現象が続きました。

新規出店による売上増ではなく、既存店のお店の売上を年々上げていくのはたいへんなこと。それを継続してきたのです。

しかし、それには、一部の商品の値上げや高単価のフェア商品が売れたこと等により客単価が上がったという背景がありました。厳密に言うと、客数は、二〇一八年の一月から一〇〇%を下回っていました。客数が上がり続けるのは難しいとはいえ、下がるのは致命的なこと。

客数が復活を遂げる二〇一九年の五月までの間、なにが起こっていたのでしょうか?我々の分析は、約四年間、高単価フェア商品の販売、テレビCMという二つの施策を継続してきたので、それに目新しさがなくなってきた。そして、高単価商品をCMで訴求し続けたので、少し高いイメージが定着してしまったのではないか。フェア商品は、すでに丸亀製麺をよく利用されている方が注文されている商品だったので、それ以外の丸亀製麺を利用したことのない方、利用頻度の低い方にはあまり響いていなかった、というものでした。

そのほか、基本的なリサーチもしました。丸亀製麺では、全店で塩と水と小麦粉からうどん生地をつくっていることや、小麦は国産のものしか使っていないことに対しどの程度知られているか。その結果は、想定より遥かに低いものでした。

ほかにも、うどんを食べる人を一〇〇とした場合、外食する人は一〇しかないというデータです。この数字には驚かされます。ほかの九〇%の人は、買ってきて家で食べたり、冷凍うどんを調理して食べたりしているのです。これらの分析やリサーチから、はじめて以下のことを知ったのです。

・訴求するターゲットが違っていた
・ 「すでに知っていただいている」(手づくり・できたて、国産小麦を使用していることなどのこだわり)と思っていたことがそれほど認知されていなかった

そこで、方針を変更し、コミュニケーションの方法も変えました。これまでは、高単価フェア商品をCMにより訴求して集客を図るというものでしたが、CMの内容をガラっと変えたのです。

それが、二〇一九年一月末から放映された「ここのうどんは生きている」というテーマのCMです。時間も一五秒から三〇秒にし、有名なタレントさんを起用せず、職人が麺を打つシーンを中心に構成しました。

「手づくり・できたて」にこだわり、毎日塩と水と小麦粉からうどん生地をつくっていることを、あらためて知っていただくという戦略です。我々売り手側の感覚は、そういったこだわりは、すでに知っていただいていると思っていましたので、今さら感はありましたが、「日ごろうどんを外で食べない」層のお客様に向けて大きく舵を切ったのです。

また、丸亀製麺の本来持ち味の一つは、自由度。うどんのほか、お好みの天ぷらやおむすびを選んでいいただく、その楽しさも醍醐味です。

これまで、高単価のフェア商品を強く訴求していたので、たとえば六二〇円から六九〇円程度のフェア商品と天ぷらを一品注文いだくだけでも八〇〇円を超えてしまうこともあります。もちろん、フェア商品は原価もしっかりかけていますので、量質共に満足いただけるものだと思いますが、価格的にも少しお高くなってしまいますし、丸亀製麺本来の持ち味を発揮できていません。

そこで、かけうどんもう一杯キャンペーンを実施したり、三五〇円から四三〇円程度の中価格帯のメニュー数を増やしたりして、看板商品と定番商品をあらためて訴求し、新規のお客様にも利用していただきやすいような工夫をしました。

そのほかにもこれまでやってこなかった他社とのコラボイベントやキャンペーンなど、矢継ぎ早に実施しました。その結果、客数の五週間平均の数値の推移をみると、二〇一九年の二月ごろは九五%程度だったものが、五月には、一〇五%まで回復しました。約一〇%の改善です。前年の客数を維持するのはたいへんなことなのですが、見事にお客様へのコミュニケーションを変えることで改善しました。

原点回帰。美味しいものを食べてもらいたいという思い、手間暇を厭わないという精神がぶれていなかったから、比較的早く原点回帰ができたのです。