食品産業新聞社
(画像=食品産業新聞社)

「ふくよかまる」需要拡大事務局はこのほど、播種適期が長くフクユタカより多収といった特徴を有する、福岡県の大豆新品種「ふくよかまる」(登録商標)魅力発信セミナーをオンラインで開いた。同県の大豆生産の現状や課題、ふくよかまるの開発経緯のほか、豆腐製造業者によるふくよかまるを使用した豆腐の特徴が紹介された。

始めに、福岡県農林水産部水田農業振興課担当者が、ふくよかまるについて、令和4年から福岡で導入され、同年は量が少なかったものの徐々に増加しているという。

国産大豆の生産量(令和5年産実績)は、北海道、宮城に続いて、佐賀、福岡の順に多く、九州は全国的にも大豆生産の重要なポジションを担っている。フクユタカの作付面積は3万haほどだが、その3分の2を九州で生産する。また、国産大豆の需要は増加傾向にあるが生産量の年次変動の大きさが課題であり、生産量アップと安定化が必要だとした。その中、福岡県では生産拡大の取り組みとして、ふくよかまる導入や安定生産技術の普及を図っていると紹介し、5年度は県内作付面積の半分をふくよかまるに転換、6年度は4分の3(約6,000ha)、7年度は全面積を転換する見通しだ。他県にも作付を働きかけているという。

需要拡大にも注力し、愛着を持ってほしいという想いから、商標名は「ふくよかまる」(品種名ちくしB5号)とし、販売の際に活用できるロゴマークも作成した。今年度は展示会出展やモールでのイベントを企画し、ふくよかまるを使った商品を手に取ってもらう機会を増やしていく考えだ。

続いて、福岡県農林業総合試験場の佐藤大和農学博士が、ふくよかまるの開発経緯を説明した。佐藤農学博士によれば、国産大豆の全国平均収量は平成元年まで増加も、その後は伸び悩んでいる。特に九州は減収が明らかに大きく、20年前は10a当たり200kg以上獲れていたが、ここ10年は100kgを下回る年もあった。

その要因として作付期の天候不良を挙げ、「生産量確保のためには播種時期を遅らせないことが重要だ。早い段階での播種がポイントになるが、早播きすると生産量が旺盛になり、倒れたり、青立ちが大きくなってしまう」と説明する。これを解消すべく倒伏に強く青立ちが少なく、加えて収量が高く豆腐の加工適性に優れる品種の育種を目標にしたと話した。

〈重岡豆腐本舗「甘みやコクが強い豆腐に」、固まりにくさはにがりの量や温度を工夫〉

フクユタカの播種適期は7月中旬なのに対し、ふくよかまるは6月下旬~7月中旬まで播種が可能で、播種遅れを解消し安定生産に繋がる期待がある。フクユタカとタチナガハ(F2)をかけ合わせ、圃場選抜では丈の高さやサヤの付き具合から選抜するなどし、交配から約10年かけふくよかまるを開発した。

フクユタカよりも丈がやや短くサヤの位置が高いため、倒れにくくコンバインでのロスが少ないという。青立ちの発生も少ない。ふくよかまるは白目の特徴をもつほか、収量はフクユタカより平均8%程多く、播種時期を3つに分けた試験でも多収であることが確認された。一方、たん白質は若干少ないというが、「豆腐の食味評価ではコク・甘みが強く、総合的にフクユタカよりもおいしいという評価だった」とした。

豆腐製造・重岡豆腐本舗(福岡県うきは市)の重岡証次3代目は、ふくよかまるを使った新たな商品開発を行ったという。出来上がった豆腐の特徴について、豆腐品評会に出品し入賞は逃すも、「試作を何度も行い味見をしてもらい、とても好評だった」と手応えを話す。

重岡3代目によれば、フクユタカよりもコクが際立ち、甘みが強くおいしい豆腐が出来上がり、「フクユタカを使った豆腐との違いを明らかに実感した」という。

一方で、たん白質量が若干劣るため固まりにくさを感じたといい、にがりの量や温度の調節を工夫したと製造におけるポイントを伝えた。「塩味の効いた糸島のにがりを使ってみたが、甘みが増したと感じた。フクユタカと同じ感覚で使うと固まりにくく弾力性がないように感じるが、別物として扱うとおいしい豆腐が出来ると思う。フクユタカよりも吸水性が良い分、浸水時間は短くした方が良いと思う」とも紹介した。

〈大豆油糧日報2024年8月20日付〉