コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則
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(本記事は、大西 良典氏の著書『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則』=扶桑社、2020年9月19日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

飲食店廃業数が過去最大になった3つの理由

いきなりネガティブな話題をするのは本意ではありませんが、2020年に世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスの影響で多くの業界が経営の危機に瀕しています。

中でも飲食店業界の惨状は深刻で、飲食店の廃業率は過去最高を更新しています。

ついこの前まで繁盛していた店でも、息切れして閉店や倒産に追い込まれています。

息切れしてしまう原因は大きく3つあります。

「第1の理由」は、収益が激減しているにもかかわらず、容赦なくのしかかってくる店舗の賃料や人件費、光熱費といった店の維持費の問題です。

そもそも飲食店は仮に月1000万円の売り上げがあっても、そうした維持費を引くと純粋な利益は5~15%ほどで、利益率が低い業態です。

もし店が繁華街の路面店など好条件の立地にあれば、賃料も高額になります。アルバイトなどの人件費を縮小したとして、店舗にかかる固定費は簡単に減らせません。

「第2の理由」は、店舗を開業した際に投資した内装設備の減価償却費です。

ゼロから立ち上げて開業した場合はもちろん、居抜きで入っていても、あれこれコストをかけてリニューアルした店舗ほど、減価償却費が跳ね上がるので、運転資金が焦げつく原因になります。

「まさか、こんなことになるなんて、開店したときは想像もしなかった……」

そういって頭を抱えている経営者も少なくないはずです。

私も設計士なので、店の内装にこだわりたいオーナーさんの気持ちは人一倍よくわかります。

「カウンターは本物の木じゃなくちゃダメだ!」
「このレンガ壁は、安っぽいレンガ風クロスなんかじゃダメだ!」
「このメニュー表のデザインは、もっとカッコよくないとダメだ!」

自分の店に思い入れが強い人ほど、そんなふうにこだわってしまうものです。

ただ、そのこだわりに気づくお客さまはほんの一握りです。

お客さまが店に滞在する限られた時間の大半は、食事や会話です。壁材をじっくりチェックしたり、メニューのデザインを何時間も眺めているようなお客さまはいません。

店のデザインに必要以上にコストをかけなくても、マーケティングやデザインの工夫次第で店のイメージを上げる方法はいくらでもあります。

それによって、たとえば売り上げ1億円の店を2億円に倍増させたり、500人のリピーター客を1000人に倍増させることも可能なのです。

「第3の理由」は、各店の価格競争による体力の消耗と収益の低下です。

世の中が外食することに消極的になるなか、インバウンドも含めて集客そのものが激減しているので、薄利多売を狙っても収益性は極めて低くなります。

こうした3つの深刻な問題を抱えていても、店のデザインを変えることで収益を上げることが可能です。本章では、飲食店の失敗例や成功例をもとに、まずはさまざまな問題点を検証し、デザインによる収益アップの可能性を探っていきたいと思います。

あの店がコロナ禍でも収益がアップしたワケ

コロナ禍でつぶれる店が増えている一方、収益が大幅にアップした店もあります。

特に顕著だったのが「マクドナルド」と「ケンタッキーフライドチキン(KFC)」です。

いずれも家庭でのテイクアウト需要が高まるなか、ファミリー向けのテイクアウト商品を前面に打ち出すことで、ファミリーマーケットに支持されたことが勝因です。

有名なファストフードチェーンだから、たまたまコロナ特需の恩恵にあずかったのだろうと思われるかもしれませんが、有名というだけで特需になることはありません。

マクドナルドとKFCの収益が上がったのは、店名に紐づいて、「テイクアウトに便利」「なじみのある味で安心」「リーズナブル」というイメージを、お客さまが抱いていたからです。

マクドナルドは普段から子ども向けのセット商品やサービスを打ち出すことで、子ども時代からマクドナルドに対する愛着を刷り込むマーケティング戦略を行っています。

自粛中にマクドナルドのハンバーガー&ポテトのセットが食べたくて号泣している幼児の動画が海外のサイトで話題になりましたが、まさに刷り込みマーケティングの顕著な例といえるでしょう。

一方、KFCはファストフードの中では割高なイメージがありますが、ワンコインで買えるお得なセット商品を打ち出すことで需要に拍車をかけました。

さらに、「今日、ケンタッキーにしない?」というキャッチフレーズをCMで流し、ファミリー層に訴求したことも功を奏したといえます。

単に名前の知れたグローバルチェーンだから需要が伸びたわけではなく、お客さまのニーズに照準を合わせた企業努力のたまものなのです。

154ページで詳しくご紹介しますが、「かつや」は2020年7月の業績は前年比で約107%となりました。

テイクアウトメニューを急遽増やしたこともありますが、私は「かつや」の内装デザインの影響があると考えています。

「かつや」はおしゃれな素材をあえて使わず、清掃しやすいツルっとした素材を使った内装デザインにしているため、揚げ物を扱っているにもかかわらず店内はいつも清潔に保たれています。

おしゃれなデザインより、清潔感や衛生感を重視しているのです。

コロナ禍のもとでは、お客さまは飲食店に対して「おしゃれ」よりも「清潔感」や「衛生感」を求めます。

「かつや」のようにお客さまから「清潔な店」というイメージが根付いている店は、それだけで大きな強みになるのです。

お客さまが求めているものは何か?

テイクアウトという面では、焼き鳥や中華料理も、コロナ禍で需要が伸びました。これらの共通点は、食べたいけれど、家では作りたくない料理です。

どれもがんばれば家で作れないわけではありませんが、ステイホームで家族の食事を三度三度作らなければならないという状況で、手のかかる面倒な料理は主婦層に真っ先に敬遠されます。しかもにおいが強かったり、油汚れなど後始末の大変な料理は、できれば避けたいのが人の心理です。

そんな面倒なことをプロにアウトソーシングしたいというニーズに応えたのが、焼き鳥などのテイクアウトメニューだったのです。

大切なのは、「何を売りたいか」ではなく、「お客さまが何を求めているか」です。

市場の深層心理を読み、そのときどきの状況に即したニーズをつかむことで、苦境の中でも需要を伸ばすことが可能なのです。

テイクアウトサービスを行っていることを迅速に訴求するには、自店のホームページとSNS発信が必須です。

高級レストランでもテイクアウトを急遽始めたところが増えています。高級店はその店に行かないと味わえない希少価値があるので、ネット販売で「特別感」「限定感」をアピールすることで、人気店の高級おせち料理のように需要を伸ばせると思います。

私なら、たとえば店の上質なテーブルクロスも料理とセットにして店の世界観を自宅でも楽しめるような仕掛けをします。

コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則
大西良典(おおにし よしのり)
外食チェーン店のデザイン数、日本一を誇る「職人出身の建築デザイナー」。OLL DESIGN株式会社代表取締役。1978年、兵庫県神戸市生まれ。小学2年生のときに設計士になることを決意。兵庫県立尼崎工業高校建築科に入学。高校在学中、3年間の建築現場職人を経験。高校卒業後に神戸の三大ゼネコンに入社し、21歳で建築士になる。24歳で「なか卯」の店舗システム部にヘッドハンティングされ、27歳で「すき家」をはじめとする各種外食チェーンを運営する「ゼンショー」のグループ会社に出向。2010年に独立し、OLL DESIGN株式会社を兵庫県芦屋市に設立。現在、9人の建築デザイナーを擁し、東京と中国・上海に支社を設立、国内外で店舗デザインを展開する。近年では、中国の大手コンビニチェーンやタイ、マレーシアなどのASEAN地域のほか、南米、ヨーロッパ、ドバイなど世界各国で多数のプロジェクトが進行中。毎年春には芦屋市周辺から中学生を受け入れ「社会体験プログラム」を実施。インターン生を受け入れ、建築設計分野への就職を目指す大学・専門学校生の教育支援にも力を入れている。

■デザインを担当した有名外食チェーン店
なか卯/すき家/𠮷野家/かつや/すた丼/ココス/ビッグボーイ/デンバープレミアム /牛カツ京都勝牛/千房/モスバーガー/フレッシュネスバーガー/サーティワンアイス クリーム/英國屋/まこと屋/味千ラーメン/ローソン/すかいらーくグループ/サトフ ードサービスグループ/ゼンショクグループほか多数

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『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則』シリーズ
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