コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則
(画像=tupungato/stock.adobe.com)

(本記事は、大西 良典氏の著書『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則』=扶桑社、2020年9月19日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

なぜ「すき家」の入り口に時計台があるのか?

読者のみなさんの中にはお気づきの方もいると思いますが、「すき家」のファサード(建物の正面)には必ず大きな時計台がそびえています。

なぜ牛丼屋の入り口に、こんな時計台があるのでしょう?

実はこの時計台は、「すき家」発祥の地である横浜にある横浜市開港記念会館と、赤レンガ倉庫をイメージしているといわれています。横浜の開港によって牛肉文化が日本人に普及することになったので、時計台にはそうした歴史を象徴する意味もあるようです。大きな時計があると、つい人は時刻を確認したくなって時計に視線を送るので、時計とともに「すき家」の存在を認知させることができるのです。

第1章で、私の芦屋の店の外壁アートに道案内の絵を入れているのは、人が情報を読み取ろうとして視線を誘導できるからだとお話ししたのを覚えていますか?「すき家」の時計も、道案内の心理と同じ理屈です。

広告をうるさく入れると、人は無意識にスルーしてしまいますが、道案内や時計などの情報は自ら能動的に見ようとするのです。

ちなみに、東京・銀座4丁目交差点の「和光」の時計は、銀座のシンボルになっていますし、北海道の「札幌市時計台」も札幌のランドマークになっています。

また、英国のウェストミンスター宮殿の時計台「ビッグ・ベン」も、ロンドンを象徴する存在として世界中に知られています。これらも大きな時計が道行く人々の目を引き、その街の象徴となっている好例といえます。

「ららぽーと」も「イオン」もドアがない

片手に荷物を持ちながら、店に入ろうとしてドアを押すと、重い……。

「あれ?思ったより力が要るな」

そんなとき、小さなストレスを感じませんか?

なんとなく自分が中に入ることを拒まれているような気分になり、その時点で入店するテンションがちょっと下がります

特に買い物の途中で荷物をたくさん持っていたり、お子さん連れの女性にとって重たいドアは目の前に立ちはだかる邪魔な障壁になります。

こうした経験は、やがて「あの店はなんとなく入りにくい」というネガティブな記憶として刷り込まれて足が遠のいてしまいます。

たかがドアぐらいで大げさだと思われるかもしれませんが、「入りやすい店」と「入りにくい店」の差は、そうした小さなストレスが積み重なることによってどんどん大きくなっていくのです。

たとえば、ネットショッピングをしようとサイトにアクセスしても、妙に重くてなかなかトップページが表示されないと、「ああ、じれったいからもういい!」とそこで買い物するのをやめてしまった経験はありませんか?

そんなネットショップには二度とアクセスしないですよね。

重たいドアにも、お客さまは同じようなストレスを感じているのです。

「ららぽーと」や「イオン」など、最近のショッピングモール内のショップは、ドアそのものを取り払った開放的な造りになっています。

そのほうが、お客さまも安心してストレスなくショッピングできるからです。

私は株式会社アントワークスが商業モールに特化して出店しているチェーン店「デンバープレミアム」と「㐂久好」の設計をすべて手掛けていますが、いずれもドアがなく腰壁も低い開放的なデザインにしています。

それによっていずれの店舗も商業施設内でトップの売り上げを誇っています。

飲食店や美容院などの場合は、においが近隣に漏れるのを防ぐためにドアを閉める傾向にありますが、アフターコロナの時代はむしろ換気をよくする意味でも、においや虫対策をしながら開放的なデザインに変えていく必要があります。

コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則
(画像=『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則』より)

ちなみに、スーパーブランドやハイジュエリーの専門店では、重厚なドアの前に黒服のドアマンがキリッと立っていて、気軽にふらっと入れない雰囲気を醸し出しています。

これは防犯上の意味もありますが、あえて敷居を高くすることでブランドの特別感を演出するとともに、お客さまをセグメント化しているのです。

高級レストランや料亭など単価の高い店でも、あえて重厚な門構えにして敷居を高くする見せ方にしている場合があります。

しかし、お客さまに気兼ねなく入店してほしい場合は、店に入るのをためらうような要素は取り払ったほうが得策です。

コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則
(画像=『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則』より)

高級店でも、足元に行灯やキャンドルを置いたり、入り口にナチュラルなグリーンをあしらうことでお客さまは温かみや優しさを感じ、店に歓迎されているような気持ちになります。

私がデザインした「麺屋武蔵北京店」のエントランスは、大きなのれんをドア代わりにあしらいました。

店名がローマ字で書かれたのれんは看板代わりにもなりますし、店の中と外を隔てる間仕切りにもなりますが、布製なので圧迫感がありません。

重いドアをつけなくても、軽やかな布を使うことで風格のある雰囲気を演出できるのです。

「一風堂」の狭い間口に仕掛けた工夫

間口が狭い店も、お客さまはなんとなく入りにくい印象を抱きます。

なぜなら、入店を歓迎されていないような気分になるからです。また、店の中の様子もわかりにくいので、お客さまが不安を感じて中に入るのをためらってしまいます。

とはいえ、建物そのものの間口が狭い場合は拡張することができません。そんなときは、視覚的に錯覚させ間口の狭さを感じさせないような演出が必要になります。

以前、神戸三宮の「一風堂」の設計デザインを頼まれたことがあるのですが、そこは間口が2mしかないという物件でした。

近隣の神戸元町ですでに営業していた「一風堂」は、間口が三宮の3倍はあり、壁もレンガ調でおしゃれなデザインの造りになっていました。

私は、これではどんなにがんばっても、「元町の一風堂はおしゃれなのに、三宮は狭くてぱっとしない」と比べられるのは必至だと思い、いったんお断りしました。

しかし、三宮の物件を現地でじっと見ているうちに、ふとある策を思いつき、その仕事を引き受けることにしたのです。

それは、間口の右半分をあえて格子柄の立体的な木の壁で覆い、そこに「一風堂」の巨大なロゴをドーンと重ねるというアイデアでした。

ただでさえ2mしかない間口の1m分をその格子で覆ってしまうので、入り口はますます狭くなります。

しかし、格子柄の壁と「一風堂」の大きなロゴの迫力によって、間口の狭さに目がいかなくなるという視覚効果を狙ったのです。

結果は大成功で、「一風堂」の迫力あるロゴの存在感が際立って見え、間口が狭いことなどまったく気にならないファサードになりました。

壁とロゴの圧倒的なインパクトが、間口の狭さをくつがえしたのです。

このように、狭いものを無理に広く見せようとするのではなく、あえて〝隠す〟ことで狭さを視覚的にカムフラージュすることもできるのです。

コロナ危機を生き残る飲食店の秘密~チェーン店デザイン日本一の設計士が教える「ダサカッコイイ」の法則
大西良典(おおにし よしのり)
外食チェーン店のデザイン数、日本一を誇る「職人出身の建築デザイナー」。OLL DESIGN株式会社代表取締役。1978年、兵庫県神戸市生まれ。小学2年生のときに設計士になることを決意。兵庫県立尼崎工業高校建築科に入学。高校在学中、3年間の建築現場職人を経験。高校卒業後に神戸の三大ゼネコンに入社し、21歳で建築士になる。24歳で「なか卯」の店舗システム部にヘッドハンティングされ、27歳で「すき家」をはじめとする各種外食チェーンを運営する「ゼンショー」のグループ会社に出向。2010年に独立し、OLL DESIGN株式会社を兵庫県芦屋市に設立。現在、9人の建築デザイナーを擁し、東京と中国・上海に支社を設立、国内外で店舗デザインを展開する。近年では、中国の大手コンビニチェーンやタイ、マレーシアなどのASEAN地域のほか、南米、ヨーロッパ、ドバイなど世界各国で多数のプロジェクトが進行中。毎年春には芦屋市周辺から中学生を受け入れ「社会体験プログラム」を実施。インターン生を受け入れ、建築設計分野への就職を目指す大学・専門学校生の教育支援にも力を入れている。

■デザインを担当した有名外食チェーン店
なか卯/すき家/𠮷野家/かつや/すた丼/ココス/ビッグボーイ/デンバープレミアム /牛カツ京都勝牛/千房/モスバーガー/フレッシュネスバーガー/サーティワンアイス クリーム/英國屋/まこと屋/味千ラーメン/ローソン/すかいらーくグループ/サトフ ードサービスグループ/ゼンショクグループほか多数

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