総額33兆円、中国の名目GDPの2%に相当する巨額債務を抱える不動産大手「恒大集団」の経営不安が深刻化しつつある。
変調の転機は昨年夏、中国当局は市場の過熱を抑えるべく融資条件の厳格化と住宅ローンの総量規制を導入、新たな資金調達を封じられた同社の拡大戦略は反転、今月から年末にかけて社債利払いが集中する中、経営危機が一気に表面化した。
中国版バブルの起点は2008年、リーマンショック後の世界不況を救った4兆元(約57兆円)の財政出動である。ここから民間債務は一挙に、そして、一貫して拡大を続けてゆく。恒大集団の香港証券取引所への上場はその翌年、以後、高騰を続ける不動産を担保に資金調達と再投資を繰り返し、プロサッカークラブから観光、金融、EV事業まで年商10兆円、従業員300万人を越える巨大企業集団へ成長する。まさにバブルの申し子である。
ただ、恒大集団の財務リスクは既に社債利回りなどに織り込み済であり、また、ドル建て債務は全体の6%程度と言われている。同社のデフォルトが世界の金融システムに与える影響は限定的であろう。問題は、過剰債務は恒大集団に固有のものではない、ということだ。不動産関連産業はGNPの1/4を占める。加えて企業、家計、政府の債務残高は2020年7-9月期でGDP比285.1%(国際決済銀行)に達している。恒大集団の破綻が信用収縮の連鎖の起点になること、ここにリスクの本質がある。
とは言え、国内の格差拡大を背景に “共同富裕” の理念を掲げる習指導部が恒大集団を公的資金で救済するとは考え難い。一方、処理を誤ると経済全体の停滞を招く可能性があり、結果的に社会不安を増大させかねない。世界の実体経済にとって総額2兆556億ドル(2020年輸入実績、中国税関総署)の “買い手” である中国経済の低迷が与える影響は大きい。しかし、それ以上の懸念は、国内に溜まった不満の矛先が “外” に向けられることである。俎上にあるのは台湾だ。双方からほぼ同じタイミングで表明されたTPPへの加盟申請はその火種になりかねない。適応、譲歩、特例、懐柔、分断、排除、攪乱、、、交渉に際してはあらゆるシナリオが想定されているはずだ。しかしながら、TPPは “ルールの統一” と “例外なし” が原則である。既存加盟国はこれを愚直に固守し、TPPを強権的な行動の契機とさせないよう望む。
今週の“ひらめき”視点 9.19 – 9.30
代表取締役社長 水越 孝