国土交通省からエンジン4機種の形式指定の取り消しを通告されていた日野自動車は、25日、「意見なし」の陳述書を提出、道路運送車両法の施行以来はじめてとなる形式指定取消の行政処分が確定した。
この決定を踏まえ同社は2022年3月期の業績予想を修正、当期最終損益を前回予想の150億円の黒字から540億円の赤字に下方修正した。
日野自動車によると2018年に北米向けエンジンの認証手続きに不備が発覚、これを受けて総点検を実施したところ国内向けエンジンの排出ガスの性能試験や燃費性能の測定において意図的な不正行為が確認された。
2016年、三菱自動車で燃費測定におけるデータ改ざんが発覚、国土交通省は全メーカーに点検を指示、結果、スズキでも不正が確認された。この時、日野自動車は「不正なし」との報告を国土交通省にあげている。問題の一端はここにある。要するに甘い点検でお茶を濁した、言い換えれば、品質責任そのものを舐めていたと言うことだ。
もちろん、そもそもの根本は環境性能における技術力であるが、同時に「検査」という工程を常に低位にみてきた業界全体の体質を指摘できよう。
日産自動車、スバル、マツダでも検査不正はあった。2021年7月にはトヨタ系ディーラーでもデータ不正が見つかっている。日野自動車では2021年3月までエンジンの開発と認証が同じ部門に属していた。組織は経営の意志そのものである。まさに経営陣が検査や認証を軽んじてきたことの証左である。
今回の問題は北米向けエンジンを担当する社員の気づきが発端になったとのことである。現場の声が総点検につながったことはせめてもの救いである。この6月1日には改正公益通報者保護法が施行される。内部公益通報対応業務担当の独立性の確保、通報者を特定する行為の禁止、通報者の範囲を役員および退職後1年内の退職者へ拡張させる、といったことが常時雇用者300人を超える会社に義務づけられる。法令への対応は言うまでもない。しかし、品質に対する誠実さを役員、社員一人一人が取り戻すことこそ再発防止のスタートラインであり、かつ、技術の底上げをはかるための必須条件である。日野自動車、そして、業界はあらためて原点に立ち返り、再発防止に取り組んで欲しい。
今週の“ひらめき”視点 3.27 – 3.31
代表取締役社長 水越 孝