2021年6月15日、
元株式会社マネーフォワードビジネスカンパニー執行役員の平野龍一氏が、
税理士法人マッチポイントと税理士法人フューチャークリエイト(旧税理士法人シマ会計)に
参画したというニュースが飛び込んできました。
急成長中の企業を飛び出し、地方のベンチャー事務所とタッグを組んだ理由とは?
平野氏、税理士法人マッチポイントの小島匡彦氏、
税理士法人フューチャークリエイトの植島悠介氏の3名が目指す
「新たな会計業界」について聞きました。
撮影:山本 晃与(HATch.img)
まずは、会計事務所が変わることが必要
――中小企業を良くしていくためには、
パートナーである会計事務所のサポートが欠かせません。
どのようなサポートをしていくべきでしょうか?
小島 当社は、マネーフォワードを使うために立ち上げた会社ではありますが、
顧問先にクラウド会計ソフトを使ってもらうことが目的ではありません。
「これを機に、社内の効率の悪い経理を改善しませんか?」というのが本題です。
中小企業の経理って、必要のない資料をいっぱいつくっていたりします。
誰も見てない資料を、良かれと思ってつくっているケースが結構あるんです。
だから、「それをクラウド化したり、ほかのシステムと連携させたりすることで、
経理業務自体を変えるきっかけにしましょう」という話をしています。
まずは効率化して、本業に集中できる環境をつくる。そのサポートができますよね。
平野 ただ、業務の効率化だけをやっても中小企業は良くならない。
売上を伸ばしたり、従業員の待遇を良くしたり、組織をしっかりつくっていくこと。
さらに、会社のサービスを知ってもらう活動などもやっていかない限り、
中小企業や地方はなかなか伸びないんです。
私は、マネーフォワード時代に個人的にその支援をしていたのですが、
この仕事はやっぱり、本来は士業がやってしかるべき仕事です。
そのためには、まずは士業事務所が伸びないといけない。
植島 例えば、事務所規模の拡大という点でいうと、
私たちの事務所は1年で5人くらいのペースで職員が増えていました。
これは、会計事務所としては比較的多い方なので、
自分たちでは「すごく増えている」と感じていたのです。
でも、一般企業から見ると少ないんですよね。
この“枠にとらわれている”という点も、業界の課題だと感じています。
だからこそ、一般企業の感覚や価値観を取り入れて、
枠を取り払うことが必要だと思います。
会計事務所は、経営に関して「会計事務所だから仕方ない」
と諦めている部分がある気がしています。
でも、自分たちができないこと、やったことがないことは、
顧問先にもアドバイスできません。
だから、会計事務所はまず、一般企業と同じ水準にならないといけないと思います。
普通の企業がやっていることを自分たちもやって、
それをお客様に提供できるようになるのが、中小企業を発展させることにつながる。
そのためには、平野さんのように
一般企業の感覚をぶつけてくれることは非常にありがたいんです。
今、平野さんとやっていることが私たちの武器になって、
その武器を使って中小企業を強くすることができるのではないかと思っています。
会計事務所が中小企業のCxOを担っていく
――会計業界に人材が入ってくるようになるために、
会計業界が魅力的にならないといけないという話がありました。
そのために、どのような取り組みをしていこうと考えていますか?
平野 中長期的に絶対に実現したいと思っていることが、
会計事務所の職員が中小企業のCxOを担っていくこと。
CFO(最高財務責任者)やCSO(最高戦略責任者)、
システム周りを担うCTO(最高技術責任者)など、
職員が中小企業の重要なポジションを兼務していく。
中小企業が、「財務担当をおきたい」「経営戦略を練りたい」「技術面を強化したい」
といった計画を立てたとして、その担当者を採用するのは困難です。
だったら、会計事務所がその役割を担い、しっかり支援していく。
そうすれば、もっと多くの中小企業を支援できるし、
会計事務所もサービスの単価も上げていくことができます。
そのためには、今までと同じサービスの提供の仕方ではダメだし、
今までと同じ学び方ではダメ。
固定観念を壊して、さまざまな知見をどんどん取り入れて、
まずは自分たちが実践していくことが必要です。
植島 最近、「会計事務所は税務をやる」
という当たり前自体がおかしいと感じるんです。
私がやりたいのは、「中小企業を強くすること」。
税務の申告書を完璧につくっても、中小企業は強くならないですよね。
当社は、2021年8月から社名をシマ会計からフューチャークリエイトに変えたのですが、
それは税務会計にとらわれたくないという思いからです。
社名に“会計”が入っていると、
税務会計しかやっていないイメージを持たれてしまうのではないかと感じたのです。
地域では「シマ会計」という名前はある程度浸透していましたから、
かなりチャレンジではありました。
でも、ここで変えないと、
これからやりたいことができなくなってしまうのではないかと思いました。
小島 会計業界は今、人材流出を止めることと流入を増やすこと、
どちらもやらなければいけません。
サービスの単価を上げて給与水準を上げたり、
資格がなくてもコンサルタントとして活躍できるように人材を育てることも大切です。
私たちは『マッチポイントカレッジ』という学びの場を主宰しています。
税理士法人マッチポイント、税理士法人フューチャークリエイト、
伊東祐生税理士事務所の3事務所が合同で行っている組織学習の場です。
マッチポイントカレッジでは、
コンサルティングなどの付加価値業務を提供できるよう、
実務以外にも提案力や交渉力などのコミュニケーションスキルを
身につけるカリキュラムを実践しています。
植島 会計事務所はこれまで、「背中を見て覚えなさい」という指導が多かったと思います。
また、「人によって教えることが違う」ということも多くありました。
実務に関するマニュアルはあっても、
商談や営業スキルを体系的に学ぶ機会は少なかったのです。
マッチポイントカレッジは他事務所と合同で組織学習を行うので、視野も広がりますし、
ほかの事務所の職員が実践したことを共有することで、疑似体験が増えていきます。
「やってみたらできた」という成功体験を積み重ねることで、
職員のモチベーションが上がるのを実感しています。
小島 付加価値業務を提供できるようになれば、
会計事務所の価値はさらに高まります。
会計事務所への顧問料は、会社を維持するための必要経費ではなく、
会社を成長させるための“投資”であるべきです。
マッチポイントカレッジ以外でも、
私たちが取り組むことが今後の業界のスタンダードになるように、
方向性を示したいと思っています。
植島 でも、発信が下手なんです。それも平野さんに怒られましたね(笑)
平野さんが参画すると決まって、プレスリリースを出したのですが、初めてのことでした。
平野 自分たちができないのに、中小企業にアドバイスはできないですからね。
例えば、顧問先が良いサービスを持っていて、
「新しい店舗を出します」となったときに、
「プレスリリースを出しましょう!」
というようなアドバイスをできるかどうかはすごく大事だと思っています。
だから、自分たちがどんどん外部のやり方を取り入れて、
変えていくことをやっていかないといけない。
マッチポイントとフューチャークリエイトは、それができる事務所だと思っています。
>Vol.3に続く
プロフィール
代表税理士 小島匡彦氏
代表税理士 植島悠介氏