悩みが武器
河田 真誠(かわだ・しんせい)
1976年生まれ。答えを教えるのではなく、相手に問いかけることで、企業の問題を解決に導く「しつもんコンサルタント」。指示命令ではなく質問をすることで、自ら考え行動する部下を育てていく「しつもんマネージメント」や、売り込むのではなく質問をすることで、買いたい気持ちを引き出していく「しつもん営業」などをテーマに、全国の企業や業界団体などで講演や研修を行い、これまでに約10万人に影響を与えてきた。
主な著書に、『革新的な会社の質問力』(日経BP 社)、『私らしく わがままに 本当の幸せと出逢う100の質問』(A-Works)、『人生、このままでいいの?最高の未来をつくる11の質問』(CCC メディアハウス)がある。

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※Qの質問を自分自身に問いかけながら読み進めてください

やめる決断をする

何かをはじめるのはとても簡単だ。ちょっと油断するとスケジュールは真っ黒になるし、部屋は荷物でいっぱいになる。けれど、やめたり捨てたりすることは意外と難しい。「関係が悪くなるかな……」「いつか役に立つかも……」と決断できないままズルズルと事態は悪化していく。

Q :捨てたいもの、やめたいことは何ですか?

イヤなことがある時、「いつか、良くなるかも……」と待っていても、事態が良くなることはないだろう。そうわかっていても、やめることは難しい。多くの人が、ツライ現状を我慢する方が新しい世界に飛び込むよりも安心なのだろう。「茹でガエル」の例がある。カエルをお湯の中に入れると熱くてすぐに飛び出るが、カエルを水の中に入れて下から熱していくと、徐々に熱くなっていくので、カエルは飛び出ることなく茹で死んでしまう。もし、今の環境がイヤだと思っていて、ズルズルしているのであれば「今のこの環境に新しく入るとしたら、どうするだろう?」と考えてみるといい。「こんな環境には入らないよ」と思うのなら、早く逃げ出した方がいいだろう。茹で死んでしまう。

僕たちは「逃げてはいけない」と思いがちだ。「根性や忍耐力が足りない……」と責めてくる人もいるだろうし、「これくらい我慢できないなんて私はダメなのかも……」と自分を責める人もいるだろう。しかし、イヤなものはイヤでいいし、イヤなのだから、さっさと逃げた方がいい。残ることにはそんなに勇気はいらないが、逃げることには勇気がいる。逃げるということはとても立派な行為だし、自分を大切にしている素敵な人だと思う。

もしかすると、次の仕事が見えないからやめられないという人もいるかもしれない。そんな時は想像してみてほしい。あなたはたくさんの荷物を持っているとしよう。もうこれ以上何も持てない状態だ。そんな時に、とても素敵な宝物を見つけた。でも持つことはできない。さて、あなたはどうする?

きっと、いらないものを捨ててその宝物を手にするのではないだろうか。まず捨てないと新しいものを持つことができない。次の仕事が決まってからやめることももちろんいいだろう。その方が安心だ。でも、たとえ次の仕事が見えていなくても、手放せばその空いたスペースには何かが入ってくる。いつか……とズルズル茹でられているよりは、次の安心が見えていなくても飛び出してみることも大切だ。飛び出してみるからこそ、見える「次」もある。

心配しなくても、今の道を外れたとしてもそこに新しい道ができるだけだ。そして、その選択が良かったかどうかを決めるのはあなた自身だし、良い選択だったと思えるように生きていくこともできる。

✓「自信がない」という言い訳

「自信がないから行動できない」という人がいる。「やったことがないから不安だ」という人もいる。

とても不思議に思うのだが、「やったことがないことはやらない」という人は、赤ちゃんの状態からどうやって成長してきたのだろうか? はじめてご飯を食べた時も、はじめて歩いた時も、はじめて話した時も、学校に行きはじめた時も、これまでに、たくさんの「やったことがない」を乗り越えてきて、ここまで生きてきたのではないか? その「はじめて」の度に「自信があるかどうか」を気にしたのだろうか?「自信がない」なんて、自分を守るための言い訳でしかない。新しい世界に飛び込む準備ができていないだけだ。本当に行動したい気持ちが高まっていたら、自信があるかどうかなんて気にもしないはずだ。

友だちに、いつも「自信がない」と言って何も行動をしない人がいる。その彼女に、「僕がお金を出すから、アフリカを一人旅する自信はある?」と聞いてみたら「いや、自信ない」と答えた。そこで「じゃあ、もしあなたが大好きな芸能人と一緒にアフリカを旅できるとしたらどうする?」と聞いたら「絶対行く!」とのこと。「自信がないのでは?」とからかってみたら、「そんなことは言っていられない。何としても行きたい」と笑っていた。

自信なんてこんなものだ。自分の中にあるワクワクが育っていないから、自信がない……と行動しなくてもいいための言い訳をしはじめるだけの話だ

また、「小さな一歩を踏み出すこと」もいい。大きな一歩を踏み出すには自信も勇気もいるかもしれないが、小さな一歩であれば大丈夫だろう。いきなり「10」ではなく、「1」を10回重ねていけばいい。自信があるからやるのではなく、動きはじめるから自信が育っていくのだ。

自分を決めつけない

あなたは、周りからどういう人だと思われているかを知っているだろうか?

Q :あなたはどんな人だと思われていますか?

あなたが、「ただ生きていく」上では、「自分がどう思われているのか」とか、「どんな価値があるのか」など、他人の評価を知る必要はない。それは周りからの評価でしかないから、そんなものを気にしなくても生きていけるし、むしろ気にしない方が豊かに生きていける。自分がどうしたいかという愛の選択だけをしている方が幸せだろう。

しかし、「仕事」という観点では話が変わってくる。仕事は仲間やお客様など「他人」がいるので、その人たちからの「評価」も大切になる。例えば、「あなたはムードメーカーだね」という他人の評価を知っていれば、それを自分の価値として育てていくことができる。

僕は、自分がアイデアマンであることも、親しみやすい性格であることも知らなかった。それらは、他人の比較なので、自分では絶対にわからなかった。人がたくさんいる中に混ざって、周りからの評価を得てこそ、「あなたって○○だね」という自分の一面を知ることができる。

自分のことは、自分ではわからないものなのだ。自分がどんな人なのかを客観的に知るために、SNSなどを使って「私を表すキーワードを3つ教えてほしい」と周りに投げかけてみよう。周りからの評価を知ることができる。

もしかすると、他人の評価と、自分の評価が食い違う時があるかもしれない。

周りは「明るい人だ」と言っているのに、自分ではそうは思わないということもあるだろう。しかし、それはあなたが知らないだけで、間違いなくあなたの一面でもある。僕はずっとコミュニケーションが下手だと思っていた。でも、周りの人に聞いて第みると、どうやら、上手な方らしい。きっと僕は、もっとコミュニケーション上手な人の中で育ってきたから、そこと比較してコミュニケーションは苦手だと思い込んでいたのだろう。ただ、それだけのことだ。

こういう他人からの評価は、第3章で話した「個性や得意なこと」にもなっていく。周りからの評価を「そんなことはないよ」と拒絶するのではなく「そんな一面もあるんだな」と素直に受け入れてみよう。