日本アクセス 佐々木淳一社長
(画像=日本アクセス 佐々木淳一社長)

――上期(4~9月)業績の振り返りは

売上高は収益認識に関する会計基準の変更が約600億円引き下げたこともあり、1兆889億円で若干の減収となったが、経常利益は前年比44.4%増の120億円と、経常利益率がベンチマークの1%を超えた。通期で売上高2兆1,300億円強、経常利益215億円、純利益150億円を達成できれば、食品卸としてNo.1の規模に立つこととなる。

そこに至った要因の1つは、フルライン戦略の着実な進展だろう。ここ5年ほど、もともと強かった低温食品に加え、加工食品、酒類、菓子でも着実に成果を挙げてきた。

さらに、デリカの伸長も寄与した。コロナ禍以降、外食・中食・内食がシームレスになる中、商品開発も含めてデリカに注力し、伸ばすことができた。これは当社が強みを持つ低温ロジスティクス力があってこそのものであり、その足回りの強化はますます重要になる。来期からの新中期経営計画(中計)では、このシームレス化の流れに沿った組織変更も考えている。

また、当社にとってコロナ禍によるCVS(コンビニエンスストア)ビジネスの不調は大きな課題だった。今期のスタートに当たり経営テーマを“変革”とし、課題を先送りすることなく変化への対応を進めた。

ファミリーマート(FM)との協業において、昨年度は3PL(サードパーティロジスティクス)事業で苦戦した。FMが伊藤忠商事の完全子会社になったこともあり、今期はFMから当社に出向してもらい、協業でいかに収支改善するか、テーマごとに目標を掲げて取組み、それに目処が付いてきた。来期以降もさらなる収支改善に向けて、庫内作業や配送コース見直し、AIによる需要予測に基づく自動発注を活用した精度向上などの協業による取組みを進めていく。

――物流面での施策は

今期は「フローズンマザーセンター構想」を掲げて埼玉・岩槻で実証試験運用を行い、一定の成果を挙げることができた。これを一歩先に進めて2022年1月、埼玉・加須に従来の3倍規模のセンターを設置し、メーカー様30社と首都圏でフローズンマザーセンターの本格運用を開始する。

メーカー様にマザーセンターへ一括で納品してもらい、それを各エリアの当社センターへ横持ちする。その際はパレット輸送や効率の良い配車オペレーションでコストを下げ、そのメリットを共に享受する。

メーカー様からすればマザーセンターへの納品で売上が立ち、受発注のペーパーワークも1回で済む上、保管のための営業倉庫を借りる必要もなくなる。3PLのフローズンマザーセンターをメーカー様の賛同を得て運営するのは業界初のことで、今回の首都圏から今後、東北、中四国、近畿と同様の取組みを進めていきたいと考えている。

同様の施策としてチルドでもチルドプラットフォーム構想を来期から、まずは首都圏で進める。当社は歴史的にもチルドに強みを持ち、和洋日配で7,000億円ほどの売上があるが、店着物流中心で川上からの調達物流には取り組んでこなかった。今回は伊藤忠商事とも組んで、当社との帳合有無にかかわらず、メーカー様にチルドプラットフォームを使ってもらおうという取組みとなる。チルドは直販が多いカテゴリーだが、特に中小メーカー様にとって、人手不足の中、自前で営業倉庫を構え、トラックで配送することは負担が大きく、そのコストダウンに繋がれば大きなニーズがあると考えている。当社にとっても、これに従来の店着物流を結びつければ競争力が高まり、得意先へのサービス強化にも繋がると考えている。

――商品面での施策について

NB(ナショナルブランド)商品は価格競争になりやすく、小売の得意先のほとんどは差別化を求めており、他の店にない留型商品の提案を求めている。代表的なのは生鮮3品、デリカ、ベーカリーで、これはもちろんしっかりやるが、それに続くものとしてフローズンミールキット「ストックキッチン」24品を展開しており、非常に好調に伸びている。

〈 ECでネットスーパー対応見越しBtoC取り組み進む〉 また、プラントベースフード(PBF)は健康志向の高まりの中で、将来も見据えて展開している。食べ物である以上おいしさが重要で、よりおいしいPBFの技術も近年進化している。差別化志向に対する商品開発・提案営業を進めることはMD 部隊にとって非常に重要だと考えている。

さらにコロナ禍でEコマースが伸長しており、それに対応した商品の開発も急務だ。

――そのEコマースでの施策は

BtoCでは3年前から「スマイルスプーン」の屋号で大手ネットモールに出店し、売上も年々伸長している。実はこれはネットスーパーへの対応を見据えたものだ。既にフローズン、ドライではドロップシップ、すなわち当社のセンターから庫出しをして消費者にお届けするノウハウを蓄積しており、この1月からいよいよハードルの高いチルドでのドロップシップに取り組む。これができれば、スーパー様の店出しではない、より効率的なネットスーパー運営においてもサービスの提案ができるようになる。近い将来を考えれば、ネットとリアルの融合の時代が来るのは間違いない。今の物流センターは100%BtoBのもので溢れているが、5年・10年後はBtoCが3割あってもおかしくない。それは物流の大革命であり、社内の意識改革も含めて取り組んでいかねばならない。

――デジタル活用の施策について

先行投資として「情報卸」を掲げて3年目に入った。現在、子会社のD&Sソリューションズで、SM・生協10社と契約し、ID-POS分析、アプリによるデジタルマーケティング、クーポン提供によるダイナミックプライシングなどのサービス提供を進めるとともに、その販促効果を実証試験するという取組みを進めている。

現在、小売業、特に地方ではIT人材の確保に苦労している。このサービスは、開発費はD&Sソリューションズが負担し、得意先にはサブスプリクションで月額利用料金をお支払いいただき、結果が出なければ途中解約も可能ですというスキームで実証実験を進めている。これも年10社程度ずつ、取り組みを拡大していきたい。

〈次期中計は収益を重視、海外事業も視野に〉
――来期からの新中計の考え方

食品卸として最大規模となったが、トップラインを上げることよりも、物流費を中心とした経費の削減がより重要になると考えている。トップラインはM&Aを考慮しなければせいぜい年1,000億円の拡大が精一杯で、2,000億円はかなり苦しく、大きな絵を描きづらい。一方、当社が外払いする物流費は約2,000億円あり、この生産性を上げれば数十億円の収益改善に繋がる。また、ここまで挙げた各施策も収益に貢献するもので、次期中計に向けて、これを定量計画に落とし込む作業を進めている。

ただ、海外事業については、コロナ禍で遅れが出ている。トップラインを上げようと思えば、海外事業は必須で、特に中国とアジアについて次期中計期間で具体的な施策を打ち出したい。

〈冷食日報2022年1月24日付〉