会社売却後に退職する場合、退職金はもともとの規定が引き継がれるのでしょうか。支払われる金額や方法、時期などに変化が生じるのでしょうか。 本記事では、会社売却にともない退職者が出た場合の従業員や役員の退職金、注意すべきポイントについて解説します。
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退職金とは
退職金とは、従業員の退職時に雇用主である会社が支払う金銭のことで、通常の給与や賞与とは別に支給されるものです。 退職金制度の導入は法律上の義務ではありませんが、人材確保、早期離職に対する抑止力、従業員などのモチベーション向上などの観点から、多くの企業において導入されています。
退職金制度を導入している場合には、就業規則や退職金規程などで定めた要件を満たす従業員が退職する際には、退職金を支払う義務が発生します。
退職金は賃金と同じく労働者の債権となるため、資金不足など会社の事情により支払わなくても済むということにはなりません。
役員退職慰労金とは
役員退職慰労金とは、取締役や会計参与および監査役など役員の報酬に該当し、役員が退任時する際に支払われます。
その支給については定款に定めがない限り、株主総会の決議が必要とされていますが。 しかし株主総会で個々の役員に対して判断を行うことは適さないため、支払金額や時期、方法について取締役会に一任することが一般的です。
その際、具体的な金額や時期、方法について共通の基準を定めた役員退職慰労金規程を制定し、株主総会では規程に則った支給を行うという決議が行われます。
会社売却を株式譲渡で行った場合の退職金
会社売却を行う手法(スキーム)によって、従業員との雇用関係が継続されるか、再度新たに雇用契約を行うか異なり、退職金の対応も変わります。ここでは、株式譲渡の場合と事業譲渡の場合とに分けて、従業員、役員への退職金について見ていきます。
従業員退職金
株式譲渡では、譲受け企業側に経営権が移動するものの、会社自体はそのまま存続します。雇用契約はそのまま譲受け企業に引き継がれるため、従業員はこれまで通りの労働条件で働くことが可能です。退職金制度もそのまま引き継がれることもあります。
社長・役員の退職金
中小企業のM&Aでは、社長や役員が売却後も会社に残る場合もあります。
しかし、経営陣が高齢であり、事業承継を目的とした会社売却では、一定期間引継ぎ後、社長や役員が退職する場合もあります。この場合、譲渡企業は株式総会の決議を経て、役員退職金を支払います。
ちなみに会社売却前に役員退職金を支払う場合は、オーナー経営者を含む旧株主グループが支給金額などを決定します。一方で、売却後に役員退職金を支払う場合は、株式譲渡によって新しく株主となった買い手企業側が、役員退職金の支給金額などを決定することになります。ただし、後述のように会社売却の対価の一部を役員退職金として受け取る場合には、売却前に売却後の退職金額を決めておくため、買い手側が金額を決めるというわけではありません。