(本記事は、大西 良典氏の著書『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則』=扶桑社、2020年9月19日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
なぜ、のれんのすり切れたラーメン店が生き残るのか?
「え、この店がどうして?」と驚くような質素な外観の店が、コロナ禍でも生き残っている場合があります。それは、昔ながらのラーメン店や焼肉店に代表されるような、常連客に支持されているタイプの店です。
のれんがすっかり色褪せてすり切れていたり、昭和の頃のままの内装だったりしても、なぜかそうした店は行列が絶えないという特徴があります。
一見、かなり質素で時代から取り残されたような雰囲気なのに、なぜつぶれずにたくましく生き残っているのでしょう?
理由は、お客さまがその店に胃袋をがっつりつかまれているからです。だからコロナ禍で一時的に客足が落ちても常連客は必ず戻ってくるのです。
こうした店を愛する常連客の心理は、オタクやファン心理によく似ています。
自分の推しの店にずっと足繁く通い続ける常連客は、店の味を日常的に楽しむことがライフスタイルの一部になっているのです。
こうした店はリピーターが口コミで新規のお客さまを連れてきたりするので、宣伝や内装設備にあまり投資する必要がありません。だから、見た目はあまりぱっとしなくても、つぶれないのです。
ただ、こうした店にはある共通点があります。
どんなに質素でも、厨房デザインが実に効率よく動けるレイアウトになっているのです。
大将の動きを見ても実にムダがなく、最小限の動きで調理しながら、同時に片づけ作業もしています。しかも、厨房の設備は古びているけれど必要なものだけが整然と並んでいて、隅々まで清掃が行き届いています。効率よく動ける機能的な厨房デザインだと掃除もしやすいので、古びていても清潔感があるのです、
もしこうした店がリニューアルする必要に迫られたとしても、あまりカッコよく改装してしまうより、常連客が愛着を感じている昔ながらの懐かしいテイストをうまく生かすのがポイントです。
ちょっと時代遅れなダサさも常連客に愛される味わいになっている場合は、それも立派な〝武器〟になります。その店ならではの武器は、生かすほうが得策なのです。
アッパー層に愛される一流店とタレントショップの違い
高級ホテルの最上階にあるダイニングやミシュランの星を獲得しているような一流店は、コロナ禍のような危機に見舞われても、事態が沈静化すれば必ず客足は戻ってきます。
実は、こうした一流店には、前述した見た目はぱっとしないけれど人気のあるラーメン店と、ある共通点があります。
双方は真逆のポジショニングではありますが、「根強いファンが支えている」という点でよく似ているのです。
ラーメン店のファンはその店の味のとりこになっているオタク的常連客だとお話ししましたが、一流店のファンはグルメにうるさいアッパー層の上得意です。
アッパー層に愛される一流店は、店の雰囲気も料理のクオリティも唯一無二のオリジナリティがあるので、お客さまはその店ならではの味や雰囲気が恋しくなり、折に触れてリピートしてくれるのです。
しかし、同じファンでも、人気芸能人などの名前で展開しているタレントショップに群がるファンの場合は性格が異なります。
いわゆるタレントショップにやってくるのは、あくまでも芸能人のファンであって、その店のファンではありません。
その芸能人の店と聞けばファンはこぞって食べにきますが、その店に一度でも行けば、その既成事実だけですっかり満足してしまいます。
その店に何度行っても大好きなタレントさんに会えるわけではないので、リピートすることがまずありません。
しかも、タレントさんは芸能活動が本業なので、店の運営自体はたいてい別の人に任せています。タレントさんの名前を打ち出しながら、店にはどこか本気度が足りず、サイドビジネス感が否めない印象をお客さまに与えてしまいます。
タレントショップは、そのタレントのファン以外の人は興味を示さないので、タレントさんのファンがリピートしてくれなければ先細りになるだけです。
飲食店に限らず、タレントショップが観光地などにたくさんできて話題になった時代もありましたが、そうした店の多くがひっそりと消えていきました。
このように、タレントさんの名前に乗っかってファンを引き寄せようとする店と、本物の味や雰囲気でファンを強力に引き寄せている店では、まったく別の力学が働いています。サステナブルなビジネスを考えるとき、このファンを巡る力学の違いを押さえておく必要があります。
もし私が人気タレントショップを作るなら、一過性の人気に終わらないように、あえてそのタレントさんの名前は店名に出さないようにします。
そしてそのタレントさんのイメージや好きなものをさりげなく取り入れた「匂わせデザイン」にします。
たとえば、ハワイ好きのタレントさんの店ならロコっぽいインテリアにするなど、そのタレントさんを想起させるものをちょいちょい仕込むのです。
それによって、「あの店、実は〇〇ちゃんのお店らしいよ」という、知る人ぞ知る隠れ家的なポジショニングの店にするのです。
有名人の名前をあえて伏せてチラ見せで匂わせると、人はそこに「知る人ぞ知る優越感」を覚えてリピーターになってくれるのです。
繁盛店は新規客1割、リピーター9割
根強いファンがリピーターとして通ってくれる店は、コロナ禍のような危機に見舞われてもおいそれとはつぶれないとお話ししましたが、リピーターについて少し補足をしておきます。
リピーターというと、その面々はいつも変わらないと思われがちですが、リピーターは固定客ではありません。
繁盛店は新規客が1割でリピーター9割といわれますが、その9割が常に一定なわけではないのです。
引っ越しなどの諸事情で通えなくなったり、もっと好きな店を見つけて浮気することだって十分にありえます。だから、リピーターがたくさんいるからと安心していても、そのリピーターたちが永遠に店に通い続けてくれる保証はないのです。
しかも、人間は貪欲な生きものなので、100点では満足せず、120点を求めてくることが少なくありません。いつもの料理にだんだんと飽きてきて、それ以上を求めてくることもあります。
とはいえ、その店のベースの味は変えられません。安易に変えれば、かえってリピーターが離れてしまう危険性もあります。
こんなとき、店のインテリアデザインを季節に合わせてデコレーション(装飾)するだけでも、リピーターに新鮮な印象を与えることができます。
リピーターの多い店ほど、リピーターにただ依存するのではなく、リピーターを常に楽しませるようなデザインの工夫をしてみてはいかがでしょうか。
本章ではコロナ禍による飲食店業界の深刻な状況を踏まえ、さまざまな失敗事例を挙げながらうまくいかない理由や解決策についてお話ししてきました。
第2章では、なんとなく入りたくなる店について考察していきます。
■デザインを担当した有名外食チェーン店
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