コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則
(画像=kazoka303030/stock.adobe.com)

(本記事は、大西 良典氏の著書『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則』=扶桑社、2020年9月19日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

「おい、生ビール1000円」も「店の顔」

「おい、生ビール」……1000円(税別)
「生一つ持ってきて」……500円(税別)
「すいません。生一つください」……380円(定価)

2018年に東京・神田などにある「大衆和牛酒場コンロ家」の店頭に、こんな貼り紙があると話題になったことがあります。

「お客様は神様ではありません。また、当店のスタッフはお客様の奴隷ではありません」

貼り紙にはそんな言葉も書かれていました。

店員に横柄な態度をとる人がいかに多いかという皮肉を込めた店側からのメッセージです。なかなか思い切った方法ですが、これを店頭に貼ることにより、お客さまはこの店の毅然とした接客姿勢を即座に感じ取ります。

「お客さまは神さま」が当たり前の日本で、こうしたメッセージは逆に話題になります。実際、この店の写真がSNSで拡散され、テレビニュースでも取り上げられていました。

「エントランスは店の顔」というお話をしましたが、これも一つの「店の顔」です。

すっきりおしゃれに見せることも大切ですが、お客さまに店側の強いメッセージを視覚情報として伝えることも時には必要です。

私の経営する店のエントランスに感染予防対策のポスターを貼り出したり、お持ち帰りOKののぼりを立てたりしたのも「うちは安心・安全な店ですよ」というメッセージを視覚的に訴えるためです。

これからの時代は、デジタル技術を活用した平面ディスプレイやプロジェクションマッピングなどを利用することにより、もっと洗練されたかたちでメッセージを伝えていく方法もあると思います。

チェーン店だからこそできる大胆な冒険

「チェーン店はどこもよく似ていてつまらない」

こう言われることがあります。

しかし、私が手掛けてきた膨大な数の店のデザインは一軒一軒が異なります。

店名やロゴマークは同じでも、立地やターゲットによって店のレイアウトや仕様を細かく変えています。

これからの時代は、「黒い吉野家」のようにもっと思い切ったチャレンジが必要なのではないかと思います。既存の人気店のスタイルに便乗するのではなく、もっと独自性を追求していかなければ生き残れません。

たとえば、私が香港に作った「味千ラーメン」を例にチェーン店のオリジナルデザインについてお話ししたいと思います。

熊本発祥の「味千ラーメン」は本店のある熊本市を中心に約60店舗ほどを展開しているラーメンチェーンです。

一方、ラーメンの本場である中国では「味千ラーメンは中国人の国民食」といわれるほど人気が高く、中国・香港全域に約800店を展開しており、世界各国に進出しています。

私が依頼されたのは、香港の観光地となっている若者に人気の繁華街に出店する「味千ラーメン」でした。

通常、観光地に行くと、その土地ならではの名物を食べたがる人はいますが、いつも食べているものをわざわざ観光地でまで食べようと思う人は少ないはずです。観光は非日常ですが、中国人や香港人にとって国民食である「味千ラーメン」は日常です。

そこで私は「味千ラーメン」を見慣れた現地の人が、「ええっ、これがあの『味千ラーメン』なの!?」と目をぱちくりさせるような近未来的なデザインにしました。

コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則
(画像=『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則』より)

私は2016年から「味千ラーメン」のデザイン顧問をしているのですが、中国や香港にある通常の「味千ラーメン」の店舗デザインはテーマカラーの赤と黒を基調にした落ち着いた雰囲気です。

もちろんエリアによってデザインは異なりますが、近未来的なデザインの「味千ラーメン」は世界のどこにもありません。

しかし、たくさんの魅力的な飲食店が立ち並ぶ繁華街で、ターゲット層の若者に選んでもらうためには意外性のあるデザインが必要だと私は考えたのです。

そこで、エントランスには店名を漢字ではなくローマ字で大きく表示し、ほかの「味千ラーメン」とはまったく異なることを強く印象づけました。

また、店内を一望できるガラス張りのエントランスにし、店の前を通るだけで目を引くようにイメージカラーの赤を利かせたラインやネオンを天井や壁に大胆に配しました。

ガラス張りのエントランスから店内を覗くと、まるで近未来SF映画のワンシーンのように見える効果を狙ったのです。

その結果、オープン初日から大盛況で、店の前には写真を撮る人だかりが絶えませんでした。現地の人たちにとって見慣れた「味千ラーメン」が観光名物の一つになったのです。

誰もが知っている知名度の高いチェーン店ほど、こうした意外性のある店を作ると話題になり、新たな付加価値となります。

既存のルールに縛られない柔軟性のある店舗展開をすることで、ブランドイメージも上がるのです。

各地のチェーン店でオンライン飲み会

コロナ禍で家飲みやオンライン飲み会が増え、飲食店の利用者が今後ますます減るのではないかと懸念されています。

私は、それを逆利用したサービスができるのではないかと日々考えています。

たとえば、居酒屋チェーンで「オンライン飲み会システム」をつくってみてはどうでしょう?

参加者は最寄りの居酒屋チェーン店に設置されたオンラインモニターの前に座り、参加者とワイワイ会話しなら同じメニューを満喫するのです。

これなら密な状態を避けながら、全国にいる仲間と気軽に飲み会を楽しめます。

オンライン飲み会はネット環境によってつながりにくかったりするストレスはありますが、店に行けば即相手とつながるのでそうしたストレスからも解放されます。

また、離れていても同じインテリアで統一すれば、同じ空間にいるような一体感が生まれます。プランによってインテリアの雰囲気を変えることで、ラグジュアリー感やプレミアム感を演出することもできます。

さらに、離れていても同じメニューを共有できるので、

「このポテサラすごく美味しくない?」
「うん、具だくさんで美味しいよね!」
「その土瓶蒸し、熱いうちに食べたほうがいいよ」
「じゃあ、すぐ食べちゃおう!」

などと会話も盛り上がります。

ライブ演奏などを行えば、それを同時に楽しみながら思い出を共有できます。

予約から会計までオンライン決済できるようにすれば、面倒な割り勘の手間も省けます。

こうしたサービスは、同じ居酒屋チェーンが全国各地にあるからこそ成立します。

時代の変化に伴うお客さまのニーズに応じたサービスを新たに創造することで、飲食チェーンの未来をプラスの方向に変えていけるのです。

コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則
大西良典(おおにし よしのり)
外食チェーン店のデザイン数、日本一を誇る「職人出身の建築デザイナー」。OLL DESIGN株式会社代表取締役。1978年、兵庫県神戸市生まれ。小学2年生のときに設計士になることを決意。兵庫県立尼崎工業高校建築科に入学。高校在学中、3年間の建築現場職人を経験。高校卒業後に神戸の三大ゼネコンに入社し、21歳で建築士になる。24歳で「なか卯」の店舗システム部にヘッドハンティングされ、27歳で「すき家」をはじめとする各種外食チェーンを運営する「ゼンショー」のグループ会社に出向。2010年に独立し、OLL DESIGN株式会社を兵庫県芦屋市に設立。現在、9人の建築デザイナーを擁し、東京と中国・上海に支社を設立、国内外で店舗デザインを展開する。近年では、中国の大手コンビニチェーンやタイ、マレーシアなどのASEAN地域のほか、南米、ヨーロッパ、ドバイなど世界各国で多数のプロジェクトが進行中。毎年春には芦屋市周辺から中学生を受け入れ「社会体験プログラム」を実施。インターン生を受け入れ、建築設計分野への就職を目指す大学・専門学校生の教育支援にも力を入れている。

■デザインを担当した有名外食チェーン店
なか卯/すき家/𠮷野家/かつや/すた丼/ココス/ビッグボーイ/デンバープレミアム /牛カツ京都勝牛/千房/モスバーガー/フレッシュネスバーガー/サーティワンアイス クリーム/英國屋/まこと屋/味千ラーメン/ローソン/すかいらーくグループ/サトフ ードサービスグループ/ゼンショクグループほか多数

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