矢野経済研究所
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3月1日、中国から日本への入国制限が緩和された。引き続き「出国前72時間以内の陰性証明」は必要とされるが、直行便での入国者全員に義務付けていたPCR検査は2割程度のサンプル調査に変更される。具体的には検疫所がサンプルとなる航空便を指定、当該航空機の乗客のみに検査を実施、他の便の搭乗者は検査が免除される。あわせて、成田、羽田、中部、関西に限定していた空港制限も解除、増便も認められる。

昨年10月、政府は入国者数の上限撤廃など水際対策の緩和に踏み切った。日本政府観光局によると1月の訪日外客数は149万7300人、コロナ前(2019年1月)の55.7%まで回復した。トップは韓国の56万5200人(同72.5%)、台湾の25万9300人(同66.9%)がこれに続く。東南アジアも順調に回復、とりわけベトナムとシンガポールからの入国者はコロナ前を上回った(前者は5万1500人、同45.6%増、後者は2万6700人、同17.7%増)。一方、中国は3万1200人と同4.1%にとどまる。それだけに対中緩和に対する業界の期待は大きい。

とは言え、「量」に浮かれるだけでは疲弊するばかりである。コロナ前の2019年、訪日外国人数は震災翌年の2012年比で3.8倍、国内の宿泊者数は同1.4倍へ拡大した(国土交通省観光庁)。ところが、「宿泊・飲食サービス業」の従業者に支給された月間現金給与額は同1%のマイナスだ(厚生労働省)。もちろん、非正規の拡大が背景にあるとは言え、同じことが繰り返されるのであれば「安い日本」を加速させるだけである。問われるべきはクオリティだ。日本というコンテンツの対価をいかに国際水準に引き上げるか、ここに知恵を絞る必要がある。

弊社も役員企業として参加させていただいている(一社)地方創生インバウンド協議会※が発足したのは2018年、活動が軌道に乗ろうとした矢先のパンデミックはまさに想定外だった。とは言え、この3年間があったからこそ基礎固めが出来たとも言える。富裕層向け旅行コンシェルジュサービスの実証実験、自治体レベルの観光経済波及効果モデルの構築、地方への人口移動を促す「アグリ・スマートシティ構想」など、アフターコロナを見据えた施策にじっくり取り組むことが出来た。協議会が目指すのは地域資源の再発見を通じた地方の再生である。双方向の人の移動は地方の可能性を引き出す絶好のチャンスだ。インバウンドはそのトリガーである。

一般社団法人地方創生インバウンド協議会
地域創生・インバウンド事業に関心を持つ企業・団体が包括的な提携のもと、相互に連携・協力し、活力ある地域づくりや人材育成・交流を図り、地域社会の発展に寄与することを理念とする。会員数は一般会員(民間企業など)68社、特別会員(地方自治体など)44団体、計112(2022年12月現在)。

今週の“ひらめき”視点 2.26 – 3.2
代表取締役社長 水越 孝