もしものときのために学ぶ 相続で土地・建物はどうやって評価されるのか
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(本記事は、東京シティ税理士事務所(著者)、山端 康幸氏(編集)の『【改訂新版】個人事業ではじめる アパート・マンション経営がぜんぶわかる本』=あさ出版、2023年4月25日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

相続で土地・建物はどうやって評価されるか

相続税は、相続財産の総額を基準に、課税されるわけですが、それでは、この相続財産の総額はどのように求められるのでしょうか。相続財産の評価は、原則時価です。しかし、時価の判断に混乱がないように、一般的には、国税庁の通達である「財産評価基本通達」に従って行います。

アパート・マンション経営に関連する相続財産について、それぞれの評価方法をみていきましょう。

【改訂新版】個人事業ではじめる アパート・マンション経営がぜんぶわかる本
※下記国税庁ホームページで閲覧可能
http://www.rosenka.nta.go.jp/

(画像=『【改訂新版】個人事業ではじめる アパート・マンション経営がぜんぶわかる本』)

◆土地はどうやって評価されるか

土地の評価は、「路線価」を基に計算されます。路線価の定められていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。固定資産税評価額は、市区町村で交付される固定資産税評価証明書で確認できます。固定資産税の課税標準額とは異なるので、注意してください。

「路線価」とは、その土地が面している道路の標準価格を基準に評価する方法です。特別な場所でない限り、時価(公示価格)の80%程度とされています。路線価は税務署に備え付けられている路線価図もしくは、国税庁のホームページで確認することができます。

◆自用地はどうやって評価されるか

更地、自宅の敷地など他人の権利が及ばない、自由に処分可能な土地を自用地といいます。通常路線価格に面積(m2)を乗じ、さらに土地の形状や道路状況などで価格を補正して出します。アパートの敷地や貸地などは、この価格をベースに他人の権利が及ぶ割合だけ評価額を減じて評価します。

◆貸家建付地はどうやって評価されるか

更地にアパートや貸しビルを建築した場合、更地のときに比べ、その土地は建物賃借人の借家権が及ぶ土地になります。その分を評価上、減額することができます。この賃貸用建物が建っている土地を「 貸家建付地(かしやたてつけち) 」といいます。貸家建付地の評価は、次のようにして求めます。

貸家建付地の価額=自用地評価額 ×(1−借地権割合×借家権割合(30%)×賃貸割合)

たとえば、相続税評価額が2000万円の自用地(更地)に、アパートを建てた場合で計算してみましょう。借地権割合は60%、借家権割合30%、賃貸割合は、全部入居済で100%とします。その場合、2000万円×(1−60%×30%×100%)=1640万円がアパートの敷地は貸家建付地評価となり、自用地のままで評価するより、18%評価が低くなりました。

◆無償返還届出書が出ている土地はどうやって評価されるか

①土地の評価額(個人)

土地を借りる場合、通常借りる側は、権利金や地代などを支払います。一方で、会社が社長個人の土地を借りて、建物を建てたとします。このとき、これらの金額を支払わなかったり、低額だったりすると、贈与税や法人税などが課税される場合があります。しかしこの課税は、「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出することで防ぐことができます。このような賃貸の仕方を無償返還方式といいます。

土地の無償返還に関する届出書が出ている場合、その土地は、相続税の評価にあたって、次の算式で評価します。

貸宅地評価額=自用地評価額 ×80%

ただし、届出書を提出していても固定資産税・都市計画税相当額以下の地代の収受しかされていないために使用貸借とされた場合には、貸宅地の評価額は「自用地評価額」となります。

②借地権の評価額(会社)

個人の土地が①の評価の場合、無償返還方式により土地を賃借している不動産管理会社の株式の評価は、借地権として次の算式で計算した金額を資産の価額に加えます(自社株の評価方法の1つである純資産価額方式で計算を行うとき)。

借地権=自用地評価額 ×20%

ただし、届出書を提出していても固定資産税・都市計画税相当額以下の地代の収受しかされていないために使用貸借とされた場合には、個人の土地が自用地評価になるとともに、株式の評価上の借地権の価額は「ゼロ」となります。

◆権利金方式の土地はどうやって評価されるか

①土地の評価額(個人)

個人と法人の間で土地の賃貸借取引を行うとき、借地権の設定が行われることから、借りる側から貸す側へ借地権設定の対価として権利金が支払われます。この、返還を必要としない権利金を受け取って、土地を賃貸借する方式を権利金方式といいます。権利金方式により賃貸している土地は貸宅地として、相続税の評価にあたって次の算式で評価します。

貸宅地の評価額=自用地評価額 ×(1−借地権割合)

②借地権の評価額(会社)

個人の土地が①の評価の場合、権利金を支払って土地を賃借している不動産管理会社の株式の評価は、借地権として次の算式で計算した金額を資産の価額に加えます(純資産価額方式で計算を行うとき)。

借地権の評価額=自用地評価額 ×借地権割合

さらに、その借地の上に賃貸用建物を建てて賃貸している場合、その借地権は貸家建付借地権として次の算式で計算されます。

貸家建付借地権の評価額=借地権価格 ×(1−借地権割合×借家権割合(通常30%)×賃貸割合)

◆相当の地代方式の土地はどうやって評価されるか

前項の権利金にかわり、権利金を支払った上で支払う地代よりも高めの地代を地主に支払う賃貸借の取引方式があります。この「高めの地代」のことを「相当の地代」といい、この取引方式を相当の地代方式といいます。相当の地代方式により土地を賃貸していた場合、改訂型と据置型で、相続税の評価が異なります。

◆相続税評価額も選んだ方法で決まる

①地代改訂型の場合

地代改訂型の場合、その借地権の価額は「0」と評価されますが、借地権が設定されているという制約を考慮して、その土地の貸宅地としての評価額は、「自用地評価額×80%」で計算されます。

また、不動産管理会社である同族会社の株価計算上、純資産価額方式の計算を行う場合には、この土地の借地権として「自用地評価額×20%」を資産の価額とします。

②地代据置型の場合

不動産管理会社である同族会社の株価計算で、純資産価額方式の計算を行う場合、次ページの数式によって計算された金額のうち、AかBいずれか大きい金額を、借地権価格として純資産の価額に算入します。

地代据置型を選択し、相続税の課税時期において支払っている地代の額が「相当の地代」の額に満たない場合、その土地の貸宅地としての評価額は、次ページの数式によって計算された金額のうち、CかDいずれか小さい金額となります。

なお、前記の計算で使用する「相当の地代」は、「直前3年間の自用地としての相続税評価額の平均値×年6%」で算出された金額を使用します。

【改訂新版】個人事業ではじめる アパート・マンション経営がぜんぶわかる本
【著者】東京シティ税理士事務所
税理士法人。1981年、山端康幸税理士事務所として個人事業スタート。2002年、税理士法人東京シティ税理士事務所に組織変更。“中小企業の税務会計”と“不動産・相続の税務”の2つの得意分野を持ち、所属税理士はすべて相続税・不動産税務のプロフェッショナルと自負している。
【編者】山端康幸(やまはた・やすゆき)
税理士法人東京シティ税理士事務所代表税理士
土地活用や相続税対策に関する不動産税務を専門とする。不動産税務専門税理士として40年の経験を有する。クライアントもアパート・マンション経営者が多く長期的な資産活用の税務コンサルタントを業務としている。
明治大学リバティアカデミー講師・全国宅地建物取引業協会講師・不動産コンサルティング協議会講師・賃貸不動産経営管理士協議会講師などを歴任、その他新聞社など主催のセミナーを数多く行う。
著書に『<新版>らくらく個人事業開業のすべてがわかる本』『<新版>相続の手続きと節税がぜんぶわかる本』(共著、あさ出版)など多数。

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