矢野経済研究所
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10月29日、関西スーパーマーケットは臨時株主総会を開催、筆頭株主エイチ・ツー・オー リテイリング(H2O)との経営統合議案を可決、H2O傘下のイズミヤ、阪急オアシスとともに中間持株会社「関西フードマーケット」の子会社として再編されることとなった。これによりH2Oの食品事業は一挙に4000億円規模となり、名実ともにグループの主力事業として構造改革の中核を担うこととなる。

決議の行方は最後まで分らなかった。関西スーパーマーケットが株式交換によるH2O傘下入りを発表したのは8月31日、その4日後、第3位の大株主で価格訴求型スーパーを首都圏で展開するオーケーも買収を表明した。オーケーが提示した株価は1株2250円、1992年に付けた上場以来の最高値で “本気度” をアピールした。可決には2/3の賛成が必要だ。米議決権行使助言会社は反対を推奨、第4位の株主である伊藤忠食品も検討材料が少ないとして質問状を公開するなど微妙な情勢となった。結果は賛成66.68%、まさに薄氷であった。

株主目線に立てばオーケーの高い収益力と関西市場における成長ポテンシャルは魅力だ。また、現社長の出身会社であり大株主でもある三菱商事とのシナジーも小さくない。食品スーパーのライフ、ローソン傘下の高級スーパー成城石井を擁する三菱商事にとって、関西スーパーマーケットのオーケー業態への転換は、商圏と業態いずれのポートフォリオにおいても合理性がある。一方、百貨店依存から脱却し、関西圏1,000万人をターゲットとする “コミュニケーションリテイラー” への進化を目指すH2Oにとって、生活者とダイレクトにつながる食品事業の強化は必須である。H2Oの戦略視点で見ればこちらも正しい。

さて、この騒動の半年前、5月7日、H2Oはローソンと包括業務提携を締結、駅売店やコンビニの「アズナス」のローソンへの転換をスタートさせた。関西スーパーマーケットを巡る対立の一方で三菱商事グループとの戦略的連携も進む。オーケーもまた関西スーパーマーケットに対して敵対的TOBには踏み込まなかった。
そもそも生活者にとっては株主価値の向上やら親会社のドミナント戦略などどうでもいい話だ。問われるのは多様化する消費志向、進化する購買行動に対して最高の便益を提供できるか否かであり、買収合戦にその答えはなかった。つまり、これがゴールではない。業界全体を巻き込んだ、あるいは業界を越えてのもう一段の再編も遠くないかもしれない。

今週の“ひらめき”視点 10.31 – 11.4
代表取締役社長 水越 孝