中国が欧米諸国と足並みを揃える日本への風当たりを強める一方で、政権交代後、外交面で自由度を高める韓国への対応には慎重さが見える。韓国で新政権発足後、初の対面となった中韓二ヵ国間外相会議からは、激動する国際社会の中で微妙なバランスを保っている両国の関係がうかがわれた。
日本へのけん制強める中国
ウイグル族迫害や香港弾圧を含む人権問題、台湾問題、NATO(北大西洋条約機構)拡大を巡る西側諸国との対立など、近年、中国と国際社会の関係は悪化の一途をたどっている。それに伴い、米国やNATO加盟国との協力関係を強化する日本の動きについて、中国は強くけん制した。
2022年6月下旬にスペインで開催されたNATO首脳会議に、日本がアジア太平洋パートナー(AP4)国として出席したことにより、風当たりはさらに強まった。外交部の趙麗健報道官は記者会見で、「日本が本当に東アジアの平和と安定を望むのであれば、軍国主義の侵略の歴史を真剣に反省し、対立をあおるのではなくそこから教訓を引き出すべき」と猛烈に批判した。
「対中強硬姿勢」舵を切る韓国は批判せず
ところが不思議なことに、同じくNATO首脳会議に出席し、さらに日米韓首脳会議で三ヵ国間の安全保障協力や外交関係の強化を宣言した韓国については、一切の批判を控えている。尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領が対中包囲網への協力に事実上同意したにもかかわらず、だ。
日本と韓国への対応の差は、誰の目にも明白である。
THAAD配備問題(米軍高高度ミサイル防衛システムの在韓基地配備を巡る論争)をはじめとする両国関係の複雑な背景とともに、政権交代による政策方針変更への警戒感に起因するものと推測される。
文在寅(ムン・ジェイン)前政権下の韓国は米国と中国の板挟みになり、中途半端な立ち位置を死守していた。米中の対立が深まるほど、韓国側の平身低頭ぶりが際立った。一方、尹大統領は前政権下で冷え切った対日関係の改善を前面に打ち出し、国際社会との協調性を重視することにより、対中強硬姿勢を貫く構えだ。
中国としては韓国が「重要な協力パートナー」であることを繰り返しアピールすると同時に、韓国の新たな動きを注意深く観察しているといったところだろう。
中国外相「韓国との友好協力関係の発展に向けて協力する」
両国それぞれの思惑が際立ったのは、インドネシアのバリ島で行われた韓中二ヵ国間外相会議でのことだ。バリ島では7月7、8日にわたり、10月に開催予定のG20首脳会議に先駆けてG20外相会議が開催された。
韓国経済新聞によると、韓国の朴振(パク・ジン)外相が「自由と平和、人権と法治」を尊重し、「価値外交」を目標にするなど、国際社会と足並みを積極的にそろえる方針であることを明確にした。これに対して中国の王毅(ワン・イー)外相は韓国の外交政策転換に注目しており、「友好協力関係が持続的に発展できるよう、協力する準備ができている」と強調した。
額面通りに受け止めると、中国側は韓国の方針に理解を示しているように見えるが、中国側の「協力」が具体的にどのような方針を指すのかは定かではない。韓国側が要請する「相互尊重に基づいた中韓関係」と、認識の差が生じている可能性も考えられる。
あるいは、韓国側の大胆なけん制に、中国側がけん制で応じたと見ることもできる。
サプライチェーン多様化で脱中国依存狙う
「中国は韓国との強力な経済的つながりを維持することに苦戦している」
中国の慎重な対韓国姿勢についてこう分析するのは、米中政策財団で研究員を務めた経験もあるThe Diplomatの編集長、シャノン・ティエジ氏だ。
韓国にとって中国は最大の貿易相手国であり、2021年の貿易額は3,623億5,000万ドル(約50兆3,834億円)と、韓国の貿易全体の4分の1を占めた。
尹政権はインド太平洋の他の経済圏との関係を強化して「サプライチェーン同盟」を確立することにより、このような中国への貿易依存を断ち切ることを目論んでいる。「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定( CPTPP、11ヵ国からなるアジア太平洋地域における経済連携協定 )」への加入推進も、脱中国依存の一環である。
さらに、1月に発効された地域包括的経済連携(RCEP、日中豪など10ヵ国が参加)に加盟することで、東南アジア諸国との経済協力を強化する方針を示したほか、米国が主導するインド太平洋地域の新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」への参加にも前向きだ。
米シンクタンク、ブルッキングス・インスティテュートの試算によると、韓国はCPTPPに参加することで年間860億ドル(約11兆9,580億円)相当の経済効果を期待できるという。
「世界の工場」中国の強み
しかし、尹政権の野心とは裏腹に、韓国が中国依存を完全に断ち切るのは非現実的との見方もある。
他の多くの国同様、韓国にとって中国は「世界の工場」であり、経済は中国に強く依存している。特に、半導体などの電気・電子機器(部品含む)の製造で、中国が世界市場を占める割合は依然として高い。韓国が輸入している電気・電子機器も、大部分は中国からのものだ。
それに加えて、世界トップ5の電気自動車用バッテリー生産国である韓国は、その主要コンポーネントの希土類の調達も中国に依存している状況である。単にサプライチェーンを多様化するだけでは、中国の穴埋めは難しいだろう。
王毅外相は5月、このような韓国のジレンマを見透かしたかのように、「中国の巨大な市場は韓国企業に可能性を提供し、デジタル経済や人工知能、新エネルギーにおける協力がより大きな利益につながる」と主張した。サプライチェーンの多様化を試みる韓国の動きについて、反対の意を示した。
韓国との対立、百害あって一利なし?
西側諸国との緊張が高まっている現在、中国にとって韓国との対立がお互いにとって何の利益もないどころか、対応を間違えるとリスクとなりかねないことは重々承知しているはずだ。さまざまな背景を考慮すると、少なくとも現時点において、中国が韓国と表立って対立することに消極的なことだけは確かである。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)