熱中症対策でアイススラリーを配布
(画像=熱中症対策でアイススラリーを配布)

建築現場は屋外作業が多く、熱中症のリスクが高い業界の一つだ。竹中工務店は8月7日、大阪・関西万博の同社作業所で取り組んでいる先進的な熱中症対策を紹介した。作業員を熱中症から守るため、朝礼で凍った「ポカリスエット アイススラリー」(100g袋、大塚製薬)の配布や、サーモグラフィを搭載したドローンを使ってリアルタイムの温度を作業員に共有するなど、さまざまな対策に取り組んでいる。

サーモグラフィ搭載のドローンで温度を調査
(画像=サーモグラフィ搭載のドローンで温度を調査)

2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)が開幕まで約8カ月に迫った。夏でも建設業の作業員は活動しているが、熱中症のリスクが高い。建設業で職務中に熱中症になって4日以上休業し、労働災害と認定された人は5年間で886人、年平均で約180人にのぼるという。

竹中工務店は、目玉施設のひとつである「大屋根リング」やメイン会場の整備などを手がけている。会場が人工島で直射日光を遮るものがなく、照り返しや輻射熱など灼熱環境にさらされて夏の過酷な労働環境が続くことから、通常の熱中症対策に加えてさらなる工夫を行っているという。

〈水分補給の声掛けも工夫、朝礼はアイススラリーを手渡し体の中から冷却〉
8時すぎから行われた朝礼では、300人超の作業員に対して当日の天候情報とともに、積極的に休憩と熱中症対策ドリンクを取ることを促した。朝礼後には、全作業員に凍った「ポカリスエット アイススラリー」を手渡している。アイススラリーとは、液体と細かい氷の混合物で流動性が高いことが特徴。身体を芯から冷やすことができる。この作業所では、暑さ指数31℃以上が予測される日に同商品を配布し、作業前に身体冷却を行っているという。最近は毎日飲んでいるという作業員は、「これがあるとだいぶラクに感じる。飲む前に首元などにあてて涼んでから飲んでいる」と話した。

一人一人に「ポカリスエット アイススラリー」を手渡し
(画像=一人一人に「ポカリスエット アイススラリー」を手渡し)

また、作業所に設置している飲料の自動販売機では、熱中症対策に適した飲料の「ポカリスエット」「ポカリスエット イオンウォーター」「ボディメンテドリンク」の3品について、500mlペットボトルを70円で販売している。定価との差額は竹中工務店が負担し、積極的にこまめな水分・電解質補給ができる環境を整えている。さらに、作業所の冷凍庫には製氷機を設置し、氷は作業員が自由に使うことができるようにした。

熱中症対策に適した飲料は格安で買える自販機
(画像=熱中症対策に適した飲料は格安で買える自販機)

水分摂取の声掛けも工夫し、作業員の人たちが覚えやすくするため時間で区切らず、午前中に6回は水分補給しようと伝えているという。竹中工務店で大阪万博リング西工区作業所長の中島正人さんは、朝礼で作業員の人たちに次のように語った。「ぜひ、声出し確認をしながら作業をひとつずつ進めて下さい。“注意確認よし”や“水分補給よし”などを声に出して言ってください」。

〈作業所にコンビニや広くて涼しいトイレ、温度管理にドローン活用〉
作業所として、非常に珍しい取り組みは、コンビニエンスストアがあることだ。ファミリーマートが作業所内に出店しており、作業で必要な手袋やタオルのほか、おにぎりやサンドイッチなどの食事や清涼飲料などが豊富に並ぶ。一般人は建設現場に立ち入ることはできないが、竹中工務店以外の作業員が利用することも可能にしたという。中島作業所長は、「万博会場の夢洲は手付かずの人工島で、電気やガスのインフラがない状況で2023年4月に着工しました。夏場をどう乗り切るか、作業員の人たちにどう働いてもらうかを考えた時、コンビニエンスストアが思い浮かびました。仮事務所にコンビニエンスストアを入れたのは、おそらく当社で初です」。ファミリーマートの脇田俊彦さんは、店のコンセプトについて、「作業員の人たちが必要なものを意識し、軍手や工具、タオルなどの品揃えを充実させています。反対に、需要にマッチしていないものは全て省いています」と話した。

ファミリーマートが作業所内に出店、ニーズに応えた品揃えで好評
(画像=ファミリーマートが作業所内に出店、ニーズに応えた品揃えで好評)

作業員が過ごしやすい環境づくりに向けては、トイレにも工夫がある。作業所内のトイレはすべて清潔感のある広々とした空間で冷房がきいていた。さらに、同社は現場のすぐそばで涼しい環境で休息できるように、休憩所や会議などに使える移動式の「オフグリッド型モバイルハウス」や、短時間で組み立て解体が可能なビニールハウスのような簡易型ハウス「エアーQ」を建設現場に設置している。

そして、熱中症対策のDX化にも積極的で、効率的に現場作業員の状態を把握するための機械やデジタル技術の導入も進めている。2024年から温度分布を表した画像が生成できるサーモグラフィを搭載したドローンを用いて、作業現場のリアルタイムの温度を作業員に共有し、注意喚起を呼び掛けている。

現場作業員の状況を把握する機械やデジタル技術の導入を進める
(画像=現場作業員の状況を把握する機械やデジタル技術の導入を進める)

これらの組織的な熱中症対策の取り組みにより、2023年は自社作業員の“熱中症罹患者ゼロ”を達成し、「令和5年度おおさか気候変動対策賞」を受賞したという。

〈「熱中症に対して作業員の意識が変わることが肝」河井総括作業所長〉
竹中工務店の総括作業所長の河井辰巳さんは、作業所での熱中症対策について次のように語る。

「大阪・関西万博のコンセプトが“未来社会の実験場”ということなので、我々の作業所も未来社会の実験場ということを意識しています。そういった中で将来につながる技術を生み出したり、活用しようとする一環で、いろいろな熱中症対策をはじめ、デジタル化あるいは機械化で工事を進めています。特に、熱中症については朝ごはんを食べるとか、水分を十分に補給するとか、朝礼後に大塚製薬のポカリスエット アイススラリーを活用するなど、ちゃんと体をケアするということがベースになります」

「その上で、作業員の意識をどうやって変えていくかが一つの課題です。今の日本の異常な気象状況に応じた働き方にしなくてはならないと思います。対策としては、一つは作業時間を前倒しにすることです。朝など涼しくて作業がしやすい時間帯を十分に使って作業することと、集中力が切れやすく疲労の出る15時以降は作業を切り上げるような対策を今年から取り組んでいます。その際に、どんな危険な状況で作業しているかをドローンやデジタルの技術を使って数字で見える化するようにしました」

「これにより、“暑いから気をつけましょう”ではなく、外の温度が40℃近い環境だということなどが具体的な数字でわかるようになります。それらのデジタルツールなどを活用し、作業員自身の熱中症への意識が変わることを一番の肝として作業を進めていきたいです。将来もこのような高い気温の続くことがニューノーマルな社会になると思いますので、この状況でも作業がちゃんとできるということを、この現場で少しでも実証したいと思っています」。

河井総括作業所長、後ろは休憩や会議などで活用されるモバイルハウス
(画像=河井総括作業所長、後ろは休憩や会議などで活用されるモバイルハウス)

建設現場での熱中症対策のポイントは、作業員自身の意識を高めていくことだという。気温が年々高まる日本での夏場の工事は、今後よりいっそう過酷な現場になりそうだ。インフラ整備や工期の調整などによる安全な職場づくりとともに、今後は「ポカリスエット」など熱中症対策飲料のこまめな摂取の呼びかけやデジタル機器の活用などにより、作業する人たちの意識をよりいっそう高める活動が重要になりそうだ。