コーヒーチェリー収穫の様子
(画像=コーヒーチェリー収穫の様子)

味の素AGFは、国産コーヒーの生産支援を目的とした「徳之島コーヒー生産支援プロジェクト」を進めている。2017年にスタートしたこの取り組みは、鹿児島県奄美群島の徳之島の気候を活かしたコーヒー栽培の可能性を探るとともに、地域と連携しながら品質向上を目指している。味の素AGFの社員はこれまで200名近くが現地を訪れており、生産支援にとどまらず、社員の学びの場としても徳之島との結びつきを強めている。

AGFは徳之島の徳之島コーヒー生産者会とともに、同島でコーヒーの栽培・加工・保管の技術向上に取り組んでいるが、国産コーヒーの大規模栽培が一足飛びに成功するのは簡単ではない。

ただ、2025年は、これまでの取り組みを発展させ、品質管理体制をさらに高める段階に入ってきたようだ。コーヒー生産を拡大し、本格的な商品化へつなげるため、生産者と一体となった取り組みが続いている。

〈国内コーヒー栽培の挑戦と収穫祭〉
もともとコーヒーの栽培は、温暖で適度な雨量のある場所が適しており、赤道をはさんで南緯25度から北緯25度の「コーヒーベルト」と呼ばれる地域において、ほとんどが生産されている。

日本では沖縄地方の一部と小笠原諸島だけがこの北限に位置するため、国内でのコーヒー栽培はごくわずかだった。さらに、台風などの気候条件が栽培のハードルを上げ、大規模生産には適さないと考えられてきた。

そうした中、味の素AGFは徳之島の気候を活かしながら、栽培技術を確立し、国産コーヒーの可能性を広げることに挑んでいる。

「徳之島コーヒー生産支援プロジェクト」の一環として、2025年2月には徳之島で収穫祭が開催された。会場では、プロジェクトで育てられたコーヒーの試飲や、島内の高校生による一日バリスタ体験が行われた。

焙煎大会「1ST CRACK COFFEE CHALLENGE」(1CCC)の歴代チャンピオン3名が焙煎したコーヒーを提供
(画像=焙煎大会「1ST CRACK COFFEE CHALLENGE」(1CCC)の歴代チャンピオン3名が焙煎したコーヒーを提供)

また、若手焙煎士の発掘と育成を目的とした大会「1ST CRACK COFFEE CHALLENGE」(前回大会は2024年9月に都内で実施)の歴代チャンピオン3名が収穫祭に参加し、チャンピオンらが焙煎したコーヒーも提供されるなど、イベントは盛り上がりを見せたという。

徳之島コーヒーはすでに一部で商品化が進み、2024年10月には「徳之島コーヒードリップパック」(1個300円税込)を同島内で数量限定で発売した。また、伊仙町役場内のカフェブースでも販売している。

現地を訪れた人は、実際に徳之島コーヒーを味わうことができる環境が整いつつある。味の素AGFファンマーケティング推進部の手嶋めいさんは、「以前は『本当にコーヒーができるのか』という声も多かったのですが、少量ながら商品化され、島の中で飲める場所ができたことで、生産する方々も少しずつ手応えを感じているようです」と話す。

一方で、生産量が限られているため、全国的な展開には時間がかかる見通しだ。AGFの担当者は、「生産量を増やすことが今後の課題です。徳之島コーヒーをより多くの人に届けるためには、品質向上とともに安定的な生産体制を整えていく必要があります」とも述べている。同社は持続可能な国産コーヒー生産の取り組みを、これからも粘り強く続けていく考えだ。

〈徳之島コーヒーの品質向上の取り組みと人材育成〉

味の素AGF社員による「コーヒー教室」の様子
(画像=味の素AGF社員による「コーヒー教室」の様子)

また、徳之島コーヒー生産者会との結びつきを深める一環として、味の素AGFは「コーヒー教室」を開き、適切な加工や保管方法などを紹介している。これまではコーヒーの知識や魅力を伝えることが中心だったが、直近は具体的な商業化に向け、品質管理がテーマとなったという。

このコーヒー教室の講師は、味の素AGFの社員が務めている。同社は「AGFコーヒー検定」という研修プログラムを運営しており、上級プログラムを修了した社員が徳之島を訪れ、現地の生産者とともに品質向上に取り組んでいるという。

この研修プログラムでは、社員がコーヒーの生産から加工までを学び、実際に生産者に対して品質管理の講義を行う。営業や研究開発の担当者も参加し、コーヒーの知識を深める機会となっている。

徳之島のコーヒー教室は、これまでは研修で学んだ一般的なコーヒーの基礎情報を伝えていたが、2024年より実践的な内容になり、味わいを左右する精選方法の違いや欠点豆の見分け方を紹介したという。

欠点豆の特徴や見分け方を紹介
(画像=欠点豆の特徴や見分け方を紹介)

例えば、湿度の高い環境で保存すると豆にカビが生え、風味が損なわれてしまう。そのため、乾燥や保管の方法を学ぶ機会を設けている。また、カビ豆や未熟豆がどのように味に影響を与えるのかを試飲しながら学ぶことで、品質の見極め方を実践的に身につけられるようになったという。

味の素AGF人事部の大熊翔吾さんは、「コーヒーの品質管理は、商品としての価値を決める重要な要素です。商業化を進めるためにも、こうした取り組みを続けていきます」と話した。

この取り組みを通じて、徳之島コーヒーの生産者とのつながりも深まり、より良い品質のコーヒー作りを目指しているという。

2023年12月には、コロンビアから技術指導者を招き、本場の栽培技術を学ぶ研修も実施された。こうした取り組みを通じて、より高品質なコーヒー生産に向けた技術向上が図られている。

大熊さんは、「社員は、工場や研究所などさまざまな現場で学んだことを、自身の言葉で徳之島の生産者に伝えることにより、自分自身の理解も深まります。帰社後には社内で情報を共有し、会社全体の知識向上にもつながっています」と語る。

〈国内コーヒー生産の未来と課題〉

徳之島コーヒー 収穫祭2025」には島内外から参加者が集まった
(画像=徳之島コーヒー 収穫祭2025」には島内外から参加者が集まった)

徳之島コーヒーは、まだ生産量が限られており、本格的な商品化には課題がある。しかし、国内でのコーヒー生産が持つ意義は大きく、中・長期的な視点での取り組みが求められている。

近年、地球温暖化の影響により「コーヒーの2050年問題」が指摘されている。国際コーヒー機関(ICO)によると、アラビカ種のコーヒーが育つ適地は2050年までに現在の半分以下に減少すると予測されており、世界的なコーヒーの供給リスクが高まっている。こうした状況の中で、日本国内でのコーヒー生産を軌道に乗せることは、将来的な安定供給の選択肢の一つとしても注目されている。

同社の手嶋さんは、次のように展望を語る。「最終的には、AGFのブランド商品として広く提供できるようにすることを視野に入れています。そのためにも、品質向上と生産者との協力を強化していきます」。

味の素AGFは、コーヒーの品質向上と人材育成を両軸に据えながら、徳之島コーヒーの可能性を広げていく考えだ。地域とともに発展する国産コーヒー生産の未来に向けた活動が続いている。