日本M&Aセンター、日刊工業新聞社共催「事業承継&高収益化戦略セミナー」が2021年12月に東京と大阪の2会場においてハイブリット形式(対面とオンライン)で行われました。製造業の高収益化と事業承継をテーマに、製造業に精通した日本M&Aセンターのコンサルタントが講師となって、中堅・中小企業の経営者向けに経営戦略のヒントを、事例を交えながら紹介しました。
東京会場では、日本M&Aセンターダイレクトマーケティング1部部長の竹賀勇人が講師として登壇。冒頭、フィルム事業から多角化を進めて高収益を上げている富士フィルムを事例に、カラーフィルムからデジタルカメラ、ヘルスケア分野など主力事業を変えながら成長を続ける企業モデルを示し、「潜在ニーズを徹底的に調べ、自社技術の棚卸を行って事業領域の延長線上に新規事業を拡大してきた」と分析。変革を続ける製造業の好事例として説明しました。
大企業は新しい時代をつくり、中小企業は時代のニーズに応える
竹賀は大企業と中小企業の違いを「大企業は新しい時代のニーズをつくり、時代のニーズに応えることが中小企業」と話します。中小企業は時代のニーズに応えることで付加価値が生み出せると指摘します。セミナーではインタビュー映像として、ものづくり研究の第一人者として知られる早稲田大学ビジネススクールの藤本隆宏教授も登場しました。藤本教授はEV化で揺れる自動車産業について「EV普及で自動車産業崩壊という話に根拠はない」と語り、経営者に「時代の変化を正しく捉え、時代のニーズに適応していかなければいけない」と呼び掛けました。
3つのキーワードは脱依存、一貫生産、人への投資
稼げる中小企業の製造業のキーワードとして、「脱・依存」「一貫生産」「人への投資」を竹賀は挙げます。大手メーカー1社の依存度が過度に高いと安定的に仕事を受注できる一方で、時代のニーズよりも顧客のニーズを優先する立場に置かれ、新しい技術が生まれにくくなると指摘します。単独の大手メーカーに過度に頼ることがない「脱・依存」をキーワードの最初で説明します。また「一貫生産」を進めることで自社が製造できる守備範囲を広げることにつながり、価格交渉や販路拡大にも貢献できると力説します。守備範囲が広がることで価格交渉のプラス材料にも寄与し、受注先が広がる効果も期待できます。3点目は製造業で進む省人化や自動化の動きがあるからこそ、人が生み出す付加価値が求められているとし、人への投資と利益を還元する仕組みが必要と話します。日本の構造的な課題として挙げられる労働生産性の低さは「人への投資」の少なさだと指摘する専門家の意見もあります。給料をコスト意識ではなく、「人への投資」と考えることが今求められています。
借入からエクイティ(株式)活用の時代へ
では中小企業の経営者はどこから取り組めばいいのでしょうか。竹賀はそこでM&Aの選択肢を提案します。自社のみオーガニック成長だけではなく、外部資源を活用するレバレッジ成長の一つとしてM&Aを挙げます。M&Aを選択することで外部のヒト、モノ、カネ、情報のリソースが活用でき、高収益化に向けた3つのキーワードを実現しやすくなります。竹賀は「デット(借入)からエクイティ(株式)の時代になっている」と説明します。後継者問題の解消と成長戦略を実現できるM&Aを実行した譲渡企業、譲受企業の事例を紹介して株式譲渡を基本とするM&Aの可能性について伝えました。