(本記事は、東京シティ税理士事務所(著者)、山端 康幸氏(編集)の『【改訂新版】個人事業ではじめる アパート・マンション経営がぜんぶわかる本』=あさ出版、2023年4月25日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
アパート・マンション経営を法人化することで得られるメリットはいくつかあります。もちろんデメリットもあります。それぞれみていきましょう。
◆ メリット【1】入居者からの信用度が増す
たとえば、社会的立場の変化。これまで「個人の大家さん」だった人が、「会社の社長」になれるのです。いわば一国一城の主。
会社経営は、金融機関や取引先への信用度が増すほか、入居者にも「しっかりとしたアパート(マンション)経営をしているな」という印象を与えることができます。
従来の株式会社の設立は、「資本金が1000万円以上」「発起人7名以上」などといった条件がそろっていなければなりませんでした。しかし、平成18年の新しい会社法スタートによって資本金が1円でも会社設立は可能となり、さらに電子申請などの利用で設立費用も抑えられるようになりました。また、有限会社制度が廃止された代わりに、手続きが簡単で組織も簡易な合同会社という形態も新設されました。
これによって、アパート・マンション経営も、個人経営から会社経営にすることが容易になったのです。
◆ メリット【2】所得税が節税できる
さらに、アパート・マンション経営を会社経営とする最大のメリットは、所得税の節税が見込めることです。個人でアパート・マンション経営を行う場合、収入金額から必要経費を差し引いた残額が不動産所得となり、これに対して所得税がかかります。たとえば、収入金額が2000万円で必要経費が800万円の場合、不動産所得は1200万円となります。
会社を設立してアパート・マンション経営を行った場合も、利益の計算方法は個人の場合と同様のため、差引1200万円の所得に対して法人税が課税されます。
ただし、この法人の所得1200万円の全額を社長に役員報酬として支給すると、会社の所得は0となり法人税が課税されなくなります。
さらに、社長が受け取る1200万円の役員報酬に対する所得税を計算する場合、給与所得控除として220万円が差し引かれ、給与所得は980万円とさらに少なくなります。個人経営によって1200万円にかかる所得税と、会社経営にして980万円にかかる所得税、どちらが大きいかはおわかりですよね?
また、家族を役員にして役員報酬を分散して支給した場合には、それぞれ給与所得控除が使えることから、節税効果がさらに大きくなります。たとえば1200万円の役員報酬を600万円ずつ2人に支給すると、合計で328万円の給与所得控除が受けられます。
◆ メリット【3】相続税も節税になる
個人でアパート・マンション経営を行う場合、毎年家賃収入から経費を差し引いた残額は所得となります。この所得は蓄積されていき、これが相続財産として相続税の課税の対象となります。
会社を設立して、このアパート・マンションの所得を、役員報酬という形で家族に分散することで、親の財産の増加を抑えることができます。
また、将来の相続人である子ども世代はこれにより財産が形成できるため、相続税の納税資金などを蓄えることができます。
ただし、この会社の株式を親が所有していると、株式を通じて親がアパート・マンションを所有していることになり、財産の次世代への移転がなされません。会社の株主は次世代の子でなければ相続税対策にはなりませんので注意してください。
土地活用や相続税対策に関する不動産税務を専門とする。不動産税務専門税理士として40年の経験を有する。クライアントもアパート・マンション経営者が多く長期的な資産活用の税務コンサルタントを業務としている。
明治大学リバティアカデミー講師・全国宅地建物取引業協会講師・不動産コンサルティング協議会講師・賃貸不動産経営管理士協議会講師などを歴任、その他新聞社など主催のセミナーを数多く行う。
著書に『<新版>らくらく個人事業開業のすべてがわかる本』『<新版>相続の手続きと節税がぜんぶわかる本』(共著、あさ出版)など多数。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます